たをやめ   作:ユージ・ラム

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友奈ちゃんのお話です。


アイ・アム・ア・ヒーロー

「はいっ!」

 

「どうぞ、結城さん」

 

「わたしは、その人にゆずろうと思います!」

 

「自分が死んじゃうかもしれないぞ?」

 

「だったら、岸まで泳いでくればいいんだよ!」

 

「岸まで遠かったらどうするんだよ?」

 

「大丈夫! 岸まで泳げばいいんだもん! 助けてって言ってきた人だって、一緒に運んでいっちゃうよ!」

 

 

 物心ついたときから、少年漫画の主人公や特撮のヒーローに憧れた。

 

 「人のためになることを勇んで行う」、その生き方に憧れた。彼らはみんなかっこよくて、名前も知らない誰かのために、自分の命を投げ出していた。

 

 でも、自分の命を投げ出して、誰かのためになることをする、なんてそんなによくある話じゃなかった。だから、せめて自分の手の届く範囲で、困っている人がいたら手を差し伸べよう、「勇者」になれなくても、「勇者」に近づくことはできる。

 

 ときには失敗することもあった。ときには笑われることもあった。それでもくじけないことが大事だ。あのキャラクターだって敵に負けることはあった。仲間が倒れて、剣が折れてしまうことだってあった。それでも諦めなかったから世界は平和になったんだ。私だって負けてられない。その一心で日々を過ごしていた。

 

 「友奈ちゃんは讃州市の勇者だね」

 

 ある日、誰かから言われたその言葉が始まりだったと思う。その時から、「勇者」という言葉に憧れた。

 

 「勇者」! その素晴らしい響き! あのあこがれのヒーローたちと肩を並べられるかもしれない! こうして生きていれば、いつかはあのヒーローたちと一緒になれるかもしれない! もっと「勇者」にならなければいけない。「勇者」として生きていかなければならない。

 

 

 小学校の6年生のときだった。「勇者様、お役目で亡くなる」。新聞の見出しに目が引かれた。「勇者」という言葉が見えたからだ。内容は、バーテックスと戦って神樹様の勇者様が死んだというものだ。

 

 その時は「死ぬ」という言葉がどんなものか、漠然としていてわからなかった。遠い大橋市の出来事がこうして讃州市まで伝わってくるのだから、きっとすごく大きなことなんだろうなということはわかるけど、死ぬとはどういうことか、さっぱりわからなかった。お母さんとお父さんはこれを見て、すごく悲しそうな目をしていたから、きっと悲しいことなんだろうなと言うことだけはわかった。

 

 だから、私が「勇者」になってもお母さんとお父さんを悲しませてはいけない、死んではいけない。それは「勇者」にふさわしくない行いだから。他の人を悲しませることは「勇者」ではない。

 

 

 道徳の授業で、問題が出された。

 

「みなさんが乗っている船が沈んでしまいました。みなさんは運良く板に捕まって助かることができました。しかし、そこに助けを求める人が来てしまいます。板はせいぜい一人しか掴まることができません。二人掴まったら沈んでしまいます。みなさんなら、どうしますか?」

 

 そんなの決まっているじゃないか。

 

「はいっ!」

 

勢いよく手を挙げる。

 

「どうぞ、結城さん」

 

 先生が回答を促す。

 

「わたしは、その人にゆずろうと思います!」

 

 当たり前だ。それが「勇者」だ。

 

「自分が死んじゃうかもしれないんだぞ?」

 

 男子が口を挟む。

 

「だったら、岸まで泳いでくればいいんだよ!」

 

「岸まで遠かったらどうするんだよ?」

 

 そんなの関係ない。

 

「大丈夫! 岸まで泳げばいいんだもん! 助けてって言ってきた人だって、一緒に運んでいっちゃうよ!」

 

 それが「勇者」の行動だ。

 

 

 「将来の夢を発表しましょう」。小学校を卒業する際の最後の課題。将来何になりたいか、なんてそんなのは決まりきっている。みんなを笑顔にすること、みんなを幸せにすること。みんなのためになること。それが私の幸せだから。

 

「私の将来の夢は、「勇者」になることです!」

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