異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
魔法も、剣も、この才能も、俺の誇りじゃない。
この想いだ。
この意志だ。
愛する力を、2人は育んでくれた。
「いってきます」
****
時間は、朝か。
雨で鎮火したけれど、『惨状』はいまだ残されている。
魔力の吸収に苦しんでいる人には、もはや敵も味方も関係ない。
大音量の交響曲が、聞こえた。
タイトルはわからないけれど、かつて聞いたことのあるものだ。
「望月か、相変わらずだな。」
自然と、溜息が出た。
どうせスマホで再生しているのだろう。
少しずつ音楽は小さくなっていく。
魔法で投影されたスクリーンに、皇帝が映し出される。
『帝都民よ、聞いてくれ。私はレグルス帝国皇帝、ゼフィルス・ロア・レグルスだ。』
懇願するような声に、人々はゆっくりと顔を上げる。
『皆に迷惑をかけたこと、皇帝として深く謝ろう。だが、あと少しの辛抱だ。このクーデターもすぐに鎮圧される。どうか安心してほしい。』
この苦しみから解放されるのだと、大切な人が助かるのだと、今はそう思うだけだ。
『ただ今をもって、帝都奪還する!』
人々は、希望を見た。
「さて」
地面に突き刺さっていた剣を引き抜く。
無銘の剣に魔力を纏えば、俺だけの刃と化す。
メンテを欠かさなかったとはいえ、素材はありふれた鉄だ。
しかし今は、あの誓いの時の、輝きを取り戻している。
「よしっ、行くか!」
剣を鞘に入れて、戦場を駆ける。
上空から、見覚えのある光の槍が降り注いだ。
しかし悪魔の眷族すら、障壁で阻まれている。
それはデモンズロ―ドの特性で、魔法無効だ。
それも、どこまで無効にできるかはやってみないとな。
俺に気づいて向かってくる眷族の数は50ほど。
空中を飛ぶガーゴイルは槍を、地上に並ぶデーモンは鎌を持っている。それぞれがは通常の召喚獣より強力だろう。1体を喚びだすことにも、その活動のためにも、かなりの魔力を消費するはずだ。
まずは、空中のガーゴイルだ。
魔力を捻り出し、両手に炎を纏う。
そして、その2つを合わせれば、巨大な火球が生まれる。
「『火龍の 煌炎』!」
叩きつけるように、群れに投げ込む。
まずは障壁を焼き尽くし、守られていた身体を焼き焦がす。
「ただの力押し、だけどな。」
元々魔防の高いガーゴイルは焼け死ぬことはないが、魔力ダメージによって気絶して地に墜ちていく。
「リベンジマッチ、だ!」
デモンズロ―ドの2つの眼から、紅い熱線だ。
眷族を攻撃した俺に放ってきたそれは、人の身体を容易く飲み込んで焼き尽くすだろう。
両手を腰にひき、鳥の嘴のような構えをする。
水の魔力を、両手に集めれば、水が渦巻く。
そして、両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から魔法を溢れ出させる。
「『海龍の 水流烈波』!」
海を思わせる水が、巨大な熱戦にぶつかる。
大量の水蒸気を発し、打ち消した。
武天老師様は素晴らしい技を編み出したと、やってみたら実感する。
「イッキ!」
「イッキさん!」
急いできたのだろう、肩で息をしている。
綺麗な瞳は、潤んでいた。
「心配、かけたな。」
「無事で、よかったです……」
「約束、守ってくれたわね。」
いまだデモンズロ―ドを前にしている。
しかし、生きていることを伝えられて、俺自身が安心してしまっている。
「終わらせるんでしょう?」
「よろしくお願いします。」
2人とも、少し離れて見守っていてくれる。
剣を抜き、両手で構える。
そこに纏わせる魔力は、風と火。
紅蓮の炎は、風によって爆炎となり、時を待つ。
迫ってくるのは巨大な拳だ。
その一撃に一度敗れた。
万が一避ければ、2人に当たる。
「これが俺の、『紅蓮 爆炎刃』!」
その刃は、悪魔の身体を斬ることはない。
その炎は、焼き殺すためのものではない。
敵の攻撃を防ぐことに重きをおく。
そして、その衝撃がデモンズロ―ドを、天へぶっとばす。
剣を、鞘に納める。
魔力がなくなる、それが召喚獣の最大の弱点である。
悪魔たちは元いた場所へ、ちゃんと還っていく。
「帰るか」
「はい!」
「ええ」
ほんの少し整理してきただけだ。
前世でやり残したことはまだまだいっぱいある。
この時間を大切にしたいから、今日も前を向く。
でも、ちゃんと忘れない。
****
バズール将軍は、すでに息を引き取っていた。
悪魔の力に耐えきれなかったらしい。
彼の遺書を読んで、皇帝が静かに涙を流した。
****
あれからすでに数日が経った。
いまだ城の中も、避難所として扱われている状態だ。
皇帝も、復興に尽力している。
平和な世界を作ることが、最後の仕事だと言っていた。
また、帝都の周囲の街から、物資と兵士が多く集められた。他にも、いわゆるボランティアに駆けつけた人たちがいる。光魔法の回復を使える人はもちろん重宝された。土魔法や水魔法で街の修復で、火魔法は生活において役立っていた。魔法を使わずとも、配給や運搬を手伝っている人もたくさんいる。
帝国は、確かに変わろうとしていた。
俺も冒険者として、慣れない治療に走り回った。
人一倍、魔力と体力があるし、この『甘さ』を好きでいてくれるし。
ベルファストの王宮と急遽繋げられた『ゲート』で、サクッと帰ってくる。
「イッキさん、お帰りなさい。」
「お帰りなさい。今日は早かったわね。」
ポーラも手を振って、労ってくれる。
「ただ...いま…」
こういうのは、まだ慣れない。
父も母も、婚約者ができたことには驚いていた。
そういう浮いた話、一度もなかったし。
ユミナが淹れた紅茶を飲めば、やっと一息つける。
リーンが用意しておいてくれた大量のパンにかぶりつく。
「またかなり魔法を使ったみたいね。」
「まあな。」
以前よりもずっと食事量が増えている。
「私も、光魔法が使えたらなって思います。」
「使えたとしても、数人を治療するだけで精一杯だわ。私も含めてね。」
リーンは闇以外の6属性で、ユミナは闇、土、風の3属性である。
「ほら、得意なことは人によって違うから。」
「また借りた言葉ね。」
「いい言葉ですね。」
俺って、真似が得意なフレンズだから。
魔法はイメージが大切なのだから、師匠とか目標の人がいる方がいいのだ。
「んで、何か進展はあったか?」
政治関連のことは2人を信じて、任せていた。
俺が復興を手伝うことなど、すでに予想されている。
「ルーシア姫が、トウヤの婚約者となることは確定ね。」
「それも、彼女自身が望んでいます。」
命の危機を救ってくれた白馬の王子様か。
まあ、これからそんな朴念仁を攻略してほしい。
「それで、どう言えばいいのか……」
「リンゼたちとも、婚約したみたいね。」
流石に焦ったのか。
ユミナによる恋愛相談会も行ったのかもしれない。
「スゥシィもです。」
好意を抱いていたのはわかっていたけれども、その行動力は父親譲りというか。
「あなたの生まれ故郷って、まさか一夫多妻じゃないわよね?」
「いや、法で罰せられる。」
「ト、トウヤさんなら、ちゃんと……」
さすがのユミナも、言い切ることはできなかった。
あいつってムッツリーニで、女性が好きだからな。
浮気したら、拳と刀と魔法が襲ってきそうだ。
「まあ、トウヤ次第ね。でも問題は、身分なのよね。」
「どうするんだ?」
2国の王族を娶るには、それなりの者でなければならない。
俺のように、誰かの義理の息子とするのだろうか。
「つくるのよ、国を。」
「……詳しく。」
マイクラやシムシティではないのだぞ、この世界は。
ゼロから国をつくるとか、俺は絶対に嫌だ。
ちゃんと学んでいるからこそ、その労力がわかる。
「ベルファスト、そしてレグルス帝国の国境にある領地、それを両国から譲渡することになりました。」
「譲渡って、確か……。」
「拝領、ではないから、その土地は個人のものね。」
「独立国家なのですが、2国の友好のための公国となりますね。」
あの気分屋を取り込むには、巧みな話術を使ったのだろう。
「国の名前は?」
「「ブリュンヒルド公国」」
やっぱり、中二病かな?