異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。   作:ヒラメもち

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俺にできないこと、そして俺ができること

悩んでいたら、彼らはどんどん下に進んでいたのだった。

 

「あいつらもっと慎重になってくれ。はぁ……」

 

ため息をついて、俺も地下への階段を降りていく。

その先には、石で精巧に作られた通路が果てしなく続いていた。

 

「『炎よ来たれ』」

 

右手に炎を纏って、光源とする。

前を進むシルエスカ妹も光魔法『ライト』を使っている。

 

「な、なんか…気味悪いわね…幽霊でも出そう…」

「なっ…なにを言ってるんでござるかエルゼ殿!ゆっ、幽霊など出るわけないでござるよ、ね。」

 

2人とも望月のコートの裾を握って歩いている。

 

シルエスカ姉も九重も、苦手なら外で待っていてほしい。

遊園地のお化け屋敷ではないのだ。

 

言ったとして、これ以上冷静さを失くされても困るので、心の中で留めておく。

 

対して、シルエスカ妹は先頭に立って、意気揚々と進んでいる。

 

 

 

「なんだこれ…?」

 

大きな広間に出たと思えば 壁にびっしりと文字が描かれている。

望月のように、それは誰もが感じたことだ。

 

 

「誰も読めないのか。」

 

壁に書かれたのは古代の文字だ。

 

しかし『サーチ』で特に望月が反応したにしては、

オーラとかヤバさとか、この部屋にはそれらしいものはない。

 

 

カシャッっていう音。

今となっては懐かしいスマホのフラッシュが、急に焚かれる。

 

「おいおい……。」

 

「う!? なんでござる!?」

 

女性陣がビビった。

せめて、一言言ってからやってほしい。

 

「気にするな、そういうものだ。」

「そ、そうなのね。」

 

この世界の人からすれば異質な行動である。

彼女たちが納得してくれるのは、望月の謎行動に対する『慣れ』だろう。

 

 

「これ、魔石ですね。土属性です。おそらく魔力を流すとなにかの仕掛けが起動するのでしょう。」

 

「なにかって、罠だろうか?」

 

シルエスカ妹が壁に埋め込まれた魔石に気づく。

望月も近づいて確かめ始めた。

 

 

「……とりあえず、逃げる準備だけはしておこう。望月、後は任せた。」

 

「そうね。」

「わかったでござる。」

「…では、お願いします。」

 

「僕がやるの!?」

 

「だって土属性持ってるの、トウヤだけでしょう。」

「ていうか、仮に罠でも、お前ならなんとかなるだろう。」

 

望月と違って、彼女たちは逸脱していないのだ。

 

 

「まあ、仕方ないか…」

 

望月が魔力を流せば、壁は砂となって崩れ去る。

その向こうの部屋の中央には、2mほどの像が安置されていた。

 

 

「これは…なんだ。コオロギか?」

「ずいぶん機械的だけどな。」

 

折れているとはいえ6本の脚を持っていたのだろう。

縦長だし、仮にそう名付けよう。

 

「「「……?」」」

 

またも、女性陣は聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 

「俺たちの国にいる、そういう虫だ。」

「こんなのがいるのね。」

「もっと小さいけどな。」

 

こんな2mほどの機械的なコオロギがいたら、俺も困る。

 

 

「あれ? 光が弱くなっているような……」

「……いや、確実に弱くなってる。」

 

シルエスカ妹の『ライト』のように、

確かに俺の炎の出力も弱くなってきている。

 

 

「冬夜殿!」

 

九重が指差した方向を見る。

コオロギの中にある赤い球体が光っていた。

 

 

「トウヤさん! 魔力がアレに吸収されています!」

 

「望月、脱出するぞ!」

 

「わかってる!『ゲート』!」

「え、なにその魔法!?」

 

全力で走って脱出しようとしていたのは俺だけだったようだ。

 

 

女性陣同様、俺も光の門に入れば地上に出る。

 

ワープ系の個人魔法なのだろう。

緊急事態だったし、ありがたい。

 

 

 

「っ! 『強化』!」

 

勢いよく地上に出てきたコオロギ、

その伸びてきた脚の1本を咄嗟に剣で打ち返す。

 

「重いし、堅いな。」

 

物理攻撃はそう簡単に通用しないだろう。

同じく打撃を加えた、九重やシルエスカ姉も途方に暮れている。

 

それなら魔法ならどうかとも思ったが、シルエスカ妹の火の魔法は吸収された。

 

 

前衛として時間稼ぎを行っているが、いつまで持つかはわからない。

こんなことなら盾も練習しておくんだった。

 

 

「『スリップ』!」

 

コオロギが横転する。

またもや望月の個人魔法だろう。

 

 

「『氷よ来たれ、大いなる氷塊、アイスロック』!」

 

引き起こされた事象、氷塊による衝撃は吸収されてはいないが隙はできた。

 

 

「『ブースト』……全ッ開ッ!」

 

身体能力を全体的に底上げするものなのだろう。

シルエスカ姉の、全力の蹴りによって脚を1本破壊できた。

 

 

「やっ、た......っ!?」

「……いっつ」

彼女ではなく、俺の右肩へ脚が突き刺さっている。

 

赤く発光した途端、脚が再生し伸びてきたのだ。

咄嗟にエルゼの前に飛び込んだ。

 

 

「ちょっと、あんた大丈夫!?」

 

魔力を右手に籠めて、握力で脚を割っておく。

しかし、またしても脚は再生しているな。

 

 

「そのうち治る。」

 

残った棘も無理やり引き抜けば、血が滴る。

無茶苦茶をするのは、彼らだけじゃないのだ。

 

 

 

「望月! 時間稼ぎをするから、何か対策を考えろ!」

 

それだけ告げて、俺は一度深呼吸する。

それなりの集中力が必要なのだ。

 

 

この憑依した肉体は、前世の時より丈夫で強い。

魔法だって使える。

回復速度も『異常』だ。

 

この与えられた手札でこの数年を生き抜いてきたのだ。

 

だから、

できないことじゃなくて、今できることを考えた。

 

 

ーーー代わりに強くなってやるって、誓ったからーーー

 

 

魔力を、水が溢れるように、捻りだす。

 

「『雷よ来たれ 炎よ来たれ 我が身を憑代に』、」

 

3属性の魔法を同時に使った能力向上。

雷や炎の事象に対して、自身の耐性がある、俺だけのオリジナル魔法。

 

「モード『雷炎龍』。」

 

各魔法を体内で暴発させて『強化』に変換させていく。

 

 

身体は熱を発し、蒸気を放つ。

もちろん制限時間がある。

 

 

スピードアップと打撃力向上、

瞬間的に、近づいて、

「吹っ飛べ!」

 

コオロギに対して、剣の腹で打撃を与えて吹き飛ばす。

 

だが、この程度で倒せるほど容易くはないだろう。

 

 

その場から離れると、地面に脚が突き刺さる。

魔力を多大に使用している俺を執拗に狙ってくれるようで、好都合だ。

 

 

斬ることはできず、それぞれの脚を叩き割っていく。

 

6本もの伸縮自在の脚や、再生には苦戦を強いられる。

 

さて、

勝つのは俺かコオロギか。

 

どちらのMP切れが早く起きるかによるだろう。

 

 

 

 

「『アポーツ』! 今だ、エルゼ!」

 

望月やエルゼが何かやってくれたらしい。

急にコオロギの動きが悪くなった。

 

手のひらに魔力を最大限に籠めて、雷と炎の拳で俺は本体を叩き割る。

 

 

 

「ふぅ……」

 

どうやらもう再生しないようで、俺も各魔法を解いていく。

それどころかガラスのように割れてしまったので、正体を確かめることはできないようだ。

 

 

 

赤く発光していた、コアとも呼べるべきものが一瞬で消えたし。

『アポーツ』という個人魔法で取り除いて、エルゼが破壊したのだろう。

 

彼らは張りつめていた緊張感によって地面に座り込んでいる。

 

 

「とりあえず、俺もさっさと帰って休みたい」

 

某RPGの『つばさ』が欲しくなった瞬間だ。

望月の個人魔法に頼りすぎるのも良くない傾向だろうし。

 

 

 




※「まるで将棋だな」の出番は、ちゃんと用意しています。
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