「な、無い……!」
数多の数字が羅列してあるその前で、僕は頭を抱えて膝をついた。
左手に握りしめた受験票に記載されている数字を、もう一度確認する。
そして神に祈る天使みたいなポーズで、数字の羅列を目でなぞって……また、項垂れた。
そう、僕はこの瞬間、第一志望校の不合格が確定した。
そして、適当に受験した滑り止めの私立高校へと進学することが決定してしまったのである。
とぼとぼと、ゾンビみたいに生気のない顔、生気のない足取りで家路を辿る。
玄関を開けると、出迎えた母が暖かいココアを淹れてくれた。
すっと一口啜ると、身体が芯から暖まる。
それと同時に、自分の体が今までどれほど冷たかったのかを意識する結果となった。
「じゃあ、あれね」
母は僕の結果を聴くと、遠くを見るように言った。
寂しそうに、それでも少し嬉しそうに続ける。
「てつは、お姉ちゃんと一緒に住むのね」
それは、これまで第一志望校への進学しか頭になかった僕にとって、初めて耳にする情報だった。
「ってなわけでお姉ちゃん、これからお世話になります」
「お断りします」
「なんで!」
卒業式のあと、荷物をまとめてお姉ちゃんのところにやってきたんだけど……なんかいきなり拒否されました。
「だってさぁ、考えてもみてよ。ここは昨日までわたしのお城だったのに。てつが越してきたら窮屈になっちゃうじゃん」
「そういわれても……」
そう言われたってどうしたらいいか分からない。
四月から通うことになった学校まで、家からは電車で三時間。
お姉ちゃんの家からは電車で二十分なのだ。
ここに住まわせてもらえなければ、僕は路頭に迷ってしまう。
考えてたら、だんだん涙目になってきちゃった……。
「あ! 泣かないで! 冗談、冗談だから!」
「…………いじわる」
こんなふうに、お姉ちゃんはいつも僕をいじってくる。
その都度、僕はお姉ちゃんに弄ばれているのだ。
「でもさ、てつ。この状況って、なかなか普通じゃないよ」
「んー、僕もそう思う」
「考えてもみてよ。女子大生と男子高校生が二人で暮らしてるって、普通じゃないよ?」
……確かに、なんか危険な香りがする!
ひとり暮らしのお姉ちゃんのところに居候する弟シチュエーションって……エロ同人でしかみたことない!
「……ねぇ、なんでそこで顔真っ赤にするのバカ」
「いてっ」
想像してたら、お姉ちゃんに小突かれてしまった。
「とりあえず荷物はそこに置いてね。置いたら、この家でのルールを取り決めるよ」
「そうだね、二人暮らしにルールは大切だもんね!」
荷物を置いて、部屋の中央のちゃぶ台を挟んで向かい合う。
改めて見てみると、絨毯はピンク色の毛が気持ちいい柔らかい素材で、木材そのままの色のベッドの上では、雪だるまのイラストが描かれたもこもこの布団とぬいぐるみ達が並んでこっちを見ている。
……どうも、女の子の部屋を意識してしまって落ち着かない。
「じゃあ、ルール決めよ」
それから、掃除の担当やご飯のことなど、これから生活していく上でのルールを二人で話し合った。
ここまでは順調だった。
「ねー、てつ? お姉ちゃんさ、もういっこだけルールをつくりたいんだけど、いいかな?」
「んー、なに?」
「てつは、お姉ちゃんのペットになるの!」
ぶふぉっ。
「今なんて!?」
「だーかーら。てつは、お姉ちゃんのペットになるの!」
「ど、どういうことなのそれは!」
何言い出したのこの姉!
僕がお姉ちゃんのペット?
ってことは、色んな命令を聞いたり、色々と躾られちゃうってこと……?
「ねー、てつ〜」
「ぐ、ぐぬぬ……」
そんなことって……、そんなことって、あんまりだよ。
だって、これから一緒に暮らしていくんだよ?
なのに、明確な上下関係とか、服従とか、そういうのってないよ。
さすがにこのときは、僕だって怒った。
怒って口から出た言葉は……。
「…………ん」
「ん? なぁに、てつ?」
「……………………わんっ」
「よく出来ました♡」
よりにもよって、ペットの鳴き声だった!
続く