贈り物とは何を買えばいいのだろうか。
極論を言ってしまえば相手にとって邪魔にならず、ある程度使い道があるものがあるのならそれでいい。
そんなことはわかっている、でもそんな都合のいいものがパッと思いつく筈もない。いや、あるにはあるのだが、渡すものとしてはそれに対しての知識がなさすぎる。
「どうしたもんか……」
紗夜さんと日菜の誕生日、二人共ギターをやっているのだしそれに関するものを送れればと思ったのだが、いかんせんそう簡単にはいかなくて。
ピックなら予備にもなるし丁度よさげ、なんて思って調べたらそれはもう未知の世界。二人のギターの種類も分からなければ今使っているピックの形や厚さもわからない。
もしこれで今と全く違うものを送ったのならそれはもうゴミのようなもの。折角の誕生日にそんなもの貰いたくもないだろうし、なによりそんな風なことにしたくない。
ということでギター関連は駄目、勿論二人に聞けばそれも解決なのだけれど……まぁ、知られたくないというか、何を渡されるか察されてしまいたくない。
「やっぱこれになるんかなぁ……」
売り物のアクセサリーを見ながらそう呟く。やはり無難なものに、しかしそれでは去年と同じになってしまう。とはいっても期日は既に明日なわけだし他の選択肢は思い浮かばない。
オシャレとかそういうのは本当にわからないのは相変わらず。自分ではこれでいいんじゃないかと思っていても周りからはダサいと思われる可能性だってある。
渡してそう思われるのは嫌、であるけれど他人がこれだと選んだものを渡すのも何か違う。
贈り物を選ぶのに金の心配はしたくはないのだが、いかんせん手持ちが寂しいので買える物は限られてくる。
昨日紗夜さんの誘いを断っていれば、なんて思ったところで金は返ってこないし、冗談でもそう思えるわけがない。
二人が好きそうなものがいい。ならばポテトとか、だがそんなものは見当たらない、勿論あったとしても買わないが。
何も同じものを渡す必要はない、傘と星をモチーフとしたアクセサリーをそれぞれ手に取り値段を確認。
これじゃあ渡すものとしては安すぎるか? と思いつつも店を一周して見たが他によさげなものは見つからず、それらを購入して店を出た。
「あれ、加々美さんですか? こんにちは」
「こんにちは」
「このお店から出てきたってことはもしかして……」
「……そうですね、紗夜さんと日菜に」
店を出たところで声をかけられ、そちらを向けばそこには羽沢さんが。二人には内緒にしておいてくださいと伝えれば勿論ですと返された。
そんな会話をしながら明日のことを考える、特にこれをどうやって渡そうかということを。会いましょうと伝えるのは少しあれだがそうしないとどうしようもないわけで。
「そうだ! 加々美さん、明日うちに来ませんか?」
「羽沢さんのところに?」
「はい。紗夜さんと日菜先輩が来るのでそれも渡せると思います」
僕はサプライズとかそういうのが好きというわけではないが、やはりそういう風にできるならそちらの方がいいだろう。
当然その提案を受け、何時頃かとも教えてもらった。朝早くというわけでもなかったので寝過ごす心配もなさそうで一安心だ。
「三人用の席、用意しておきますね」
「いや、わざわざそんな……」
「大丈夫ですよ、それにあの二人もその方が絶対喜びますから」
「……ありがとうございます」
「それじゃあ明日、待ってますね」
明日が楽しみだと、そうも思いながらやはり緊張もする。
去年紗夜さんに渡す時もこんな風だったか。そう昔の事を思い出しながらその場を後にした。
「いらっしゃいませ。早いですね、加々美さん」
「遅れるよりはいいですから」
当日を迎え、朝からどうにも落ち着かなかった。じっとしていることができずにこうして店に来たはいいものの、予定の時間はまだまだ先だ。
背中を押し出されてしまったかのように落ち着かずそわそわする。少しでも落ち着こうと珈琲を頼むが残念ながら効果はない。
まだかなと入口の方を見て、その後時間を確認してため息をつく。何度かそれをやっていると羽沢さんに小さく笑われ、ごめんなさいと言われてしまった。
「……自分のことじゃないのにこんな気にしてるの、おかしいですよね」
「いえ、そんなに思えるのは凄くいいことだと思いますよ」
ああまだかと、何度思ったところで思い足りることはない。なんて言ってプレゼントを渡すか決められてもいないし、顔を合わせた瞬間何と言うかも決められていない。
どれだけ考えてもわからないそれについてまた考えようとした瞬間、今まで少しも動かなかった入口の扉が開いた。
「つぐちゃん来たよ……って悠君もいる!」
「日菜、少し落ち着きなさい」
「おねーちゃんは落ち着きすぎだよ!」
タイミングが悪いとはこういうことだろうか、それとも願いに願ったのがやっと叶ったとでも思うべきか。どうにせよその扉から入ってきた人達は僕が待ち望んでいた人ということに変わりはない。
日菜はすぐさま僕の隣り席に、紗夜さんは羽沢さんと少し会話をして僕の正面に。
二人が飲み物を注文してそれが届くまで話していたが、その中に誕生日と関連しそうなものは一つもなくて……
「そういえば来週のあたし達のライブ応募してくれた?」
「勿論、といっても受かるかはまた別だけどね」
「それでしたら私達も近いうちにライブがあるので、よかったら来てくれませんか?」
「ええ、行かせていただきます」
今日が自分の誕生日だと気づいてないんじゃないか、そう思ってしまう程に関係のない話。
勿論それらの会話はどうでもいいというものではないが、そう思ったときあることに気づく、それは紗夜さんの視線。
彼女の視線が下の方に、正確にはプレゼントを入れた袋に向いていた。勿論偶然かもしれないが、チラチラと何度も見る様子は間違いなく気になっているようで。
ならば日菜はと見てみればそれはもうガッツリと見ている。まるで中身を推測するかのように、だけどそれ何と聞いてくることはない。
僕から言うのを待っているのか、気づいてしまえば露骨に思えるほど。あの、と声をかければ視線は僕の方に、そしてそれには期待を孕ませているかのように思えた。
「……これ、誕生日プレゼントです」
アクセサリーを袋から取り出して二人に渡す。大したものでないのにまじまじとそれを見つめられ恥ずかしさを覚えてしまう。
早くありがとうございますとか言ってしまってくれればいいのに、二人はそうすることなくじっとそれを見つめていた。
「はい、私からもプレゼントです」
なんとも言えない雰囲気が漂っていたが、割って入ってきたその声と一緒に二人の前にケーキが置かれその雰囲気は霧散する。
日菜は目を輝かせながら早く食べようよ、とアクセサリーを鞄につけながら言う一方で、紗夜さんは反応はしたがアクセサリーを見つめたまま。
「……ごめんなさい、大したものじゃなくて」
「……いえ、そんなことはないですよ。とても嬉しいです」
「おねーちゃん先週くらいから楽しみにしすぎててずーっとそわそわしてたもんね」
「そ、それは……あなたもでしょう?」
「まぁね。来週はあたしたちの誕生日だよって送ろうか迷っちゃったもん」
紗夜さんは恥ずかしそうに顔を赤くして、日菜はそれを面白そうにしながらそれを見ながらケーキを食べ進める。
満足したのか紗夜さんもアクセサリーをポケットにしまいケーキを食べ始める。
そんな二人を見ながら珈琲を飲もうとカップを持つが空だと気づいて手を離す。
ケーキ美味しそうだなと早くも食べきりそうな日菜を見ていたらあの、と前方から声がして。
「悠さんも……食べますか?」
「え?」
「私の食べかけに……なってしまいますけれど」
先程とは比べ物にならない程に顔を赤くし背け、ケーキを少し乗せたフォークをこちらに向けている。されてる側で恥ずかしさを覚えるのだから本人はどうかなど想像もつかない。
新しいフォークを貰ってそれで渡すという選択肢もあったろうに、でも嫌ではない、ある筈がない。
差し出されたフォークを手に取ろうとした瞬間、日菜が声をかけてきた。
「折角だしさ、そのままいっちゃいなよ」
そんなことできるわけ、そう思ったが日菜からの視線が痛い。運よく羽沢さんは奥に行ってるみたいで、紗夜さんがこんな風な事をしてきたのもそれがあっての事の筈。
そうされると思っていたのか、それともそうされてもいいと思えたのか。聞こえていたはずの紗夜さんはその手を下げようとしない、寧ろこちらに近づけてきさえしている。
退路は断たれ顔が熱を持ち、心臓もうるさくなってきた。落ち着かせようとする時間もない、羽沢さんが戻ってくるかもしれないし、なにより紗夜さんも手が疲れてしまうだろうから。
こぼれないようにフォークを支え、僕は差し出されたケーキをそのまま口にした。
日菜はひゅーひゅーと騒ぎ、紗夜さんは発火しそうと思えるほどに顔を赤くする。僕も負けないくらいに顔は赤くなってるだろうし心臓は今にも破裂しそうだ。
甘い。こんな甘いものを食べたのは初めてだ。それが実際にそうなのか、それともそう思わされてるだけなのか。どうにせよ、嫌な気はしない。
不快な気は欠片もなし、寧ろ心地好い程だ。強く、その味は舌の上に、頭の中に残っている。
ああ、本当に甘すぎて、一生忘れられなそうだ。
彼から貰ったアクセサリーを眺める。どれだけ見つめたところで形は勿論色も変わらない、それでも見飽きる事は全くなく、それこそずっと見ていてしまいそう。
去年貰った物はずっと部屋に飾ってある。身につけない理由は特にない、もしあるとするならば……やはり、恥ずかしいというもの。
「……はぁ」
今年のプレゼントもまた、私の部屋で私と日菜にしか見られない物になってしまうのか。見せびらかすものではないのだけれど、隠すものでもない。
でもこんなものきっと私に似合わない。誰かに笑われてしまったらどうしよう、多分私はその人を許せなくなってしまう。
悠さんからの物を笑うなんて許せるはずもない。そして誰かをそう思いたくもない。
そんな風に思うけど彼がくれたものだから、どこかにつけておきたいとも思ってしまう。
彼は手元の珈琲が空になっていたけどおかわりを頼まなかった。お会計の時に彼は財布の中の小銭を探していて、お札は目に入らなかった。
私が誘えば日菜が誘えば、彼は絶対に断らない。彼にだって趣味はある、なのにこうしてプレゼントを渡すのだ、その思いは無駄にしたくなくて、してはいけなくて。
「ここなら……いえ、これでは隠れすぎね」
鞄にアクセサリーをつける。目立たないように、しかし隠れ切ってしまわないように。
今度会った時悠さんは気づいてくれるだろうか、いや、私が恥ずかしいと隠すようにしなければきっと気づいてくれる筈。
だから無理に目立たせる必要はない。私とあなただけがわかればそれでいい。
今度日菜と一緒に彼に合いそうな物を探してみようか、なんて事を新しくなった鞄を見ながら思っていると不思議と笑みが浮かんできていた。
あなたと付き合い初めてほぼ半年、時間というのは早いものだ。でもどれだけ早くても、どれだけ長くても、この想いは変わることがない。
未だ好きということに慣れなくて、未だ好きになるのが止まらない。何も特別ではない、それが普通で、あなたが私をそうさせてる。
あなたとの日常は本当になんでもないことばかり。おかしなことも厄介なことも、不思議なこともそうそう起こりはしない。
でもそんな日々が大切で、嬉しくて。
明日も、来週も、来月も来年もその先も、きっと変わらない、変えさせない。
あなたと私、二人で過ごす日常だからこそ、私は続いてほしいと思えている。
これからも推してきます