僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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確信

 目が冴えてしまって眠れない。部屋の電気を消しこうして外を眺めてどれくらいの時間が経っただろう。

 星がよく見える、月が綺麗にそこにある。時間を忘れるくらいにはそれを眺め続けている。

 こんな綺麗な月の日はあの日の事を思い出してしまう。あの時から何も変わらないこの気持ち、だけどその深さは、強さは、変わっている。

 悠君のことはやっぱり好きだ。もちろん長所も、欠点も何もかもすべて。

 

「会いたいなぁ……」

 

 君に会いたい。メッセージを送りあう、電話をする。それもいいけどやっぱり直接君に会いたい。一昨日会ったのにもう会いたくなってしまっている。

 それは今思ったわけではない。昨日……いや、一昨日別れた時点でそう思っていた。

 明日も明後日もパスパレの練習が遅くまであってそれが叶うのは早くて三日後、だけどその日は平日だから君が会えるのかわからない。

 

「今から電話しちゃおうかな……」

 

 話したいことはない、でも話はしたい。彼は起きてるだろうか。こんな時間周りで明かりがついている家なんて殆ど存在しないこの時間に。

 悠君は夜更かしをよくするから起きているかもしれないけどもしそれで起こしてしまったら申し訳ない。ああ、彼と会う前ならこんなことは考えもしなかったろうに。

 

「そろそろ寝ないとかなぁ」

 

 時計は見えないしスマホで確認する気も起きない。もししたら今以上に目が冴えてしまって眠れなくなってしまいそうだから。

 おねーちゃんが一人、おねーちゃんが二人、一年前くらいまではずっとこれだった。

 たまに興奮しちゃったこともあるけど、落ち着けるわけがなかったけどそれでも単純作業の繰り返しはやはり眠気がきていた。

 

 でも最近は悠君ばかり。だけど君は一人、二人もいない。だから数えることはせずに考えるだけ、思うだけ。君との日々を夢見るだけ。

 当然そんなことですぐには眠くなる筈がない。でもこれをするのは夢に期待するため、理想を掲げたいだけ。

 吉夢を願い、あたしの意識は次第に溶けていった。

 

 

 夢の内容は覚えてない。薄らとは思い出せるがそれでもはっきりとは思い出せない。でも悪くはなかったと思う。

 もう一度眠れば見れるかな。そんな風に思ったけれどパスパレの練習はもう始まっちゃう。急いでもどうせ間に合わないし歩いて向かうことにした。

 

「おはよ~」

「日菜ちゃん、遅刻だよ」

「気にしない気にしない」

 

 練習といってもバンドの練習じゃなくて撮影の練習。勿論アイドルなんだからそういった仕事もあるし、一応やらなきゃいけないっていうのはわかる。

 だけどあんまり面白くないからるんっとこない。

 

「日菜ちゃん何も持ってないけど、練習大丈夫?」

「大丈夫だよ、全部覚えてるし」

「その能力羨ましいわ……」

 

 台本なんて一回読めば全部覚えられる。あたしが来たから練習は始まったけどイヴちゃんも麻弥ちゃんも台本を見ながら、彩ちゃんに至っては噛んじゃったりしてた。

 

 なんで出来ないの、予め言うことが決まっているのにどうしてそれが出来ないの? 

 

 ……なんて昔なら言っちゃってたんだろうけど今ではそんなことは口には出さない。少しは思っちゃうけども。

 何度か合わせてみたけど一回個人で練習しようって事で決まった。

 暇になっちゃったから彩ちゃんの練習を見てたけど噛んじゃったり、どうにか台詞を思い出そうとうろうろしたり。やっぱり彩ちゃんは面白い。

 

「そういえば日菜ちゃんって苦手なものあるの?」

「ん~……味の薄い物とか?」

「そうじゃなくて……わからないこととか」

 

 苦手なもの、地図記号とかそういうものは何故だか覚えられない。本当にその理由はわからない、他のことはパッと覚えられるけどそれだけは。まぁ覚えようとも思わないけど。

 あとはなんだろう。わからないこと、そんなものは殆どない。でも存在しないなんてことはない。他人のこともそうだけど、特に彼のこと。

 わからない、本当に何もかも。その日までどうすればいいその日何をすればいい。その日より先、何ができるのか。

 

「彩ちゃんの行動はよくわからないかな?」

「も~!」

「ほらほら、彩ちゃんは練習しなくていいの?」

 

 千聖ちゃんに言われると彩ちゃんはまた台本を読み始める。ああ、わからない、何をすればいいのかわからない。

 台本なんてものがあればいい。言うべき言葉と言われる言葉、彼の思い、それと答え。全てわかればいいのに。

 だけどそんなものはない。まるで迷路に迷っちゃったみたいでわからない。正解と君のこと、あたしのこと。そのすべてが何もかも。

 

 

「ヒナさん、何を見てるんですか?」

「あ、もしかして日菜ちゃんもエゴサーチしてるの?」

「へー、日菜さんもそんなことするんですね」

 

 練習が終わってパスパレの皆でご飯を食べた帰り道、スマホを見ながら信号を待っていたらイヴちゃんにそんなことを聞かれた。

 エゴサーチ、彩ちゃんがやってるところを後ろから見させて貰ったことはあるけど自分でやったことは一度もない。

 

 このアカウントは殆ど使わない。もう一個の方もたまにパスパレの活動報告とかはするけどそれ以外で開くことは殆どない。

 このアカウントは悠君の呟きをたまに眺めたりするだけ。彼のはゲームや音楽関連の物が多いけど、彼の考えが見えるそれを偶然見つけると少しだけ嬉しくなる。

 

「違うよ」

「じゃあ何してるの?」

「ジブンも気になります」

 

 彩ちゃんと麻弥ちゃんは悠君のことを知らない、だから教えられない。

 あたしとしては別に教えてあげてもいいんだけど千聖ちゃんから、二人は知っちゃったら隠せないでしょうねって言われちゃったから。

 イヴちゃんは悠君のこと知ってはいるけど、あたしが悠君をどう思ってるかまでは知らないと思う。

 

 内緒、そう言ってアカウントを切り替える、もし見られたらめんどくさい。千聖ちゃんには見られちゃってるけど。

 こちらを見て薄く笑う彼女を見て人差し指を口の前に立てて目配せする。

 エゴサーチ、他人からどんな風に見られてるか、思われてるかを確かめるそれ。彩ちゃんにやり方を聞いて実行する。

 

「へー、面白いね、これ」

「酷い内容はまともに受けなくて大丈夫だからね?」

「うーん、見てるところそういうのはないけども……千聖ちゃんもこういうことってするの?」

「私もたまにするわね、ファンの人達の意見はやっぱり大切だから」

 

 可愛い、面白い、好き、そんな言葉がたくさん目に入る。普通はそういうのを言われたらちょっとは嬉しいんだけどあんまりピンとこない。

 可愛い、何が? 面白い、何処が? 好き、どうして? なんで理由を言ってくれないの。それじゃおもしろくないよ、参考にならないよ。

 

 勝手に覗き込んできたみんなと一緒に今度はパスパレで検索をかける。ライブがよかっただとか、テレビで見たけど面白かったとか。

 そんな中、ある一つの呟きが目に入った。

 

『生まれ変わったらパスパレの人達みたいになりたい』

 

「彩ちゃんは生まれ変わったら何したい?」

「私!? 私は……うーん……」

「イヴちゃんは?」

「私は武士になりたいです!」

 

 素振りをしながらイヴちゃんは答える。素振りと言っても竹刀も木刀も持っていないから手を振り下ろしてるだけだけど。

 彩ちゃんは額に指を置きながらまだ考えている。彩ちゃんはどうするのかな。そんなことを考えていたら麻弥ちゃんから日菜さんはどうしたいんですか? と聞かれた

 

「あたしは……そうだな~、今とは違う事をしたいかな」

「なんでですか?」

「そっちの方が面白そうじゃない?」

「日菜ちゃんらしいわね」

 

 信号はとっくに青に変わっていたので歩き出す。生まれ変わったら今とは違う事をする、同じなんてつまらない。

 ちょっとしたことが違ったらどうなっていたのか、それを考えるのは少しだけ楽しい。

 彩ちゃんはずっと考えていたのか信号を渡れていなかったのが面白かった。

 

 

「生まれ変わったら、か……」

 

 ベッドの上で横になりながらそんなことを呟く。あの後すぐ別れてこの事をずっと考えていた。

 今とは違う事をしたい、何もかも。おねーちゃんと一緒に花咲に通ってみたり天文部じゃない部活に入ってみたりしたい。おねーちゃんと仲が悪くならないようにしてみたい。

 ギターだってもっと早くに始めていたかもしれないし、もしかしたらギター以外の楽器をやっていたかもしれない。それでおねーちゃんと同じバンドを組んでいたかも。

 

 アイドルをやらないのもいいかもしれない。パスパレのみんなと関係を作れないのは残念だけど全く別の事もやってみたい。

 悠君におねーちゃんより先に会ってみたり、答えを先伸ばしにしなかったり、そんなこともいいかもしれない。叶わない、だからこそ考えが膨らんでくる。

 

 この事について話してみたくてスマホで電話をかける。面白くするために、楽しむために、その為に今とは全く違うことをする。

 嫌なことはなかったことに、楽しいことはまた別のことに。面白いことはもっと面白くするために違うことをする。

 知っていたら迷わない、怖くない。だけどそんなのこれっぽっちも面白くない。

 

 違うことをする、ならばこれはなんなのだろう。

 とびきりに楽しいから、特別に大切だから、飽きていないから、失いたくないから。理由はどれかわからない。

 でも、多分、きっと、必ず……

 

「あ、もしもし悠君。ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

 ──また君のことを、好きになる。

 

 それだけは絶対に、変わらない。




乞食……圧倒的感想……乞食……!
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