異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
それでも、ユミナはこの作品のヒロインです。もう1人の主人公です。
月に照らされた、月の色の髪は輝いている。
母譲りの翠色、『魔眼』による碧色、2色の瞳は透き通っているように相変わらず綺麗だ。
彼女とこの庭園で過ごすのは何度目だろう。
花の名前を聞いたこともあったが、いまだに覚えられていない。
身体が冷えないように、真っ白なドレスの上にショールをかけている。
「ほ、ほんじつはおひがらもよく」
「紅茶、零れそうですよ。緊張されているのですね。」
手の震えを抑えてコップを置く。
ていうか、これはカップか。
ニコリと微笑む、その少女にはいつも敵わない。
「面目ない。」
「いえ、意識してくれている証拠ですので。」
「その、いつの間に婚約を?」
「イッキさんがお城へ来て、間もなくのことでしょうか。」
読み書きの勉強のついでかと思っていたが、そういう教育も密かにされていたのだろう。そもそも現代日本の教養とはいえ元15歳なのだから、一般的な10歳よりは勉強ができる。この世界のことを知りたくて、意気揚々と学んでいた。
申し訳ないが、マナーはあまり身についていない。
「そうだったか。いや、実際のところ、実感が湧いていない。」
城に来てから、
リオンさんたち騎士や兵士、食堂の人、使用人、そういう人達と楽しくやってきた。
そこから気楽な冒険者をやっていたら、
すでに次期国王コースの履修中だった。
「……悪い。」
「いえ、急なことですし。イッキさんが冒険者として飛び出していったので、ご説明するタイミングを逃してしまったのでしょう。」
非常に申し訳ない。
「あれは若気の至りというか、好奇心旺盛だったというか。」
「それだけじゃないこと、知っていますよ。」
「だが。」
「事件での的確な判断、お父様たちも誉めてくださっていましたよ。」
「だが!俺は何も、できなかった...」
剣を振るえても、魔法を使えても、戦えても。
強くなったはずなのに、何度も無力感を味わってきた。
成果を得ることはできなかった。
事件を未然に防ぐことができなかった。
毒の治療を人に任せることしかできなかった。
あくまで、俺は冒険者なのだ。
いや、高校生だったのだ。
日本人なのだ。
王としての器なんて本当にあるのかわかるわけがない。
「お父様が倒れた時、私も動揺することしかできませんでした。イッキさんのおかげですよ。」
「レオン将軍だっていただろうが。」
「医薬品の数々を何度も届けてくれたのも、イッキさんなのですよね。」
「手当たり次第だった。」
「はい。それでも、イッキさんのおかげです。」
「まぁ、俺は少しでも役に立ったのか。」
しかし、ユミナの隣に相応しいかどうか確証は持てない。
「……あなた自身が、『輝く竜』だったのですね。」
対象者の自然回復力を向上させる回復薬。
その素材は俺自身のものだ。
その説明とともに、身内だけには『秘密』を教えた。
ていうか、混乱して口が滑ったことを詳しく説明させられただけだ。
「黙っててごめん。気づいたのは旅をしている時だった。」
「いえ。自分の力に恐怖すること、私も経験いたしましたので。」
「それは、どういう?」」
「イッキさん。私、この碧の眼が嫌いだったんですよ。」
今は嫌いではないらしい。
そうではなくなる、きっかけでもあったのだろうか。
「そう、だったのか?」
「はい。もちろんお父様たちはずっと好いていてくれました。ですが、『魔眼』の価値を求めている方、そしてオッドアイに不快を感じる方も稀にいます。」
「だれだそいつ?」
直接、文句を言いに行きたくなった。
それが文化や風習であっても、迷信なのだとぶち壊したい。
「ふふっ、そういうところに私は惹かれたんですよ。」
「そ、そうなのか?」
「『魔眼』の性質を教えたとき、『苦労してそうだな』って、言ってくれたことは今でも覚えております。」
人は常に善意や悪意を持っているとは限らない。
そもそも善悪自体、主観的だったり道徳的だったり、漠然としたものだ。
この温かい国でも、彼女の『魔眼』を知った時、『異質さ』を知った時、どう思われるかは簡単に判断がつかないのだが、彼女は嫌でも視てしまう。そのドロドロした何かは彼女にずっと絡みつくのだろう。俺よりずっとマシだとしても、彼女も『異質』なことは取り繕って嘘を述べるべきではない。
「もう、4年前のことだろうに。」
「初めてのことでしたから。それに、出会ったときからこの瞳が綺麗だと言ってくれますよね。」
「ていうか、どっちも率直な感想なんだが。」
「イッキさんは相変わらずやさしいですね。」
「いやそれ、ユミナの主観的なものだろ。」
「はい♪ そうみたいですよ。」
確証はないのだろうけど、彼女が心からそう言うなら信じたい。
ずいぶんと成長したな。
このお姫様が子どもっぽく笑うようになったのは、いつからだっただろうか。
「あー、上に立つ者の覚悟ねー」
背もたれに深く腰掛けて脱力する。
こうやって夜を人並みに過ごせるようになったのは、いつからだっただろうか。
「私もちゃんと支えられるよう、がんばりますね。」
「ユミナは気負いすぎるところあるからな? 俺と逆で。」
なんだかんだ、俺たちなら上手くいきそうだ。
とりあえず、朝になったらまた頑張ろう。
「『龍化』」
細長い体躯を持つ銀色に輝く龍。
東洋龍に近い。
鋭利な爪や、刃と化すことのできる鱗を持っている。
人によっては、恐れそうだ。
『龍化』した時の本質は、王もしくは神に近いものらしい。
「大丈夫ですよ。」
『ありがとう』
やはりユミナは守られるだけの存在ではない。
ユミナに何度も救われてきたし、まだまだ俺はつよくなるつもりだ。
可愛い手で顔を撫でられると、胸の奥に温かさを感じた。
魔力とか、安心感とか、好きだとか。
愛している