異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
帰還、そして出会い
ポケットの多い長ズボンと紺のパーカー、腰に帯剣という変わった身なりの冒険者がいる。
失礼だよな。
そもそも多種族、多文化がありふれている世界なのだから、人間というだけで奇異な目で見られることすらある。街行く人も俺よりは獣人に目を向けている。ちなみに彼らの種族の耳はどうなっているかが転生前からの最大の疑問だったが、2対ある。ヒトの耳と獣の耳を使い分けているらしい。
話を戻そう。
動きやすい普段着のように見えて、魔物の素材をふんだんに使ってもらった『魔具』である。丈夫さ、耐火性、洗いやすさなどなど注文をつけて金を積んで作ってもらったのだ。一般的な金属の鎧よりも防御力は優れている。
さて、冒険者として、かれこれ3年ほど旅をしている。
読み書き、剣術や魔法を身につけた俺はベルファストから飛び出した。
混沌としている世界を見て回ろうと考えたのだ。
この世界にはヒトもいれば、獣人や魔族といった亜人もいる。各種族ごとに領土を持っているとも言える状態であって、他種族への偏見も解消されつつあるが、いまだに迫害は残っている。恐喝、奴隷、国同士の小競り合い、俺は世界をこの目で確かめてきた。
まだまだ残酷な世界であることは確かだ。
それに、いまだに個人魔法の使い手を見つけることはできていない。どの国でも治療系魔法の使い手は重宝されているとはいえ、やはり魔物もいるこの世界ではケガの治癒が多い。本能的かどうかはわからないが、あまり医療方面に意識が向いていないのかもしれない。
「ふー、着いた。」
街の門を通り抜けて一息つく。
久しぶりにベルファストの王都まで帰ってきたのだ。1年ぶりくらいだし、今回もまた叱られそうである。この世界には携帯電話やスマホなどない。だから連絡を取る手段は手紙なのだが、いくつもの国境を越えて届かせるような力は平民にはないのだ。
「って、それスマホじゃねぇか!?」
「パーカーじゃないか… えっと、これのことですか?」
黒髪で瞳は黒い、日本人っぽい容姿。
今の俺の年齢()と同じくらい、高校生だろうか。
白シャツの上に黒ジャケットを着ているし、なんか日本の街中にいそうなやつである。
「そうだな。とりあえず場所を変えていいか?」
「はい。」
疑いもせず、裏路地の方向へ付いてきてくれる。
自分の実力に自信があるのか、信頼してくれているのか、はたまた人が良いのか。
「さて、自己紹介をさせてもらうけど、俺の名前はイッキ。今は冒険者をやってる。」
「僕は望月冬夜です。同じく冒険者をやってます。」
その名のイントネーションは、イーシェンか日本かだな。
「本題に入るんだが、あー、タメでいいからな。 転生者…だよな? 日本人?」
「そうだね。イッキは外国の人?」
まあ、確かに彼からすれば日本以外ってのは外国だよね。
「いや、日本人だ。憑依転生という形で5年ほど前から生きてきた。」
「へー。先輩になるのかな、僕は神様に転生させてもらったけど。」
勇者、なのだろうか。
しかし、あまりそれらしくない。
ていうか、あの国の王様が世界征服を企んでいたら困る。
「聖剣とかなさそうなんだが。もしかして転生特典は、そのスマホか? 」
「そうだね。生活レベルを聞いて、こっちでも使えるように神様に頼んだんだ。」
「は? ……いや、まあ、『情報』は武器になるよな。」
この世界は文明レベル的には中世くらいだし、魔法に頼りがちなため機械製品は発達していない。代わりとも言えるのが魔石を用いた魔具であって、シャワーや電灯に似たような設備もあるにはある。
だが、それを第一に求めるのはリスクが高いのではないだろうか。
「他にも、一応身体能力も向上させてもらったけどね。」
なんていうか、至れり尽くせりだな。
これで世界を救うことを義務づけられた勇者じゃないという。
彼自身が魔王ともなれる才能を与えられたのだ。
しかし神様だし、ユミナのように彼の本質を視て判断したのだろう。
「だいたいわかった。もうチュートリアル?は終わっているみたいだけど、何か聞きたいことはあるか?」
転生当初の俺が求めていたことだ。
そう考えると、未知の世界に対して『情報』は欲しくなることもわかるが、完全に納得できたわけではない。
「うーん、じゃあ良い防具屋はないかな?」
「そんなことでいいのか。こっちだ。」
俺たちは裏路地から出ていく。
ていうか、もう少し人を疑ってほしいものだ。