将来どうするのか。今までなんとなく考えないようにしていたそれだけど、高校にも通いはじめ三年目、流石に目を背け続けるわけにはいかなくなってきた。
教室の雰囲気はピリピリし始めてきたし、友人も気がつけば勉強してる。真面目なことだと思いつつ、それが普通なんだろうなと思うとため息が零れてしまう。
将来の夢と聞かれたら何とも答えられない、やりたいことは何かと聞かれてもわからない。
勉強しなきゃとわかっていてもそうしないのは、めんどくさい、ただそれだけ。
夜中までゲームして、休みの日は遊んで、痛い目を見るのは自分なのだからまだいいにしても、やはり心の奥底で不安が渦巻いている。
このままでいいのかなんて問いの答えは出きっている、でもどうせ大丈夫、そんな考えもある。
ほんと、僕はどうするのかな、なんて他人事の様に考えていたらスマホが鳴った。確認してみればその相手は日菜で、つぐちゃんの店で集合ねなんて書かれていて。
彼女は自分と同い年の筈なのにこうして誘ってくる。こう思うのはいいことじゃないはずであるのだけれど、毎度安心する。
「これなんだけどさ、悠君はどう思う?」
「いいと思うよ、通ればだけど」
今年度になって日菜は生徒会長になったらしい。始めて聞いた時はうまくやっていけるか心配であったが、生徒会活動は楽しいようでなによりだ。
こうして新しい案の相談を僕によく持ち掛けてくるのだが、こういうのは本当に実行されるのだろうか、なんて考えていると店のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ」
「あ、おねーちゃん!」
「……こんにちは」
「こんにちは。羽沢さん、日菜は迷惑をかけてないかしら?」
「め、迷惑だなんてそんな……」
開いた扉の方を見てみればそこには紗夜さんの姿が。羽沢さんと少しの会話をした後彼女は僕の隣に座る。
実は最近、彼女と少し気まずい。別に喧嘩をしたとか顔を合わせなくなったとかそういうのじゃない、ただ一方的に思ってるだけ。
彼女は僕とは正反対の人だ、それは出会った時から変わらない。だからこのような時期になってくるとついつい自分と比較してしまう。
最近夜は遊んでいない、一緒に出かけましょうという連絡もきていない。こちらを気遣ってのそれであるのだろうが、それがまた辛かったりする。
「悠君、どうしたの?」
「……何が?」
「なんか、るんってしてなさそうだったから」
何でもない、と答えることなら簡単だ。でもそう言っても彼女は嘘だと見抜いてくる。
だけど紗夜さんのことでと言うのはあれだ。本人の前であるというのもあるが、彼女が勉強をしたいからというのもあるだろうし、偶々時間が取れていないだけな可能性だってある。
というよりもそれが普通なのかもしれない。彼女欲しいと狂ったように言っていた友人でさえ最近は言わなくなってきたのだ、偶に連絡し合う方が彼女にとっていいのかもしれない。
「将来どうしようかなって」
「将来というのは……進学か就職か、ということですか?」
「そういえば三人はもうそんな時期なんですね」
「そんなって言ってもまだ5月だけどね」
「もう5月よ、あなたは気が緩みすぎだわ」
進学か就職か、SNSで流れてくる仕事の悪口ばかりを見ているせいか、就職はあんまりしたくないなと思っている。
進学だって行きたいところがあるわけではないし、こっちに関してタダではないのだから親に迷惑がかかる。
「私は……まだあまり考えてません。今はまだFWFにだけ集中したいので」
「あたしもまだ決めてないな~、あたしはパスパレもあるしね」
この時期に決めていないだなんて僕以外にいたのか、ちょっとだけ安心する。なら勉強していないかなんて……聞くだけ無駄か。
紗夜さんに限ってそんなことはないだろうし、日菜は天才だからとしてないだろう。まぁ日菜は僕と違って勉強ができるから、であるからまだマシな方なのだろう。
「決まってないなら悠君って勉強してないの?」
「あー……しなきゃなとは思ってるんだけど」
進学するか就職するかも決めてないから勉強はしなくていい、なんてはずがない。寧ろ決めれてないのだからこそ、やりたいことが出来た時に無理だとならない為にするべきで。
そこまで思っておいて何故出来ないのか、何度問いたかわからないし結局答えは出ないまま。テストが近くなるといつもこうであるから紗夜さんも呆れているだろうと思い見てみると何か言いたげで。
「……悠さんは進学の道を捨てているわけではない、ということですよね?」
「まぁ、一応は」
「じゃあさじゃあさ、勉強しようよ、三人で」
日菜が言うそれもいつものこと、何ともありがたい話ではあるのだけど……今回に関しては少し迷う。
勿論嫌ではない、今までからするに二人となら勉強もそれ程苦でないし、なにより結果に結びつく。だけど迷う理由は一つ、僕の為だけに時間をとってもらうのがどうなのかと。
「ありがたいけど……二人の時間を取るのもあれだし」
日菜はパスパレがあるから進学するかも決めていない、紗夜さんだってバンドに集中したいと言った。そんな二人に僕が、しかも教えるのではなく教わるだけのために時間を取ってもらうのは……
「そんなことないですよ。人に教えるのは普通に学ぶより効果的だと言いますし」
「そうそう、それにあたしは忙しくもないからね~」
「……それなら、お願いします」
二人からは貰うばかりで何も返せてない、だから今日は奢らせてもらおうと提案してみるも受け入れてもらえない。自分が好きでやってることだから、そう言われて。
「僕の為なんかに、ありがとうございます」
「違うよ、悠君」
僕の言葉をすぐさま否定しじっとこちらを見てくる日菜の目を見れば、それが冗談でもなんでもないというのはわかる。
一体何が違うのか、考えてみたけどわからない。
「悠君の為じゃなくて、あたし達の為だからさ」
「……というと?」
「あたしは悠君が進学するなら一緒に行きたいなって思ってるし、それに……」
目線が僕から紗夜さんの方に向いていく。僕もつられてそちらを向けば彼女は何のことかわかっていないのか、不思議そうな表情を浮かべていて。
「おねーちゃんも、頻繫に悠君に会えた方が嬉しいでしょ?」
「あ、あなたは何を言ってるの!」
「え~、でもおねーちゃん最近ず~っとスマホのこと気にしてるし、ため息も多いじゃん」
「そ、それは……」
こちらを見て、すぐさま顔を逸らす。少しだけ顔を赤くされたからかこちらも同じようになってしまう。
「この時期ですし悠さんは忙しいのかと思いまして、それで……」
「い、いえ、僕も……似たようなものでしたから」
相手は忙しいのだろうと気にかけて、迷惑をかけてはいけないと思ってしまって。聞く機会はある癖に聞けないという、本当に僕と全く同じような。
「けって~い! じゃあ今から図書館に行こ~!」
「あなた、勉強道具は持ってるの?」
「必要なの?」
「……あなたはいらなくても私と悠さんは必要なのよ」
なら明日、というので僕と紗夜さんはそれならと答える。
こうやって互いの事を考えて、そんなだから一歩引いてしまって。悪い事ではないと思う、押し付けでないし自分勝手でもない。でも、いいかと言われたらよくわからない。
人の気持ちなんて全部わかるはずもない、だから自分だったら、そんな風に考えて。
「……紗夜さん」
「……なんでしょうか」
「もしよかったら来週、何処か行きませんか?」
勉強しようなんて言っていた癖にこの提案、矛盾しているけれど嘘はない。羽沢さんと話している日菜に聞こえないように小声で、紗夜さんは答えてきた。
「それは……二人でですか?」
「……はい」
どっちでも、とは答えてほしくないだろう。日菜がいてほしくないわけではない、久し振りに彼女と二人でいたいだけ。
彼女はそうですかと、小さな笑みを浮かべながら呟いて。
「はい、喜んで」
「おねーちゃん、なんの話してるの?」
「なんでもないわよ」
ふーん、と疑惑の目をで見てくるが追及はされない。さて来週どうしようかと珈琲を飲みながら考え数分程経った頃、スマホが連絡を知らせてくる。
後でいいかと思ったけれど、紗夜さんにどうぞと言われてしまったのでそれを確認する。
『今日の夜、来週の事について話しませんか?』
横の人を見れば何のことやらと日菜と羽沢さんとの会話に混ざっている。
喜んで、僕も彼女と同じその返事を送ることにした。