異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
6日かかってベルファスト王国の最南端の町『カナン』、そこから船に乗り込んで『ラングレー』までたどり着いた。大陸を分けるように海峡があって、それがミスミド王国との国境でもある。そして、どちらの町にもすでに人と獣人が共生している。露店も立ち並び、それぞれの国民にとっては観光地扱いのようだ。
途中、シルエスカ妹が船酔いになって『リカバリー』をかけてもらったり、リオンさんがオリガさんへアプローチをかけたり、望月がミネストローネもどきを作ったり、1度の盗賊の襲撃以外、特に大きなトラブルは起きることはなく順調な王都への旅を続けている。
まさかフラグだったか。
「どうかしました?」
「ちょっと気になってな。」
月が輝いていて明るい夜だ。
神獣である琥珀のおかげで野生の魔獣は本能的に襲ってこない。
だが今夜はいつもより静かすぎる。
はるか遠くの方で魔物が騒いでいる。
その喧騒が少しずつ広まっているのだ。
『主!』
「なにか大きなものが来ます……空です!」
琥珀や兎の獣人が一早く反応した。
突然生じた風が木々を揺らす。
耐えつつ、剣の柄に手をかける。
ユミナも手元に置いてあった弓をちゃんと構えている。
「竜だ!」
「まさか、こんなところに!?」
空の黒い影、いや黒竜。
俺たちの上空を悠々自適に通過していった。
「なんだ、こっちに来るかと思ったわよ。」
「ひやひやしたでござるよ。」
黒竜の影はどんどん小さくなっている。
どこかへ向かって飛んで行っているのだ。
しかし獣人たちは驚いているようだし、日常茶飯事なことではないようだ。
「どういうことです? 普通はここまで来ないってことですか?」
望月が彼らに尋ねる、
ミスミド王国には竜も棲んでいると聞くし。
「ドラゴンは普通、聖域で暮らしています。そこから出ることはほとんどありません。」
「まさか誰かが聖域に踏み込んだか。」
「いえ、そうとも限らないのでは。時に、若い竜が人里で暴れることがあると聞きます。」
「あの、その若い竜の強さはどの程度、なのでしょうか……?」
「王宮戦士中隊、100人もいればなんとか。」
「それは、やばいわね。」
「触らぬ神に祟りなし、でござる。」
ベルファスト側は冷や汗を掻いている。
飛行している相手には苦戦を免れないだろう。
この場に100人はいないし、あの竜を討伐することは悪手だ。
「どうしますか?」
「できれば戦いたくないな。黒竜の目的次第だけど。」
「あいつエルドの村にまっすぐ向かってるみたいだ……!」
スマホで、『サーチ』を『エンチャント』したマップ機能を使った望月がそう発言する。
こんなことを気にしている場合ではないのだが、
そのスマホのマップデータって誰がアップロードしたのだろう。
「なぜエルドの村なのだ?」
「家畜を狙っているのでは。」
人も家畜も変わらない捕食対象になりうる。
このまま放っておけば、1つの村が壊滅する。
「くそっ!」
たぶん獣人の護衛の1人の故郷なのだろう。
助けに向かいたいけれど、任務を放棄することもできない。
「どうします?」
リオンさんが尋ねてくる。
ここはミスミド王国であるが友好国だし、この緊急事態に対して独断で動いてもいいだろう。
「オリガさん、もし竜を討伐しても問題にはならないか?」
「はい。侵入者として扱われますので。」
条約をすでに結んでいるのだろう。
そこには多大な労力があったことが考えられる。
「わかりました。村の救援を考えさせてもらいます。」
思い詰めていた獣人の顔が明るくなる。
さて、
琥珀がパパっと倒してくれればいいのだが、たぶん空中戦向きじゃない。
「最善の手段、か……」
村へ向かっている黒竜に今すぐ追いつくこと。
それはこの場で俺以外にはできない。
だがユミナやオリガさんを危険に晒すことはできない。
次期国王として、本当に正しいのどうか。
揺らぐ。
そんな俺の、血を流すくらい握りこんだ拳を、柔らかい手のひらが包み込む。
「私も戦えます。もう、怯えたりはしません。」
「ユミナ...」
「だから、行ってください。」
ユミナはこの『甘さ』を好きでいてくれる。
後悔はしたくないし、俺にできることならやってやる。
「リオンさん、ユミナとオリガさんを必ず守れ!」
「誓おう!」
「死ぬなよ。」
「それは俺のセリフだよ。」
トリストウィンの懐刀がレオン将軍。
リオンさんは俺にとっての相棒だ。
「森から移動した魔物がいるかもしれない。ミスミドの人たちと協力して、村人の避難を頼む。」
「「「はっ!」」」
他の騎士達も見事な礼を見せてくれた。
しかし俺にとっては配下などではなく、切磋琢磨した仲間だ。
「お前らも、死なないでくれよ。」
「変わらないですね、次期国王様。」
「褒美は期待してるからな!」
「さっさとドラゴン倒してこいよー」
軽口を叩き合うのも久々だ。
次期国王となっても、俺の『異質さ』を知っても、変わらない関係がある。
「私たちも手伝うわよ!」
「お任せくだされ!」
「私も、微力ながら、ですけど。」
「サンキュ。村の方は頼むぞ。」
パーティーメンバーの存在も頼もしい。
「望月、遅れてもいいから援護に来てくれ。」
「うん。できる限り急ぐよ。」
「ユミナ、行ってくる。」
「はい、お気をつけて!」
挨拶は済ませた。
この『異質さ』を最大限に使う覚悟も決めた。
たぶん今、俺は獰猛な笑みを浮かべているのだろう。
久しぶりに、半分の血が騒ぐ。
「別に、アレを倒してしまっても構わないだろう? 『龍化』」
黒竜へ向かって飛翔する。