異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
ここ数日、望月たちは依頼に赴くことはなく各々時間を過ごしていた。俺からすれば、3人それぞれとデートをしていたようにしか見えなかった。望月が朴念仁であることを俺に愚痴ってきたり、各自ユミナに恋愛相談をしたりすることが増えてきた。
俺たちはといえば、いくつかの魔物討伐依頼を受け、実戦経験を身につけていた。
「お父様!お母様!」
「おお、ユミナ。」
「おかえりなさい。」
今日は久しぶりの里帰りである。
『ゲート』で一瞬だった。
「リオンさん、久しぶり。」
「イッキ、元気そうで何よりだ。」
さて、この場には国王であるトリストウィンさんと、ユエルさん、レオン将軍、リオンさんやオリガさんがいる。オリガさんはミスミドの常駐大使としてこの城に住んでいるようだ。大使館を建てるまでにはまだ至っていないらしい。
そして、望月たちも一緒に来た。
「失礼した……久しぶりだな、トウヤ殿。」
「どうも。」
「後ろの方々がお仲間か。そう固くならんでいい、顔を上げてくれ。」
九重たちは見事な土下座である。
シルエスカ姉妹も土下座を知っているとは、意外だ。
俺はさっさと席に着いて、菓子に手をつけている。
ここの男性陣は基本フレンドリーだし、身内だけの場で堅くなる方が迷惑をかける。
しかし、義理の母には挨拶をしておかなければと思って、紅茶のカップを持って席を立つ。
「お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
「お久しぶりですね。あなたはもう義息子なのですから、今はかしこまる必要はないんですよ。」
「そうします。」
ユエルさんは微笑み、優雅に紅茶へ口をつける。
テンションが上がった男性陣の行動にも、俺のマナー違反にも寛容だ。
「ユミナ、怪我はなかった? 辛いことはなかった?」
「はい、イッキさんはいつも気にかけてくださいますので。」
「あらあら。頼りになりますね。」
「傷一つ負わせるつもりはないので。」
「まあ!」
「イッキさん…」
赤く染まった頬を隠すように、少し俯く。
かわいい。
しかし背中に衝撃が走る。
こういうことは何度もあったし、すでに耐性がある。
「イッキ! 久しぶりにリオンと一緒に儂が鍛えてやろうか!」
「それ、ストレス発散の間違いだろうが。」
何度、その拳で吹き飛ばされたことか。
この人、将軍の書類仕事はちゃんとやるけれど、得意ではないなのだ。
「また今度ということで。」
「そうか! なら、トウヤ殿を誘ってくるとしよう!」
「シルエスカ姉、あー、髪が長い女性が拳闘士ですよ。」
「そいつはいいことを聞いた!」
相変わらず、嵐のような人である。
レオン将軍は拳闘士として名を馳せた武人でもあるし、シルエスカ姉は喜ぶだろう。
シルエスカ妹は宮廷魔術師であるシャルロッテさんと話したがりそうだ。
「で、どこまで聞いた?」
「えっと、やっぱり爵位は断ることにしたよ。王様と話したんだけど、授与式で冒険者として断るってことになってる。」
そもそも城に来た理由は、望月への褒美の話である。
俺も国の恩人に対してかしこまった方がいいのかもしれないが、望月は逆に嫌う。王候補としても長い付き合いをしなければならないし、個人的にも仲良くしたいし、『同郷』ということは最高のメリットだ。
「国としても、恩人には何かしないと面子が保たれないんだよ。」
「ぶっちゃけるね。」
「取り繕っても事実だしな。たぶんいくらか金をくれるだろうけど、辞退されたら困るからな。」
「うーん、まあ、貰えるんなら。」
「トウヤ様、そろそろ。」
「あ、うん。じゃあ、また後で。」
メイドさんに連れられて、部屋を出ていく。
たぶん明日の授与式で着る服を選ぶのだろう。
シルエスカ姉妹や九重はレオン将軍に引き連れられて、訓練所の見学に行ったようだ。たぶん参加させられる。
リオンさんもオリガさんを送り届けるようだ。
あの2人、雰囲気がいいな。
部屋に残ったのは4人。
ユミナはユエルさんへ、冒険談を楽しそうに話している。
トリストウィンさんが話しかけてくる。
「一局、どうだ?」
「お相手しましょう。」
俺たちは菓子をモグモグしながら、将棋を指す。
「ユミナはどうだ?」
「毎日が楽しそうですよ。まだまだ新米冒険者ですが。」
次々と駒を移動させていくが、相手は守りに徹している。
「そうか。それはよかった。」
動きに性格が現れている。
俺と違って、自分たちで戦略を編み出したのだろう。
「やはりイッキに任せて、正解だったのだろうな。」
定石でないことに、やりづらさを感じる。
「本当に俺なんかでいいんですかね?」
王を一度盤面から離して、また指し直す。
「与えた課題もこなしているのだろう?」
定期的に送ってくる宿題のようなものだ。
夜遅くまでやっているが、苦に思ったことはない。
「それはもちろん。」
かなりの勉強が必要不可欠だろう。
そして国を、人を、己を知ることもだ。
「不安か?」
「そうですね。」
さっきの一手が、ミスだと気づく。
自然と、口を手で覆い隠してしまう。
「養育相談所、そして職業訓練塾だったか。あれらはなかなか好評だぞ?」
「参考となる知識があっただけですよ。」
持ち駒から、盤面に指す。
しかし、それらは無作為に使ってはいけない。
数に限りがあるのではなく、負の影響も招きかねない。
「そうか。だが、イッキに任せたのは正解だと思ったぞ。もちろんユミナのこともだ。」
「俺にできることをやっているだけですよ。できないことはまだまだ多い。」
この将棋も、望月がもたらしたものだ。
個人魔法は俺にはできないし、ルールの周知も俺はあえてしなかったことだ。
「それでいいのだ。王は全知全能などではない。」
「そうか、それでいいんだよな。」
「ふっ、答えを得たか。」
金、銀、歩,……
役割の異なる、それらの駒を、王が動かすのだ。
「まるで将棋だな……。」
そして王のために、彼らは盾も槍ともなる。
王の首が取られないために犠牲をも厭わない。
この世界の人たちは、
それが王のためなら本望だと言うのだろう。
そう教育された国民のおかげで国家は成り立っている。
「それでも、犠牲にはさせませんよ。」
「む。これは…」
堅固な守りを、一手ずつ切り開いていく。
「王手。詰みですね。」
「ま、まってくれ!……なぜ勝てんのだ。」
「経験の差ですかね。」
まだまだこの人には敵わない。
ゆっくりと、もっと人脈を作って、いろんな経験を身につけていこう。