異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
夜が明けたと同時に、羞恥で顔を真っ赤にしたユミナも見れた。
この時ほどスマホが欲しくなった時はないだろう。
何度も謝ってきたが、1日くらいの徹夜ならどうってことはない。
「闇属性の召喚魔法は、まず魔法陣を描き、対象を召喚することから始まります。」
そう説明しながら宿の裏庭で、ユミナは地面に大きな魔法陣を本を片手に描いていく。この『チョーク』は魔石のかけらでできたものだ。服装は昨日と同じものだが、胸当てや矢筒は部屋に置いていて、髪は解かれている。
「へぇー」
望月たちも心配してくれただけであって、パーティー追放などを告げられることはなかった。昨日のお詫びも含めて、望月には召喚魔法を教えるのだと張り切っている。ちなみに闇属性を持たない九重たちは各自、町で自由時間を過ごしている。
「何が召喚されるかは全くのランダムです。魔力や術者本人の『質』などに左右されるとも言われてはいます。ですが、初心者で高位の方を呼び出したという話もお聞きします。」
「ガチャか。ゴブリンを引かないことを祈るんだな。」
「それはさすがに困るなー」
「? えっと、召喚した者と契約できれば成功なのですが、昨日ご説明した通り、彼らから条件が与えられます。」
「戦うなら『ゲート』でどっか行けよ。」
「うん。『銀月』の裏でやることじゃなかったね。」
「いえ、もし戦うとしてもこの魔法陣の中になります。いきなりは襲ってこれませんので、ご安心ください。」
「そうなのか。」
「はい。結界も発動しますので、よほどの者でなければ大丈夫でしょう。」
☆5とかSSRだったら、ユミナを抱えて一目散に逃げよう。
「準備ができました。この上に立って、闇属性の魔力を籠めてください。」
「ありがとう。よしっ、やってみるか。」
望月と入れ替わるように、ユミナが俺の隣まで来る。
完成した魔法陣の前に立って、望月が魔力を籠め始める。黒い霧が魔法陣内部に充満していく。霧に包まれた黒い影が現れたと同時に、その召喚獣から途方もない圧力が迫ってきた。
ユミナを横抱きしていつでも逃げられるようにする。
「きゃっ」
「悪い。」
「い、いえ…」
「さて、ヤバそうだぞ。いきなりSSRか。」
久しぶりに、俺は冷や汗を掻いている。
同時に闘争心が湧いているという不思議な感覚だ。
魔法陣の中には大きな白い虎。
眼光と威圧感、鋭そうな牙と爪、そして魔力量も尋常ではない。
「まさか、《白帝》なのでは……」
『ほう、我を知っているのか?』
「あんまり睨まないでやってくれるかな。」
『お前は平然としているのだな。我を前にして立っていられるとは、面白い。』
「慣れればさほどでもないよ。で、《白帝》ってなに?」
「召喚できるものの中では、最高クラスの4匹、そのうちの1匹です。西方と大道の守護者にして獣の王、神獣です。」
「白虎らしいぞー!」
パーカーにしがみつきながら、もはや俺に説明してきた。
望月に対して、簡潔で最高の回答を渡す。
「なるほどね。それで、どうすれば契約してくれるんだ?」
『契約、だと? ずいぶんと舐められたものよな。』
「とりあえず言ってみてよ。」
『ふむ、しかし奇妙だな。お前からは異質な力を感じる。精霊の加護、いや、それよりも高位だ。だがあの者はどこかで感じた力だ。』
もしかして、これは確定ガチャだったのでは。
やっぱりもう人間やめているんではないだろうか。
俺はたぶん半分人間です。
「ユミナ、望月ってどうなんだ?」
「イッキさんのような、強大な才能を秘めておられることはわかります。しかしそれが何かまでは。」
「ありがとう。さて、戦うのかどうか。」
「あの、そろそろ、下ろしてもらえませんか?」
「断る。」
「あぅ…」
『よし、お前の魔力の質と量を見せてもらう。神獣である我と契約するのだ。生半可な魔力では使いものにならん。』
白虎の提案に俺たちはホッとする。
戦ったとしても望月なら勝ちそうだが、町が破壊されそうだ。
「魔力を?」
『そうだ。我に触れて魔力を注ぎ込め。魔力が枯渇するギリギリまでだ。最低限の質と量を持っているなら、契約を考えてやろう。』
「ていうか、優しいな。」
「そうですね。契約が成功したとしても、使役することにも魔力は必要ですので。」
神獣だし、膨大な量の魔力を持って行きそうだ。望月は俺たちより魔力の量がはるかにあるし、質も白虎的に認めているし、契約自体は成功するはずだ。某RPG風に言えば、大量のMPを消費して白虎が突進するという、一撃必殺技『白虎呼び』にでもなるのだろう。
「このまま魔力を流せばいいのか?」
歩み寄った望月が白虎の額に触れて尋ねる。
『そうだ。一気に流していい、お前の魔力を見てやろう。ただし魔力が枯渇して倒れたら、契約は無しだ。ほどほどにして諦めよ。』
「わかった、気分が悪くなったらやめるよ。」
『む…これは…なんだ、この澄んだ魔力の質は…!?』
魔力を籠め始めたらしい。
『ぬうッ! な…なにっ!?』
たぶんその量に驚いている。
『ふぐっ……こ、これは……ちょ、ちょっとま…』
そろそろ白虎はヤバそうだ。
『まっ……まってく…これ以上は…あううっ…』
もはや喘でいる。
『…も…やめ……お願……』
ユミナに見せたらダメな光景に見えてきた。
「トウヤ様! あの、そろそろ…。」
「え?」
一度こちらを見て、ヤバい状態の白虎を見る。
そこで魔力放出をようやくやめてあげれば、虎はぐらりと地面に倒れた。
「あれ? うーん、『光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール』」
回復させる個人魔法を使う。
顔色も悪くしていないし、まだ魔力は余裕がありそうである。
契約も成功しただろうし、ユミナを下ろして俺たちも少し近づいていく。
「望月、魔力の減りはどうだ?」
「ちょっとだけかな、もう回復したようだけど。」
「『は?』」
白虎と声が被った。
もしかしてMPが無限なのではないだろうか。
いや、魔力回復量が『異常』なのかもしれない。
『……お名前をうかがっても?』
「望月冬夜だけど。あ、冬夜が名前だからね」
『モチヅキトウヤ様…いえ、望月冬夜様。我が主にふさわしきお方とお見受けいたしました。どうか私と主従の契約をお願いいたします』
白虎が静かに頭を下げた。
『私に名前を。それが契約の証になります。この世界に私が存在する楔となりましょう。』
「名前か……うーん……」
「ユミナは名前をつけたのか?」
「いえ。神獣だから、でしょうか。」
「そういうことか。」
基本的にはこの世界に住んでいないのかもしれない。
ユミナの召喚獣は普段はどこかの森に住んでいるようだ。
定期的に餌を食べに来ているようなものだ。
「琥珀で、どうかな?」
地面に『琥珀』と書いて見せている。
たぶん日本とかイーシェンとかの文字だろうし。
ていうか、外国とか異世界の言葉で、名前を付けられるのはどうなのだろうか。
TOUYAって呼ばれるようなものだ。
「これが虎で、これが白、そして横にあるのが王という意味なんだ。」
『王の横に立つ白き虎。まさに私にふさわしい名前。ありがとうございます。これからは琥珀とお呼び下さい。』
「すごいです、トウヤ様、《白帝》様と契約してしまうなんて。」
『少女よ、もう私は《白帝》ではない。琥珀と呼んでくれぬか。』
「あ、はい。コハクさん。」
琥珀自身も心からその名前を気に入っているようだ。
「すごいな、ネーミングセンス。中二病だったか?」
「え、違うけど。」
真顔でそう答えられる。
自覚症状はないのか。
「トウヤ様はやはり世界を変えるお力を持っておられるのですね。」
「本人が平穏を望んでいるのが、何よりも救いだろうな。」
「そうですね。」
少し離れて俺たちだけで、そんなことを話す。
もし敵対してしまったのなら、そう考えるとどんなに恐ろしいか。
「かわいい……」
先ほどまでの白虎がマスコットサイズまで縮んでいて、望月へ抱きしめられている。そして、それをうらやましそうに見るのは俺の婚約者だ。昔からユミナへのプレゼントはぬいぐるみだった。
思わぬ強敵が登場した。
銀狼たち同様、モフモフされるライバルだ。
このままでは密かに狙っていたポジションが盗られてしまう。
それだけは阻止しなければならない。
「刮目せよ、これが1年の修行の成果だ。『幼龍化』」
「イッキさん!?」
いつもより縮んで、マスコット化すれば完成だ。
一応、魔力の消費もかなり節約化される。
かのディズ〇ー映画を見たことのある俺が、ぽっと出の神獣などに負けるはずはないのだ。
「もう、イッキさんったら。」
苦笑いしながら、
手のひらの上に乗せてくれる。
蛇っぽいからね。
その成長期のお胸に抱かれることはできないよね。
シュンとなる俺の頭を、やさしく指で撫でてくれた。
お待たせしました。
次回、『まるで将棋だな』の出番です。