異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。   作:ヒラメもち

16 / 39
初クエスト、そして緊張

リフレットの町。

王都とまではいかないが、多くの店が構えられている賑やかな町だ。有名な服飾店の本店もあるし、飲食店も多数存在する。そもそもこの世界では古着屋が主だったもので、富裕層が通うような服飾店自体がそう簡単には見つからない。つまり裕福な町であって、望月が最初に訪れた場所は当たりと言えるだろう。

 

 

そして、宿屋『銀月』

リフレットの町に存在する宿屋の1つを、望月たちは仮拠点としているらしい。平民としては十分満足できる場所とはいえ王女が泊まるような場所ではない。しかしユミナの性格的には大丈夫だし、慣れてもらうしかない。冒険者として同行するのなら、国によってはそれなりの場所で寝泊まりする場合もあるからだ。

 

 

俺とユミナは、

そんな宿で1つの屋根の下に寝泊まりした。

 

何もなかった、とだけ言っておく。

仮に何かあったら、義理の父親と叔父から、社会的にも物理的にも殺される。

 

「準備できたか?」

 

「むぅ……」

 

さて、ユミナが冒険者としてデビューする日だ。

綺麗な月の色の髪は三つ編みでひとつにまとめられ、動きやすいようにされていた。胸元にリボンをあしらった白いブラウスに、紫の上着を羽織り、白い胸当てを身につける。そして紺のキュロットに白いロングブーツを合わせている。

 

服装がシルエスカ姉妹に似ていることは、王女だとバレないようにする効果が少しはあると思う。

 

「似合ってる。」

 

「はい♪ 行きましょうか。」

 

俺がよく使う防具店に対して莫大な資金を渡し、豊富な素材をふんだんに使って、急遽作ってもらった装備だ。もちろん魔力付与を用いて防御面を極限まで強化してもらっている。両親も親戚も過保護だし、立場もあるし、冒険者稼業は危険を伴う場合が多いから、用心するに越したことはない。

 

 

後方支援職とはいえ、まさか人から借りた私服を着て、『国の唯一の王女』が魔物と戦闘を行うことはないだろう。

 

 

 

……えっ、まさかないよね

 

 

 

「それでは、本日よりよろしくお願いしますね、トウヤ様。」

 

「あの、姫様?  本当にギルドで依頼を受けるの? 危険なこともたくさんあるんだよ。」

 

宿から出て、この町のギルドへ向かう。

九重やシルエスカ姉妹ももちろん一緒だ。

 

「もちろんです。イッキさんもいますので。」

 

「そういうことだ。ヤバくなったら、抱えて全力で逃げてやるから。あと望月、姫様呼びは禁止な。」

 

しかしこうして身バレ対策をしているものの、美少女だし気品溢れているし、もはやバレる前提で注意を払うつもりだ。ギルドに向かっていく途中でも、美少女揃いのこのパーティーは視線を集めている。

 

俺や望月には、嫉妬の嵐である。

 

 

「ユミナって戦えるの?」

 

「はい。魔術師の方から魔法の手ほどきを少々。それに、弓も扱えます。」

 

すでに矢筒と矢を背負っている。

 

魔術師についてはシャルロッテさん、

弓術については女性騎士に教えてもらったらしい。

 

「確かに遠距離攻撃は助かるでござるなあ。魔法の属性はなんでござる?」

 

「風と土と闇です。最も得意とするのは召喚魔法なのですが、まだ3種類しか呼べません。」

 

「わたしは、水と火と光、なので。」

「ちょうど、リンゼが使えない属性なのね。」

 

「そういうことになりますね。」

 

「一緒に、がんばりましょう。」

「はい、よろしくお願いいたします。」

 

前衛には、俺とシルエスカ姉。

中衛に、望月と九重、

後衛が、ユミナとシルエスカ妹。

 

バランスのいいパーティーメンバーだ。

 

 

 

話をしているうちにギルドまで着いた。

『このすば!』とは違って、悪意のある視線もある。

 

俺の側を離れさせないようにする。

 

「ここがギルドなのですね!」

 

ざわついた雰囲気に対するもの珍しさ、

掲示板に貼られた数々の依頼書に目をキラキラさせている。

 

 

気分が悪くなっていないようで良かった。

本質を視てしまわないように、俺たちや掲示板に意識を向けている。

 

 

「んー、これとかどう?」

 

シルエスカ姉が一枚の依頼書を指差す。

 

「キングエイプ五匹か……。どんな魔獣だっけ。」

 

「ゴリラだろ。」

「大猿の魔獣、です。数匹で群れをつくり、襲いかかってきます。あまり知能はないので罠などによく引っかかったりしますが、そのパワーは要注意です。」

 

望月にしか伝わらない説明に対して、シルエスカ妹が詳しい説明を付け加える。

 

 

考えこんでいた望月が賛成したことで、キングエイプ討伐の依頼書を受付に持っていって受注する。

 

場所は南の方角の森で、かなり距離がある。

『ゲート』を使えばいいではないかとも思ったが、某RPGの魔法と同じく、その場所を思い浮かべる必要があるらしい。

 

 

借りた馬車に乗って向かうことになった。

 

「ねぇ、イッキやユミナって、馬を扱える?」

 

「それなりにですけど。」

「俺は無理だな。徒歩で旅していたし。」

 

「ほっ……」

 

できないことを告げて安心されるっていうのも、なんか癪だ。

今度練習しよう。

 

 

借りた馬の手綱を引くのは姉妹に任せている。

荷台には、望月と九重、俺やユミナが座っている。

 

 

「うーん、毎回馬車を借りるのもなぁ。買った方がいいのかなぁ。」

 

「馬車もピンからキリまであるでござるが、けっこうするでござるよ?」

 

「馬の世話をするのも大変だろうな。」

 

馬の召喚獣でもいればよかったのだろうが、そう都合よくいかない。

ていうか、遠出しても帰りはどうせ『ゲート』だろう。

 

 

片道3時間の道はかなり暇だ。

だが暇なことはいいことなのだろう。

 

ユミナは緊張しているし。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定