異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
どうやら予想以上にこの身体はよくできているみたいで、魔法の威力にビビってくれているようだ。武器の使い方なら何倍も大人たちに劣るだろうが、目で追いきれない魔法なら勝ち目がある。
だが威力はあるが、コントロールに関しては下手くそなんだ。
「おっさんたち、ちゃんと姫様守ってろよ!」
動揺してできた静寂の中で兵士たちがお姫様を囲むように動く。そのまま視界を塞いでくれていると嬉しい。
対して、俺は盗賊達に向かっていく。
「強化!」
身体強化魔法と言うべきだろうか。バケツをひっくり返したように、魔力を漏れさせるイメージで発動する。
「なんだこのガキは!?」
雷を纒い、俺はこの小さな身体で巨体の懐に瞬間的に踏み込む。リーダー格の男を押し倒すように、全身でナイフを突き刺す。
「雷の、追加だ!!」
焼け焦げていく身体に雷を直接撃ち込み、完全に動かなくなった身体からナイフから手を離す。
こうして、機械的な動作は終えた。
黒くなったものはゆっくりと倒れる。
同時に、腹の奥からドロドロしたものを感じた。
主に熊相手に使ってきたような必殺技なのだ。
意表を突いたとはいえ、効かなければ困る。
「くそっ!なんだこの化け物!」
「引けぇい!」
「リーダーはどうする!?」
「放っておけ!」
数にして7人ほど、1人を欠いた状態で森の奥に消えていく。俺がその1人だったものを憐れんでいることは間違っているのだろう。
だから、俺はすでに『異常』なのだ。
息を整えながら、警戒を今度は背後に向ける。
「ユミナ様、お怪我はありませんか!」
定形文のように見えて、単純に心配している。
仕事熱心な騎士だな。
「こいつ、まさか悪魔の類なのでは。」
いまだ警戒を解くことはない。
正義感溢れる人だな。
身体強化を解かないまま、重くなっている巨体を担ぐ。
槍を構える音がしたが、それよりもお姫様の視界をちゃんと塞いでほしい。
「お待ちください!」
「なんでございます、でしょうか?」
王族や貴族相手だし、一応敬語にしてみた。
跪いたほうがよかったかもしれない。
「申し訳ございません!」
優雅とは程遠く、勢いよく頭を下げた。
さて、謝られる理由の候補はあれど、どれも確証はない。
「……はい?」
「その、私のせいで、あなたには辛いことをさせてしまいました。」
「いや、あんたの方が大変だっただろうに……。ていうか、あんま無理すんなよ。」
思わず、ツッコミのごとく返答してしまった。俺はもう慣れてしまった『不快感』が彼女の顔には滲み出ている。
もう兵士も武器を下げて睨んでいないし、どうせ一期一会だし、口調はもうどうでもいいか。
「あー、ともかく、長居はしない方が良いだろ。さっさとお家に帰りな。」
お家というかお城でしょうかね。
住む場所が違うという言葉は正しい。
「ですが、あなたの身に何かあっては困ります!」
「いや、むしろお姫様の身に何かあったほうが困るのでは?」
俺よりも悲しんでくれる人ははるかに多いはずだ。
「あなたはどこに住んでいられるのですか?」
堂々巡りになることを察してとりあえずは引いたようだ。話を聞かない系に思えて、本質的なことをちゃんと聞きだしてくる。まだ10歳にも満たない少女であるのに、かなりのやり手である。
「あんたに関係ないだろ。偶然通りかかっただけだし。」
「いいえ、関係あります! もしかしたら、この危険な森に、あなた1人で住んでおられるかもしれませんし。」
図星なんだけど、ここって危険な森だったのか。
まだ見ぬ外の世界に希望を持てた。
ていうか、スタート地点がハードすぎる。
さっさとこの森から出ることにしよう。
「あんたも子どもだろうに。ていうか護衛少ないな?」
「そうですね。そもそも私がお忍びで、珍しい竜を捜すべく、来てしまったことが問題でした。」
竜もこの世界にいるのかよ。
空にはいつも以上に気をつけないといけない。
「ですが、これは運命なのですね。 よろしければ、お城へ来ていただけませんか? お礼もしたいですし。」
「……は? いや自分で言うのもなんだけど、身元不明、単なる孤児だからね。」
見た目や服装からも分かるだろう。
一応、恩人とはいえ身分が違いすぎるだろう。
「私、男の子のお友達が欲しかったんです。気兼ねなく話しかけてくれるの同年代は従妹だけですので。もちろん。お父様にちゃんとお話するつもりです。」
随分とお転婆でお優しいことだ。
そんなに俺をこのままにしておきたくないのか、ちゃんと親に言うってことが一番伝えたいことらしい。このお姫様の国自体が豊かそうだが、それでも『不安』というものは拭いきれない。
「もしかしたら、さっきのやつらとグル、仲間かもしれないな? なんなら、この森に棲む化け物かもしれないぞ?」
しかし久しぶりに会えた人だし、俺も内心嬉しいのだろう。勝手に口が動いてしまう。
出た言葉は、皮肉だったが。
「私は『魔眼』持ちなんです。人の性質を見抜く力を持っているとでもいえばいいですかね。」
「そんな極秘そうなこと急に言わないでくれます!?」
片手で額に当てる。
その『魔眼』とやらで信頼してくれているのかもしれないが、口が軽いのは確かだ。
確かに彼女の2色の瞳は透き通っていて、綺麗だ。
「とりあえず、一仕事させてくれ。」
「はい、わかりました。」
お姫様の顔にはすでに不快感はなく、ニコリと微笑む。
むず痒い気持ちのまま、彼らを先導する。
「わぁ、綺麗ですね。」
そんな池を血で汚していたことは言うまい。
馬車が通れないような道を兵士にお姫様を担いでもらって辿り着いたのは、俺の住処だ。身体強化かけたまま作業に取り掛かる。すでにいくつも用意している穴の1つに横たわらせ、土をかけていく。
兵士たちも何も言わず手伝ってくれた。
俺は手と手を合わせて。
お姫様たちも両手を組んで黙禱を捧げる。
命を奪った者だとしても、被害に遭おうとしていた者も、ただ彼の冥福を祈るだけだった。
罪滅ぼしになるのではと思って。たとえそれが偽善だとしてもいくつもの墓を建ててきた。俺は冒険者や盗賊の残した物で、生き長らえてきた。
そして今日、初めて人を殺した。