異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
大きな滝を背にそびえ建つ、白いお城と高い城壁。
『王都アレフィス』が前方に見えてきた。
ユーロパ大陸の西方に位置する、ベルファスト王国は過ごしやすい気候と国王様のおかげで豊かで平和な国らしい。主要な産業は縫製業で、のどかな雰囲気が漂っている。
「そろそろ到着ですよ。」
「お、おう。そうか。そうでございますか?」
「ふふっ、まだ緊張していらっしゃるんですね。」
「わるいかよ…。」
微笑みに対して、吐き捨てるようにつぶやく。
話相手になってほしいと馬車に乗せられたのだ。やはり目を引く馬車の中を興味本位に覗かれている。もちろん、カーテンで遮断させてもらったとはいえ、見られているという感覚はそのままだ。
話し相手といっても、俺がこの世界について教えてもらっていたことが多い。億劫になるくらい多数の国がそれぞれ大陸で領土を持っている。最近戦争はあまり起きていないらしいし、友好関係を結び始めたことには一安心した。元現代日本人だし、国同士の小競り合いにはあまり良い印象は抱かない。
ただ、メリなんとか山脈の向こうの、レグルス帝国とは不可侵条約に過ぎないらしい。もしかしたら、戦争が起きる可能性もあるのだ。このお姫様、姫騎士のごとく前線に行ってしまうのだろうと思うと頭を抱えそうになる。
「ユミナ様、お着きしました。」
馬車が止まった感覚がすれば、騎士から声がかかる。
「はい。」
ドレスの裾をつまみながら、騎士の手を取って優雅に馬車から降りる。優雅さの欠片もなく俺も続いて降りて前だけを見る。すでに開かれた扉の先は真っ赤な絨毯が敷かれている。ここでキョロキョロしないのはもはや意地だ。
どうせ服装や見た目で見下されるだろう。
「ユミナぁああああ!!」
「お父様!」
父親と娘が抱きつき合うという感動的な光景に兵士たちは涙している。
ていうか、この人が王様かよ。
肩の力が和らいだ。
「君がユミナを助けてくれたのね。」
月の色の綺麗な髪に、翠色の澄んだ瞳だ。
彼女とはよく似ている。
「いえ、俺は隙を作っただけですし。兵士の皆さんのおかげかと。」
「あらあら、できた子ですわね。ユエル・エルネア・ベルファストと申します。ユミナの母です。」
「イッキです。」
予想通りユミナの母親だったが、娘がいるとは思えない若々しい美貌だ。お姫様は母親似であるらしい。
「さて。」
どうやら感動的な場面は、母親と娘へと移り変わったようだ。
先ほどまでとは違い、キリっとした王様に俺も真剣になる。
涙の痕残っているし、あまり威厳はない。
「まずは我が国の王女を救ってくれたことへ感謝を述べよう。」
「もったいなきお言葉。」
片膝をつき、頭を下げる。
かつてサブカルで知ったような仕草や言葉をしてみただけだ。
騎士でもなんでもない平民がやっていいのかどうかは分からない。
「ああ、楽にしていい。これは1人の父親として言おう。イッキ殿、本当にありがとう。」
国王としてではなく、父親として頭を下げる。
この国の温かさの証だ。
「俺はきっかけに過ぎません。しかし無事であることを誇りに、いや嬉しく思います。」
「そうか。私個人としてできる範囲なら何でも願いを聞こう。さて、どうかね?」
「……じゃあ、とりあえず、読み書きを教えてほしい、そして働き先を紹介してくれますか?」
10歳程度の子どもが1人で生きるには厳しい世界だ。
たとえそれが温かい社会だとしても、この小さな手ではまだまだ何も成せない。
「わかった。」
フッと笑みを零した彼は、俺に何を感じていたのだろうか。