異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
ベッドに寝かされたまま、2人から話を聞いていく。
もうピンピンしているけれど、逃げられないように、両左右で挟まれている。『リカバリー』をかけてもらったとはいえ、疲労で1日くらい目が覚めなかったらしい。それまで付きっきりで看病してくれたのだろう。だから、はやる気持ちを抑えて今日は休むことにした。
「5000年前の通貨を持ち、あのフレイズ程度なら一撃で倒せる。さらにフレイズにも詳しく、あの馬鹿みたいな暑さの中でマフラーをしている。怪しさ大爆発でしょう?」
「たしかにな。」
エンデという少年が望月の前に現れたらしい。転生者かどうか、その正体はわからないが、敵ではないようだ。単独行動が好きそうなやつだ。しかし『図書館』が見つかる前にフレイズの情報を聞いておきたい。
「それで、今回は残念ながら『工房』だったらしいわ。」
「『格納庫』にあるという、フレームギア。それが対フレイズの兵器らしいですね。」
「どうせモビルスーツだろうな、それ。」
コオロギサイズならともかく、マンタサイズに対抗するには、それ以外考えられない。バビロンの科学力から考えても、博士が開発できる能力は十分持っていただろう。
「知っているの?」
「故郷の御伽話に出てきただけで、同じかは分からないぞ。」
「へぇ、どんなもの?」
「一言でいえば、乗り物だな。望月が使っている銃、それも巨大なやつが搭載されている、とかな。」
「あの大きさで、あの威力ですからね。」
「期待できるわね。」
望月はサクッと、またマスター認証されたのだろう。
どうやらこの『庭園』と、『工房』は合体しているようだ。
「望月は何をやっているんだ?」
「遭難者の働き先を作っているみたいね。」
「たしか、本を集めていたでしょうか。」
本屋でも開店するのだろうか。
助けた人たちをそのままにしておけないとはいえ、また気まぐれな行動か。
「まあ、金だけ渡して街で生活させるよりはマシだろうな。」
「そうですね。」
今度、その店の様子を見に行ってみよう。
「それで、身体は大丈夫なの?」
上半身を撫でてくる。危ないです。
ユミナも顔を赤くして真似しなくていい。危ない。
「もう大丈夫だ。」
「咄嗟のことだったとはいえ、無茶をさせたわね。」
「ごめんなさい。」
「いや、感謝してる。これから他の魔法もできるか試してみたいくらいだ。」
リーンの個人魔法『トランスファー』と、ユミナの召喚魔法を利用した、遠隔的な魔力譲渡。
この2人となら、俺はもっと強くなれる。
「私たちはもうイッキさんに倒れてほしくないんです。」
「でも、やるんでしょう?」
「……ああ。まだこれで終わるはずはない。」
マンタより強い生物はいくつも思いつく。
つまり、あれ以上のフレイズがいるのだ。
それに対しては件のエンデも手こずる可能性があるし、俺たちもまだまだ強くなる必要がある。
「フレームギアが見つかるには、時間がかかりそうだしな。」
使いこなすようになるのも苦労しそうである。
『こいつ動くぞ!』って言いながら、なんだかんだ動かせるのはあの男だけだ。
「……そう、ですね。」
「言いそびれていたけれど、フレイズを倒してくれた時、ちょっとすっきりしたわ。別個体だけどね。」
「ああ、駆逐してやるよ、フレイズを1匹残らず」
次は、どんな強敵に会えるのだろう...ナ...
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読書喫茶『月読』
それが望月によってもたらされた元遭難者たちの働き口だ。
文字通り、置いてある本を自由に読むことができる軽食喫茶だ。防犯設備も完備されているが、あくまで望月の個人魔法頼りだ。望月は店主として、経営や本の仕入れを行っているらしい。
これを機に、この世界の文化を知ってほしいと思う。
想像以上に大盛況のようで、いまだ行くことはできていない。
それよりも、トリストウィンさんの呼び出しを優先した。
「元気そうだな、ユミナ!」
「お久しぶりです、お父様!」
親子が勢いよく抱きつき合う。
父親からすれば、ユミナが無事であるかいつも心配しているのだろう。
「イッキも、急な呼び出しでよく来てくれたな。」
「いえ、お気になさらず。」
席に着いて、紅茶と菓子で一息つく。
さっきまで2人と練習していて、報告を受けて急いで来たのだ。
「そして、リーン殿。海で会って以来だな。」
「そうですわね。」
そう言いつつ、ジト目を向けられる。
リーンも敬語が似合わないと思っていたことがバレたようだ。
「あの時は言いそびれたが、イッキとの婚約を歓迎しよう。」
「心より感謝申し上げますわ。」
「そう堅くしないでくれ。こちらこそ願ってもいないことなのだ。」
ミスミド王国との関係も深まることになる。
まあ、俺たち自体は恋愛結婚のつもりだから、副次効果的なものだ。
「なら、そうさせてもらうわよ。ユミナまで、そう思っているようだし。」
ユミナがビクッとする。
どうやら図星だったようだ。
「ははは、3人とも睦まじいな。あらためて、2人をよろしく頼む。」
「言われなくても。」
隣にいるポーラもポンと胸を叩く。
いやホント、この子は癒しだ。
「お父様、今日はなにか用件があったのでは?」
「おお、よくぞ聞いてくれたな!!」
この部屋に入ってから、ずっとニヤついた表情である。
何かしら朗報であることは理解していた。
「ユエルが身籠ったのだ!」
俺たちの時が止まった。
ユミナもリーンも俺の方を心配そうに見てくれている。
いつかは来るかもしれないとは思っていた。
しかし覚悟などできていなかった。
「おめで」
「至急、お伝えしたいことが!」
急に入ってきた兵士の声にお祝いの言葉はかき消された。
「なにがあった?」
彼は『エスピオン』の一員だったはず。
それはベルファスト国が持つ諜報部隊のことだ。
「レグルス帝国において、皇帝へのクーデターのようです。」
「なんだと!?」
迂闊だった。
フレイズのことばかりに、俺たちの意識が向いていたのだ。
レグルス帝国の戦力は騎士団と軍に分けられる。
特に軍の戦力強化が行われている報告は聞いていた。
「騎士団じゃなくて、軍か?」
「はい。首謀者は、東方軍司令 バズール将軍とのこと。」
ベルファストはレグルス帝国の西である。
すぐにはこちらへの影響はないが、用心するに越したことはない。
「レグルス帝国との国境警備隊への注意喚起、それでいいですか?」
「うむ、そうだな。……任せたぞ。」
「はっ。」
普通に扉から急いで出ていく。
別に、あの忍者のように消えることはなかった。
「3人ともすまぬな。」
続いて、トリストウィンさんも部屋から出ていく。
残されたのは俺たちだけだ。
「さて、どうするの?」
「……俺としては、クーデターを止めたいと思う。」
「イッキさん1人で、ですか?」
「ああ、そうだ。」
この2人にはそう簡単に隠し事はできない。
俺が冷静じゃないことくらい、自分でもわかってる。
「あの国には冒険者として行ったことがある。それに、徳川さんが武田に救援を出した時と…同じだ。」
首謀者であるバズール将軍は軍国主義を掲げるだろう。
そうなれば、隣国であるこのベルファストが戦火に晒される。
気づけば、そんな言い訳を口走っていた。
「止めても無駄でしょうね。だけど、必ず生きて帰ってきなさい。」
「……ああ。」
召喚魔法による転移、その距離がどこまでかはわからない。
戦場に単身飛びこむのだ、命の危険は十分にある。
「お父様には私たちから言っておきます。絶対に、悪いようにはさせませんから。」
「……頼んだ。」
完全な独断行動だ。
仮にも、次期国王第一候補だったやつがそんなことをするのだ。
―――それも過去のことだ
窓から飛び出し、魔法を使う。
「『龍化』」
いつも以上に暴れる魔力が、身体を駆け巡る。
銀龍が、東の空へ駆ける。