目の前を人が歩いて行く。僕なんか視界の片隅にも映っていないのか、一人で丸椅子に座っている僕に視線を向ける人は一人もいない。男も女も、子供も目の前を歩いていく。
ショッピングモールはいつでも人気なのだが、やはりというべきか休日はその人気は膨れ上がる。特に男女の二人組の数は異常と言ってもいい。
人間観察は趣味でも特技でもなんでもない、ただ暇潰しにはそこそこ役立ってくれる。
勿論だがわざわざショッピングモールにまで出向き暇潰しをするだけなんて特殊なことはしない。待ち合わせまでの時間潰しだ。
約束の時間までは残り15分。さてもう少し時間はあるが……昨日店員の言っていた通りであれば氷川さんはそろそろ来るだろうか。
そんなことを思いながら座って待っていると目の前で久方ぶりに人が立ち止まり、声をかけられる。
「時間、間違っていたでしょうか?」
「いや、僕が早く来すぎただけ……って氷川さんもかなり早くないですか?」
「私は約束の時間より15分くらい早く着いていないと安心出来ないので」
昨日カラオケ店員の言った事は本当らしい。昨日来たからといって今日も時間より早く来るなんて確信はないが今日は20分前から来ようと決めていた。
待つのは嫌い、でもそれ以上に人を待たせるのが嫌いだ。自分から誘って相手を待たせるのは嫌だ、そんな考えから。
「それで、今日は何をするんですか?」
「決めているって言うと嘘になるんですけども……昼食ってもう取りました?」
「いえ、私はまだですが」
「それなら先に昼食取りましょう、どこがいいとかありますか?」
「それなら……いえ、何処でもいいです」
よいしょ、と溢しながら立ち上がると背中が悲鳴をあげる。もう歳なのか、なんて思いながら歩き出す。
何処に行くか決めてるんですか? と向かっている途中で横を歩いている氷川さんに聞かれた。
僕は氷川さんの好きな食べ物とかの情報は聞いていないが、これは多分好きなのだろうという物はなんとなくわかっている。
それなりには、と返すと返事は返ってこなかった。
「ここですか……」
異性と二人の昼食でファーストフード店は流石にまずかっただろうか。ただ僕はお洒落なイタリアンとか知らないしお金がどれだけかかるかも知らない。
割り勘という手もあるのだが、そんなのあり得ない、という意見を持つ女子は少なくないらしいためよろしくない。
そもこういった時に慣れない物を食べてあまり美味しくないなと思う方が総合的に見て損かなと思ってしまう。
ならここが一番いいのでは? と思ったわけだ。氷川さんは前にあった時は山のようにポテト頼んでいたのだし、少なくとも嫌いという事ではないだろう。
氷川さんが注文する前に払いましょうか? と聞いたら自分のものは自分で払います、と言われた。
「あれ……」
僕の見間違いだろうか、ポテト好きかと思ったのだが一つ、しかもサイズはMだった。前回のあれはたまたまなのか? と思いながら僕は珈琲とポテトのLサイズを頼んだ。
クーポンが1つで2つの商品に適応できるためLサイズを2つ、なんともお得なものだと思いながらトレーを受け取り、氷川さんが既に座っているテーブル席に座る。
視線を感じる、自意識過剰な訳ではない。どこからか、それは目の前の氷川さんからのものだった。しかしその視線は僕ではない、ポテトに向けられているもの。なので僕は氷川さんに声をかける。
「これ、食べますか?」
「……いえ、結構です」
一つ丸々を差し出しながら聞くが返ってきたのは遠慮の言葉。しかしそう言うものの視線はポテトに向いたまま、時折そらすが結局チラチラと見ている。どうやらこの人は真面目なだけに素直じゃないらしい。
「……安くなったからつい頼んじゃったんですけど、食べられそうにないんですが……」
「そ、それなら貰います……勿体ないですし」
そんなことを言っている癖に視線はポテトから離していない、もしかしてこの人はバレていないと思っているのだろうか。そんな事を思いながらポテトを手渡す。
何処に行くか決めているのかと聞かれそれなりにはと返したが、実はここからは完全に無計画。僕は恋愛経験は一度だってないし、女友達と二人で遊んだ事だってない。
勿論僕は男だし、実は中身は女でしたなんてのでもない。どうすればいいのかなんて全くわからない。一応昨日1日考えてはいたのだが決まらなかった。
デートなら映画とか見ればいいのだろうが僕は今やっている映画が何かすら知らないし、そもそもこれはデートじゃない。
しかしながら僕はこのショッピングモールで音楽関連の所は楽器店しかしらない。流石に楽器店に行ってヒント的な物を見つけられるとは思わないが、多分音楽的なものの方がいいというのは間違いないだろう。
ショッピングモールで音楽的なものといえば楽器店か、はたまたゲーセンかくらいしかないだろう。
そうなるとゲーセンしかないか、行くとこが決まったので僕はちゃっちゃか食べきることにした。氷川さんはもう食べ終わっているようだし
「氷川さんってゲームセンター行ったことありますか?」
「いえ、一度もありませんが……まさかそこに?」
ゲーセンにはヤバい人が沢山いる、世間の大半はそう思っているだろう。まぁ間違いではないが。
それにしてもゲーセンに一度も行ったことがないとは、小学生ぐらいにメダルゲームを親とやったことがあるという人は少数派なのだろうか。
僕も親と行ったことはないが友人達は殆どやったことがあると言っていたし、それが普通だと思っていたのだが。
ゲーセンは2階にあるので向かうためにエスカレーターに運ばれる。ゲーセンでは太鼓でもやるとしよう、あれならそこまで難しいわけでもないので氷川さんでもできるだろう、一応音ゲーだし。
ただ僕は音ゲーは苦手なので出来ればやりたくはない、特に太鼓は腕がつりそうになるのが特に苦手だ。
そんなことを思っているとゲーセンに着いたがトイレに行きなくなってしまったので、ちょっと待っててくださいと言ってその場を離れた。
僕がトイレから帰ってくると氷川さんが何かを凝視していた。僕が声をかけるとなんでもないです、と答えられた。
そんなことを言っているがおそらくクレーンゲームの景品のところを見ていたのだろう。僕は氷川さんの隣に行って100円を入れる。
「欲しいのはどれですか?」
自分で言うのはなんだがクレーンゲームはかなり得意な方だ。流石にネットで売って小遣い稼ぎ、なんて程ではないが。
「それ……です」
氷川さんが指差したのは犬のバッチ、少し意外。氷川さんはこういうものには興味がないだろうと思っていたから。
さて僕はこれを取れるだろうか、100円しか入れていないためチャンスは一回。複数回やってはいけないって訳ではないがそれではかっこがつかない。
「お、取れた」
どうぞ、と言って氷川さんにバッチを渡す。これがぬいぐるみとかだったら別だがバッチなら持つのに苦労はしないだろう。
「上手なんですね」
「まぁ趣味はゲームだと胸は張れませんが言うくらいですし」
趣味はゲームです、これは胸を張って言えることではない。勿論近年のゲーム事情を見ている限り決して恥ずかしいものではないだろう。
ただそれはもう少し歳上の話、僕のような学生は他人に言える趣味を運動か文学的なもの、もしくは芸術的なものにするものという風になっている。
誰が決めたとかそういうものではない。自然と、周りに流されて。それが普通だから。
僕は氷川さんを誘ってようやく太鼓のところに来た。氷川さんに尋ねてみたらやったことはないそうで。これで氷川さんが実は化け物みたいに上手だったらそれはそれで面白そうだったのだが。
氷川さんは初めてらしいので赤は真ん中を叩いて青は縁を叩く、と簡単にルールを伝える。難易度は……やさしいでいいだろう。
「まるでドラムみたいね……」
まぁ太鼓なんですけどね、心の中でそう返すと曲が始まった。僕は経験者だから多少気を抜いてもフルコン出来る。氷川さんの方を見てみると多少苦戦しながら、それでもミスはなく終えたようだ。
意外と簡単ね、と氷川さんが呟いていたのが聞こえたので次は難易度をふつうに上げる。僕は経験者なのでまだまだ余裕があるが氷川さんは途中でミスをしまったらしい。
少し震えた声でもう一回、と言われたので100円を追加する。この人は相当負けず嫌いのようで。
そこそこな回数はやると手首が痺れてきてしまった。氷川さんはまだまだいけるようで、どうかしましたか? と聞いてくる。体が鈍ってて仕方がない。
その後も少しだけやっていると100円が底をついてしまったのでゲーセンを出る。
「今日はどうでしたか?」
「ヒントになりそうなものは何も……」
でもとても楽しかった。こんなことは久しぶりだった、そう言われた。自分で言うのもなんだが僕もかなり楽しめた気がする。いや、僕が楽しむのは目的から脱線しすぎな気もするが。
「いい息抜きになりました、ありがとうございました」
途中までついて行きましょうか? と聞いたが大丈夫ですと言われたのでここで別れることにした。
さて、もうすることないし帰るか、なんて思っていたところで後ろから声をかけられる。
「ねぇねぇ、君とおねーちゃんって知り合いなの?」
誰だろう、そう思って振り返ると先程別れた筈の氷川さんがいた。
いや、違う。似てるけど違う、この人は氷川さんではない。身長は若干小さくて髪は短い。しかし顔は何処となく似ている。となるとこの人がそうなのだろう。
「おねーちゃんの妹の氷川日菜っていいま~す。実はちょっと聞きたい事があって」
やはりこの人は氷川さんの双子の妹さんだ。
帰るのはもう少し後になりそうだ。
音ゲーってオトゲー?それともオンゲー?