異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。   作:ヒラメもち

5 / 39
お茶会、そして魔法

 

名も知らぬ花が咲き誇っている庭園に赴く。

すでにメイドさんたちには伝わっているようだし、すでに恒例化しているし、ここへは顔パスである。

 

 

「ごきげんよう。」

 

お嬢様方のようにちょっと声を高くして言ってみる。

言ってみて、似合わないと自分でも思った。

 

「こほん、お待たせしました。」

 

言い直す。

 

「はい、お待ちしておりました。」

 

気にせず、ニコリと微笑む美少女に対して申し訳なさを感じた。

彼女は優雅に紅茶のカップを机に置く。

 

「ところで、やはり敬語は似合いませんよ。」

「やっぱりかよ ちくしょう!」

 

そう言いつつ、カップを片手で持つ。

メイドさんが淹れてくれた紅茶で喉を潤した。

もはや今となっては、優雅のカケラもない飲み方を誰も咎めることはない。

 

相変わらず、庶民にも良さがわかるような高級さだ。

 

 

「……それで、その魔石は?」

 

赤、青、茶、緑、黄、紫、そして無色透明、透き通った結晶が机の上に並べられている。魔法を使うときの補助になるアイテムで、その属性を使った魔具もある。例えば、シャンデリアには光の魔石が使われていて、城の電灯の代わりとなっている。

 

「今日は魔法のことをご説明しようかと思って。」

 

「感覚で使ってきたけど、下手な扱い方をしているのは自分でもわかる。ありがたい。」

 

「はい♪ では、早速始めますね。」

 

 

分厚い本を読めるような語学力はまだない。

ユミナの説明は上手いし、本腰を入れて聞くことにする。

 

 

「まず、魔法には『属性』がいくつかあります。火・水・土・風・光・闇・そして無の7つの属性です。」

 

なんていうか、厨二心が騒ぐような分類ですね。

 

 

「才能とでも言うでしょうか。誰もが個人差はあれど魔力を持ち、生まれつき『属性』は決まっています。」

 

「へぇ、薄々感じていたけど、全員が魔法を使えるんだな。」

 

「そうですね。1属性の方が多いのですが、宮廷魔術師には5属性をお使いになる方もいます。私は闇・風・土の3つが使えますが、他の属性は全く扱うことができません。」

 

人によって、『属性』の得意不得意がある。

食堂でも火や水の魔法を使っていたし、適材適所、互いに補い合うべきなのだろう。

 

 

「俺は雷と身体強化を使えるんだが、どうだ?」

 

「雷の魔法は風に属します。私も初歩の魔法とはいえ使うことができるので、お揃いですね。」

 

ドキッとしちゃうこと、このお姫様すぐに言うんだから。

意趣返しにドキドキさせたいが、いつもやられっぱなしだ。

 

 

 

「で、身体強化は無属性になるのか?」

 

そう言いつつ、無属性の魔石を手に取るが、何も起こることはない。

 

「はい。ですが無の魔法は特殊で、呪文は決まっていません。なので個人魔法とも言われますね。」

 

一度言葉を区切り、優雅に紅茶を飲む。

 

「治癒魔法である『キュアヒール』、身体の異常を取り除く『リカバリー』などがあります。あの、そういった類は思いつきませんか?」

 

無属性魔法は、ふと思いつくものなのだろう。

確かに『強化』も何となく使い始めた。

 

魔石を指で弄びながら、回復系のフレーズを考えるが思いつかない。

 

 

「悪い。無理そうだ。」

 

「いえ、そもそも同じ個人魔法を使える方はほとんどいませんし……」

 

「何かあるのか?」

 

特に『リカバリー』を使えるかどうかを期待していた気がする。

 

 

「イッキさんにも話しておかなければいけませんね。すでに1年ほど私の叔母がご病気に苦しんでおられます。少しずつ良くなっているとはお聞きしているのですが……」

 

完全な快調には至りそうにない、か。

その『リカバリー』の類の無属性魔法でしか治せない難病なのだろう。

 

 

「森に現れた『輝く竜』の爪でできた粉は『体力回復』の効果を持つという噂を、私は耳にしました。まだ幼い従妹のスゥの代わりにと、森へ向かった先でイッキさんと出会ったのです。闇属性魔法である召喚魔法が私の得意分野ですので、その竜と交渉できるのでは、とも思いました。」

 

「なるほど。」

 

「今となっては冷静さを欠いていた、と悔いております。」

 

危険を覚悟で森まで来たのだろう。

叔母や従妹のためにと、すぐに城を飛び出したことが容易に想像できる。

 

あの時、興味本位と言ったことは あくまで嘘だったか。

俺もそれどころじゃない状態だったし、ありがたい。

 

「まあ、だいたいわかった。」

 

「失礼いたしました、話を戻しますね。」

 

「いいのか?」

 

「はい。お父様も他国にまで呼びかけていますし、使い手が見つかる可能性は高いと思います。」

 

「そうか。俺もそれなりに探してみることにする。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

求めている『個人魔法』の使い手は、この広い世界のどこかにはいるはずだし、これから生まれてくるかもしれない。

 

 

 

「じゃあ、俺の適正を確認させてもらうけれど、どうすればいい?」

 

「魔石に魔力を注ぎ込んで、『光よ来たれ』というように詠唱してください。あっ、でも軽くですからね!」

 

「軽くって言われてもな。」

 

蛇口だのバケツだの水だの、

そういう大雑把な感覚でしか使ったことがない。

 

 

「イッキさんの雷の魔法は強力なんですよ。1詠唱であって魔法名もないのに、あの威力は魔力が高い証拠です。だからお願いしますね!」

 

念押しされる。

確かに今まで使ってきた雷の魔法でも、この庭園くらいは破壊しかねない。

 

 

そして、魔法名は口にした方がいいらしい。

これも何気なく思い浮かぶのだろうか。

 

 

「『光よ来たれ』」

 

恐る恐る魔力を籠めて、呟くように唱える。

手にした光の魔石には反応はない。

 

 

続いて、風属性と無属性以外を試していく。

 

 

 

「『火よ来たれ』」

 

勢いよく魔石が燃え出す。

少しビビった。

 

ちょうど手を覆うくらいの炎を纏っているが、熱さは感じない。

 

「火も合わせて、3属性か。後は練習あるのみだな。」

 

使える手札はそう簡単に増やすことはできない。

しかし俺が器用に多属性を使い分けられるとも思っていないし、1つ1つの魔法を極めていこう。

 

 

ちょっとだけ強くしてみたり、弱くしてみたり、

少しずつ火加減を調節する。

 

 

「イッキさん!服に燃え移ってますよ!」

 

ユミナが手をあたふたしている。

かわいい。

 

煙に気づいて、慌てて魔石から手を離す。

無事に鎮火したようだ。

 

「火傷はありませんか!?」

 

「特には。熱いとも思わなかったし。」

 

腕を擦ってもケガはない。

煙を立てて袖が焦げているくらいだ。

 

耐火性能のある服が欲しくなるな。

 

 

 

「本来、魔法によって引き起こされた事象は術者に影響するはず。報告によれば、直接使った雷魔法も彼自身には効かなかった。ちょっと君、私に火の魔法を使ってくれないかな? それに雷魔法を撃ってもいいかな?」

 

緑色、エメラルドとも言うべき綺麗な髪の女性がぶつぶつ言いながら話しかけてくる。

 

 

「どちら様で?」

 

「宮廷魔術師のシャルロッテさんです。」

 

件の5属性使いは研究者気質らしい。

なるほど、撤退しよう。

 

「あー、またの機会に。じゃあな、ユミナ。」

 

「はい、また来てくださいね。」

 

 

「えぇ!?協力してくれないのですか!」

 

そもそも転生者である以上、一番避けるべきことだろう。

いまだにユミナにさえ、秘密は伝えていない。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定