異世界は後輩転生者のスマートフォンとともに。 作:ヒラメもち
エレンさんの盲目が治ったという情報は瞬く間に広がった。
その手段については謎とされたままだが、やはり個人魔法と噂されている。
王であるトリストウィンさんも、王弟であるアルフレッドさんも、望月に関しては公表していない。国としては全力を揚げて手に入れたい人物だろうが、やはり恩人のことを第一に考えたのだ。
ともかく、ここ数年俺たちを悩ませた問題は解消されたし、連日お祭り騒ぎである。父親2名がはしゃぎたいタイプなのだから仕方がない。男たちは宴会で勝手に盛り上がっているだけで、女性陣は優雅なお茶会を楽しんでいるらしい。
「リオンさん、お久しぶりです。」
「イッキ、かなり背が伸びたね。」
月夜のバルコニーで、
酒の入ったグラスの音が鳴る。
「そうですかね。第一騎士団での活躍の噂、いろいろ聞いてますよ。」
「まだまだ父上には敵わないよ。それに、イッキだって相当腕を上げたようだ。」
「まぁ、それなりの場数は踏んできました。でも、剣も魔法もそれこそ、その辺の石でも使う、勝てばよかろうなのだって感じ。」
「はは、そうか。そろそろ敬語やめたら?」
「へいへい、俺には似合いませんよー。」
この城で働き始めた頃、俺へ嫉妬する者もいた。出自も謎だったり、明らかに平民だったり、王女様のお気に入りだったり。この国は豊かだから、予想より少なかったとはいえ窮屈な生活を送っていた。
まだ打ち解けていない状態で、ずいぶんと気にかけてくれた兄のような人だ。何度も剣を交わせたし、何度もレオン将軍に2人一緒に叩き潰された。
「君はやはり騎士にはならないんだろうな。縛られない生き方が似合っている。」
「好奇心を拗らせてるだけ。冒険者は気楽でいいですけどね。」
軽口を叩き合っても、酔うことはない。
グラスの紅に目を向ける。
俺たちはただ騒いでいるだけではないのだ。
かつて剣を交えた彼らにはもう会えない。
「……あいつらも、スゥシィ様を守れて本望だと思うよ。」
「もっと早く個人魔法の使い手が見つかっていたらって思うとな。」
望月が蘇生魔法すらも使えれば。
望月がもっと早く駆けつけていたら。
くそ、自分にイライラする。
望月は恩人だろうに。
それに、あいつがいなければもっとヤバいことが起きていたかもしれない。
俺に、望月のようなチートがあれば……
「あまり自分を責めるな。」
酒を飲み干す。
今与えられているもの、それが俺の才能なのだ。
それを信じないでどうする。
まだまだ、俺はよわいな。
「……なぁ、リオンさん、なんで騎士になったんだ?」
「父上への憧れもあったと思う。でも、やっぱり国を守りたいという気持ちなんだろうな。」
「漠然としてるな。」
この辺りが、転生者と彼らの価値観の違いなのだろう。
いや、俺自身が『生』への執着が強いのだろう。
王族を守るために、己の命を懸ける彼らに同感することができない。
「王たちのお姿を思い浮かべれば、体が勝手に動くってことなのかな。」
本能、使命、正義、呪い、一体どれが相応しい言葉なのだろう。
「まぁ、深く考えたことがないならいいんじゃないか、それで。」
「イッキにも守りたい存在ができたら、わかるんじゃないかな。好きな人とかね。」
「そうだといいけどな。」
とりあえず、明日からがんばる。
だから、今夜はみんなで飲み明かそう。