異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。   作:ヒラメもち

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悪魔、そして快楽

 

燃え盛る街が見えてきた。

軍服を着ている集団の真ん中、そこへ『龍化』を解いて降り立つ。

 

長距離移動に加えて、いつもよりずっと無駄の多い扱い方によって、魔力をかなり消耗している。すでにここは戦場なので気を抜くことはできないし、すでにスイッチは入っている。

 

 

「き、きさま、何者だ。」

 

『異質』なものを見る目、それが懐かしい。

 

槍や剣、杖を向けて警戒された。彼らの近接武器は紅く染まっていて、微かに残る銀色の表面は火によって照らされている。そんな武器が震えることなく、ちゃんと持つことができているのは訓練の賜物なのだろう。

 

 

しかし、こんなことに使ってほしくはなかった。

それが彼らにとって本望であるのなら、俺も価値観を押し付けよう。

 

 

「『雷よ来たれ 糸の呪縛 サンダ―ウェブ』!」

 

地面につけた両手から雷を発する広範囲攻撃だ。雷の威力を極力抑えることで可能としている、『パラライズ』の劣化版のようなものである。本来なら術者本人にも効くのだろうが、その事象には耐性がある。

 

 

得物を落とし、バタバタと倒れていく。

 

「さて。」

 

剣を引き抜き、戦場をこの足で駆け始める。

 

騎士団が防衛を行っているが、その数には差があった。軍は街のあらゆる方向から無差別攻撃している。逃げ惑う市民はどこに向かうのかさえわからず、ただ帝都の外を目指して走っている。

 

 

何人もの市民がすでに犠牲になっていた。

虐殺を行っている奴らはあくまで陽動であって、本命は帝都の中心部だろう。

 

 

 

剣の持ち手に力が入る。1人1人を救うことを俺は選ばない。道すがら、軍服を着ているヒトを雷魔法で気絶させていくだけだ。瓦礫の下へ必死に呼びかける声を無視して前に進む。

 

何度見ても慣れないし、日本人として慣れたくない。

亡骸を見て、自然の摂理などと思ってしまう気持ちもある。

 

 

「俺はまだ人間だ。」

 

そう何度も言い聞かせる。

 

剣を握った『腕』には力が入る。

もう片方の腕で、雷魔法を放つ。

 

 

高ぶる魔力を、抑え込む。

―――なんで抑え込む?

 

 

「待ってくれ!」

 

その声で、我に返る。

 

「ルクス・ロア・レグルスだ。どうか俺に力を貸してほしい!」

 

銀髪の青年で高貴な雰囲気だ。

すでに20歳を超えているだろうが、少し幼い顔立ちだ。

 

「あんた、レグルス帝国皇太子か。」

 

「ああ。君はベルファスト次期国王、だろ。」

 

騎士団の服は返り血や土埃で汚れていて、すでに戦った形跡がある。王族が騎士団所属なんて、帝国ならではだろう。剣を持って飛び出してきたとはいえ、正装のまま来てしまったのだから、聡明な者なら勘づくだろう。

 

 

「ただの冒険者だ。」

 

上着を脱いで、炎で燃やす。

 

「……なら、冒険者よ、協力してくれないか?」

 

「わかった。」

 

「ありがとう。ついてきてくれ。」

 

どうやら方向は城のようで、俺たちは戦場を全速力で駆ける。悲鳴があちこちから聞こえてくるが、それでも前を向き続ける。

 

 

「悪いが、走りながら説明する。」

 

「事情はだいたいわかってる。誰を一番守りたい?」

 

「……妻だ。サラ・レア・レグルス。できれば妹も。」

 

「わかった。」

 

「こんな俺は次期国王失格かもな。」

 

「いいだろ、誰かが継ぐ。」

 

「……そろそろだよ。」

 

 

すでに城内にも軍のやつらが攻め込んでいて乱戦となっている。様々な属性の魔法が飛び交って城は破壊されていき、そして怒鳴り合う声が耳に響く。あちこちにもう立つことはない騎士たちがいる。

 

彼の顔は、怒りと悲しみに満ちている。

それでも、脇目も振らず階段を駆け上がっていく。

 

 

魔法が次々とこちらへ飛んでくるが、前へ進むことで回避する。

 

 

「あの部屋だ!」

 

そう叫び、扉を開けようとした3人を勢いよく斬り伏せて部屋に跳びこんでいった。

 

 

「サラ!」

「ルクス様!」

 

その背後からの声を聞きながら、部屋の扉に守るように立つ。

そして、自分の手のひらを見つめる。

 

彼は優先順位を考え、そのためなら殺すことも厭わなかった。

 

―――俺は、なんて中途半端なのだろう

 

 

 

 

「すまない、待たせた。」

 

「気にするな。」

 

「あなたがイッキ様なのですね。ルクス様をお守りくださり、ありがとうございました。」

 

「成り行きだ。次はどうする?」

 

「妹や父上の部屋に行く。こっちだ。」

 

俺とサラさんを守るように、先導していく。

彼女のことは俺に任せるということだろう。

 

「覚悟ぉ!」

「邪魔だ。」

 

階段を駆け上がる足音は聞こえていた。

顔を勢いよく蹴り飛ばせば、ドミノ倒しに軍の奴らが落ちていった。

 

 

 

 

一際、豪華な部屋の扉を開いた。

皇帝がベッドに寄りかかって、傷口を抑えて苦痛に顔を歪めている。

 

「……は? なんでここに。」

 

「イッキじゃないか。」

 

件の妹と、その護衛の女性騎士と一緒に望月がいた。

ともかく、ルクスたちはまず各々の無事を確かめ合っている。

 

 

「皇太子夫妻まで生きていたとは。無能な奴らだ。」

 

「バズール将軍、貴方もここまでだ!」

 

敵の部下が将軍の前に出て、俺たちは牽制し合う。

 

 

「なんで、こんなことを!?」

 

「皇帝陛下は病にかかり、そのお心をも病んでしまわれた。ベルファストやロードメアとのを侵略することを躊躇うとは……、かつての陛下なら迷いなく決断したものを。」

 

皇帝陛下へ憐れむような視線を向けながら、呟くように告げた。

 

「いやはや、老いや病とは恐ろしいものだな。」

 

「それだけの、ことで!!」

 

「皇帝とは常に強くあらねばならないのだ!!……その資格を失った者には舞台から降りてもらう。無論、貴様にもその資格はない。」

 

「このっ!!」

 

「落ち着け、乗せられるな。」

 

今にも飛び出していきそうなルクスを留める。

 

「誰かと思えば、かの次期国王か。まさかこんなところにいるとは、我は運がいい。」

 

「通りすがりの冒険者だ。」

 

「口が達者だな。いや、さすが、姫君に上手く取り入っただけのことはある。」

 

「今は、関係ないだろ。」

 

「……ふむ。さて、そろそろ見せてあげよう、我が力を。」

 

 

 

溢れ出した闇の魔力は、今まで見てきたどの魔法よりもはるかに禍々しい。

 

「『闇よ来たれ、我が求むは悪魔の公爵、デモンズロード』」

 

壁一面の窓が吹き飛び、辺りが紫の閃光に包まれる。

 

 

 

月の光は、影に遮られた。

 

「あいつは、まさか……」

 

召喚されたのは城の外。

3階のこの部屋を見下ろすほど、巨大な悪魔だ。

 

「そ、そんな、あれほどの悪魔…。どれだけの代償が必要になるか。い、維持のための魔力だって……」

 

ルクスの妹がサラさんと支え合いながら、おそるおそるそう告げた。

 

 

それを聞いた俺たちは、悪魔の召喚者に威圧的な視線を向ける。

 

「ふっ、帝都の犯罪者どもを生贄に捧げたのだよ。」

 

「父上は反対していたはずだ!」

 

「だから甘いのだ、お前たちは!! 犯罪者の命ごときに悲しむ者などいないではないか。」

 

そう言いながら、軍服の袖を捲り上げ、赤い宝玉の腕輪を見せつける。

 

 

「この『吸魔の腕輪』は他人から魔力を吸い取る効果がある。そこのお前たちは、我のデモンズロードの極上の餌のようだ。」

 

 

俺たちは豊富な魔力を持っている上に、異常な回復速度を持っている。

 

しかし、ルクスたちはすでに膝をつき始める。

もちろん相手の部下たちもだ。

 

 

「『アポーツ』!」

 

将軍の周りに生じた障壁によって防がれる。

それさえ決まっていれば、勝ち確定だったんだが。

 

 

「ふむ。何を狙っていたかは知らんが、私に魔法は効かんぞ。デモンズロードの特性の恩恵だ。」

 

説明してくれるのは、圧倒的な自信からなのだろう。

望月が銃を向けたとしても、身構えもしない。

 

ゴムの弾丸は、障壁によって弾かれる。

 

「今度は飛び道具か? だが『防壁の腕輪』が我が身に対する物理攻撃は無効だ。もちろん魔力は消費するがな。」

 

その魔力は周囲から吸収し続ける。

 

 

「そこの部下たちのことはいいのか?」

 

「今の私は下位の悪魔を自由に呼び出せ、軍隊とできる。もはや必要はない。」

 

予想はしていたが、結局は自分のために起こしたクーデターなのだろう。国を発展させる想いなどそこにはない。従ってくれた部下も、何の罪のない市民も眼中にはない。

 

あるのは、野心だけだ。

 

 

「望月、みんなを避難させてくれ。」

 

「っ!? できるのか。君、3人を頼む。」

 

「了解。『ゲート』展開。対象・帝国皇帝、ルーシア姫、キャロルさんの三人。転移先は自宅の庭。」

『了解。『ゲート』発動しまス。』」

 

3人が光の扉に吸い込まれるように転移していった。

 

さっきスマホが喋った気がした。

しかし、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 

 

「貴様、転移魔法を使えるのか!? 忌々しい!!」

 

初めて余裕な顔が崩される。

思い通りに行かないことがあれば、逆上するタイプだろう。

 

 

「望月、行け。」

 

「……いいの?」

 

「回復魔法が使えるお前と違って、俺は必要ないだろ。皇帝陛下助けて、さっさと対策考えてこい。」

 

「くそっ、俺の完璧な作戦が!!」

 

デモンズロ―ド召喚に反対していた皇帝陛下なら、対策方法を知っているかもしれない。

 

 

「死なないでよね。『ゲート』」

 

まさか望月からそんな言葉を聞けるとは思わなかった。

言われずとも、死ぬことだけは絶対に避けるべきことなのだ。

 

―――転生したときから

 

 

「あんたは、行かなくてよかったのか?」

 

「国のこともだけど、イッキ君のことも、放っておけなくてね!」

 

気力だけで、剣を支えに立ち上がる。

もう1本の剣を抜けば、目には闘志が宿る。

 

 

たぶん魔力が元々少ないのだろう。

つまり、騎士として剣術を極め続けてきたのだ。

 

 

「ずいぶんとお人好しだな。」

 

「イッキ君もだろう?」

 

「自覚はないけどな。よく言われる。」

 

2つの腕輪、そしてデモンズロードの特性。

その3つが揃ってこそ、召喚主は無敵。

 

突破口は、

「「物理攻撃によるデモンズロ―ドの撃破。」」

 

俺たちの声は揃った。

 

 

「ふっ……ふっははは!!!……あー、笑わせてくれるな。人の身でありながらデモンズロ―ドに勝てるわけがなかろう。」

 

蝙蝠の翼を羽ばたかせ滞空している。

そのデモンズロ―ドの巨体に対しては俺たちの剣は小さすぎた。

 

 

それでも、勝つことを諦める理由にはならない。

 

 

「俺には魔法の才能はない。風の魔力しか俺にはなかった。だからっ!」

 

窓から跳び出していき、空を駆ける。

空中に漂う風を掴みよせているのだろう。

 

 

手に持つ双剣で、縦横無尽に切り裂いていく。

滞空しているデモンズロ―ドは、ハエを払うように手を振るう。

 

 

「しかし、あれでは勝てるわけがなかろう。」

 

剣戟による傷はあまりにも小さいけれど、少なからずダメージを負わせている。

 

 

「お前も行くのだろうが、忠告しておこう。大いなる力にはそれなりの代償がいる。ドラゴンと化す魔法、本当にノーリスクだろうか?」

 

俺は目を見開く。

袖を捲った将軍の右腕は、悪魔の物と少しずつ化している。

 

「俺にとっては人間をやめてしまっても本望だが、お前はどうだ?」

 

 

俺は震える『腕』を左手で抑える。

怒りを抑えこむように、本能を抑え込むように。

 

 

「……『龍化』。」

 

悪魔の嗤いから、まるで逃げたように思えた。

歯を食いしばって、デモンズロ―ドへ飛翔する。

 

 

「『炎よ来たれ 我が身を憑代に』」

 

魔力が乱れ、コントロールが上手くいかない。

いつもより大きい負担となっているし、効力も薄い。

 

 

尾の振り下ろし、その一撃は少し後退させただけに留まる。

咆哮とともに向かってくる巨大な拳を避ける。

 

 

生半可な一撃では、あの硬質な身体には届かないだろう。

ユミナやリーンがいない状態で、さらなる威力を得るには『龍』として戦うしかない。

 

「迷ってる場合じゃないよな。」

 

ルクスさんも少しずつはダメージを与えている。

しかし、さすがに動きが鈍くなってきている。

 

 

街の誰もが魔力を吸収されて、苦しんでいる。

それは市民や騎士団も、もう軍も関係ない。

 

 

―――龍よ来たれ 我が身に憑依せよ

 

 

意識を失いそうだ。

頭の中は闘争本能に埋め尽くされていく。

 

 

龍として、咆哮を放つ。

 

 

目の前の巨体に噛みついたまま、拳を避けることはしない。

その痛みに快楽を感じる。

 

 

これが龍なのか。

あの黒竜のことを思い出す。

 

戦うことに特化した種族だということを、実感してきた。

 

 

 

炎を吐き、雷を起こし、攻撃していく。

それが無駄なことは分かっていたはずだ。

 

 

ああ、タノシイ

 

 

「魔力を吸収、まさか大気中も!?」

 

 

悪魔は激昂している。

ヒトが勢いを失って落ちたが、もうどうでもいい。

 

地面に叩きつけられた、激昂する。

爪で魔力の刃を放つも、効かない。

 

 

空気を裂くほどの拳が、目前に迫っている。

 

戦いの果てに死ねるなら、本望だナ

こんな最期でごめん

 

 

―――風を、感じなくなった

 

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