外は体が溶けてしまいそうなくらい暑い、というのにコンビニの中というのは驚くほど冷たい。
電気代どうなってるんだとかそんな事を考えてるわりにはその涼しさは恋しく、目立った理由がなくてもふらっと立ち寄ってしまう。
わざわざ週刊誌の新刊を読むためだけにコンビニに出向くのは馬鹿らしいと思ったが、こういうのは一度でも怠るとめんどくさくなってそれ以降来なくなってしまう。
まぁ立ち読みなんてやめた方がいいんだろうけど、そんなことを思いながら頁を捲る。
「これも終わりか……」
人気がない故の宿命か、次回作にご期待くださいと書いてそのまま釈然としない終わり方。
主人公がガールズバンドのメンバーの誰を選ぶか決めて、その相手は誰かわからないまま。
まぁ誰を選ぶとかなると読者側から文句が飛んでくるからこういうのが一番いいのかもしれないが。
「あーあ、ほんと糞」
そう溢しながら本を元の場所に返す。気に入っていた作品にこう言うのはどうなのかと思うが気に入っていた故に文句がある。
話を伸ばすためか知らないが主人公がどんどん優柔不断気味になっていったのが気に入らなかった。それは読んでいて心地のいいものではなかったし、何より自分を見ているようだったから。
先伸ばしにして逃げているのが重なって、とても気持ち悪かった。
週刊誌も読み終わったのでコンビニを出てもいいのだが、折角来たのだし外の気温もあるのでアイスの一つや二つは買っておきたい。
ポケットに手を突っ込むとジャラジャラと……鳴ればどれだけよかっただろう。実際はアイスを買えば殆どなくなってしまう程度にしかない。
しかし一度誘惑されると人間弱いもので金に余裕はないとわかっているのについつい手にとってしまう。
「袋に入れる?」
「お願いしま……」
店員らしからぬ対応をされふと相手の顔を見たらその相手は見知った顔、リサさんだった。向こうはわざとらしく驚いた顔をするが流石に無理があるだろう。
「……何してるんですかこんなところで」
「バイトだよバイト、そんなにおかしく見える?」
はい、とは答えられないので適当に誤魔化しておく。用事もないのに長くいても涼しい以外に何もいいところはないので店を出ようとしたところをリサさんに呼び止められた。
「あと十五分程度で終わるからさ、外で待っててくれない?」
「……わかりました」
冗談じゃない、それならコンビニ内で待たせてくれ。とは思ったものの一度了承したものを守らないわけにはいかないので外に出る。
ああ、本当に暑い。家に帰って扇風機の前でアイスを食べるかという計画が僕の中にはあったのだが、この地獄のような暑さの中少しのオアシスがあれば求めてしまうのは人の性。青い空を眺めながらアイスを口にする。
「どうすんだろなぁ……」
他人事のようにそれを口にする。僕はどうするのだろう、どうすればいいのだろう。
怖い、自分の選択が。自分だけではなく他人までも動かすこの選択がどうしようもなく怖い。もしこの選択で二人が悲しむのは嫌だ。
選ぶにしてもどうするんだろう。なんで選ぶんだどちらを選ぶんだ、どこで、いつ選ぶんだ。そんなことすら決まってない。
だけどただ決まっているのはいつか選ぶということだけ。早い方がいい、そんなことはわかっている。わかっていても考えたくはなくて思考をそこで止めてしまう。
空を流れる雲は夏の癖に冬の頃と変わらぬ形をしていて、時間が止まってくれている気がしたのは僕の妄想か。
選ばなくていいかな、何度考えたかわからないその選択肢。足元にあった石を蹴ってみれば見失い、食べ終わったアイスを見てもそこには当たりと書いていない。それを思考と一緒にゴミ箱に捨てた。
「お待たせ~」
リサさんがコンビニから出てくる。ただただボーッと空を見上げていただけだったのだが案外時間はすぐに経ってくれるものだ。それは怖くもあるのだが。
「どうなの、二人とは?」
「どうもこうもないくらいには順調ですよ」
「ふ~ん、順調ね~……」
僕の言葉が信じられないというかのように聞き返してくる。何も進展がないというわけではないが、特段何か大きな事が……告白されたしそれはあるか。
まぁどうにせよ嘘は何一つとしてない。こんな風に怖がってるのも悩んでるのも、どうせ僕一人なんだから。
「……ここじゃ暑いしどっかで飲みながら話さない?」
「生憎ですが金がないので」
「ふふん、そこはお姉さんに任せとけって」
後で返してよ? ときっちり付け足されたが。別に言われなかったら返さないというわけではないけれども。そんなことを考え話ながら移動する。
「Roseliaの皆さんは最近どうなんですか?」
「いやーそれがね、夏休みだってのに練習練習。少し休みをって言っても全く聞いてくれないんだよ」
「……の割には不満は無さげですけどね」
「あれ、わかっちゃう?」
そんな楽しそうな声で言われたらわからない方がおかしい。そんな皆さんと対称的に僕は夏休み何をしていたのだろう。
夏祭り行って……それ以外は家でニートか友人と遊ぶしかしてない。まぁそれ自体が悪いこととは欠片も思わないが。
「いやー、友希那も楽しそうだし、なんやかんやでアタシも楽しいって思えてるから」
「友希那……ボーカルの人ですよね?」
「そうそう、幼なじみなんだ」
家も隣だしね、と付け足される。その後は延々と友希那さんの話をされる。猫好きだとか苦いのが苦手なんだとか、最近はこんなことがあったとか終わる気配がない。
まぁこちらから話せることは何もないし、楽しそうに話しているのだから止めないが。
「あ、ごめんね、アタシばかり話しちゃって」
「別にいいですよ。それにしても仲いいんですね」
「まぁね、でも悠と日菜もそう見えるよ?」
「……そうですか」
そんなこんな話をしながら歩いていると、ここでいいかなと言われたカフェに入る。そこは外に比べると涼しいがコンビニを味わった後だとやはり物足りなく感じてしまう。
「……それで、まだ悩んでるの?」
「決まる気がしないですよ」
だよねぇ、と目をそらしながら言われる。僕に度胸がないから決めきれない、勇気がないから振り切れない。
あの作品みたく僕は優柔不断な駄目人間。経験がない、知識がない、そんな言い訳をして遠回しにしてる。
「うーん……もしアタシが悠の事好きって言ったらどうする?」
「…………は?」
「もしもの話だよ……紗夜とアタシだったら?」
「……選べないですよ」
「相変わらず優しいね~、素直に紗夜って言えばいいのに」
笑いながらそんな事を言ってくる。事実僕は間違いなく紗夜さんを選ぶだろう。リサさんには悪いけど迷う暇もなくそれは決まった。
決してリサさんに魅力がないわけじゃない。だけど思いの深さが、時間の差が、見えなくなるほど違うから。
「日菜でも一緒でしょ?」
「……まぁ」
「なら大丈夫だって、紗夜と日菜の二人で悩めるんだからいいじゃん。他の女の人に目移りしてるわけじゃないんだし」
ちゃんと時間かけて、後悔しない選択をできれば大丈夫、と言われる。
時間をかけてか、それでいいんだ、それでもいいんだ。少しだけ、気休め程度だとしても楽になれた気がする。
「ありがとうございます」
「いいっていいって、この前は聞かれたのに何も言えなかったしさ」
律儀な人だ。そもそも僕の問題だというのにわざわざ考えてくれるだけでも申し訳ないのに、こうやって助けられるような事を言われるとなると感謝してもしきれない。
そんなことを思っているとリサさんは何かを思い出したかのように鞄を漁りだし、何かを取り出した。
「迷える君に助けを与えてあげよう」
「これは?」
「Roseliaのライブチケット、
「……偶々、ですか」
「偶々、だよ」
偶々か、それなら断る必要もないし貰うとしよう。いくらか尋ねてみたが、いらないと言われたのでありがたく頂戴した。
「今週末だよ、絶対来てね」
「行きますよ、絶対」
「うんうん、紗夜には言わないでおくね」
ここまでしてもらって支払いを任せるのは大変心苦しいが今は手持ちがない。料金のかかるものを頼んでないのでそれで許して欲しい。
店を出た後スマホを見てみたら、友人から遊びに行かないか、という趣旨のメッセージが届いていた。
しかしその日は丁度このライブと同じ日、しかしこいつはこの前僕がその日遊びに誘った時は、予定があると言って断っていた筈だが。
『予定はどうしたんだよ』
『実はライブのチケットが買えたら行く予定だったんだけど買えなかったからさ』
『なんのライブだよ』
『Roseliaってバンド、最近凄いんだぜ?』
『残念ながらその日は予定あり』
『そうかい、他のやつ誘うわ』
何が偶々売れ残っただ、なんとなくわかっていたがやっぱり嘘じゃないか。
もし僕がRoseliaのチケットを持っていると言ったらこいつはどうするだろう、金を出して僕から買い取ろうとするだろうか。
「ま、いくら出されても渡さないけど」
偶々手にいれたんだ、手放すはずがない。
ああ、夏休みの楽しみが増えるのはいいことだ。
やっぱり悠君運だけじゃん