異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
日の出だ。
頭が痛い。
二日酔いである。
決闘後に開かれたパーティーで、意気投合したミスミド王と大笑いしつつ酒を飲んでいたことまでは覚えている。ミスミドのドレスを着たユミナも脳内にちゃんと焼きついている。
そこからの記憶があやふやだ。
外に飛び出して決闘を始めたり、修行なのだと城内を全力疾走し始めたり、逆立ちで王都を1周したり、片手間に盗賊を捕らえたり、2人して素振りを続けたり。
そんなことをしていた気がする。
「なんだ、このクマ。」
俺の腹の上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
クマの身体が柔らかいので痛くはない。
その心地よい衝撃で酔いもさめてきた。
「あなた、こんなところで何をしているの?」
黄金色の瞳と、俺の目が合う。
背はユミナと同じくらい。フリル付きの黒いドレスに黒い靴、そして黒のヘッドドレス。銀色の髪によく合っている。無色透明な蝶の翅は朝日の光で照らされていて綺麗だ。
「ここ、宮殿だよな?」
「ええ、中庭ね。」
最後には宮殿までたどり着いていてよかった。
「ポーラ、怪しい人からは離れなさい。」
「この子、ポーラっていうのか。」
クマが降りてくれたので、上体を起こした。
まだ疲労感が残っている。
撫でれば気持ちよさそうにする。
「ああ、あなたが噂の。」
「噂?」
「第一王女の婿、それは龍なのだという噂よ。」
「おお、知名度が上がってて嬉しい。」
「あなた、おもしろいわね。着いてきなさい。」
名前も知らないその少女に着いていく。
たどり着いたのはたぶん自室だ。
ユミナの自室のように、動物の人形が多数置いてある。
「俺はイッキ。ベルファスト次期国王だけど、お堅いのは苦手なのでよろしく。」
「私は妖精族の長、リーンよ。こっちの子はポーラ。」
リーンの腕に抱かれているクマも手を上げて挨拶してくれる。
「いい子だな。生きているようにしか見えない。」
「……そうよ。クマのぬいぐるみだけどね。」
「へぇ、そうなのか。」
「少し見せてあげるわ。
『プログラム開始
/移動:前方へ二メートル
/発動条件:人が腰掛けたとき
/プログラム終了』」
個人魔法を使ったようだ。
やばい、元理系高校生としてドキドキしてしまう。
「その椅子に座ってみなさい。」
「……ヴェ!?」
椅子に座った瞬間、勢いよく振り落とされた。
ポーラがトコトコ歩いてきて心配そうに撫でてくれる。
「あら、速度の指定を忘れたわ。ごめんなさい。」
「このやろ……」
笑顔である。
明らかに謝っているような顔ではない。
「まあ、確かにそうだったな。奥が深い。」
「あら、そう思う? できることは簡単な動きくらいだけどね。」
「それなら、ポーラはどうなんだ?」
「何百年と『プログラム』をかけていたからよ。」
「なるほど。AIみたいなものか。」
「エーアイって?」
「人工知能のこと。もはや人工生命だな。」
ポーラの頭を撫でてあげれば、嬉しそうに身をよじる。
リーンは我が子のように喜んでいる。
「ていうか、何百年って?」
「昨晩トウヤにも言ったけど、612歳ってことにしておいて。」
望月にも会ったのか。
『プログラム』を教えてもらって、利用方法をすでに考え始めていそうだ。
「……600年生きるのって、どうなんだ?」
気づけば、悩みを口に出していた。
「どうって。何か悩みでもあるの?」
「いきなり、こういうこと言うのもなんだけど、ユミナって普通の人間なんだよ。」
「ベルファストの第一王女のことね。だいたいわかったわ。」
「理解が早いな。」
それだけで察してくれた。
リーンも何度か同じように悩んだのだろうか。
「たぶんだけど、俺は半分龍。寿命は人よりは長いと思う。」
「そうでしょうね。」
「悪い。まだ20年も生きていないのにな。」
「別に気にしないわよ。まあ、100年後。私が生きているうちは思い出話に付き合ってあげるわ。」
「ありがとう、かなり気が楽になった。だから、ユミナとの時間を大切にしなきゃいけないよな。ていうことで、仮眠してくる。」
「……そう。また今度、遊びに来てくれる?」
「ああ。またな、リーン。ポーラもお母さんと仲良くな!」
部屋を飛び出て、再び中庭まで戻ってきた。
背伸びをする。
気持ちのいい朝だ。
「あー、ねむ、い…」
***
そして昼まで、力尽きたように寝ていたのだ。
「ずいぶんと、昨夜は楽しそうでしたね。」
「ご迷惑をおかけしました。」
ユミナへ、見事な土下座とともに謝罪する。
同じようにミスミド王もこっぴどく叱られているだろう。
「あの、どうすれば許して、いえ赦してもらえるでしょうか。」
「じゃあお詫びに、街までエスコートしてください。」
「ぜひ!」
拗ねていたユミナも次第に機嫌が良くなっていった。
ベルファストとは異なる街の雰囲気にウキウキしているのだ。
護衛の2人が苦労していそうだな。
初めは腕を組んでいたが、今は腕を引っ張ってあちこちへ連れていかれる。
キュルル、という可愛い音が鳴った。
「何かリクエストはある?」
「そ、そうですね。ベルファストでは食べられないようなものがいいでしょうか。」
「それもそうだな。うーん、肉料理しか見当たらないな。」
多種多様な種族が住んでいても獣人の多い国であるし、香辛料を使って焼いた肉が多い。
「あっ、トウヤ様たちがいますよ!」
ユミナが指差した方向に、望月とシルエスカ妹がいた。
マスコット化した琥珀は抱えられている。
姉や九重はまた訓練所に行っているのだろう。
つまり、導きだせる答えは1つだ。
「2人してデートかよ?」
「違うけど。」
「そ、そうか…」
朴念仁にも程がある。
デート相手が、ぷくーっと頬を膨らませている。
「えっと、お二人はもう、昼食はお済みですか?」
「いや、まだだよ。」
「じゃあ、どこかへ参りましょう。」
ユミナがフォローして、4人でごはん処を探し始める。
「なにか郷土料理はないのか?」
「確か、カラエという料理が有名、です。」
「お、あれじゃない?」
望月が指差した店へ入る。
しかし、この香りにはどこか懐かしさを感じる。
メニューを見る。
ビーフカラエ、チキンカラエ、カツカラエ、……
ていうか、牛肉や豚肉は使っていいのだろうか。
家畜も見かけたけど。
「どれがいいのでしょう。」
「辛いかもだし、コルマじゃないか?」
「じゃあ、それにしますね。」
初めて食べる2人は甘めがいいだろう。
望月はカツカラエ、俺はあえてビーフカラエにした。
「これは。」
「まさか。」
出てきたものは、まさにインドカレーだった。
そして、ナンではなく米。
いい意味で意表を突かれて、俺や望月は目をキラキラさせる。
そんな光景、誰得だ。
「あっ、これ美味しいですね! ちょっと辛いですけど。」
「そうですね、こういうのは初めて、です。」
味わって食べている2人を気にせず、ガツガツと掻きこむ。
うますぎる!
「「おかわり!!」」
「「えっ!?」」
ミスミドとの友好関係の締結、万歳と思った瞬間だった。