異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
「日本だな。」
「日本だね。」
『ゲート』から出た瞬間にそうつぶやく。
町並みも和風だし、立派な城もそびえ立っている。
「ここが拙者の故郷、『オエド』でござる。」
九人の領主、島津、毛利、長宗我部、羽柴、織田、武田、徳川、上杉、伊達によって各地が統治されているらしい。
「聞いたことがあるな……」
「そうだね…」
この『オエド』は徳川が統治しているらしい。
知ってた。
なんだかこう、むず痒い気持ちになる。
「で、リーンが行きたい古代遺跡って?」
「『ニルヤの遺跡』。名前だけしか知らないわ。」
それなら『サーチ』を使ったとしても、検索対象があやふやだし、数㎞範囲内にないといけない。
「八重、知ってる?」
「聞いたことがあるような、ないような。父上なら知ってるかもでござるよ。」
「とりあえず、町まで行ってみましょうよ!」
「もう、お姉ちゃん……」
呆れたような顔を見せるシルエスカ妹も含めて、全員がウキウキとしてる。
城下町までやってくる。
すれちがう人は全員、着物や帯刀。
まるで江戸時代にタイムスリップしたみたいだ。
「なにアレ? 人がなんか担いでるわよ?」
もの珍しそうにシルエスカ姉が指差した。
ていうか、俺たちがもの珍しそうに見られている。
鎖国してなくてよかった。
「ああ。あの中には人が乗ってる。」
「駕籠屋だね。お金を払ってアレに乗るんだ。辻馬車の代わりだよ」
「なんでわざわざ、人が運ぶんですか?」
「ベルファストほど道が整備されてないでござるからな。馬はかなり貴重なものでござるし。」
土地に合った交通手段が発達しているらしい。
望月が創った自転車も、まだ歩行者や露店が多い王都では普及に時間がかかるだろう。
下駄、風鈴、箸、瓦版、
次々と来る質問に対して、九重を中心として3人で答えていく。
「あれでござる!!」
たぶん実家だろう
大きな屋敷の前までたどり着けば、九重が小走りで屋敷へ向かっていった。
「母上! 只今帰りました!」
「八重。よくぞ無事で、お帰りなさい」
九重と抱きつき合っているのは母親だろう。
久しぶりの再会に涙している。
「あなた方は?」
「拙者の仲間たちでござるよ。」
「それはそれは……、娘がお世話になりまして、ありがとう存じます。」
「い、いや、別に大したことではないです。こちらも世話になっているので、どうか顔を上げて下さい。」
見事な所作で頭を下げる母親に望月が慌てて声をかける。
未来の義母上への第一印象はばっちりのようだ。
「ときに母上。父上や兄上はどちらでござるか? 城にでも?」
「殿と共に合戦場へ向かいました……」
「合戦ですと!?」
久しぶりの里帰りだというのに、状況は穏やかではないようだ。
俺たちも気を引き締め直す。
「一体、どこと!?」
「武田です。『カツヌマ』を奇襲したのち、『カワゴエ』に向かって進軍する武田を食い止めに向かいました。」
川越か。
あの川越市か。
よくあることだ、と思うのは不謹慎だ。
「戦況はどうなの?」
「残念ながら……。相手の軍師による奇襲、そして死霊術。それさえなければ。」
冷静にリーンが尋ねたら、思わぬ情報が手に入った。
どうやら禁忌に手を伸ばしているらしい。
「イッキ、ちゃんと聞いた?」
「ああ。個人的にもイラっときてる。」
次期国王としてあまり他国の事情に踏み込みたくはないが、それなりの大義名分はありそうだ。
「くっ!」
今にも飛び出していきそうだったが、こちらへ勢いよく頭を下げる。
「どうか、お力を貸してほしい!」
「わかった。行こう。」
「1人で飛び出していくかとヒヤヒヤしたぞ。」
「仲間でしょう?」
「微力ながらお手伝いさせていただきます。」
「私も、です。」
「リーンはどうする?」
「まあ、ここまで連れてきてくれたお礼よ。」
ポーラもシャドーボクシングをしていることが微笑ましい。
次期国王ではなく九重の仲間として、このまま彼女の親族を見捨てることなどできない。
「かたじけない。」
さて、情報はなく、完全にアウェイでの戦いだ。
ぶっつけ本番、出たとこ勝負。
琥珀の無双を期待している。
「八重、その峠のことを思い浮かべてくれ。」
「わかったでござる。」
「『リコール』……そして『ゲート』」
再び、その光の扉へ飛びこむ。
転移すれば、すでに戦は始まっていた。
籠城戦か。
戦況はやはり劣勢に見えた。
何人か戦国無双をしているが、不死身の兵には手こずっている。
「お兄さんは無事みたいだよ。お父さんの方はわからないけど……」
「っ! 早く砦に向かわないと……!」
スマホで『サーチ』したのだろう。
本来『サーチ』の範囲は50mだ。
リーンがその仕組みを知りたがっているが、今は戦に集中するらしい。
「望月、とりあえず暴れてくる。そっちは頼んだぞ。」
策略とかは望月やリーンに任せた方がいい。
この場で俺にできるのは戦って注意を引くことだ。
「イッキさん、お気をつけて。」
「ああ。城に着いたらバンバン射撃してやれ。」
「はい!」
「ユミナのことは任せなさい。」
リーンの実力はまだ見たことはないが、シャルロッテさんよりはるかに強いだろう。
「ああ、任せた。『龍化』」
空を駆け、戦場の中央に降り立つ。
あまり長時間は持たないし、全滅させることまではできないだろう。
この異質な存在に対して、反応が鈍い兵が多い。
どうやらほとんどが鎧を着せられた死体のようだ。
術者を探すのが手っ取り早いだろう。
しかしそんな暇もないし、方法も思いつかない。
魔力を籠める。
「『雷よ来たれ 我が身を憑代に』」
雷の魔法を纏い、帯電する。
「『雷龍の鉤爪』!」
空を掻き切り、雷の衝撃波が屍兵を地に伏せていく。
帯電している状態で、戦場を暴れ回る。
一般の兵もいるし、出力を抑えている。
よって痺れを起こしているだけだし、やはり時間稼ぎに過ぎない。
『イッキさん、少し動かないでください。』
「うおっ!」
マジでビビった。
『トウヤ様が範囲攻撃を行うようです。』
ユミナから直接脳内への念話が来たのだ。
もう携帯電話要らずである。
たぶんそういう魔法をリーンから教えてもらったのだろう。
飛翔して、滞空する。
「なんだありゃ。」
空中に無数の魔法陣が浮かんでいる。
まるでかの『王の財宝』だ。
そこから飛び出す光の槍が屍兵を貫いていく。
数㎞範囲なら、望月は個人魔法の組み合わせでマップ兵器を使えるようだ。
屍兵の身に着けていた鎧が散らばる
その惨状を見て、慈悲を与えられた兵たちが散り散りになって逃げていく。
俺も『龍化』を解く。
城へ徒歩で向かおうとしたら、急に景色が変わった。
「上手くいったわね。」
「ありがとうございます。」
いきなり目の前にユミナやリーンが現れる。
いや、俺が転移させられたのか。
なんだか今日は驚かされることばかりである。
「召喚魔法の応用か?」
「はい、リーンさんから教えてもらいました。」
「心臓に悪いんだけど。」
「あら、おもしろい体験ができたようね。」
「確信犯かよ。」
不敵な笑みを軽く睨む。
ユミナがあたふたしているのがかわいい。
とりあえず、籠城戦には勝利したようだ。
まだまだやるべきことは多そうだが。