智慧の血を追い求め   作:輸血液

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プロローグ

「青ざめた血、ですか?」

 

 自らもよそ者であることを明かしたギルバートは、獣狩りを行う一人であろう彼の言葉を口にして黙考した。

 

「……すみませんが、聞いたことはありません」

 

 ギルバートの謝罪を気にした様子もなく、彼はただ黙って窓際に立っている。

 不気味な男だ。

 ここヤーナムでは見かけない服を着た、長身痩躯の若い男。

 獣狩りの夜に外を出歩くなど正気ではない。しかし彼が狩人であるというのなら、殊更に騒ぎ立てるものではなかった。よそ者であろうとも、獣を狩ることができるのであれば、否やはない。

 

 人目を避けるように黒いフードを目深に被り、時折腕に巻かれた血濡れの包帯を摩っている。

 彼も自分と同じく、血の医療を受けたのかもしれない。

 そう考えると、仲間意識ではないものの、無下にしてしまえばそこいらをうろつく犬畜生にも劣ってしまう気がして、ギルバートは青ざめた血について更に思考を巡らせた。

 

「それが特別な血であるなら、あるいは医療教会が、何か握っているのでしょう」

 

 完全なる憶測でしかない。

 しかしまったくの的外れとも思えなかった。

 医療教会と言えば、血の医療と、その特別な血の知識を独占する、謎の多い機関だ。よそ者である彼やギルバートにとっては言うまでもない。

 それを施されたにも関わらず、血の医療が一体なんなのか、ギルバートにはわからなかった。きっとこの男も理解していないだろう。

 そもそも正しき医療行為と言えるのか。

 

「ごほっ、ごほっ、ごほっ」

 

 いつまでも治ることのない忌まわしい咳。立つこともままならないほど衰弱してしまった身体は、見るだけで更に寿命が縮む思いがする。

 ヤーナムの住人は酷く陰気で、よそ者に冷たい。それは街そのものにも言えることだ。呪われた古都。すがる思いでこんな辺境まで来たギルバートだったが、今では大きな間違いを犯してしまったと後悔することも少なくなかった。

 

 妙な噂を耳にして不安になり、医療教会から買い入れた銃器も、この身体では無用のものとなってしまった。

 それでも枕元に置いておくほどに、今のギルバートにとって、心の拠り所となっている。

 

「ここから谷を挟んだ東側。聖堂街と呼ばれる医療教会の街があるのですが、その奥にある大聖堂には、医療教会の血の源がある……」

 

 という噂だ。

 ヤーナムの街は、よそ者に何も明かさない。

 それでも今宵。獣狩りの夜だからこそ、常では決してあり得ないことも起こりうる夜だからこそ。

 

「好機なのかもしれませんよ……」

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