異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
俺にはスマホはないし、遠くを見る個人魔法もない。
だから、俺を含めて待機組は徳川の本陣から様子を見ていることしかできない。
夜中にも関わらず、両軍の睨み合いが続いている。
「殿。」
「半蔵か。」
「うぇ!?」
「何者でござるか!」
影が浮かび上がるように長身の男が現れた。
ユミナやシルエスカ妹は、俺や姉の背中に隠れる。
「徳川の忍です?」
武田には椿さんがいたので予想はしていた。
リーンたちにも付いていてくれたのだと思う。
「そうだ。姫君たちを驚かさせてすまぬな。」
「いえ。」
現れるまで気配を全く感じなかった。
格上だ。
真正面から戦わないと、勝てないだろう。
「武田の将。救出に成功したようで。」
「やったか。」
「そのまま、軍師を討たんと敵本陣へ。」
「そうか。引き続き、頼んだぞ。」
「では。」
それだけ告げて、森の暗闇に溶け込んでいく。
まさに洗練された動きだった。
「き、消えたでござる。」
「と、ともかく、トウヤさんたちは、無事みたい、ですね。」
「イッキ、どうするの?」
俺に聞いてきたか。
ガントレットを装備したままで、シルエスカ姉はうずうずしている。
「現状維持だな。」
「婿殿の言う通りだ。そなたも落ち着いて待っておれ。」
徳川さんにも言われ、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
血気盛んであることは、長所でも短所でもある。
戦線を切り開く前衛には相応しい。
「望月が心配なのはわかるけどな。」
「な、何を言ってるのかしら!?」
顔を赤くして否定された。
なるほど、これがツンデレか。
「……我儘言って、ごめん。」
「まあ、今は信じて待ってろ。帰った時には『心配したよ』って抱きついてやれ。」
ユミナがしてくれた時は最高だった。
その時のことを思い出して、顔を赤くして俯いていて、グッとくる。
「か、考えておくわ。」
「じゃあ、私がやろう、かな。」
「ちょっ、やらないとは言ってないわよ!」
やはり姉妹の仲が良い。
同じ人を好きになっているのにギクシャクはしていない。
「女心を分かっておるな。」
「秋の空ですけどね。」
「まっことその通りだな。それにしても、姫君も良き夫を得たようだ。これでベルファストも安泰だろう。」
海外進出でも狙っていたのだろうか。
「俺はまだまだ修行の身ですよ。」
「ははっ、そのようだな。婿殿は儂の技を見て盗んでおる。」
「とても参考になるので。」
陣の構え方、指示出し、諜報員の使い方。
上に立つものとして、学ぶべき点は多かった。
「おっと、マップ兵器か。」
戦況に動きがあった。
武田本陣の空中で多数の魔法陣が出現。
そこから光の槍が降り注ぐ。
「いやはや、凄まじい魔法よな。敵にしたくないものだ。」
俺やユミナに聞かせるようにそう告げる。
今回の事件、徳川さんとは友好関係を結ぶことに繋がりそうだ。
俺たちも戦国無双する武者とは戦いたくない。
側に控えている徳川の猛者は槍や刀で、うちの騎士に対して対等以上に渡り合うだろう。
「殿。死霊術による兵、次々と倒れていくようです。」
「手筈通り、前線を進めよ。武田軍前衛の後退を許すな!」
「「「はっ!!」」」
采配を下す。
待機していた騎馬隊が飛び出していく。
両左右から囲むような動きだ。
「見事な追撃だな。」
各小隊長を担う、武将の不足が大きいだろう。
武田四天王も全員いないし、隣には屍兵だ。
元々士気が低かった。
武田の一般兵は腰を抜かしたり、散り散りになってたり、もはや統制などされていない。
「イッキさん、リーンさんから合図です。」
ユミナが召喚獣を通して伝えてくれる。
「解決したようで。」
「よしっ、退き鐘を鳴らせ!」
勝てる戦だった。
徳川さんの決断に誰もが従っている。
「あの、どうしてなのですか?」
「亡き真玄公の弔い合戦。ただそれだけだったのだ、姫君。」
「そうなのですね。」
「息子の克頼殿が武田を継ぐであろう。これでまた、泰平の世に戻る。」
民を想ってこその決断なのだろう。
広すぎる領地はメリットにもデメリットにもなりうる。
もし武田の地を得たなら、再び戦国時代が訪れるかもしれない。
器の大きさを感じた。
この感覚を抱いたのは3人目だった。