『死ぬ時はスタンディングモードで、お願いします』   作:青川トーン

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第1話

『おはようございます、シャルロット』

「……おはようヴィクター……私は何時間寝ていた?」

『6時間48分程、体調は安定しています』

「……休んだ分の距離を稼がないといけない、私達には時間が無い」

『了解、Victor Sword-723は作戦行動を再開。パイロット認証』

 

 何度やってもこの「りんく」というものは不思議な感覚としか言えない、機械仕掛けの、鋼の巨体が私の手足の延長としてある。

 そしてまるで、元から在ったかのように動かせる。

 

『パイロット、シャルロット・アリエル・アルハイズェンとのリンクを認証。任務は敵性勢力「魔王軍」の排除』

 

 そしてこの鋼の体にはもう一つの意志がある。

 

 ヴィクター・ソウド・セブントゥースリー、こちらの言葉に訳すと「723番目の勝者の剣」の名を持つ(といっても彼曰く「ヴィクター・ソウド」が彼の家名?で「セブントゥースリー」が彼自身を表す番号らしい)鋼の巨人、彼曰く「タイタン」と呼ばれる者。

 

 彼はこの世界とは別の場所で「人」の手によって作られた機械仕掛けの存在、こちらでいうゴーレムの様なモノらしいけれど、圧倒的に確立された「自我」は神が作り賜れた我々「人間」にも劣らない。

 

 出会って早2週間が経つが、未だ謎が多く、それなりに魔術の才には恵まれた私にも理解できない奇跡の様な現象を起こし、信じられないほど頑丈で……私よりは間違いなく賢い。

 

 そして驚く程に強い。

 

 だから、私にとって彼は最後に信じられる希望なのかもしれない。

 

 

---------

 

 人間と魔族は対立こそあれど、住み分けの出来ていた関係であったという。

 しかし互いの文明の進歩、種としての繁栄、宗教的な対立はやがて、どちらが世界の覇を得るかの関係となり、大きな戦いが始まった。

 

 私が生まれた頃にはそれはもう当然のモノとなっていて、帰ってこない人を見送るのも当たり前になっていた。

 

 そして私が学園の中等部に上がった頃には、各地の前線は大きく後退し、戦況はとても追い込まれていた。

 これまでも幾度となくこういった苦境に立たされる事はあったけれど、その度に「勇者」と呼ばれる「神の加護」を持つ者によってそれは覆されてきた。

 

 そして今回も、新しい勇者と共に少数精鋭の遊撃部隊となる者が選ばれた。

 神官、剣士、弓兵、そして魔術師である私。

 

 魔法の才のおかげで学園の成績こそよかったが、まさか勇者の仲間の一人として選ばれるとは思ってもいなかった私は困惑した。

 あくまで私は成績がいいだけであって、そこまで鍛えてなどいなかったから、実戦で本当に役に立てるのかと不安だった。

 

 けれど実際に戦場に立てばそんな不安も瞬く間に消えた、不安を感じている余裕も無い程の過酷な戦い、日々悪化する戦況、そして何よりも誰一人として「大人」が居ない事。

 

 勇者も他の仲間も皆子供だった、いくら冷静でいて、強くあるとはいえ、私は安心感を得る事はできなかった。

 

 けれど、私は彼らにその不安を言い出す事を躊躇った。

 一度不安を言い出せば、それは不和になるかもしれない。

 もしかすればこの過酷な戦場に私一人置き去りにされるかもしれない。

 

 けれどこれまでの勇者達は人を救ってきた、だから私達も大丈夫だと「信じて」戦っていた。

 

 今思えば、それはあくまで自分の思い込みでしかなった。

 

 

 結果から言うと、彼らは「ダメだった」。

 無茶苦茶な、作戦とも言えない作戦で正面から敵とぶつかる事を選んだ。

 あの場所で誰か一人でも「無茶」だと言い出せば結果は変わったかもしれない、一度引く事を知れば助かったかもしれない。

 

 最初は優勢だった私達だったが、長い時間戦い続ければ当然疲労も無視できなくなる。

 勇者だけは加護を受けている為に私達よりも長く戦えたが、結果は変わらなかった。

 

 無鉄砲な消耗戦にて私達は負けた。

 誰よりも先に力尽きて、瓦礫の下に埋もれていた私が見たのは処刑される仲間達の姿だった。

 

 魔力さえ枯渇していたが為に見つからなかったのだろう、魔王軍が去ってから瓦礫から這い出して、私は森へと入った。

 

 森にさえ入れば、魔王軍から多少なりとも生き残り、国へ帰る事も叶うかもしれないと思った。

 けれど、森に埋もれた廃墟を見て私は気付いた。

 

 もう勇者はいない。

 

 私の生まれ育った領は、前線からあまり遠くない。

 家には母と、妹とまだ生まれたばかりの弟が居て。

 

 それに学園にも私と良くしてくれた人達もいて。

 

 

 ようやく、私は自分がするべき事に。

 自分が成すべき事に気がついた。

 

 

 勇者はいない、だが皆を守る事は出来る筈だ。

 少しでも、敵陣を乱して敵の侵攻を遅らせれる筈だ、と。

 

 

 廃墟を漁って使えるものを探し、魔王軍の死体漁りまでして道具を揃え、食べれるものはオークやゴブリンの死肉だって食べた、夜闇に紛れて魔王軍の中継地点になっていた獣人達の村を皆殺しにして焼いた。

 

 魔族の領地、敵陣の真っ只中、昼は息を潜め、目に入る限りの敵には奇襲をしかけ、奪い、殺しながら魔王の居城を目指す。

 

 指揮系統さえ潰せば、相手の支配体制さえ崩せば、前線を崩壊させる事だって容易い筈だ。

 

 私がすべきは魔王をその臣下である四天王を討ち取る事。

 

 かつて幾度も勇者が現れた様に魔王も幾度となく現れるだろうが、少なくとも今ある戦いは止まり、人類側の優位は取り戻せる筈だ。

 

 

 敗残から2週間近く、まるで賊の様な事を繰り返しながら私は魔王軍の動向を探る中、私は彼に出会った。

 

 鋼の巨大な箱の中で眠っていたタイタン、ヴィクター・ソウド・セブントゥースリーに。

 

 

 最初は魔王軍の新兵器かと思ったが、彼の入った鋼の箱を調査する魔王軍の様子にそれを奪えば戦いを有利に進められる鍵になるかと思い、即座に襲撃を仕掛け、そこにいた獣人の兵士達を皆殺しにして奪った。

 

 ある意味ではこれは正解だった。

 

 

 目を覚ました彼が、もし私ではなく最初に魔王軍の者を彼が呼ぶ「ぱいろっと」に選んでいたなら、と思うとぞっとする。

 

 彼曰く「ひとげのむ」とやらが一致しない為魔族ではなく人間しか「ぱいろっと」に選べないとは言っていたが、魔族にも人間の血が流れる者もいる為、詳しくはわからない。

 

 

 訳の分からないまま鋼の箱の様な彼の体の中にある「こっくぴっと」という座席に座らせられ、「りんく」と呼ばれる「契約」の様なモノを結び、そのままの勢いで調査していた魔族の生き残り達を潰して、追っ手を返り討ちにしながら今に至る。

 

 

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『それは、何を記録しているのですか』

「日記、あるいは遺書」

『遺書をしたためるにはやや早いと思われます、現在の貴女は肉体的にも、精神的にも健康です』

「戦場には絶対はない、嫌という程思い知った」

『それは同感です』

「でも出来る事はしておきたい、今は何処か直すべき所はある?」

 

 彼の体や武器の消耗に対して、私は術式で保全・補修が必要か確認する(相変わらず「ろけっと」と呼ばれる武装に関しては私の知識、というよりこの世界の技術が追いつかないが為に補給が見込めないので使えないが)。

 

『いいえ、貴女の適切な整備により状態は良好を維持しています。貴女は良い整備士あるいは開発者になれるでしょう』

 

 ヴィクターは、彼の世界ではあくまで無数に居る兵士の鎧の一つに過ぎなかったという。

 

 そこでは星と星を巡る戦いが繰り広げられていて、彼ら「タイタン」は自由の為に・支配の為に戦って死んでいく兵士と共にあり。

 そんな兵士達の命令に従い、壊れれば部品を換えて、形ある限り戦い続ける、命を持たない鎧、使い捨ての消耗品に過ぎなかったと彼は言う。

 

 

 

 だけど、私にとってはそうではない。

 

 私にとって彼は特別な存在。

 

 もし彼がいなければ、私はこうして今生きていなかっただろう。

 ましてや四天王の一人さえも討つ事さえ出来なかっただろう。

 

「……なら何か要望とかはない?」

 

『では一つだけ、死ぬ時はスタンディングモードで、お願いします』

 

「スタンディングモード?」

 

『つまりは立ったまま、決して膝を着かず、最後まで諦めない事を意味する、と登録されています』




VS-723

ヴィクター・ソード-723(ヴィクター・ソウド・セブントゥースリー)
大型ブレードと他連装ロケットコンテナ2つにプラズマレーザー砲を2門、そしてグラビティシールドを搭載した中距離~格闘型

追加で廃材で作った盾も持っている。

スタンディングモードとはいうが別にタンクモードがあるわけではない。

だいたいTF2のローニンが中量級になった感じ。


シャルロット・アリエル・アルハイズェン
青髪ショート眼鏡で物静かな典型的優等生魔法使いキャラ。
貴族だけどパーティ全滅後はゲリラ戦に慣れてかなりワイルドになった。
壁を走れる。
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