異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
クーデターの報告もあってから、城内は慌ただしい。
大使の任を解かれたとはいえ、ミスミド王国との連絡役を引き受けた。レグルス帝国と地続きになっていないとはいえ、隣国であることは間違いないのだから、気が休まることはない。停戦協定が結ばれていた帝国で、軍国主義を掲げる将軍によってクーデターが起きたのだから、領土を獲得せんと動く可能性が高い。しかも王都が混乱しているだけで、帝国の国境警備隊は独立を画策しているのだから、それも質が悪い。
帝国は、ミスミド王国とベルファスト王国の2国合わせたほどの領土を持っている。
「リーンさん!」
窓からずっと東を見ていたユミナが、部屋へ入ってきた私に気づいて駆け寄って来た。
ユミナの自室は広いが、必要最低限の家具しかない。
5匹のぬいぐるみが、女の子らしいところかしら。
ウルフ以外、見たこともない動物だけど。
たぶんニホンの生き物。
足元までやってきたポーラを抱き上げて、ソファに座らせてもらう。
「クーデターは、まだ治まっていないそうよ。」
「そう、ですか……」
心苦しいけれど、ユミナには真実を伝えないとね。
「デモンズロ―ドは知ってる?」
「……えっと?」
「禁忌の召喚獣よ、クーデターの首謀者が召喚してしまったらしいわ。」
「そんなっ……」
召喚対象者の魔力量や魔力の質にある程度依存する。
だから神獣クラスは一般的には、喚ぶことすら簡単ではない。一般人ならね。
そんなハイレベルな召喚を可能とするのが、魔法書と代償が必要となる召喚魔法。
「ずいぶんと昔から、帝国は召喚魔法の研究をしてきたようね。」
まあ、それはどの国も同じかしら。
単純に兵力を増やすことに長けている魔法であるのだから。
魔物と心を通わせることは、二の次。
「見つけてしまったのだと思うわ、『ロスト・マジック』を。」
「失われた魔法のことですね。」
「そうとも言われているわね。存在しているだけで危険と見られ、その使い手は世界を脅かす者として認識される。まあ、今となっては使い手はほとんどいないわ。」
個人魔法よりも多くの魔力を消費するけれど、その威力は絶大。
ただし、基本的には代償を必要とする。
……止めるべきだったかしらね。
「召喚魔法の『ロスト・マジック』、ということですか?」
「ええ。どれほどの代償を要するかはわからないけれど、100人は生贄となっているでしょうね。」
淡々と語れているのは、永く生きているからかしらね。
ちゃんと悲しんであげるユミナが羨ましいわ。
「それで、イッキさんは……?」
「わからないわ。」
首を振って答えた。
もちろん私も心配で、すぐに向かってしまいたい。
「デモンズロ―ド、その眷族を今は召喚している最中だと考えられるわ。生き残った人たちの魔力を使って、たった1人のための、悪魔の軍隊を作っているのでしょうね。」
「そんなこと! し、召喚魔法はそんなことのためにあるものじゃありません……」
「ユミナは優しいわね。でもね、魔法は、いえ力は、使い方次第で善にも悪にもなるの。覚えておいて。」
「はい。」
「よろしい。」
ドアをノックする音が聞こえた。
王が呼んでいるとのことで、私たちは女性騎士に付いていく。
場所は王家専用の医務室で、国王や宰相、トウヤまではいい。
帝国の皇帝と皇太子妃と姫君と護衛騎士がいることに、頭が痛くなる。
どうせ気まぐれに立ち寄った帝国で、気まぐれに救出してきたのでしょうね。
お互いに軽く挨拶を済ませておく。
「早速だけどトウヤ、イッキに会わなかった?」
「会ったけど。」
「無事なんですか!」
我慢ができなくなったユミナが、声を荒げる。
「えっと……、調べてみるか。マップ表示。レグルス帝国首都。」
たまに使っている四角い板の魔具から、いきなりマップを投影した。
「こ、これは……」
「帝都の地図ですわ……。それも細かく……。」
それ、かなり危ないことではなくて?
「僕の無属性魔法です。便利でしょ?」
光魔法の応用かしら。
その原理や、不注意な使用には、口を挟みたいけれど、今はイッキの安否が優先だわ。
「検索。イッキを表示。」
『了解。……検索終了。』
その魔具、話すの?
ポーラを抱きしめる力が強くなっていたことに気づいて、緩める。
そうよね、ポーラは魔具じゃない。
生きているもの。
「あれ? 王都にいないのかな?」
「そ、そうですよね、王都にいないだけ、ですよね……」
ポーラを下ろす。
そして、明らかにうろたえているユミナを抱えてあげる。
もっと包容力がある人だったら、よかったんでしょうけどね。
「あの、冬夜様。お兄様を探すことはできますか?」
「ルクス・ロア・レグルス、と言いますの。」
「よしっ、検索。『ルクス・ロア・レグルス』を表示。」
『了解。……検索終了。』
さっきとは違って、投影された地図に緑の印がつく。
「ロメロ将軍の屋敷だな。無事なようだ。」
そう告げる皇帝も、姫君や皇太子妃も、安堵の息をついている。
「首謀者はあくまでバズール将軍、そういうことかな?」
「そうなるな、ベルファスト国王殿。……これは、余の責任だ。」
「そんな……皇帝陛下はご病気に伏せておられたのですから。」
「今は、どうするべきか考えるべきではないか。我々ベルファストも力を貸そう。」
「……かたじけない。」
「なに、今後の友好のためだ。次代には、平和な世界で過ごしてほしい。」
「平和か、よいものだな……。はやく、その尊さに気づけばよかった。」
「教えてくれたのだよ、義息子がな。」
「そうか。」
剣を握ったことすらない、そう言っていたわね。
「……それで、デモンズロ―ドを止める方法は知らないの?」
「残念ながら、召喚の方法だけだ。正直、召喚できかどうかさえ疑わしいことだったのだ。」
そうなると、具体的な案は思いつかない。
トウヤが喚びだした神獣が、対抗できるかにかかっているわね。
それでも、敵はデモンズロ―ドだけじゃない。
「なら、僕が明日朝イチで帝都に乗り込みますので、この辺で。」
そう告げて帰ろうとしたトウヤに、視線が集まる。
「待ちなさい。あなた、血迷ったの?」
「デモンズロ―ドと、その眷族の軍団、どうするというのだ?」
「なんとかなりますよ。僕には仲間がいますから。」
私やユミナへ視線を向ける。
対して、ベルファスト国王は心配そうに私たちを見ていた。
「まあ、いいわよ。待っていても、埒が明かないようだし。」
「私も、行きます……行かせてください!」
「……必ず、3人で無事に帰ってくるのだぞ。」
「任せなさい、妖精族の長として誓うわ。」
イッキの妻としても、ユミナの師匠としても。
「うむ。レオン将軍を含む騎士達に、護衛を任せよう。」
国の最高戦力を出してくれるなんて、頼りになるわね。
「………余も、帝都に連れて行ってくれないか。」
「えっ、危険じゃないですかね?」
「余は……いや、私は息子をどこか見限っていた。生まれた時に魔力の素質がなかった、それだけだ。」
「お父様……」
「皇帝陛下……」
「そんな息子が、今もなお、国のために戦っているのだ。今の私では足手纏いにしかならないだろうが、見届けてやりたい。」
「まあ、いいですよ。レオン将軍たちもいますし。」
「よしっ、方針が決まったな。」
イッキ、絶対に無事でいなさいよ。