異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
『ベルファスト王国第一王女 婚約!!』
そんな見出しの号外が国中を駆け巡った。
それと同時に、望月による『国王暗殺阻止』も報じられた。個人名や詳細な情報や解決手段などは伏せられたが、十分な報奨金と屋敷を褒美として与えられたことは周知されている。ちなみに王金貨20枚、日本円ならば2億円に相当する恩賞である。
あまり実感していないが、国を救ったことに等しいのだ。
俺にとっても大事な人であるので感謝の気持ちでいっぱいである。
「久しぶりですね、スゥ」
「こんにちわじゃ、ユミナ姉様。」
「久しぶり。」
「イッキも久しぶりじゃな。」
同じ月色の髪を持っているし、実の姉妹のようにも思える。そんなユミナの従妹とは久々に会う。今は亡きバルサ伯爵の命令によって、彼女は襲われたこともあったので外出は控えさせられていた。ここ最近、俺もユミナもバタバタした毎日を送っていたこともある。
さて、今何をしているかと言えば、望月の屋敷でお茶会だ。アルフレッドさんとスゥシィが訪れている。
もちろん、シルエスカ姉妹や九重も参加している。
ユミナたちとガールズトークをするだろうし、直に緊張も和らぐだろう。
琥珀は庭園で日向ぼっこをしている。
「トウヤ殿、兄上のことは重ね重ね、感謝を申し上げる。」
「いえいえ、何度も言いますが、運がよかったんですよ。」
菓子をモグモグしながら、互いに近況報告を行っていく。たとえ次期国王となったとしても、身内しかいない時のマナー違反はやめられそうにない。
「どうやら引っ越しも無事に片付いたようだな。」
「はい、なんとか。イッキやユミナもいましたし。」
望月やシルエスカたちも屋敷に住むことは初めてなので、サポートをお願いされた。
「いい屋敷なんですけど、まだ慣れないと言いますか。」
「ははっ、そうか。」
王都の中心から少し離れた、外周区にこの屋敷がある。
望月も落ち着いたところがいいだろうと、ここを選んだ。
「どういたしまして。屋敷の主人になったとはいえ、慣れてないだろうしな。」
俺やユミナは客人としてその屋敷に住まわせてもらい、まだしばらく行動を共にすることにしている。たぶんまだまだ他国の事情に、望月は巻き込まれそうだし。
「そうだ、使用人は足りているのか?」
「とりあえず、俺たちから何人か紹介を。メイド2人、騎士2人、庭師の夫婦、そして執事……まあ、少数精鋭ですかね。」
挙げてみたものの、まだまだ少ないことが再確認された。執事や、騎士であるハックさんやトマスさんもすでに高齢である。
アルフレッドさんも苦笑いだ。
「それで、今日は何か用があってきたんですか?」
「そうだな。そろそろ本題に入ろうか。みなもよいか?」
「はい。」
「わかったのじゃ。」
女性だけで楽しんでいた恋バナから、現実に戻される。
ユミナへの恋愛相談会はよくある光景である。
朴念仁には困ったものだ。
「実はな。同盟国であるミスミド王国との、会談の席を設けることになったのだ。」
「それが僕に関係が?」
「まあ、聞いてくれ。会談にはどちらかの王が、王都へ出向くのが一番なのだ。しかしそれには必ず危険が付きまとう。」
暗殺のこと、スゥシィが狙われたこと、帝国の不穏な動きもある。旅路に関して慎重になるのは自然なことだろう。
「俺が代理でサクっと行ってもいいんだけど、向こうの政治体制は一筋縄じゃないからな。」
「それはどういうこと?」
「ミスミド王国は数種類の亜人による連合国だ。獣人のトップ以外にも、それなりに誠意をちゃんと見せなきゃいけない。それに、ミスミド側の人たちを送り届けることにもなっている。」
妖精族の長とか、想像しただけで一筋縄ではいかなさそうだ。
「そこで申し訳ないが、『ゲート』の使用をトウヤ殿にお願いしたい。これはギルドを通した依頼として報酬ももちろん用意しよう。」
すでに潤沢な資金を持っていても、冒険者である望月は依頼なら引き受ける可能性は高い。
「でも、『ゲート』って確か…」
「一度、行ったことのある場所、だけなんですよね?」
「うん。そうだね。」
「一度、ミスミド王国まで行かないといけないのじゃな。」
「そうなるでござるな。」
「確か、馬車で10日ほどでしょうか。」
「なかなかかかるわね。」
「それと、これって強制じゃないからな。」
各々好き勝手に意見を出しつつ、望月に判断を任せる。
顎に手を当て考えこんでいる。
「わかりました、引き受けます。旅行みたいなものですし。」
「おお、引き受けてくれるか! そうそう、王都までは大使やその警護の者が案内してくれるそうだ。」
「オリガさんが帰国? 妹のアルマも一緒に帰るんですか?」
「ああ。おそらくそうするだろう。」
「あの、よろしいでしょうか?」
ユミナが少し手を上げて、何かを発言しようとする。
「あまり、『ゲート』を使えることは広めないようにすべきなのでは。」
「一理あるでござる。」
「え? そう?」
やはり危機感がなさすぎる。
どの国も、喉から手が出るほどの人材であることを自覚してほしい。
「何度か言ったと思うが、望月が個人魔法を使えることはそれなりに隠しているからな。例えば『リカバリー』とかバレたら、患者が殺到するぞ?」
「なるほど。確かにそうだね。」
ようやく、少し意識してくれた。
この段階までが長かったし、まだまだかかりそうだ。
「……なあ、制限付きの『ゲート』はできないか?」
「ふむ。イッキ、詳しく説明してくれ。」
「シャルロッテさんにあげた眼鏡のように、『ゲート』を『エンチャント』した魔具を渡すってことになりますかね。ただし、それぞれ専用の物の地点に移動できるようにする、とか。」
「なるほど。それぞれの城のみを繋げる『ゲート』ということか。」
「そうです。望月にしか分からないが、某RPGで言えば『旅の扉』だ。どうだ?」
「うーん、できる、と思う。」
確証はないことは確かなのだろう。
もしできなかったら、一度だけ顔を隠して『ゲート』役をしてもらうしかない。
いつでも『ゲート』を使える魔具を求めて、将来的に争いが起こっても困る。
「そういえば、出発はいつになります?」
「3日後を予定している。かまわないか?」
「はい。準備しておきます。」
了承してくれたようで何よりだ。
さて、一度城に戻って、俺も打ち合わせや準備をしなければならない。
「いいのう、わらわも行ってみたかった。」
「旅から帰ってきたらいつでも行けるようになるから、今度スゥも連れてくよ。」
「ホントか! やはりトウヤは頼りになるのう!」
護衛を増やすことを提案しておこう。
しかしスゥシィはずいぶんと懐いているようだ。
スゥシィの父の表情が寂しげだった。