僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

43 / 70
スマートフォンは大切に扱いましょう


花火

 空は眩しい程に晴れていて雲なんてものは一つたりとも見当たらない。道行く人の中にはその日差しからか、傘すら差している人までいる。

 柱の影に身を潜めて少しでもそれを軽減しようとするがやはりそんなことで防げるのはほんの少しで、体が溶けてしまいそうと錯覚してしまう。

 

「……どんな顔して会えばいいんだろ」

 

 日菜と会うのは、これがあれから始めて。キスをされて、あんなことを言われ記憶にぐさりと刻まれてから。

 わからない、どんな風に接すればいいのかわからない。いつも通りにできればそれが一番いいのだろうが、生憎そんな風にいられる自信はない。

 

 待ち合わせの時刻までは後十分、ショッピングモールでの買い物に付き合ってと言われ今に至る。

 こんなにも暑いのだし中で待てばいいのかもしれない。だがもし日菜がちょっと早めにきてしまえばお互いにお互いを待つ、なんて馬鹿馬鹿しいことが起きるかもしれない。

 しかしながらいつも若干遅刻気味の日菜が早くくるなんて事はあるのか、なんてことも思ってしまう。

 実際に日菜が時間より早く来たことは一度もないのだが……あんなことをされたのだ、少しばかりそういうことを意識してしまうのも仕方がないだろう。

 

「悠君、久しぶり」

 

 後ろからそんな声が聞こえてくる。振り向くと心臓が飛び跳ねたような気がした。画面の奥で見た時には何一つ問題はなかったのにどうしてこうも違うのだろう。

 暑い、先ほどまでそう感じていたのに今は感じる余裕がない。熱い、それは明確に、体の内側から湧き出るいるもの。

 その湧き出るもののせいか知らないが喉が渇いて仕方がない。久しぶりとも返せない。ただただ目をそらせずにいた。

 

「別に中で待っててもよかったのに」

「……なんとなくだよ」

「そんなこと言っちゃって~」

 

 後ろで組んでいた手の片方の人差し指をゆっくりと唇に運んでいくその動作に、どうしても顔が赤くなってしまう。

 そんな僕を見て日菜は笑う。その笑った顔も、やはり真っ直ぐと見ることができない。

 

「……で、何買うの?」

「水着! 今度撮影で使うらしいんだけど各自で用意してって言われちゃってさ」

「……それ、僕よりもリサさんのが適任だと思うけど」

 

 僕はお洒落とかそういった類いの興味も知識もなければセンスもない。なればリサさんの方がいい筈だ。この前一緒に買い物を買っていたし、なにしろ同性だし。

 そんなことを考えていると日菜は、わかってないなぁと呆れたような声で言う。

 

「悠君だから選んで欲しいんだよ、君の気に入ったそれがいいから」

「……選ぶだけだよ、探すのは流石に」

「む~、まぁそれでいっか」

 

 少しだけ不満そうにそう呟くと、日菜は何処からか帽子を取り出し深く被りサングラスをかける。

 やはりその見た目は不審者そのものでアイドルってめんどくさいんだなと思わされる。

 水着コーナー、それも女性もののところにやって来たが、やはりいるのは女性のみ。男連れなんて人はおらず、さらには店員すら全て女性。

 そんなところに入り込む勇気は流石になく、日菜には一人で探しに行って貰った。

 

「もう時間もあんまりないんだよなぁ……」

 

 壁に寄りかかっているとそんな言葉が漏れてしまった。二ヶ月、言われたのはそれだが今ではもう一ヶ月と半分くらいしか残されていない。

 一ヶ月半、それをそれだけ残っていると考えるのか、それしかないと考えるのか。それは人とその出来事にもよるだろうが……あまりに少ないと思ってしまう。

 それは今までの半分にも満たないもの。今はいい、だが夏休みが終わったらもっと早く時間は過ぎ去っていくだろう。いつも通り、流れる雲のように、あっさりと。

 

「ねぇねぇ、こっち来てよ~」

 

 呼ばれたので向かってみるがやはり周りの視線はとても痛く感じてしまう。どれがいいかな~と三つほど見せられる。

 そのうちの一つは見てるこっちが恥ずかしくなるくらいには派手で恐らく一番似合うだろうが……それはなんか嫌だ。

 となれば二択なのだが、僕としてはどっちがお洒落とかわからない、だが適当に選ぶのもなんか悪い。

 どっちがいいのかなと考えたが、結局はこっちの方が似合うかもという直感になってしまった。

 選んでみると、あたしもなんとなくそう思ってたんだよねと言い残して日菜はレジの方に向かっていった。

 

 外で日菜を待っていると、近くを通る人の話している内容が耳に入ってきた。何やら今日の花火何時に集まる? とのこと。

 そういえば今日は花火大会だったか、毎年行われていることだからすっかり忘れていた。

 

「そういえばさ、今日は花火大会だね」

「……らしいね」

「どうせ暇だよね? 行こうよ!」

 

 日菜はいつの間にか会計を済ませていて同じ会話を聞いていたのかそんなことを聞いてくる。

 行くにしてもおそらく行われるのは夜。紗夜さんを誘っても全然時間は余るだろうし、夜なら紗夜さんも予定はないかもしれないし。

 

『おねーちゃんのこと、嫌いにさせないでよ……』

 

 だけど思い出されるのはその言葉。それはあの日、何よりも強く残されている。これに比べれば他のことなんてあってないようなもの。

 あれは冗談なんてものではない。本音なんだと、そう感じられたから。

 今はどうなのだろう、もう既になってしまったのだろうか。家は一緒なのだし会わないなんて事はないだろうが。

 

「……どうかしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「それじゃあまだまだ時間あるけど……なにしよっか?」

「……とりあえず、昼飯でも食べる?」

 

 賛成、日菜はそう言って手を繋いでくる。サングラスの間から見える笑顔は自然で、何よりも似合っていた。

 聞くことができない、聞けるわけがない。もし聞いてしまったら、この笑顔が消えてしまいそうだから……

 

 

 

「うん、ここならよく見えるね」

「屋上の方がよく見えたんじゃない?」

「流石に今日は人がいそうだからね」

 

 帽子とサングラスを外しながらそう言ってくる。テレビでそれを見ているのか、それとも他の見やすいところにいるのか知らないが周りには見事に誰もいない。

 しばらく待っていると花火が上がり始める。外灯の明かりと川の流れる音、それだけだった世界に新しく光と音がやってきた。

 

 

「星もいいけどこういうのも、るんってするね」

「……そういえば久しぶりだね、それ」

「そうだっけ? まぁ悠君といるとずっとるるるんって感じだから言葉にしてないだけかも」

 

 最近の花火というのは凄い。ただただ円形でオレンジ色のものだけでなく、色とりどりに花や星などの様々な形のものがあがっている。

 

「あ、あれ犬みたいじゃない?」

「日菜は犬、好きなの?」

「まぁまぁかな、犬が好きなのはおねーちゃん」

 

 出そうとは思わなかったのに、つい紗夜さんのことが話題にあがってしまった。

 どうにかしてそらさないと、そう思考するが日菜はそれに割り込むように言葉を出す。

 

「……やっぱりさ、嫌いにならないんだよね」

「……それの方が僕も、ありがたいかな」

「あたしも。出来れば嫌いになんかなりたくないもん」

 

 嫌いにならない。それはなんともありがたい言葉で、それでいて冷たい言葉。日菜は、嫌いにならないとしか言っていない。

 

「なんでかわからないんだよね」

「紗夜さんだからじゃないの?」

「かもね。でも自分のことなのにわからないんだよ? 不思議じゃない?」

「日菜にもわからないことあるんだね」

「あたしにもわからないことくらいあるよ、例えば……次にあがる花火の形とか」

「……それは誰もわからないでしょ」

 

 他人の事がわからない。初めて会った時にはそう言っていた筈なのに今では自分のこともわからないと言っている。それは成長か、はたまた退化というべきなのか。

 そんなことを考えていると、長らく続いていたドンドンと発砲しているかのような花火の音が急に止まった。

 もう終わったのかと思ったが時間的にはまだ中盤程度だろうし、小休憩のようなものなのだろうか。

 

「……まぁ一番わからないのは悠君なんだけどね」

「それはまた、何がそんなにわからないの?」

「君にあたしだけを見てもらうにはどうしたらいいか、色々考えて、全部試して……全部駄目だったから」

「……あれもそういう意図?」

 

 かもね、とこちらを向きながらそう言ってくる。日菜はまた上がり始めた花火に視線を向けることなくこちらを見ている。

 僕もそんなものは気にならないし、音すらも入ってこない。

 もしかしたらまたされるんじゃないか。そう思うと顔はそらしたくなるがそれはできない。たいした理由はない、男子高校生だから。理由は多分、それだけだと思う。

 

「安心してって、三回目はないからさ」

「三回目?」

 

 僕がそう聞くと日菜は声を溢した。三回目、それは言い間違いか聞き間違いか。だが声を溢したということは多分、本当のことなのだと思う。

 僕が覚えてないだけか。まさか、そんなことをされたのなら忘れるはずがない。ならば、僕が知らない間に。

 

「ごめんね」

「……アイドルなのにそれでいいの?」

「なりたくてなったわけじゃないからいいの」

 

 そんなもの屁理屈、日菜もそれはわかってはいるだろう。いや、日菜のことだしもしかしたら本心からそう言っているのかもしれない。

 まぁ常日頃メンバーの話をしているし、活動内容の話もされるので少なくとも嫌い、ということはないのだろう。

 

「それで、三回目はないってどういうこと?」

「なに、もしかしてしてほしいの?」

「……さぁ、理由でもあるのかなって」

 

 うーん、と目を閉じて両手を組み日菜は考える。理由はあるのだろうか。

 自制心が足りなかったから起こしてしまった行動だからなのか、それとも罪悪感というものを抱いたからなのか。

 

「三度目の正直って言うじゃん。だから三回目は……悠君からがいいな」

 

 うるさいくらいの花火の中、不思議と透き通るようにそれは聞こえてきた。恥ずかしいからなのか日菜は花火の方を眺めていた。

 僕はそれに何も答えることはできず、花火を眺める彼女を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 僕はどうしようもない幸せ者だ。かわいらしい二人に好かれているのだから。

 僕はどうしようもなく不幸者だ。どちらかを、裏切らなければならないのだから……

 

 




評価バーMAXありがとうございますv^^v
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。