僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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五月病

誤字報告ありがとうございますv^^v


作文

 課題というのはどれだけやっても慣れやしないし好きにもなれない。特に夏休みとなるとその量は莫大と言っても誇張にはならないだろう。

 ただ答えを横に置き、そこに書いてあることを教師にバレないようにある程度間違えながら写す。それでいいという事は頭ではわかっているのだが、それでも面倒くさいものは面倒くさい。

 しかしそんなロボットに成り下がってしまっても出来ないことがある。

 

「夏休みの思い出……ねぇ」

 

 作文、それも夏休みの思い出。夏休みはまだ始まったばかりだし、何かしら書けることくらい起こるだろう。もし起こらなかったとしても最悪ネットに載ってるやつを写せばいい。

 しかしもし写したことが教師にバレたらどうなるだろう。怒られることもやり直しをくらうことも想像に容易い。

 そんなのバレないだろなんて何度も思ったし、実際にやった友人はバレてない事が多い。だがもしも、ほんの少しでもあるのであればやらないにこしたことはないだろう。

 

『今週は待ちに待った流星群ですね』

『街から見えるかわかりませんが楽しみですね』

 

 つけっぱなしのテレビからはそんな音声が流れてくる。最近のニュースはこんなんばっかで流石に飽きがくる、別にニュースは見てて面白いと思うことはとても少ないが。

 もし行けば作文のネタくらいにはなりそうなのだが、生憎天体観測ツアーの申し込みのチラシをは見つけた頃には募集期間は終わっていた。もし終わってなかったとしても一緒に行く人がいないから行かないだろうが。

 街から見える流星群なんて程度が知れてるだろうがある程度楽しみにしているのは本当だ。作文のネタ程度になってくれるのを期待しておこう。

 

 ショッピングモールの屋上ならよく見れるのではないのだろうかとは思っていたが、満足に流星群が見れる時間は屋上に立ち入れるかわからないから諦めた。

 外は隠すものがなく太陽が照りつけている。こんな日は外に出たら溶けてしまいそうなので家に籠るのが吉。それに今日は日菜がまた遊びに来るらしいので家から出ないのが丸い。

 前回言った反省を生かしてくれたのか、今回は日菜から遊びに行くとの連絡が事前にきている。と言っても今朝に送られてきたのであまり大差ないが。

 

 しかし今日も今日とて運よく家にいない。夏休み中は旅行や仕事、古い友人と会うなり忙しいようで家にいる時間は少ないようだ。

 少しは家にいろと思うのは本当だが、いないはいないで自由度が段違いなので出かけてくれて構わない。

 

 そんなことを考えているとインターホンが鳴る。何時に来るとかは言われてなかったがもう来たのだろうか、まさか午前中に来るとは思わなかった。前回は寝てしまったので大変申しわけないことをしたと思っている。

 なればこそその反省を生かし、きちんと寝るべきなのだろう。だがいかんせん今朝に連絡がやって来たので生かせるわけもない。ただ徹夜はしてないからどうにかなるだろう。そう思いながらドアを開ける。

 

「今日は早……」

「お届け物です」

 

 予想とは全く違う人物で思考が止まった。だが数秒で頭は回りだし少し待ってくださいとだけ告げて判子を取りに行き、それを押す代わりに荷物を受けとる。幸いお金は払わなくてもいいらしく、配達員はそのまま帰っていった。

 期待していたのだろうか、割れ物と書いてあるその段ボールをリビングの机に置いてからソファに横になる。それは間違いないだろう、期待をしていなければドアの向こうを勝手に想像したりしない。

 

 待つのなんてゲームやSNSを眺めていれば一瞬だ、しかしそれは過去の話。今は待っている間……と言っても紗夜さんと日菜に限った事だが、ゲームやSNSが酷くつまらなく感じてしまう。

 どんなゲームでも、他人の呟きを眺めていても、早く来ないかなと思ってしまう。あれだけ気に入っていたゲームでも、二人を待っている時間には何かが抜け落ちたかのように面白くなく思えてしまう。

 

「はぁ……」

 

 一体僕はどこまで好きなのだろう。山より高く好いている。ありふれた表現だが間違いはないかもしれない。だがこれは、高いではなく深いもの。

 海より深い、何処までも深いもの。落ちてしまえば戻れない、堕ちてしまっているから手を伸ばす。

 手を伸ばせばそれだけで気が紛れる、少し触れれば安心する。それこそ待っている間は心が渇いて仕方がないとすら思える。

 

 これは普通ではないのだろうか、過剰なのだろうか。何分初めての事だから全くわからない。好きになるというのは、恋をするということはここまでのことなのだろうか。

 そんなことを考えているとインターホンが再度鳴る。ふと日菜が来たのかと期待する自分が出てくる。しかしどうせ来るのは宅配、そんな期待をさせるならば一度に届けてくれればいいのに。そんな事を思いながらドアを開ける。

 

「今日は眠そうじゃないね」

「……早いね」

「ほんとはもう少し早く来ようと思ったんだけどね」

「何してたの?」

「新曲の練習。録音したやつ持ってきたかったんだけど、事務所の人に止められちゃってさぁ」

「そりゃそうでしょ」

「でもさでもさ、別に一人くらいならよくない?」

「それなら僕じゃなくて紗夜さんに見せた方がいいでしょ」

 

 まだ世間的には未発表の新曲、それを録音したものを持ってくるなんて流石にそれはどうかと思う。アイドルとして一人を特別に扱うのはよくないだろう、それも家族でも何でもない人を。

 

「わかってないなぁ、悠君だから見せたいんだよ?」

 

 僕だから、か……嬉しいのは当然だし恥ずかしいのも本当。この前コーラを飲みかけのまま帰られてしまったのでそれを取りに行く。

 一度蓋を開けてしまっているが時間が経ちすぎた訳ではないし、冷蔵庫に閉まっておいたから問題ないだろう。それに僕が飲むわけにはいかないし。

 僕が飲み物を取ってくる間に、日菜は机の上に置いておいた夏休みの課題一覧を見つけたらしく、自分のものではないのに少しだけ顔を歪めていた。

 

「悠君のとここんなに課題あるの?」

「まぁね、日菜の方はどうなの?」

「あたしのとこはもう少し少ないかなぁ」

 

 出されてもどうせ全部はやらないけどね、と付け足される。飲み物を持って隣に座ると日菜は急に笑いだす。

 何かあったのかと聞いてみると、これだよこれ、と日菜は課題一覧に指を指す。

 

「夏休みの作文って、小学生じゃないんだから」

「……やっぱり他所はないのか」

「なになに~、夏休みの思い出……」

 

 テーマを読み上げると日菜は急に静かになる。どうしたのだろうか、そう思っていると顔をこちらに向けて言う。

 

「悠君はこれの書くことって決まってるの?」

「決まってないね、まだ」

「それじゃあさ」

 

 ずいっ、と顔を近寄せて、続けて言われる。

 

あたし(・・・)と作ろうよ、思い出」

 

 笑顔で言われた。太陽のような眩しさで、月のような優しさで。強調して言われた、あたしと、というところを。その問いの答えは二つ、しかしその選択は実質的には一択。

 

「……そうだね」

「やった! 何にしよっかな~」

 

 漫画とかでよくある台詞の最後に音符がつくそれ、まるでそれが見てとれるくらい日菜は楽しそうだ。

 

「そうだ! 今週って空いてる?」

「今週って……流星群の日?」

「そうそう、その日」

「でもツアーの申し込み終わってるし……」

「大丈夫だって、あたしに任せておきなって」

 

 任せておけと言われてもどうするのだろう。バスとかは取れないだろうし……いや、そもそも山で見るとは一言も言っていない。

 確か日菜は天文部に所属しているのだし、街中でよく見える場所でも知ってるのだろうか。

 

「楽しみにしておいてね」

「……そうしとく」

 

 楽しみ、それは間違いない。楽しみじゃない筈がない。だけどなんなのだろう、少しだけ引っ掛かる。

 これはなんだろう、何かが欠けている。いったい何が足らないのだろうか。先ほどまでの会話を思い返してみてもそれがなんなのかわからない。

 

「あ、ちゃんと荷造りしておいてね」

 

 その言葉に思考は中断された。荷造りとなると本格的なものじゃないか。いったい何処に行くんだと聞いても内緒の一点張り、こうなると親にも許可を取らないと駄目そうだ。

 

「ねぇねぇ、これからどうする?」

「……外でも行くか、この前寝ちゃった謝罪もかねて」

「わーい、あたしポテトが食べたいな」

 

 遠回しながらに奢れと言われてる気がする。だけどまぁ、こんな笑顔で言われたのなら断れるわけもない。

 その後は昼飯を食べて色々買い物して。引っ掛かった何かが何なのか、それはもう考えることすらしなかった。

 すっかり暗くなった空には、綺麗に欠けた月が浮かんでいた。




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