僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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認知

「紗夜ちゃんありがとう、助かったよ」

「いえ、大したことではないですから」

 

 CIRCLEで何やら困り顔の丸山さんを見て、話を聞いてみれば課題でわからないところがあるというので教えていた。

 必要ないと言ったのだが今度何か奢るねと約束させられてしまい、断り切れずに了承してしまった。

 

「それにしても紗夜ちゃん教えるの上手だね、すっごくわかりやすかったよ」

「そうですか?」

「うん、この前日菜ちゃんに教えてもらった時はその……よくわからなくて」

 

 あははと苦笑する彼女。教えるのが上手、それは悠さんに勉強を教えるようになったからだろうか。

 

「よかったらなんだけど……今度また教えてくれないかな?」

「ええ、私でよければ」

「ホント!? ありがと~」

 

 大したことじゃないから知り合いだから、それもなくはないけれど感謝されることではない。

 私が彼女に勉強を教えて、私は彼女に教え方を学ばせてもらう。それは彼に教える時に必ず役立つ、だからこれは一方的なものではなく対等だ。

 

「あ、そろそろ行かなくちゃ」

「それではまた」

「うん、また今度ね」

 

 そう言って彼女とCIRCLEを出て別れ、荷物を置くため家に向かって歩き出す。

 実は最近、楽しみが一つ増えた。毎日できるものではない、だから今日はやろうと決めていたのだ。

 ふと自分の口角が上がっていることに気づき、歩く速さも少しだけ上がっていた。

 

 

 

 やってきたのはショッピングモール。誰と約束しているわけではなく一人、何処に行くかも決めてない。

 だけど来た理由がないわけじゃない。それは下見だ、まだ決まってないいつかのデートのための。

 

「この映画は……」

 

 付き合い始めた時は今更ながらこのような予定建てを楽しいとは思えていなかったと思う。どうすれば彼が楽しめるのか、そればかりだったような気がする。

 でも時間が経って慣れてきて、ようやく自分も楽しめるようになってきた。勿論彼といれば全てそうなるのだが。

 

 遠くに出かけるとなれば調べながらになるが、ここのように遠くない場所であれば直接来た方が分かりやすい。

 夏という季節を感じさせるようなタイトルの映画のポスターを見て回る。そういえば彼はこういうのが苦手だったか、であればこれはなしと決め近くの丸椅子に腰を下ろした。

 

「あれは……」

 

 ふと見えた二人組、勘違いでなければ悠さんと今井さん。偶々会ったのだろうかと思ったが、気づけば私は二人の元に歩き出していた。

 

「あ、紗夜。やっほー」

「こんにちは」

 

 悠さんからは軽く頭を下げられ私もそう返す。何故二人は一緒にいるのか、そう聞くと今井さんは両手に持った袋を上げながら答えた。

 

「買い物しすぎちゃってさ~、持つの大変で困ってたところを助けてもらったんだ」

「……そうですか」

 

 安心した。そんな事をする人じゃないとわかっていてももしかしたらと疑ってしまう、怯えてしまう。これはいつまで経っても治らない。

 彼の両手にも袋、それを見て今井さんの方を見て、なんと思ったのか目をそらされる。

 

「私も手伝います」

 

 そう言って悠さんから袋を一つ受け取ろうとするが断られる。

 彼は今井さんの方を見る、つまりそうしてくださいということなのだろうがそれは私が許せない。

 

「今井さんのものなのですから彼女が二つ持つべきです」

「いや、でも……」

「大丈夫だって、アタシはバンドで体力ついてるし」

 

 渋々といった様子で袋を一つ渡してくる。何が入っているかは知らないが大きなものじゃないしそこまで重くもない。

 彼の手が一つ開いた、私の手も一つ空いている。荷物を持ち替えその手を軽く閉じ、歩き始めるのを待つ。

 

「そうだ、二人共何処か寄らない?」

 

 実はお昼まだでさ、なんて言う彼女に対し私と悠さんは顔を見合わせる。言われてみれば私もそう、ならば残るは彼だけで。

 

「僕もまだですし、二人がいいなら」

「私もです」

「なら決まり! それじゃあ行こ~」

 

 何処に行くかは決めてあるのか彼女は歩き出す。

 手が触れた、握った、握られた。歩幅は彼が合わせてくれて、ふと笑みがこぼれた。

 

「相変わらずですね」

「何がですか?」

「優しい人だと思いまして」

「……そんなわけないですよ」

 

 聞き慣れた答えが返ってくる。彼はいつも認めてくれない、謙虚なのか、それとも本当にそう思っているのか。

 

「僕なんかより紗夜さんの方が優しいですよ」

「私が、ですか?」

 

 例えば、そうして挙げられると恥ずかしくなり、熱さえ感じてきてしまう。

 今日のように手伝ったり勉強を教えてくれたり、その言葉達に違うんですと言うことはできない。違うけど、そう言えなくて。

 

 それらに打算的な目的はない、でも優しさもない。あなただから、それだけだ。

 丸山さんに教えたが悠さんとのそれに役立つかもしれないなんて思ってしまったし、今井さんに声をかけたのだってあなたがいたからで、いなかったらどうしてたかわからない。

 

 これを知られたらどうなってしまうのだろう。あなたは優しいから知られたところでどうもないだろう。でも、もし、それがチラリと見え隠れする。

 あなたはどうなのだろう。こんな風に隠しているものがあるのだろうか、不安を感じているのだろうか。

 暑さのせいか、そんな事を考えてしまっていた。

 

 

 

 今井さんの後を付いてやってきたのはファストフード店、そういえば久しく来ていなかったと思いながらポテトを口にする。

 

「そういえば二人は今日何しにきたの?」

「あー……参考書を買いに」

 

 結局買わなかったですけど、彼がそう答えると視線が私の方に。なんて答えればいいのか、正直に答えるなんてできる筈もなく頭を働かせていると、悠さんが欠伸を噛み殺しているのが見えた。

 

「……もしかして寝不足なんですか?」

「……少しだけ」

「ちゃんと寝ないと駄目だよ、この季節は熱中症とかもあるんだし」

 

 会話の流れをそらせてホッと、なんてことはない。大丈夫ですよという彼はわかっているのか、自分は本当に大丈夫、そんな風に思っているような気がして。

 

「……あまり、心配させないでくださいね」

 

 もしあなたが倒れたら、考えたくもない。心配させないで怒らせないで、そう願うことしかできなくて。

 

「怒った紗夜は怖いよ~」

「今井さん、変なことを言わないでください」

「あはは、まぁもしそうなったら日菜も怒っちゃうと思うから気を付けるんだよ?」

 

 両手の人差し指で頭に角を作るようにして彼女が言うと、彼はわかりましたと答えを変えた。

 

「折角だしさ、二人はお互いに言いたいことってないの?」

「お互いに?」

「さっきみたいな、こうしてほしいとかそういうの」

「僕はないですね」

 

 彼は即答、ならば私もそうするべき、でもそうはできなかった。不満ではない、だけど思うことは少しだけ。

 

「……悠さんには、知ってほしい事が一つだけあります」

 

 彼がこちらを見てくる。そんな心配そうな顔をしなくて大丈夫です、ただ知ってほしいだけですから。

 

「私はあなたのことが、あなたが思っているよりずっと好きです」

 

 私はあなたのことが好き、それだけだ。

 だから心配させないで、私が好きなあなたを自分なんかと言わないで。それとできれば、私に一番優しくしてほしい。

 

 笑ってみせると彼に顔を背けられてしまう。知ってくれれば、わかってくれればいい。本当に、それだけだ。

 

「……僕だって紗夜さんのこと、好きですから」

 

 不意打ちに近いそれは笑みが崩れるには充分すぎた。ズルい、相変わらず全てわかっているかのようで。

 あなたはどれくらい私の事が好きなのか、時折不安になってしまう。それを晴らしてくれるようなその言葉は、夏にも負けないくらいの暖かさで。

 

「熱々だね~」

「い、今井さん! これは……」

「日菜に言ったら面白くなりそうだな~」

 

 ニヤニヤとした表情を向けてくる今井さん、頼み込んでもどうしようかなとしか返ってこない。

 恥ずかしい。その気持ちもきっと、隣の彼も抱いているのだろう。

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