異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
蛍雪などではなく、蝋燭の火だ。
それでも光の魔石に囲まれている生活だったし、風情はある。
背筋をグググっと伸ばす。
すでに誰もが寝静まった頃だろう。
「誰かと思えば、イッキじゃない。」
「リーン。……眠れないのか?」
本来なら視力低下待ったなしなのだが、今の俺は暗闇でも目が効く。
フリルのついたネグリジェで、髪は解かれている。
今は透明化されていない蝶の翅は暗闇でも輝いている。
なんだろう。
こう、グッとくるものがある。
「まあ、そんなところよ。」
「望月に付いていけばよかったのに。あいつら、さっさと『ゲート』で屋敷に戻ったし。」
イーシェンの生活様式は江戸時代より前。
布団を床に敷いて寝るというものだ。
この部屋も和風旅館に近い。
もちろん普段使っているベッドなんてものはない。
だから、隣の部屋で寝ているのは、ユミナと九重、ポーラくらいだ。
「なんだか負けた気がするから、いいわよ。」
望月に、そしてユミナに対しても。
「負けず嫌いだな。お茶でも飲むか?」
「ええ、いただくわ。」
茶飲みを渡す。
もちろんカップではない。
「ていうか、これ緑茶か。」
「なにこれ、薬草?」
俺からすれば懐かしいものだ。
しかし彼女たちには合わないらしい。
「イーシェン特有のお茶だ。」
「へぇ。それで、こんな遅くまでお勉強をしているのね。」
「まあな。」
政治の歴史とか、国のしきたりとか。
そういう本を読み漁っている。
今の俺に一番足りないものは国民の価値観だ。
日本人が外国に行って、その地で君主制政治をやろうとしているようなものだし。
「苦労してるわね。」
あれからもう4年以上経った。
その言葉を俺がユミナに伝えた時だ。
「ありがとう。昨日の敵地潜入のこともな。」
「いいえ、拍子抜けするぐらい簡単だったわ。」
「『インビジブル』だったか。透明化の魔法。」
「そうよ。まあ、それすら、いとも簡単に真似されたわ。」
「俺たちにできないことをサクッとやってのけるしな。」
技術、魔法、人望、どれも俺をすぐに超えていく。
身体能力や剣術はまだ勝っていると思う。
「ええ、そうね。」
リーンは俺以上に嫉妬しているだろう。
何百年も前から磨いてきた魔法なのだ。
「弟子にしなくてよかったわ。もっと自信なくしちゃいそう。」
今は魔法の使い方がより上手でも、あいつなら数年もあれば越えてしまいそうだ。
「ユミナのことは頼んだぞ。」
シャルロッテさんに続いて、2人目の魔法の師匠である。
「もちろんよ……」
リーンは俺を押し倒す。
華奢な身体なので、俺の上に乗っている。
「ふふっ、硬いわね…」
「誤解招くことは言わないでくれる?」
俺の身体をふわりとさすっている。
ユミナもリーンも、この硬い筋肉のどこが良いのだろうか。
「あら、誤解されてもいいわよ、わたし…」
「俺はユミナも裏切らないからな。」
「ふふっ、それを聞いて安心したわ。」
試してくるのだから油断ならない。
ユミナのことも、ちゃんとリーンは大切にしている。
「何人も愛せるほど器用じゃないぞ、俺は。」
「いいわよ、2番目でも。」
「努力する。2人のことが大切だから。」
「ありがとう。」
等しく接することなんてできないから、今までの2倍以上愛するしかない。
「でも、今日だけは私を見て。」
金色の瞳に、俺の顔が映る。
リーンの桃色に染まった頬は印象的だった。
「大好きよ。ポーラのこと、生きているって言ってくれた。そんなこと初めてだった。」
「率直な感想だけどな。」
「ええ、そうかもしれない。でも、イッキはちゃんと私たちのことを見てくれる。」
2人も俺をちゃんと見てくれる。
俺たち3人とも、溜め込みやすい性格らしいから。
「私たち、あなたを1人にさせないから...」
安心したのだろう。
気が抜けて、スヤスヤと眠り始めた彼女の背中を撫でてあげる。
普段は大人びているけれど、実は甘えたがりのようだ。