異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
トリストウィンさん、ユミナ、ユエルさん、レオン将軍、シャルロッテさん、バルサ伯爵、国の錚々たるメンバーの中に俺がいる。アルフレッドさんは急用で来られないようだ。
ていうか、さすがに肩身が狭い。
城に来たら正装に着替えさせられて、この場に投げ込まれた。
なんで席がユミナの横なのだろうか。
今まで何度も同じようなことがあったとはいえ、こういう公式の場はいまだに慣れない。
身内だけのお茶会に呼ばれたときには、マナー違反を多発させる問題児の1人だ。つまり俺以外もはしゃぐということである。
「さて、知っての通り、我々ベルファストはミスミド王国と友好関係を結びたいと思っている。」
「お言葉ですが、王よ。民の皆がそれを望んでいるかは限りませんぞ。」
バルサ伯爵は反対派のトップとも言える人物だ。
確かに懸念もあるが、本日中には決定されるだろう。
そもそも、今日は最終確認みたいなものだ。
「ふむ。どう思うかね?」
トリストウィンさん、こっちを見ている。
俺じゃなくてユミナに聞いていると思いたい。
「イッキさん。」
囁くようにユミナに呼びかけられる。
やっぱり俺なのか。
背筋をさっきよりもピーンとさせる。
「私が街で感じたところ、完全に懸念事項を払拭できていないのは確かかと。」
「ふん、そうだろうな。」
鼻を鳴らす伯爵は、俺より行儀が悪い。
俺だって頑張って敬語を使っているのだ。
でももし間違っていてもスルーしてほしい。
「しかし、2国の子どもたちが手を取り合っている光景を、街で目にしました。間違いなく、友好への道を進んでいることを、私個人として進言いたします。」
「ほう。」
「加えて、自分は帝国にも、冒険者として踏み入りました。あの強大な帝国を牽制するためには、やはり急ぐべきかと。」
帝国とは20年前の戦争以来、不可侵条約を結んではいるが、いつ攻め込んできてもおかしくない。この平和な国よりも領土は大きいし、武力も互角以上だ。だから南のミスミド王国と同盟を結ぶことは、個人的にも必要不可欠だと思う。西の国とはすでに友好的だ。
だから戦力を東の国境にかなり集中させることもできるし、ミスミドに協力してもらえる可能性すらある。
「どうだ、バルサ伯爵。」
「…王の仰せのままに。」
密かに一息つく。
ありのままの事実とか個人的な主張とか言っただけなのだが。
ユミナもニコニコしてくれているし、これでよかったのだろう。
「ミスミド王国大使がお着きになりました。」
「お通ししろ。」
「はっ!」
オリガさんがリオンさんに連れられて部屋に入ってくる。
街で見かけたような気もしたが気のせいだろう。
護衛がいないのはベルファスト王国を信頼しているからだと思う。
そこからは形式的な流れだった。
ていうか、元々、お互いに確定していたようなことだし。
友好関係は正式に締結された。
「このようなおもてなしまで、ありがとうございます。」
「いやいや、そんなに堅くならないでくれ。」
「はい。」
食事の皿が運ばれてくる中、貧乏ゆすりをしそうになるのを堪える。
「もっと堂々となさっていいのに。」
「いや、場違い感がヤバいんだけど。」
「そうでもないですよ。」
またもやコソコソ囁き合ってしまうし、やはり誰から見ても俺は緊張しているのだろう。
「それでは乾杯といこう。」
酒の入ったグラスを掲げる。
注がれているのはミスミド王国からの贈り物らしい。
未成年でも飲んでもいい文化だと、一応言っておく。
なんか味がおかしい。
喉には少し痺れを感じたが、そういう酒なのだろう。
「うっ……」
は?
うめき声が聞こえた方向を全員が向く。
「お父様!?」
「あなた!?」
「陛下!?」
慌ててユミナたちが駆け寄る。
誰もが、冷静さを欠いている。
ユミナも必死に呼びかけている。
俺は咄嗟に叫んでいた。
ここで死なせていい人ではない。
「マーク!ラウルさんを呼んでくれ。」
「わかった。」
それは王族の専属医師の名だ。
「ハックさん、城の出入口は任せた!」
「任せよ。」
犯人をこの城から出してはいけない。
たぶん実行犯は給士係の中にいるのだ。
俺もトリストウィンさんへ駆け寄る。
「緊急事態だ。勝手に飲ませるぞ。」
冒険者として常備している薬の1つを飲ませる。
対象者の自然回復力を向上させるだけの効果なので、時間稼ぎにしかならないだろう。
勝手に飲ませたことでお咎めがあったとしても、やれることをやっただけだ。後悔はない。
しかし毒は一体何なのだろうか。
専門外だし、下手に他の薬を飲ませるわけにはいかない。
「シャルロッテさん、ラウルさんへの引継ぎは任せた。」
「わかりました。」
動揺しているユミナの手を握って、落ち着かせる。
「ユミナ、落ち着け。召喚獣を頼む。銀狼だ。」
「は、はい。『闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼、シルバーウルフ』」
「レオン将軍、できましたか?」
「ああ。オルトリンデ様へ宛の手紙だろう。」
この人なら察してくれると思っていた。
望月への連絡なら、アルフレッドさんに頼むのが一番早いだろう。
ユミナの召喚獣で、最も速く走れる狼に手紙を任せる。
「オリガさん、とりあえず別室にて待機してほしい。この人は真面目すぎるくらいの騎士なんで。」
とりあえず、明らかに動揺している大使に話しかける。その様子からも、彼女は嵌められただけだ。
ていうか、酒自体に毒があったら、全滅しているし。
「その者こそが陛下の命を狙った者ではないのか。このミスミドの大使を捕らえろ!……おい、聞いているのか!」
「まだ、決まったわけじゃないだろうが。」
「くっ、この平民風情が。」
伯爵は化けの皮が早くも剝がれている。
昔からあまり良く思っていないのは、こちらも同じだ。
「オリガさんを客室へ。」
「どうぞこちらへ。」
リオンさんに連れ添ってもらう。
伯爵の命令に惑わされず、一番信頼できる人に任せることができた。
ぐったりとしたトリストウィンさんが運ばれていく。
まだまだ気は抜けない。
時間との勝負だ。