異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
「第一騎士団からの報告があった。」
国の主要メンバーや望月がいる中に、やはり俺がいた。
正式な場ではないからリラックスしつつ、いつでも戦闘態勢を取れるようにしている。
まだ混乱している城中の一室で、俺たちは待機しているままだ。
「実行犯は給仕係と毒見役の二名。バルサの屋敷からはグラスに塗られていた毒と同じ毒が見つかったそうだ。本人がスゥシィを誘拐しようしたことも自供した。これで一件落着だな。」
トリストウィンさんが報告書を読み、そう告げる。
胸を撫で下ろし、各々が紅茶に手を伸ばす。
スゥシィたちを襲ったのも伯爵の仕業だった。
本気で玉座を狙っていたのか、獣人を排斥しようとしていたのか、そこまではわからない。
ともかく敵討ちができたのだ。
今度、あいつらに報告してあげよう。
「伯爵はどうなるんですか?」
「これは反逆罪以外の何物でもない。本人は処刑、家はお取り潰しだ。」
彼に妻子はいない。
獣人差別の傾向のある、親族及び関係者には圧力をかけていくだろう。もしかしたら裏では獣人の奴隷売買に手を貸しているかもしれない。最後まで反対していた理由も、この暗殺も損失防止のためなら頷ける。
犯行に協力的だったかにもよるが、使用人の人たちが路頭に迷わないかどうかは気になる。
まあ、トリストウィンさんも悪くはしないだろう。
「トウヤ殿には大変世話になったな。余の命を救ってくれたことへ報いたいのだが、なにか希望はあるかね?」
「いえ、どうかお気になさらず。僕はたまたま公爵のところに訪れただけです。それが国王陛下にとって運が良かった。その程度に考えて下さい。」
「相変わらず、欲がないな。」
アルフレッドさんも苦笑いする。
国の面子もあるし、恩人には何かしないといけない。
それも追々決めていくだろう。
『リカバリー』だけでも有能な人材なのだ。
彼個人と、国の長としてもお近づきになりたいだろうし。
「なんとも不思議な方ですね、あなたは。」
「そうだな。王都に来たのも、毒を検知したのも、個人魔法だと聞く。ああ、将棋も楽しませてもらっているよ。」
「将棋か、あれはいいものだな。」
将棋を作ったのか……。
アルフレッドさんたちも情報を引き出そうと画策しているが、もはや本人に隠す気はないらしい。
「えーっと、はあ、まあ。無属性魔法なら全部使えます。おそらくですけど。」
転生者のよしみで、報告しないでおいたことだ。
もうどうにでもしてくれ。
「全部…!? それが本当なら……と、とんでもないことですよ!」
『モデリング』を使ったフィギュア作成、
『リーディング』による古文書解読、
『エンチャント』による無属性魔法付与、
やはり彼はエンタメデュエリストでも目指しているのだろうか……
次々と個人魔法を見せてくれた。
大人たちは表面的に大喜びしてるが、内心冷や汗ものだろう。
俺やリオンさんも、そわそわしている。
ここまで不用心な奴は見たことがない。
さて、ユミナとスゥシィどちらと結婚するのやら。
胸にズキッと痛みを伴う。
「お父様、お母様、少しよろしいでしょうか?」
ユミナが口を開く。
胸の痛みはひどくなっていく。
「ん?なにかね。」
「こちらのトウヤ様と、一時期行動を共にしてもよろしいでしょうか。」
「ふむ。理由はなんだ?」
「はい。まずはトウヤ様、お父様を救っていただきありがとうございます。あなたは近い将来、国の架け橋ともなる存在となるでしょう。短い期間となるでしょうが、私が王族としてそのお力添えをしたいのです。」
「え、そんなことないと思うけど……。」
「いえ、心からそう思っております。もちろん、あなた個人と友好を築きたいという考えもあります。」
「うーん、そう言われてもな。どこの馬の骨ともわからん奴に一国の姫を任せていいんですか?」
「そんなに怪しい身分じゃないだろ。メダルを貰ったみたいだし、すでに公爵家の庇護下に入っているようなものだ。」
国のためなら、この痛みを抑えつけよう。
『どこの馬の骨』っていう言葉を補足しつつ、サポートをしておく。
「ユミナは『魔眼』持ちなんだよ。人の性質を見抜く力、直感と似たようなものだ。しかしユミナの場合 外れたことはない。」
トリストウィンさんがこちらからの情報を開示する。
さて、望月が考えこんでいるのは、『魔眼』についてなのか同行を悩んでいるのか。
国としての運命を分ける、静寂が流れる。
「自分の身は守れるくらいの修練もしております。それに、護衛の者にも来てもらうつもりなので。小数精鋭の者を選ぶつもりです。」
望月の、最後のひと押しをユミナが告げる。
もしものことがあったら、自分のせいにされそうとか思っていたのだろう。
「それなら……うん、わかったよ。」
望月は気分屋だ。
肯定する材料をかなり渡したけれど、断られる可能性もあった。
この嫉妬を覆い隠すには、
策略的なことを考えるのは、都合がよかった。
***
望月は一度『ゲート』で帰り、後日合流することにした。
ユミナもそれなりの準備がいるだろうし。
「ユミナも思いきった判断をしましたな。」
「ああ、さすがは我が娘だ。だが親としては、やはり心配だ。」
王や王弟に呼ばれる、しがない冒険者。
身内だけであるため、菓子をモグモグしながら会話している。
「ていうか、どこの王女様が冒険者やるんでしょうね。そういうのは創作物の中だけにしてくれ……。」
「誠にその通りだ……。」
「それなりの護衛、しかも少数精鋭を選抜しなければなりませんな。」
望月の性格上、多くの兵を街に駐屯させるのは嫌うだろう。
選抜はレオン将軍に任せるのだろう。
この際、レオン将軍単騎でもいい。
「ていうか、いいんですか? 望月、いやトウヤに誰かを娶らせなくて。」
それは王族の女性の務めである。
ユミナやスウシィも理解...いやそのように『教育』で理解させられているだろう。
有能な人材を手に入れるため、円滑な国交のため、いわゆる政略結婚というやつだ。
俺個人としては、絶対に賛同する気はない。
そんな風習、ぶち壊したいくらいだ。
「そうせずとも、彼は友人だ。万が一がなければ、大丈夫だろう。」
「2人ともトウヤの個人魔法にノリノリですし、奥様方が珍しく呆れるくらい。」
「「そうだったのか!?」」
この人たち、将棋に白熱して仕事をサボる。
家族のフィギュアを眺めることも多い。
もしユミナやスウシィに反抗期が来たのなら、この人たちは寝込みそうだ。
「ごほん、それにスゥシィはまだ幼い。そうすれば、他に候補はおらんしな。」
「……は? え、ゆ、ユミナって、こ、こんや、クシャ、いたん、です、ね」
うっそだろ。
いつかは、相応の身分の人と結ばれるとは思っていた。
いや、ユミナは王族だ。
他国の王子だったり、貴族だったり、嫁ぐ可能性すらある。
もしかしたらミスミド王国とか。
たしかにユミナってもう12歳だし。
それに、王族に男子がいない状態が続いているのだ。
早急になるのも、わかる。
わかりたくないけど、わかる。
「その様子なら、ユミナも安心だろう。」
「まだまだ若いな。」
「あー、すみません落ち着きますちょっとミスミドまで行こうとしていました」
この際、ユミナを拐ってしまおう。
もはや自己満足だ。
幸せのない政略結婚など、元日本人である俺には納得できない。
「……遠いぞ?」
「『龍化』すれば余裕ですし。」
「兄上、なにか聞き捨てならんことを聞いた気がするぞ。」
「ああ、そうだな。」
「さて、その話は後で詳しく聞くとして…。そろそろ話そうか、兄上。」
「そうだな。ユミナが婚約したのは9歳の時だ。」
「まじかよ。誰なんだよ、そのロリコン!」
机に両手を突き、勢いよく立ち上がる。
小3で、すでに運命を決められてしまうのか。
「ろりこ…...? それが何を意味するかわからないが。君だよ、イッキ。」
「俺はロリコンじゃない。わずか3歳差、前世含めても8歳差だ。」
「……その話も後で聞こう。」
この後一通り暴れたら、落ち着いた。
レオン将軍の拳で鎮圧されたともいえる。
身内へ、根掘り葉掘り説明させられていく。
黙っていたことを叱られるより、納得されたり感謝されたり。
少しも軽蔑されることはない。
秘密を言って、楽になったことは確かだ。
この国、この人たちが好きなのだと俺は実感した。
ともかく、ユミナへの想いはもう隠さなくていい。