僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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このss書き始めたの一年前らしくて驚いてる


一年

 月曜日、特定の予定がある曜日ではないし学校が終わるのも遅くはない。休み明けという憂鬱さえ加味しなければ翌日から休みである金曜日に次いで楽なその日。まぁ平日に限った話なのだが。

 学校を終えどっか遊びに行こうと友人に誘われるがそれを断る。何でだよと聞いてくるが今日は予定があるからとしか返しようがない。そう言うと納得はしていなさそうに友人は別のやつのところに行った。

 

 冬も終盤に差し掛かり、だからといって寒さが和らぐわけではない。こんななら家で暖まるために寝転がるのが吉であると思うが今日はそういうわけにはいかない。

 しかしながらそれを残念ながらと思うことはない。何故ならその予定というのが日菜に呼び出されたというものだから。

 

 それはいい、しかし何故今日なのか、それがわからない。昨日は日曜日、それなのに何故わざわざ今日を、いや、日菜はアイドルだし色々忙しかったのかもしれない。

 だとしても学校終わったらすぐにショッピングモールに来てねなんて、買い物をするならば休日の方がいいだろうに。

 もしかしたら理由なんてなくてただの日菜の気紛れかな、なんてことを考えていたらショッピングモールに辿り着いた。

 

「悠君、遅い」

「これでもだいぶ急いだ方なんだけど……」

 

 自転車を止めるとそこには既に日菜の姿が。当然制服、両手には手袋をして更にはマフラー付きにニット帽と防寒は……コートを着ていない以外は完璧、少しだけ安心した。

 

 しかしながら待ち合わせで僕の方が日菜より遅くきたなんて……これで二度目だったか。果たして本当にその一回だけか、それに関しては詳しくは覚えてない。

 それでもその一回は確実、どうしようもないくらい印象に残させられている。あの時の事を思い出すと今でも胸が締め付けられるかのような感じがする。

 

「それで、何するの?」

「う~ん、とりあえず……」

 

 片方の手袋を外して手を伸ばされる。僕より小さくて、少しだけ先が硬いそれを優しく取ると中に案内される。どうやら一番最初は昼飯に行くようで。

 繋いだ手をまじまじと見ているがどうかしたのだろうか? 僕も防寒として手袋をしていたが手汗はかいていない筈なのだが。

 

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ。それよりほら、急ご? 人で埋まっちゃうよ」

 

 向かう先は相も変わらずファストフード店、確かに学校終わりのこの時間、少しの合間にその列は伸びていくだろう。

 早歩きにでもするか、そう思った矢先に手を引かれる。それは何度も体験したもの。

 

 急ごと言うわりにはその歩みはゆっくりだった。初めての時なんか引かれるというよりかは引っ張られる感じだったというのに。

 どうにせよあの時から比べ、僕を引く手は優しくなっていた。

 

 

 ファーストフードについたがやはり時間帯の問題か、人の数は尋常でない。一応注文し席に座ることが出来たが人口密度が高すぎる。それこそ今並んでる人は頼めても座れない程に。

 

「めんどくさいよね~、わざわざこんな格好しなきゃいけないなんて」

「仕方ないんじゃない? バレたらめんどくさいでしょ」

「あたしは別にいいんだけどね、今日はあれだけどさ」

 

 目の前に座る女性、まぁ日菜なのだがその姿は先程とは違う、とはいっても眼鏡をかけただけなのだが。

 しかしながらニット帽を被って普段かけてない眼鏡をかけ、パッと見で日菜とわかる人はいるだろうか。

 

 アイドルだし人も多いから変装しようということでその格好をしているらしいのだが、ニット帽をしているせいか逆に目立っている気もする。

 とはいえ、アイドルだとバレてしまった方が目立って大変だろうからこれでいいのだろう。

 

「悠君も食べる?」

「いいよ、お腹もそんな空いてないし」

 

 そっかーと言いながら日菜はポテトを食べ進める。相変わらずあの山は何処に消えているのだろう、それともアイドルというのはそんなにも大変なものなのか。

 珈琲を飲みながらそんなことを思っているとそういえば、と前置きをしてから僕が気になっていた事を聞いてきた。

 

「悠君、今日がなんの日かわかってる?」

「なんかあったっけ?」

「え~、わからないの~?」

 

 どうして今日なのか、それは先程考えてわからなかったものなのだがどうやら何かしらあるらしい。

 しかしながらそう言われてもわからない。今日は祝日でもないしなにかしらの行事があるような日でもない。それこそ誕生日だとかの記念日でもないし……一体なんなのだろうか。

 

「ほんとにわかんないの?」

「……ごめん」

「じゃあヒントね、この後行くのはゲームセンターだよ」

 

 この後ゲーセンに行く、それが何のヒントになるのだろう。それこそ日菜と行ったことなんて一度だけで、その日と今日が関連つくわけでもない。

 いや、そういえばもう一つだけ日菜とゲーセンが結び付くものがあった。遊んだわけでもない、それこそ立ち寄ってもいない、だけど記憶に有る限りではそれしかなくて。

 じゃあその日何があった、それは日菜と知り合った日で……確か一年前。正確な日付は覚えていないがこう言ってくるということは恐らくそういうことで。

 

「思い出した?」

「……知り合って一年?」

「正解! もー、忘れるなんて酷いな~」

「……そんな昔の事一々覚えてないよ」

 

 最近は五分前の事ですら思い出せない事があるのだ、一年前なんて覚えてる訳がない。ただ僕の答えに満足したのか、日菜は手元のポテトを一気に食べると立ち上がった。

 

「時間もないし、行こ、悠君」

 

 今日は学校が長かったというわけでなければここに長居をしたわけでもない、事実時間を見てみればそこまで遅いということでもない。

 何か予定でもあるの? と聞いてみるが別に、としか返ってこない。帰る時間を確認してみても特に指定はないとのことで。

 

 だというのに時間がないと答えるというのは……日菜にとってはその通りということなのだろう。

 この後ゲーセンに寄って、その後は何も決めていないらしいが帰るという選択肢はないらしく。

 

 あぁ、なるほど、これは時間が足りないな。引かれながらゲーセンに向かう途中、出口に向かってすれ違う学生達を見て僕もそう思った。

 

 

 

 屋上への扉を開ける。外は真っ暗、季節のせいもあるけれど、それ以上に時間が時間だから当然だ。

 星がよく見える、君の顔はよく見えない。あたしがその場に座り込むと悠君も隣に座り込む。

 

 流石に暗すぎかな、なんて思ってスマホのライトをつけてあたし達の間に置く。つけた瞬間は眩しいと思ってしまうけれど、それでも来たばかりだし星を隠すほどのものでもない。

 楽しかったなぁ。ゲームセンターに行って、楽器屋にも寄ったり洋服を見たり、おねーちゃんとお揃いになるようにと同じ手袋を3つも買っちゃって。

 濃密で、だからこそ一瞬に感じられてしまった。

 

「……ここなら誰も見てないよ」

 

 彼は何を思ってそう言ったのか、まぁ含みも何もなく本当にその通りでしか言ってないのだろう。その言葉通りに眼鏡を外す、ニット帽は寒いからつけたままだけど。

 ほんと、君はそれをあたしが捉えた通りにしていたらどうしていたのだろう。そこまで考えてないのかも知れないけど、なんて思って彼の手を取るとちょっとだけ冷たかった。

 

「今日は寒いね」

「まぁ……冬だからね」

 

 会話もなく星を眺め、ふとそんなことを聞くとコートを渡される。別にいいのに、なんて言葉は飲み込んでそれを羽織る。

 吐き出す息には色が付く。そんな日なのに強がっちゃって、そんな日でも変わらず君は優しくて。

 

「風邪、引いちゃうよ?」

「馬鹿は風邪引かないから大丈夫だよ」

 

 それならあたしは、なんてものも懐かしい。君との一年、冬に知り合って春に好きになって、夏を君と過ごして秋には……振られちゃったけど、全部全部大切な思い出で。

 

「星……綺麗だね」

「当然、あたしのお気に入りの場所なんだから」

 

 空から視線を落として君を見つめる。悠君も見られてると気づいたのかあたしの方を見てくる。今年は去年の通りにとはいかないけれど、去年のように君と過ごせたら……

 

「ねぇ、悠君」

「何?」

「天体観測ツアー、今年も行かない?」

「……今年こそ紗夜さんと行けるんじゃないの?」

「だから、三人でだよ」

「……ペア限定じゃなかったっけ、確か」

「そんなのは覚えてるんだ……」

 

 知り合った日は覚えてなかった癖に。でもそれだけあれが君にとっては大事なものなのかなと思えば嬉しいのも事実。

 つぐちゃんとか誘ってさ、そう言うとちょっとだけ迷って了承される。二人には聞いておいてねと付け足してだったけど。明日学校でつぐちゃんに聞いてみよう、おねーちゃんには……その後で。

 

「そろそろ帰ろっか」

「だね、もうこんな時間だし」

 

 スマホの明かりを消せば真っ暗で、互いの顔も見えやしない。コートを羽織ったはいいけど中との気温差が酷くて凍えてしまいそう、それでも繋いでいる手だけはそうではなくて。

 君とはいつまで一緒にいられるのだろう。死ぬまでか、君とおねーちゃんが結婚するまでなのか、大人になるまでか、それとも……高校を卒業するまでか。

 

 そんなの嫌だ、でもそれはあたしにも悠君にもわからないことで。どこまで離れようとあたしは君の事を思えるなんてのは当たり前で。

 空をあたし達が見上げる、空があたし達を見下ろしている。今ここにいるというのは他でもない、君とあたしと、あの星達が覚えててくれる。

 

「月が綺麗だね」

「……そうだね」

 

 答えはなんともない、わかってる癖に、わかってるからそう返される。

 指を絡ませる、離れないように、おねーちゃんのように。彼が少し抵抗するようにしてきたからちょっとだけ強く握ると冷たい手には小さく痛みが走る。

 

 君と出会ってもう一年、君と知り合ってまだ一年。一年というのは長いけど短くて。

 一年かけたこの気持ち、一年持ちっぱなしのこの気持ち。時間をかければ無限に強くなるのか、それともここら辺が上限で後は下がっていくのみか。

 

 まさか、君のことを好きでなくなっていくなんて考えられない、それこそおねーちゃんの事を嫌いになるなんてのと同じくらい。

 じゃあ君より誰かを好きになれるかな、なんてことはあたしにはわからない。あり得ないなんてことは存在しないから否定はしない。

 

「ねぇ、悠君」

 

 でもまぁ……そうなることなんて想像できないけど。

 

「忘れないでよね、天体観測ツアー」

「そっちこそ、色々と忘れないでよね」

 

 あーあ、釘刺されちゃった。でもまぁ、それでもいっか。

 これからもずっと一緒だよ、なんて言えないから、こんな日常を、大切にしていきたい。

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