異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
総勢30人が馬車5台を使って移動している。
多いか少ないか、どう思うかは個人によって異なるだろう。
10日もの旅路は長いように思えるが、交通面の文明開化が起きていないのだから仕方がない。俺や望月以外は、この距離なら当然ことだと理解しているようだ。ユミナと2人きりの馬車の中で、覚えている創作物の話をして時間をつぶす。新米冒険者であるし、大海賊時代の話には興味津々だった。
望月もオリガさんの妹さんに聞かせるために、そういった話をしている。
たき火を囲んで大人たちも耳を傾けていた。
さっきのは『猫の恩返し』だろう。
「っ!……みなさん!」
兎の獣人が、音を聞いて敵襲を察知する。
気配を隠して囲むように動いているし、それなりに腕が立つようだ。
《主よ、確かに何者かがこちらへ向かっています。盗賊の類いでしょう》
そのマスコット化やめて、元に戻ってほしい。
声で緊張感を失いそうだ。
「結構多い。20は超えるな。」
「そんなに……。」
ここで意気揚々と突っ込むことは愚の骨頂だ。
それにまだ相手は散開している最中らしい。
ユミナを俺の隣に寄せていつでも逃げられるようにする。
優先順位を見失うわけにはいかない。
俺の命にも価値が生まれた。
リオンさんたちも警戒態勢に入る。
ミスミドの護衛5人もオリガさんたちを守るように動いている。
「望月、行けるか?」
視界は悪く、リオンさんたちも動くことはできない。
俺たちは受け身になって、望月たちに任せるしかない。
「北に8人、東に5人、南に8人、西に7人。計28人だな」
「「「「はい?」」」」
当の本人はスマホを片手に敵の人数を述べた。
『サーチ』では50m圏内なのだが、スマホと合わせれば数kmへと強化されるのだろう。
「『エンチャント:『マルチプル』』。そして、『パラライズ』!」
個人魔法のオンパレードである。
緊急事態だから今回は何も言わないが、ミスミドの人たちには説明責任を問われそうだ。
「な、なにをしたんでしょうか。」
「麻痺の魔法を使いました。多分倒れて動けなくなっていると思いますよ」
「全員ですか!?」
「28人が全員ならね」
『サーチ』で盗賊だと判断された者に当たる、範囲魔法になったのだろう。
つまりマップ兵器である。
準備がかかるとはいえ、個人魔法の友好的な組み合わせ方だ。
「えー、もう終わりなの?」
「トウヤさん、すごいです。」
「呆気なかったでござるな。」
個人プレーすさまじいことはわかる。
だが今は、戦闘狂たちは黙っててほしい。
「マヒの効果はどれくらいだ?」
「半日くらいかな。」
もちろん縄で捕えておく。
そして、『パラライズ』を重ね掛けしてもらえばいいだろう。
「十分だ。次の町の衛兵に引き渡す。いいですか?」
「もちろん。ここはまだベルファストですので。」
彼らにも事情があって、襲ってきたのだろう。
願うことなら、罪を償って真っ当に生きてほしい。
ズボンのポケットに、汚れた手を入れる。
「『闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼、シルバーウルフ』」
最も足の速い、銀狼のボスが魔法陣から現れる。
ユミナは手紙の入った筒を首にかけて、次の町へ向かわせた。
「見張りは我々に任せて、皆様はお休みください。もちろんオリガさんたちも。」
「リオン殿、感謝いたします。」
「いえ、騎士として当然のことです。どうかお気になさらず。」
「はい!」
カッコいいこと言うじゃないか。
しかし、内心はバクバクだろう。
「じゃあ、任せるが、無理だけはするなよ。」
「「「はっ!」」」
「望月たちも休めよ。」
騎士や望月に挨拶をして馬車へ向かう。
ユミナが寝づらいだろうが、肩を貸せばいいだろう。
「ちゃんと寝るんだぞ。」
今夜も野営である。
初めは辛そうだったが、ユミナもこの旅で少しずつ慣れてきている。
「イッキさんが眠ったら、ですからね。」
悪いが、今夜は眠るつもりはない。
殺気に敏感であるとはいえ、完璧ではない。
誰一人として死なせない。
次期国王として『この甘さ』がいつか重大なミスを起こすかもしれないが、俺個人として譲りたくない。