異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
ようやく、出現場所付近までやってきた。
ここで『サーチ』の弱点が発覚する。
50m圏内らしい。よくオーパーツ見つけることができたな。
個人魔法も常に万能ではないということだろう。
「地道に探すしかないか。」
「でしたら、ここは私が。」
「どうするの?」
「召喚魔法です。」
「召喚…?」
ユミナが目を閉じ、魔力を籠め始める。
それなりの数を呼ぶので、時間がかかっているようだ。
「『闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼、シルバーウルフ』」
5匹の銀狼が魔法陣から現れる。
うち4匹は子犬のように尻尾を振っているし、相変わらず懐いている。
「この子達に探してもらいます。離れていても私と意思疎通ができますので、発見したらすぐわかります。よろしくね。」
ボスの銀狼を撫でて、それに従う4匹とともに森へ入っていく。
「それって、闇属性の魔法、ですよね?」
「そうなりますね。」
「だったら、冬夜殿でも使えるのではござろうか。」
森の中を歩いていく最中、言葉を交わす。
もちろん、各々周囲に気を配っている。
「ていうか、望月って何属性使えるんだ?」
今まで何度か聞こうと思っていたが、個人魔法のインパクトが強すぎた。
「全部よ。」
「全部でござる。」
「全部、ですね。」
「「はい?」」
ユミナと声が被る。
望月って、もう人間やめているんではないだろうか。
「え、えっと、召喚魔法のことですよね。基本的には呼び出した者と契約さえできれば、習得できますよ。」
「へぇー。契約に条件はあるの?」
「はい。あの子たちは、お腹いっぱい食べさせてくれるかどうかでした。ですが、戦いを求めてくる魔獣さんもいます。」
「この依頼が終わったら、教えてもらいたいな。」
「はい、もちろんです。あっ……」
ユミナは目を閉じて、銀狼たちの様子を伺っているようだ。
「見つかったか?」
「そうですね。あの子たちが見つけたようです。7匹、でしょうか。」
「群れだし、誤差はあるだろうな。」
「やったろうじゃない!」
「一気に殲滅、の方がいいと思います。仲間を呼ばれる可能性も、あるので。」
シルエスカ姉妹の意見が述べられた。
パーティーのリーダーである、望月に俺たちの視線は向けられる。
「ユミナ、キングエイプたちをこっちにおびき寄せることってできる?」
「あの子たちなら可能です。」
「罠を張っておくんだ。落とし穴ぐらいなら土魔法ですぐできるから。」
内心、真っ向勝負を選ぶのだと思っていた。
ユミナ、望月がそれぞれ土魔法による罠をしかけていく。
そして仕掛け終わったところで、木陰に隠れる。
自然と誰もが物音を立てず、
意図して静寂が訪れる。
雄叫びが、やがて聞こえた。
地面にしかけられた落とし穴の手前で、銀狼たちは大きくジャンプして跳び越える。意思疎通がちゃんとできているし、賢い証拠だ。今日のご飯はいつもより豪勢なものになることだろう。
対して、大猿たちはまっすぐに向かってきて見事に落とし穴に落ちた。
「今だ!」
あらかじめ魔力を籠めていた魔法陣を起動させる。
「『炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム』」
「『炎よ燃やせ、焼却の息吹、ファイアブレス』!」
俺とシルエスカ妹の魔法で這い上がろうとするゴリラ3匹を焼き尽くす。
同胞の生死に関わらず、残り4匹が遅れてこちらへ向かってきた。
望月、シルエスカ姉、九重がそれぞれの得物を持って立ち向かう。
ていうか、望月の武器も日本刀だったのか。
「『スリップ!』」
個人魔法によってゴリラが横転する。
咄嗟にユミナが矢を放ったが、当たることはない。
その震えた手で、望月達に対して誤射しなかっただけマシだ。
「ユミナ、いくぞ。」
「は、はい!」
「「『雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア』!」」
20本以上の雷の矢が次々と、1匹のゴリラに刺さっていく。
しかしその動きは止まることはない。
死に物狂いでこちらへ向かってくる。
「ひっ……」
ユミナは地面に尻をついてしまった。
その怯えた様子は、まさしくかつての俺だった。
剣を引き抜き、ゴリラの首を刎ねる。
その血しぶきを見て、ユミナはふわりと地面に横たわった。
***
「イッキ…さん…」
翠と碧の瞳は、いつもより弱々しい。
「気分はどうだ?」
ぬるくした水のコップを渡す。
「わたし、気を失っていたんですね。」
「まあな。」
「お役に立てませんでしたね。」
「初めてだったんだし。」
「でも、心配して止めてくれ、たのに……めい…わく..かけ...ちゃって」
綺麗な細い指で、
目の縁の涙を必死にぬぐう。
「召喚獣のサポート、罠の設置、まではよかったんだけどな。」
布団を濡らすユミナの頭を撫でる。
誰かのために頑張ろうって、迷惑かけないようにしようって、昔から人一倍思っているのだ。
静かに流れていた涙は、やがて嗚咽に変わる。
そこに優雅さなどはなく、年相応の女の子らしかった。
「俺の故郷には魔物なんていなくて、それこそ剣を握ったことだって一度もない。だから俺が最初に獣と戦った時は、それはもう無様だったぞ。」
「そう、なのですね。だから、あの時はあんなに……」
「言いそびれていたけど、あの時はありがとうな。」
ハンカチで涙を拭ってやる。
目元はまだまだ赤い。
「わたし、まだ皆さんと一緒にいたいです。まだ知り合ってばかりだけど、トウヤ様にも、エルゼさんにも、リンゼさんにも、ヤエさんにも。」
「ああ。俺からも頼んでみる。」
『魔眼』や身分、そういうものがあって、ユミナには同年代の友達が決して多くなかった。ユミナとして向き合ってくれる人はほとんどいなかったのだ。家族や親戚もできる限り時間を作ってくれていたが、それでも独りの時間が多かったのだろう。俺も冒険者として出ていってしまったし。
だから、召喚魔法を学んだのだ。
「イッキさんも、ずっと一緒にいてくれますか?」
「約束する。」
「ありがとうご…ざいま…」
それだけ告げて、ユミナは目を閉じる。
俺も一息つこうかとも思ったが、この手を放してくれないようだ。
あの時は俺にずっと付いていてくれたし、珍しく子どもっぽい寝顔をこのまま朝まで堪能することにしよう。
おやすみ