僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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選択

 期限まで後、一週間。

 

 時が経つのは本当に早い。まだ決められていないのに、わからないのに時間は流れていく。何でもないけど外を歩く。家にいても外にいても変わらない、どうせ考えるのはこれだけだ。

 

 どうすればいいのだろう、どう決めればいいのだろう。そんなこと全くわからない。知識も経験も、度胸もなにもかもがないから。

 本でも読めばわかるのか、ネットで調べればわかるのか。そんなことを考えながら歩いていると角から出てきた見覚えのある二人組に声をかけられた。

 

「あら、悠じゃない」

「あ、お久しぶりです!」

「……久しぶりです」

 

 二人は鞄は持っているがそれ以外には何も持っていない、今回は戸山さんを巻き込んで楽しいこと探しでもしているのだろうか。

 そんなことを考えていると弦巻さんは僕の顔を覗き込みこんなことを聞いてきた。

 

「そうだ! 悠も一緒に楽しいこと探ししましょ!」

「……僕といても面白くないですよ」

「そんなわけないですよ、加々美さんの話面白いですし」

「そうよ、それに何か悩んでるなら楽しいことをするのが一番よ」

「悩みがあるなら私たち聞きますよ」

「……顔に出てました?」

 

 なんとなくよ、弦巻さんはそう言った。ホントに日菜に似てる。なんとなくだとか勘だとか言うくせにピタリとこちらのことを当ててくる。

 聞けばわかるのか、少しは決めれるのか。他人の恋愛観を聞くのは役立つかもしれない。それがセクハラとして思われなければだが。

 

「悩みなんて楽しいことをしてれば吹き飛んじゃうわよ!」

「……そうですね、そうさせてもらいます」

「決まりね! それじゃあ何をするか決めましょ!」

 

 悩んでいる、それは間違いない、だけどこの悩みは捨てられない。ずっと先送りにし続けた僕がこれすら捨てたらもう二度とこの機会はこない気がする。

 それは自分のため、それもあるけど二人の為。決めるのは後でいいと言ってくれて、そしてそれが今なんだ。

 甘えていた僕への鞭、これを捨てるのは二人への裏切りなんだと思ってしまう。

 

「悠は何かしたいことはある?」

「僕は特には……」

「私ちょっと疲れちゃったからつぐのお店行きたい!」

「悠もそれでいいかしら?」

 

 頷くと二人は歩き出す。疲れちゃった、そんなことを言っていた癖にたまたま見つけたマスコットキャラに話しかけたりしている。周りの目があれだったので僕は少し離れていたが。

 会話はないわけではなかったが、大切な二人のどちらかしか選べないのならどうするか、そんなことを急に聞けるわけがない。

 暫くすると羽沢さんのお店についたがそこには先客が一人。その人は僕も知っている人で戸山さんと弦巻さんはその人のいる席に座る。

 

「……お久しぶりです」

「あ、どうも」

「えっと、いつものでいいですか?」

「それでお願いします」

 

 すっかり僕も常連でいつもので覚えられてしまった。二人はジュースを頼んだらしく、それを待っていると戸山さんに尋ねられた。

 

「加々美さんって何を悩んでたんですか?」

 

 聞いていいものなのか、めんどくさいと思われないだろうか。特に美竹さんなんてそう思いそう、酷い偏見だが。事実興味無さそうに珈琲を飲まれている。

 しかしてどのようにして聞けばいいのだろう。恋愛観を聞くのは少し違う、変な風に思われたくはないし。

 

 大切な人が二人いて、どちらかしか選べないならどうするか。大切な人が二人いて、どちらかを裏切らなければならないならどうするか。二つ目は流石に聞き方が重すぎるだろうし一つ目がいいだろう。

 

「二人とも選べばいいじゃない」

「……それができないから聞いてるんですよ」

「どうして?」

「どうしてって……」

「悠にとってその二人は大切なんでしょ、なら二人とも選んだら幸せになれるじゃない」

「お、お待たせしました~」

 

 僕にとっては大事な二人、どれ程かはわからないが向こうもこちらのことは大切だと思ってくれているだろう。それならば二人とも取ってしまう、でもそれは駄目。選んでと、待っていると言われたから。

 出された珈琲を口にする。一度会話が途切れ少しだけ安堵する。もしこのまま話していたら押しきられてしまいそうだったから。

 

「私だったら一緒にいたいと思う方を選びますね!」

「……ふと考えた時に一緒にいる方、かな」

 

 一緒にいたいと思う方、ふと考えた時に一緒にいる方。前者は両方、後者は……今は意識をしてしまっているからわからない。

 美竹さんが羽沢さんにも問いかけると彼女は少し焦ったような風で僕の事を見てくる。そういえばこの中で羽沢さんだけは知っているのか、この質問の理由を。

 

「え、えっと……自分の事をより好きだと思ってくれてる方、ですかね?」

 

 僕はどちらが好きなのか、それはわからない。なら二人のどちらがより僕の事の方が好きなのか、それもわからない。

 好きでいてくれる、それは今のところ間違いない。じゃあ強さは? 僕は二人じゃないしエスパーでもないからわからない。

 

 日菜は言った、僕が全てなんだと。紗夜さんは示した、僕のためにと。

 どれだけ好きだと言われても、示されても、その強さははっきりとはわからない。僕が過剰に感じているか、もしかしたら半分にも及んでいないかもしれない。

 僕の好きだって二人にどう届いているのかわからない。均一に届いているのか、どちらかにより強く伝わっているかもしれない。

 

「……ありがとうございます」

「少しは役に立てました?」

「ええ、凄く」

 

 自分以外の意見はこんなにも役に立つ。もうこれだけで充分、後はそれをもとに決めるだけというくらいには。

 だが他の人にも聞けたら聞くかもしれない。少しでも後悔のしない選択、それを知るために。

 

「そういえば加々美さんって日菜先輩に凄く懐かれてますよね」

「懐かれてる?」

 

 美竹さんがふとそんなことを口にする。仲がいいではなく懐かれている。どういうことだろう、そう考えている僕に向かってメッセージの履歴を見せてきた。

 

「こんな風に、隙あらば加々美さんのこと話してきます」

「あ、それなら天文部の活動の時もそうよ! あなたの事を話しているとき日菜はすっごく楽しそうなの!」

「……そうですか」

 

 それだけ答えて珈琲を口にする。そう言われるのは嫌な気分はしない、当然だ。口に残る珈琲がいつもよりも苦く感じたのは、何故だろう。

 

 

 

 NFO内で目的地に向かいキャラを移動させる。今日は紗夜さんはできないそうで宇田川さんと白金さんとの三人でダンジョンに潜っている。

 最近は四人でやることが多かったので紗夜さんがいないのは寂しくもあるが今回だけは助かる。流石にこれは紗夜さんには聞かれたくない。

 

『あこだったら一緒にいて楽しい方かなぁ~』

『私は一緒にいて安心する方ですね』

 

 この問いは誰に聞いても違う答えが返ってくる。友人にメッセージで聞いても仲のいい方と答えられた。どれも参考になる、だけど全て明確に答えることはできない。

 一緒にいたい方、ふと考えて一緒にいる方、自分のことをより好きだと思ってくれる方、それはどちらかわからない。

 

 一緒にいて楽しい、それは多分日菜の方。振り回されることがとても楽しいと感じる。

 一緒にいて安心する、それは多分紗夜さんの方。落ち着いた雰囲気やちょっとした話をすると何故か安らいで安心する。

 だが他方はそうではないかと言えば全く違う。紗夜さんといるのは楽しくないのか? そんなことはありえない。日菜といると安心しないのか? 落ち着かないけどそれに安心を感じて。

 

『そういえば最近紗夜さんがあんまり集中出来てないかもって思うことがあるんだけど、悠兄何か知ってる?』

 

 そんなチャットが送られてきて、知らないと打ち込んだところで指を止める。

 予想ができないわけではない、全くわからないわけではない。そうであってほしいと願う、そうであれば嬉しいから。

 

『そうかな? 私にはむしろ凄く集中してるように見えてたけど』

『うーん、集中してないっていうよりも別のことを考えているっていうか』

 

 違うのであればなんなのだろう。何か問題でも起きたのか、新しい悩みでもできたのか。それならばどうにかしたいし、どうにかできるのなら手伝いたい。

 

『ぶっちゃけ悠兄って紗夜さんとどうなんですか?』

『どうって?』

『実は付き合ってたりとか、紗夜さん聞いても答えてくれないんですよ』

『ないですよ』

 

 そう答えながらダンジョンを攻略する。ボスを倒したところで明日練習があるからといって二人はログアウトした。

 付き合っていない、それはまだなのか、その気がないからなのか。後でではなく今すぐ決めろと言われてたら、どうしていたのだろう。

 

 パソコンを切り外に出る。空は雲一つなく星がよく見える、天体観測の時には程遠いがそれでも十分なくらいには。

 外が暗いのも相まって、目を瞑っても星が見えてしまう気さえする。

 

 目を閉じる。見えたのは星ではない、しかし黒に染まっていたわけではない。見えたのは、浮かんだのは水色の何か。

 これはなんなのか、わからないはずがない。ふと浮かんだのは、思ったのは、どちらなのだろう。

 

 

 月曜日、この日には決まらなかった。

 火曜日、夜に日菜から電話がかかってきて話をした。

 水曜日、コンビニに行ったが紗夜さんはこなかった。

 木曜日、悩んでいたら夜が明けていた。

 金曜日、いまだ決められていない。

 

 

「どうしたの? そんな浮かない顔して」

「……練習はないんですか?」

「今日は休みなんだ」

 

 期日を明日に控え眠れずに夜が明け気がついたら日は真上に昇っていた。昼飯を買いにいくついでにコンビニに向かっているところでリサさんに出会った。

 ここ数日は満足に寝ることが出来ていない。授業中でさえ考えていたらあっという間に時間が経っていて、友人には何故か心配をされた。

 

「そういえば明日なんだっけ? 決めれたの?」

「…………まだです」

「……そうなんだ」

「……少し相談させてもらっていいですか?」

「いいよ、でもここじゃあれだし……つぐみのお店にでも行こっか」

 

 そう言われ羽沢さんのお店に向かう。店の中に入ると前とは違った見知った顔がおり、リサさんは許可をとるとその人と一緒の席に座る。

 

「リサちゃんは今日練習はないの?」

「悠と同じこと言ってる、Roseliaはそんな風に映ってるの?」

「紗夜ちゃんを見てればね」

「あはは。それで、悠は何が聞きたいの?」

 

 突然こちらを向いてそう聞いてくる。大切な人が二人いて、どちらかしか選べないならどうしますか? 今までそう聞いてきたがこの二人にはそう聞く必要はないだろう。

 

「どうすればいいと思いますか?」

 

 僕がそう聞くと二人は顔を合わせる。主語が抜け落ちた頭の悪そうな聞き方、でも伝わっていると思う。リサさんはやっぱりか~、と溢しながら頭を掻いている。

 暫くの空白の後、白鷺さんが呆れたかのような声色で言葉を発した。

 

「そんなの私達に言われても困るわよ」

「うん、アタシ達が決めるわけじゃないんだし」

「……どういう風に考えて選べばいいかとかを聞きたいんですけど」

「あら、じゃあ日菜ちゃんを選びなさいって言えばあなたはそうするのかしら?」

 

 そんなはずがない。そんな簡単に、誰かに決められるものじゃない。

 

「二人とも悠に選んでほしいって言ったんだから、全部悠が決めるべきだと思うな」

「そうね、せいぜい後悔しないようにしなさい」

「二人はこう思ってるだろうからってのもなしだよ、悠がどうしたいかで決めた方が二人もいいと思うから」

「……わかりました」

 

 本当に嫌になる。決められないこと、そして他人に流されそうな僕に。変われそうと思っていたが結局なにも変わっていない。

 目を瞑る、そこには何も映らない。僕はどうしたい、僕()どうしたい。一緒にいたいと思うのは、どっちなんだ……

 

 今まで悩んでいたのが嘘みたいに、それは一瞬で浮かんできた。

 

「そうか……そうかぁ」

「決まったの?」

 

 頷くとリサさんはよかった、と言って笑顔を向けてくる。

 僕は悩んでいたなんて言っていた癖に奥底では決まっていたのかもしれない。裏切りたくないと言って、誤魔化していたのかもしれない。

 

 でも、それでも、好きだって気持ちは本当だ。裏切りたくないって気持ちも嘘ではない。だけど好きなんだ、本当に好きなんだ。

 

「まだ時間はあるんでしょう?」

「はい、もう少しだけ」

「ならもう少し、悩んであげなさい」

 

 決められた、でもそれはほんの少し力を加えれば揺らいでしまうかのようなもの。本当にこれでいいのか、それは本当なのか。

 期限は明日、後悔はしたくない。もう一人の方を選んでおけばよかったなんて絶対に思いたくない。それは僕以上に相手に悪い。

 

 出された珈琲を飲み干し二人に感謝の言葉を述べて店を出る。帰り道、公園に寄ってベンチに座り、思考の海に身を委ねた。

 

 

 その日の夜、二通のメッセージが届いた。紗夜さんと、日菜から。

 

『明日いつものコンビニで、待ってます』

『明日の昼、待ってるね』

 

 鞄につけていた天秤のキーホルダーは何故だか釣り合うことなく傾いている。まるで僕の心を読み取ったかのように。

 何度考えても変わらない、僕が好きなのは……

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