『死ぬ時はスタンディングモードで、お願いします』   作:青川トーン

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もしかして:蛮族


第2話

「おい!見張りの交代の時か……」

 

 風の魔法で光を屈折させて姿を消しつつ、相手の口を凍結させて黙らせて、刃で喉を掻き切る。

 

『お見事です』

 

 気がつけば暗殺の技術ばかり上達しているのは魔術師としてどうかと言われそうだけど、役には立つ。

 

 私達は今、小さな砦を落とす為にアサシン紛いの事をしている。

 

 

 というのも私達には物資が圧倒的に足りない、主に私の食事や治療の為のポーション、魔法道具なんかも圧倒的に足りない。

 だから極力手に入れられるモノは無傷で手に入れたい。

 

 

『生体反応消失、後は一箇所に集まっていると思われます』

 

 ヴィクターは「そなー」という道具を使う事で建物の構造や生き物の反応が見える、それを「いんかむ」と呼ばれる道具を介して私に教えてくれる。

 

 

 見張り台から跳んで魔法で減速しながらその建物の屋根に飛び移り、通気窓から中を覗く。

 

 どうやら兵士達は食事中の様、私だって温かい食事が恋しい気分だけれど、とりあえずまずやるべきは余分なモノの処分。

 

 

 風の魔法はこういう事に驚くほどに向いている、こんな密閉空間なら特に。

 空気中の成分を少し「偏らせる」と次々と中に居た兵士達が種族問わず倒れていく。

 

 本当なら「空調」が出来る魔法道具を置いてこういった事を対策すべきなのだけれど、前線から遠い小さい砦とあってその辺は杜撰だったようだ。

 痙攣していた魔族達が動かなくなったのを確認して、念を入れて首を刎ねてから、魔法を解除する。

 

 

 随分体力を使ったけれど、無事に物資を全部頂く事が出来る。

 

『パイロット・シャルロットの戦闘効率評価を上方修正』

 

 桟橋を降ろして砦に入ってきたヴィクターに資材置き場の扉を開けてもらう間、私は死体を物色。

 腕の力を上げる為の魔法道具なんかを剥ぎ取り、物色済みの死体は部屋の片隅に積み上げる。

 

 

 とはいえ余りに汚れが酷くなってきた、少し水浴びをする事にする。

 

 

「ヴィクター、見張りをお願い」

 

『了解』

 

 井戸から引き上げた水にボロボロの戦装束を沈めて、汚れ落としのポーションである程度清潔にしてから広げる。

 

 戦装束はいわば全体が魔法道具の集合体、機能性の塊、とはいえこれまでの過酷な道のりで破損して、使えなくなっている部分も多い。

 だからナイフでつかえない部分を切り落とし、先程物色した魔法道具を代わりとして貼り付けてパッチワークする。

 

 魔法道具についても習っておいて助かった、矢避けのマントと耐火布を重ねて縫い合わせ、後は全身を強化する事に特化させる。

 

 追っ手の魔族の剣士から奪ったブーツの装飾を切り貼りして壁を走れる様にしたブーツも強化して、空気を蹴れる様に改造する。

 

 

『鹵獲とは古代から有用な戦術です、相手に損害を与えつつ自軍の戦力を強化する、純粋であるが故にとても有効です』

 

 

 

 魔族はあまりこういう事はしないらしい、人間の街に侵攻した時も奴隷こそ捕らえたけど、魔法道具なんかは持っていかなかったと聞く。

 それは自分達の技術に絶対の自信がある為、それとも種族としての特性の多様性からか使えない為とも言われている。

 

 鏡に映る自分の姿を見る。

 

 

「蛮族……」

 

 

 街に入ろうとしたら間違いなく衛兵に蛮族と間違えられて足止めされそうな格好だった。

 

 

 ――魔王を討ち取ったのは蛮族の女だった

 もしも仮に、私がこの格好で魔王を討ち取ったなら魔族達、ひいては人々にはそういう風に伝わるのか、そう思うと笑ってしまった。

 

 

『シャルロット、上空から接近する影があります』

「追っ手?」

『97%の確率で』

「積めるだけは積んだ、森に逃げる」

 

 最後の嫌がらせに井戸に毒を投げ込み、私達は砦を後にする。

 

 

 

 手に入れた地図を見る、魔王軍の本拠地である魔王城は人間側から見て西にあり、正面には広い平原があり、後方には山脈が広がる。

 当然ながら平原に出れば私達に逃げ場はない、故に正面突破は愚行、故に取るべき手段は迂回しての山越え。

 

 しかし随分まあ開発が進んでいるようで遮蔽物のある森や林が少なく、随分と遠回りしなければならない。

 

 それにこの地図が最新のモノとは限らない、実際はもっと森が少ない可能性もある。

 

 となると魔族の都市を中央突破して建物を壁にしながら進むのも考えなければいけない。

 そうなれば戦いに係わらない者達も巻き込まれる事もあるかもしれない。

 

 別に私は魔族を積極的に皆殺しにしたい訳ではない、しかし人間の国同士の戦争の様な「協定」や「条約」が無い以上、禁止されている訳でもないし、魔族だってかつては前線近くの街を跡形も無く破壊した事がある。

 

 既に大勢殺したのに今更、とも思うけれど。

 

「ヴィクター、街を横断して住人を盾にしながら進む案はどう思う?」

『私の分析では、貴女は後悔すると思います』

「そう、ならやめておく」

 

 

 私の敵は魔王軍であって魔族じゃない、私も随分冷徹になってしまったけれどそれを忘れない様にしよう。

 

 とはいえ、地図を見ると少し不穏なものが見える。

 

 今、進行していると思われるルートには城が描かれていてそこには「ドラゴン」と思わしきものが描かれている。

 

「少し嫌になる」

『どうかしましたか』

「進行ルートにドラゴンの絵が描いていた、竜騎士団か、ドラゴンのどっちかを相手にする必要があるかもしれない」

 

 ドラゴンはいわずもがなこの世界で最も強力で危険な生物だし、一つ格落ちするがワイバーンを操って空から一方的に攻撃できる戦力である竜騎士も油断できない相手。

 

『逆に考えれば、そこを潰せば戦略的には優位に立てるようになると推測します』

「そうは言うけれど、空を飛べる相手をどうやって相手取るの」

『大丈夫です、私に案があります。信じてください』

 

 そうは言うけれど、果たしてどうなる事か。

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