「あ~、彼女欲し~」
「お前は口を開けばそれだな、てか前に付き合ってた人はどうしたんだよ」
僕の前に座る友人からの彼女欲しいという言葉は聞き飽きた。こいつに彼女がいない間は三日に一回は聞いている気さえする。
しかしこいつは口だけではなく行動力があるため今まで彼女がいなかったわけではない、僕とは大違いだ。まぁ彼女が欲しかったと言われたら首を縦に振ることはないが。
「なんか合わなかったから別れた」
「そんないい加減だから長続きしないんだろうが」
「付き合い始めはびびっと来たんだがなぁ、てかお前だってゲームすぐやめるから似たようなもんだろ」
適当すぎる、別にこいつ自身は悪いやつではないのだがこの性格はどうにかした方がいいとは思う。だが僕はそれを直す方法は知らないし直してやろうとも思わない。
しかしまぁ人とゲームを一緒にしてるのはかなり不味いと思うのでそこだけ注意をしておく。
「お前は枯れてるよなぁ、気になる女とかいねぇの?」
いない、いつも通りの答えを言おうとしたが言い留まる。氷川さん、彼女の事が頭をよぎってきた。
気になっている、かもしれない。どこが気になる? 見た目か、性格か、それともギターの音なのか。
始めはギターの音だった。しかしこの前の遊んだ時から少しだけ、ほんの少しだけ彼女を意識をしてしまっているのかもしれない。
「ふ~ん、お前がねぇ……」
「まだ何も言ってないだろ」
「いやいや、お前が黙る時は図星な時だからな」
「反論しても同じこと言ってるだろお前」
どうせ興味を持っているのは僕だけだ、向こうは欠片の興味すら僕なんかに抱いていないだろう。
友人はトイレに行ってくると言って席から離れた。スマホでSNSを巡回しながら待っていると一件のメッセージが届く。送り主は日菜さんで、内容はちょっと後ろ向いて、との事だった。
どういうことかと思い後ろを向くが何もないし飯を食べている他のグループしかいない。なんなのだろうかと数秒考え、悪戯と決めつけて視線を前に戻す。そうすると突然、後ろから声をかけられた。
「やっぱり悠君だ、こんなところで会うなんて偶然だね」
「……そうですね」
ああ、めんどくさいことになるんだろうなぁ、と思いながらそう返した。
日菜さんは僕の正面に座るがそこは友人の座っている席、ということを伝えると、じゃあ仕方ないね、と言って僕の隣に座ってくる。
これは何も言わずにあいつに隣に来てもらう方が正解だったか? なんて考えながらちらりと横を見ると日菜さんのトレーの上には大量のポテトがあった。どれだけ好きなのだろうか。
「そんなにじろじろ見てどうしたの、食べる?」
「いや、大丈夫です」
後ろを向いて、というメッセージはどういうことか気になったので聞いてみると、僕らしい後ろ姿を見かけたが確信がなかったためふっかけてみたとのことらしい。
僕らしい後ろ姿って何だろう、無駄に伸びた髪くらいしか身体的特徴はないと思うのだが、それでも伸びすぎというほどじゃないし。そんなことを思っているとあいつからメッセージが来た。
『隣の人だれ?』
知り合いだ、と返すとあいつは席に戻ってくる。日菜さんははじめましてだねと挨拶をする。するとあいつは元気がないかのようにどうもと返す。
おかしい、いつもなら可愛い女を見ればはしゃぎまくりなのにどうしたのだろうか。
『めちゃくちゃ可愛くね? どうやって知り合ったんだよお前』
『目の前にいるんだから口で話せアホ』
メッセージが送られてきた、目の前にいるのにメッセージで会話をするな。まぁ僕もメッセージで返しているのだから人の事は言えないが。
そう思っているとこいつは好きな人はいるんですか? といきなりぶっこんだ。最初はメッセージで話すくらいにはチキっていた癖に口を開けば話しかける内容はぶっ飛んでる、落差が激しすぎだ。
「好きな人? いるよ」
友人がおもいっきしがっくりしたのが見てわかる。しかしそのあと日菜さんが、おねーちゃん好きなんだと言うとそれがふっ飛んだのもわかる。相変わらずリアクションが大きくてわかりやすいやつだ。
こいつはどうなんですか、と僕を指差す。日菜さんが面白い人、と答えると友人が可哀想な人を見る目でこちらを見てくる。その目をやめろ、うざったるい。
「俺そろそろ帰んなきゃなんだけど、お二人さんどうする?」
「あたしは来たばっかだからまだ帰らないよ」
「あー、なら残ろうかな、帰ってもすることないし」
「あっそ、じゃあ片付け頼んでいいか?」
「いいわけないだろ」
ケチだなぁ、と言いながらあいつは片付けて帰っていった。
残ったはいいもののする事はない。しかし日菜さんは来たばっかりなので、いきなり帰って一人にしてしまうのはどうなのだろうと思い残ってしまった。
とりあえず友人は帰ったので僕がその席に移動する。
「別に移動しなくてもいいのに」
「隣が狭いよりはこっちの方がよくないですか?」
そう会話しながらも日菜さんはポテトを食べ続ける。それにしてもあの大量のポテトは何処に行くのだろうか、もしかして別の人にワープさせてたりしているんじゃなかろうか。
そんなことを考えながら既に飲みきった珈琲カップを口にする。底の底にたまった小さな余りがそこそこ苦い。
「あ、そういえばちょっとお願い、というより提案があるんだけど……」
「また楽器見るんですか? 今週末なら空いてますけど……」
ううん、と首を振られる。では何だろうか、僕と一緒にする事なんて他にあるのだろうか。そもそも楽器を見るのだって僕がいなくたって出来ることなのだが。
「実は星を見ようと思って人を探してたんだ」
ごそごそと鞄をあさる日菜さん。暫くすると一枚のパンフレットが出てくる。それには天体観測ツアーとでかでかと書いてあり、それ以外にペア限定とも書いてあった。
「氷川さんと二人で行っちゃ駄目なんですか? 仲良くなるチャンスになるかもしれないですし」
「昨日誘ったんだけど、練習するからって断られちゃってさ。それで誰か誘おうと思ってたら今日たまたま悠君を見つけちゃって」
天体観測となれば恐らく泊まりになるだろう。日帰りなら行くことはできるだろうが、テストも近いため親がそう簡単に許可を出すとは思えない。
パンフレットを借りて見てみると泊まりではなく日帰りで日時は3月末だった。これならテストは余裕で終わっているし、日帰りなら親も許可を出してくれる可能性はそこそこあるだろう。
しかしまだ2ヶ月先の事なのによくこんなことを企画できるな、と思って見回していたらあることに気づく。
「これ去年のやつじゃないですか?」
「んー? ほんとだこれ去年のじゃん、まぁ毎年やってるし今年もやるんじゃないかな」
天体観測なんて小学生ぶりではないだろうか、星の名前も形も殆ど覚えてない。
今の季節何が見えるかとかも高校でやった筈なのに記憶からはとっくに弾かれているし、つまらなくならないように軽く予習くらいはしておくべきだろうか。
予定を立てるのは好きだ、例えそれがどんなことだろうといつもとは違う事を考えるだけで少しだけ楽しい。勉強だって建ててる間だけはある程度できる気にすらなるし。
「今年もやるなら行きたいかなって思います」
「ほんと! やったぁ」
もう一滴も残ってないカップを口にする。ここまで来ると飲んでる気分にしかなっていない。話すことがなくなってしまったので何か話題を出さなければ、と思い切り出す。
「そういえば氷川さんとは仲良くなれましたか?」
ピタリ、と日菜さんは動きを止める。これは出来て無いんだろうなとなんとなく察した。それでもツアーに誘ったんだからある程度は進歩しているのかもしれない。
「あはは、おねーちゃんと話そうとすると緊張しちゃって」
って言ってもわからないかと日菜さんは言う。姉に対しては神経質、恐らくそうなのだろう。好きな人だから、大切な人だからこそ慎重になってしまう。
「わかりますよ」
「悠君もおねーちゃんと話す時緊張するの?」
「氷川さんとは違わなくはないですけど、喧嘩した人と話す時はそんなものですよ、僕も」
喧嘩してしまったと思って自分から謝ろうとしようとしてもなかなかできないものだ、相手からの待ちになってしまう。
恥ずかしい、自分はほんとは悪くない、理由は色々あるが変に緊張してしまうものだ。
「悠君でも喧嘩するんだ」
「僕は聖人でも仙人でもないですから喧嘩くらいします、それこそ今思えばくだらないと思うようなことでも」
そう言うと日菜さんから、悠君は優しいっていうか争い嫌いっていうオーラが滲みでてるよと言われた。争い事は嫌いだがめんどくさい事が嫌い、と思ってるからなのだが。
「そういう時ってどうしてるの?」
「自分から謝るのが一番だと思いますよ、相手から来るのを待つのもいいですけど。時間が経てば勝手に直ってるなんてこともありますが」
ツアーに誘ったみたいに氷川さんに話しかけてればどんどんよくなると思いますよ、とも言う。
「そっかぁ、参考になったよ。ありがとね」
僕は日菜さんのポテトをこっそり貰う。少し喋り疲れた、飲み物がないから多少は抵抗があったが、やはり食べてみれば気にならない。自分で食べないと先に言ってしまったが、感謝をされたのだからまぁいいだろう。
「あ、食べないって言ってたじゃん」
日菜さんはそう言うと急いでポテトを食べきる。ポテト専門の早食い選手権の選手になれるんじゃないかと思う程早く。
日菜さんがポテトを食べきると僕はカップを捨てる。外はだいぶ暗くなってしまっている。少しだけかと思っていたがだいぶ話し込んでしまった。
「ねぇねぇ、一緒に帰ろうよ」
「一緒にって、僕自転車ですし僕は日菜さんの家知らないですよ」
「場所教えるから送っていってよ、食べ疲れちゃった」
「事故っても責任は取れないですよ」
食べ疲れるって単語始めて聞いた。エネルギー補給の為の食事で疲れるなんて本末転倒ではないだろうか。
自転車2人乗りなんて初めてかもしれない。やっていいのかどうか少し迷ったがまぁ事故らなければ問題がないの精神で乗りきった。
ただ安全運転をしたせいか二人分の重さだからか知らないが、何時もよりも進むのがずっと遅かった。
運転中嫌にドキドキしたのは落ちないように僕の服を掴む日菜さんの息がたまにうなじかかってきていたせいなのか、それとも警察に捕まらないか不安だったのか。一体どちらだろう。
それと日菜さんの家は、我が家からそれなりに近かった。
自転車二人乗り、横向きで乗るのイラストでよく見ますけどあれめちゃくちゃ危ないですよね。