そして少女は掴み取る   作:ニシウラ

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#04 困惑と混乱

 人は目の前で信じられない事態が起きた時、どのような行動を取るのだろうか。

 取り乱す?呆然と立ち尽くす?それとも見なかったことにする?

 

 生まれてから初めてその場面に直面したエルカーサリバーは、思いのほか冷静だった。

 いや、冷静ではないのだが、結果的に正しい行動を取ったと言うべきか。

 目の前にいた尋ね人が、急に見知らぬ2人組に連れ去られていったのだ。それこそパニックになってもおかしくなかったが、とにかく誰かにこのことを伝えなければいけない。急いで学校に戻って、頼れる大人──この場合は、彼女とその連れ去られた尋ね人のトレーナーである男──の元へ、超速で舞い戻った。

 

 「たいへんですたいへんです、おねーさんがあああーーー!!!」

 「どうしたんだリバー、とりあえず落ち着いてくれ」

 待ち合わせ場所であったグラウンド脇に着くなり、リバーは涙混じりの声で叫ぶ。あやしながら、状況をなんとか聞き出した。

 「・・・ふーん、ウマ娘2人組、ねぇ」

 「おいかけたかったんですけど、ちからが抜けちゃってぇ・・・」

 「・・・いや、その2人なら放っておいても大丈夫だろう」

 「へ!?」

 リバーが語った外見的特徴と状況証拠から、アタリは割り出せる。

 パーマーを連れ去ったグループは、ある意味で有名であった。

 

 「少なくとも悪さはしないな、彼女たちなら」

 きょとんとしているリバーを横目に続ける。

 「むしろやることは同じだろうし、今日普通にコースで併せるよりもいいかもしれないな、キミもそう思うだろ?」

 同意を求めた相手はリバーではなかった。体育倉庫の壁にもたれかかっていたウマ娘が答える。

 「・・・ふふっ、まあ、そうかもね」

 

・・・・・・・・・・・・

 

 バスン。

 なにかに身体を投げ出された拍子にパーマーは意識を取り戻した。

 「よーし、袋を取れヘリオス!」

 「はいっ、師匠!」

 「・・・っ」

 視界を取り戻したパーマーが見たものは、2人のウマ娘だ。

 外見的特徴は、小さい方が茶髪に大きなツインお団子、大きい方が黒髪のベリーショートだ。小さい方が「師匠」と呼ばれているため、上下関係はわかりやすい。

 

 というかここはどこなのだろうか。

 場所は河原沿い。どうやらさっきまでいた河川敷と繋がっているようなのだが、学園からはおそらく結構離れている。知っている限りで、こんなに殺風景なエリアはない。

 不法投棄されていたものを拾ってきたのであろう、おんぼろなソファーに投げ出されたままの姿勢で、あたりを見渡す。

 周りには草が生い茂っており、ダンボールで作った住居もちらほら見られる。そして、おそらくウマ娘が踏み荒らしたであろう草が不自然に禿げているラインが2本。

 

 ──ああ、そういえばアジトがどうのこうのみたいなことを言っていたような・・・

 

 なんとなく状況は把握した。ただし意図がわからない上に、自分の身が安全なのかもまだ不透明だ。

 

 「おいっ、おいっ、おまえ名前は???」

 師匠、とさかんに呼ばれていた小さい方のウマ娘が食い気味で話しかけてくる。

 「・・・人を連れ去ってんですから、まずそっちが名乗るべきじゃないですか?」

 「はー、うーん、それもそうだ」

 気づかなかったなあといった様子である。

 「アタシはツインターボっていうんだ、でこの大きいのがダイタクヘリオス、アタシの弟子だな!」

 「ヘリオスって呼んでねぇ〜、よろしくぅ〜」

 2人してものすごいドヤ顔だ。

 というかこの師匠と呼ばれているウマ娘──ツインターボ、かなり小さい。リバーよりも更に一回りくらい小柄で、140cmもないのではないだろうか。横でにこやかに手を振っているダイタクヘリオスというウマ娘が、逆に170cmを超えていそうな長身なせいで、余計にそう見える。

 

 というか、ダイタクヘリオスという名前とその顔はどこかで見たことがあるような・・・

 

 「・・・ヘリオスさん、わたしとどこかで会ったことあります?」

 「え〜っ?う〜ん、ないと思うけどなぁ〜」

 「おいおい、それよりお前も名前教えてくれよ」

 「・・・メジロパーマー」

 「か〜っ、メジロ?大層なお嬢様じゃないか」

 「すごいねぇ〜、きっと特別なトレーニングをしてるんだろうなぁ」

 名前を言っただけでピンポイントで地雷を踏み抜いていく。声を荒らげるのも面倒になってきた。

 

 「それより、こんなとこに無理矢理連れてきた目的はなんなんですか?まさか遊び相手欲しさってことはないですよね?」

 「うーん、いい質問だ!」

 未だにノリが掴めないので一先ず静観しておく。ヘリオスはヘリオスで横で拍手しているし、本当によくわからない。

 

 「知ってのとおり、アタシツインターボは半年間のドクターストップをかけられてしまった!」

 いや知らんが。

 「師匠体調ダメなんだってぇ、今はとてもそう見えないだろうけどねぇ〜」

 「いやー、これは由々しき事態ですよお嬢さん!」

 「はぁ、そうですか、お大事になさってください」

 「お大事になんかしてられませーーーん!」

 ばんばんとパーマーの肩を小さな両手で激しく叩く。

 「いいか、アタシがここで倒れると言うことは逃げウマそのものが倒れるってことだ!」

 「日本語ちょっとおかしいですよぉ〜師匠」

 「こまけーこたぁいいんだよ、とにかく今この日本、いや世界にだってアタシより『逃げウマ』してる逃げウマはいない、これは間違いねぇ!」

 

 エラい自信だなぁ・・・

 しかしここまで息巻いている割には、パーマーはツインターボというウマ娘を聞いたことがなかった。

 

 「しかし病魔は着実にアタシの身を蝕んでいるという事実・・・ああなんてことだ、志半ばでか弱き乙女は若き命を散らしてしまうのだろうか・・・」

 「信じられないかもしれないけどぉ、師匠年末レース終わって引き上げた瞬間にぶっ倒れて、そのまま年明けまで寝てたんだよぉ〜」

 「そ・こ・で・だ」

 身振り手振りのオーバーリアクションで、それこそヘリオスの言う通り病人には見えないようなアグレッシブな動きを見せていたツインターボは、死んだ目で眺めていたパーマーに詰め寄る。

 

 「アタシは、後継を作ることにした」

 いくらなんでも近すぎるので自然に視線が逸れる、が、ツインターボは身体を思いっきり捻ってついてきて、目を離させてくれない。

 

 「アタシの意志を継いだ最強の逃げウマ・・・いやアタシがいるから最強にはなれないが、まあとにかく『逃げウマ』の矜恃を守り抜けるだけのウマ娘を作り上げてから、アタシは逝くことにした!」

 「はあ・・・それでとりあえず逃げの実績が多少はあったわたしに目をつけたと?」

 「ん〜?お前、そんなに実績あんの?アタシ知らんが」

 

 ・・・ああ、そういや最初に『名前は!?』って聞かれたなあ・・・

 つまるところ、わたしだから連れ去ったという訳では無いのだろう。誰でもよかったのだ。余計に謎が深まる。

 

 「・・・じゃあなんでわたしを?」

 「いや、お前、だって言ってたじゃん」

 「え?」

 「『逃げてよかったな〜』って」

 

 そういう意味ではない。

 

 「いやー、逃げの美しさを知るウマ娘が少なすぎてなかなか難儀してたんだよな〜、あーでもお前は二番弟子な!一番弟子はこいつ、ヘリオス!」

 「ど〜もぉ、一番弟子で〜す」

 「こいつは結構センスあるぜ〜、おっとりしてるのに目が覚めるような逃げを決めやがる、そして普通に走っても──」

 「あの〜、帰ってよろしいでしょうか」

 パーマーとしては、ここに長居する理由は全くなくなっている。

 

 「おいおいなんだ、二番弟子が不満なのか?」

 「いや・・・まあなんというか、ツインターボさんの期待に添えられるほどわたし逃げが好きなわけでは無いんで・・・」

 「えー、さっき逃げてよかったつってたじゃねぇか、アレは嘘だってのかい?」

 「嘘はよくないよぉ」

 「あーあの、嘘ついたつもりは毛頭なかったんですが、そのように誤解させてしまったのであれば誠心誠意謝らせていただく所存でございますが」

 「じゃあ聞くが、逃げの美学や逃げウマの矜恃ってのはわかんねえのか?」

 「いやー、わたしはそんな大層なこと考えながらハナを切ったことはないですね、はい」

 

 早く面倒事は片付けたい。その一心でパーマーは下手に出る。

 ただまあ、正直に言うと逃げは好きな戦法だ。自分の能力が発揮できるのは逃げもしくは先行であるし、前に誰もいない道中は爽快だ。

 

 しかし、それとこれとは別である。

 いろいろ演説をしてくれたのでツインターボの真意はまあ汲めなくもないが、わざわざ協力する義理は全くない。そんなことより、早く帰って練習をしたい。

 だいたいなんなんだ、逃げウマの矜恃というのは。パーマーがあまり他のウマ娘に興味がないというのもあるが、さすがに今の今まで名前も知らなかったウマ娘がそんな理論を振りかざすのも違和感があった。

 

 そんなことを考えながら、ふと顔を上げ目の前を見る。

 そこには、眉をひそめさっきよりも遥かに険しそうな顔をしたちびっ娘がひとりと、相変わらずにこにこしている大柄な少女がひとり。

 言葉の上では下手に出ていたが、不満感が漏れていたのだろうか。

 

 「ふーんそうかい、ただこのアジトを知られてタダで返すわけにはいかないよなあ?」

 「そうですねぇ〜、かわいそうだけどそのままってわけにはいかないよねぇ〜」

 

 急に物騒な感じになってきた。目の前にいるのはただのイロモノコンビだとわかってはいるものの、思わず身震いをする。

 「つーわけで、だ」

 またさっきのように、ツインターボがパーマーの両肩に手を置いた。

 「とりあえず今日の練習最後まで付き合え♡」

 帰って練習をしたい、というパーマーの願いは叶いそうにもない。

 

・・・・・・・・・・・・

 

 場面はパーマーがさらわれた学園近くの河川敷に戻る。

 人がひとり明らかに怪しい集団に連れ去られたにもかかわらず、現場周辺は全くもって日常のままであった。

 日本人の無関心さがそうさせるのか、そもそも目撃者が(例のうるさいウマ娘以外に)いなかっただけなのかはわからない。

 

 メジロマックイーンはたまたま、パーマーとほとんど同じ場所に座り込んでいた。

 秋の連戦の結果とそれに伴うメンタルの問題を受け、とにかく頭を冷やせと厳命されていたマックイーンは学園生活が再開しても完全オフの状態が続いていた。

 自由な時間は無限に感じられるほどに存在している。

 

 そして、雲の流れを見つめながら物思いにふける対象はただひとつ。

 家を出ていった異母姉のことだ。

 マックイーンの脳内は『困惑』で埋め尽くされていた。

 

 パーマーは繊細なところがある。考えすぎるところがある。

 だから力んで思うように結果がついてこないだけで、幸運にも結果を残せている私達と同じように、素質は秘めているはずだ。

 なにより、私達といっしょに走り回っていっしょに成長した姉妹なのだから。

 だから、彼女のことを『出来の悪いお姉さま』と思ったことはなかった。少なくとも自覚の上では。

 

 でも深層心理では?さあ、どうだろうか。

 酷いことを考えていたかもしれない自分が怖くなった。だから、あの場でパーマーを追いかけることはできなかった。

 

 そして、自分が彼女にあまり向き合っていなかったのも事実である。

 結果が出せずに障害レースへ戦場を変えさせられたことも、そこで見た目の上ではある程度結果を残せていたことも、己の目で見たものではない。メジロの家人からの伝言で知った。だから彼女の指摘は100%曇りなしの正論であった。

 

 メジロ家は名家だ。だから、結果を残せない者は次第に肩身が狭くなっていく。無言のプレッシャーによって。

 しかし、姉妹である私達までもそのプレッシャーを与えてはいけなかった。親身になってあげなければならなかった。

 

 確かにあった姉妹の絆は、無意識のうちに自分の手からすり抜けていっていた。そして失って初めて気づくのだ。

 

 こんなにも手が届きそうなところにあるのに──

 

 「あれっ、マックイーンさんじゃないですか?」

 

 急に声がして振り返る。

 そこにはジャージ姿のウマ娘。少し考えたが、声の主が誰かはすぐに思い出せた。

 

 「あなた確か有馬の・・・」

 「ナイスネイチャっていいます、覚えててくれてないと思ってましたけど」

 「そんなことより、この時間まだ学園生は走行禁止ではなくって?」

 「はは、バレなきゃ大丈夫ですって。それに軽いランニング程度で目くじら立ててくる人なんていませんよ」

 けらけらと笑ったと思うと、急に少し真剣味を帯びた目付きになって。

 「それに、いつもならそこにうちの先輩がいるんでね」

 「先輩・・・?」

 「わたしのルームメイトのメジロパーマーお姉さま先輩ですよ、マックイーンさんもよく知ってますよね?」

 「それは・・・そうね・・・」

 

 そうだ、その名前はよく知っている。

 でも本当に、その名前の持ち主のことをよく知っていたのだろうか。

 

 「先輩たち確か同い歳ですけど姉妹ですよね?ふたりして同じところに引き寄せられてくるなんて、血は争えないってことなんですかねぇ」

 「ふふ、そんな単純なものでもありませんわ」

 「そういえばうちの先輩、最近なんかあったんですかね?」

 「・・・さあ、どうでしょう」

 

 いつの間にかナイスネイチャは、マックイーンの横に座っている。

 

 「なーんか去年の末くらいから微妙に人が変わったというか気持ち明るくなったというか・・・いや、ちょっと前の先輩に戻ったってだけかな」

 「・・・」

 「それまではなんかこう思い詰めているというか・・・いつ消えちゃってもおかしくないというか・・・まあ、ずっと何か抱え込んでそうなとこあったんですけど、それも知りませんかね?」

 「・・・いや、分かりませんわね」

 「ふーん、まあわかりました」

 そう言うと、ネイチャはふーっと一息をつく。

 

 「やっぱり血は争えないみたいですね、マックイーンさんも先輩と同じくらいなんか隠してるのバレバレですもん」

 「えっ・・・」

 「あーまあ、別にわたしになんか言う必要なんてないですよ」

 『・・・また今度話すよ』

 「また先輩から話してくれるの待ちますから」

 

 「待って下さい」

 草を払い立ち上がっていたネイチャを引き止める。

 「私もその・・・彼女が、パーマーが、今何を求めているのか、それがわかりません」

 「つまりそれは?」

 「パーマーの私達への想いと今の心境は伝わりました。でもそれは──」

 私達、そして生まれ育った家の拒絶。

 しかし本当にパーマーはそれを求めているのだろうか?それで満足なのだろうか?

 私が同じ立場に立ったとして、その選択を取るだろうか?

 本当にパーマーが許せなかったものは、なんなのだろうか?

 

 「・・・まあ、何があったかわたしは知らないんであれですけど、マックイーンさん自身が先輩を追い詰めてたって自覚がもしあるのなら、答えは自ずと見えてくるものなんじゃないんですか?」

 「・・・」

 「まあ、今仮に先輩と話したとしても、その様子じゃ火に油でしょうけどね」

 「でも・・・」

 「あー、もうこの際はっきり言いますけど、マックイーンさんたぶん無自覚に人を傷つけてるとこあると思いますよ?」

 

 俯いていた視線が思わず上がる。

 

 「1回しかいっしょに走ったことなくてもそう思いますもん、自己に徹しすぎて周り見てなさすぎるところとか、無自覚かもしれないですけどあるんじゃないんですか?」

 「いえ、私、そんなことは──」

 「そうそう、先輩が本格的にやばそうな感じになったのって、去年の秋に京都から帰ってきたタイミングでした」

 

 『あっそ、わたしは嬉しくもなんともなかったよ』

 

 ああ──

 

 「・・・あはっ」

 なんてことはない、愛していたはずの姉をおかしくした、その決定打になったのは、無言のプレッシャーをかける家でもなく、もうひとりの妹でもなかった。自分だということがはっきりしただけだ。

 

 「・・・ふふふふふ、ははははは」

 全身の力が抜けて膝が地面に落ちる。

 

 無自覚のうちに傷つけた?

 ああそうだ。

 

 一緒に走れて嬉しかった?

 その場しのぎの言葉でしかなかった。

 

 そうだ、何の気なしに彼女を殺したのは、京都で共に走った、無関心で周りを省みない自分なのだ。

 そして、そのことに今の今まで気づかなかったのだ。いや、気づいてはいた。それでも、認めたくなかったのだ。彼女に拒絶されても。

 

 ナイスネイチャはいつの間にかいなくなっていた。

 

・・・・・・・・・・・・

 

 「よーし、着いたぞ!!」

 パーマーはツインターボにずるずる引きずられ、彼女たちのアジト(と言っていた)からほど近い広大な空き地の前に立っている。ヘリオスも当然一緒だ。

 

 看板には立ち入り禁止の文字。錆びた有刺鉄線が道路沿いにずっと伸びている。

 

 「ここは?」

 「なんだっけな、なんかの工場の跡地らしいぜ?でもなんか悪評高い土地らしくてなあ、買い手がつかないからこうやってずっと放置されてる」

 「・・・普段ここで走ってるんですか?」

 「長めの距離走る時はここだな、ダッシュ練とかはアジトの前でやってる・・・あ、もしかして『立ち入り禁止って書いてるじゃないですか〜』みたいなこと言うつもりか!?」

 「いや、もうそのへんはなんでもいいです」

 「まあまあ、学校のコースはそうそう使えないしねぇ〜、怒られないうちはいいと思うよぉ」

 「そういうことだ、そういうのは怒られてから考えたらいい」

 

 そう言うと、ツインターボとヘリオスはするすると有刺鉄線の隙間を抜けて中に入る。手慣れたものだ。

 「おーい、お前も来いよ」

 ため息をつくと、パーマーも軽く助走をつけて有刺鉄線の柵を飛び越える。せいぜい1.5メートルくらいの高さだ、ちょっと前まで障害レースに出ていた自分には屁でもない。

 「へぇぇ、すごいジャンプ力だねぇ」

 「お前ジャンプレースにでも出てみたらいいんじゃねえの?向いてるだろ、知らんけど」

 

 この二人、本当はわたしのことを知っている上で地雷原でタップダンスでもしているのではなかろうか。

 

 白い目で見ているパーマーをよそに、ツインターボとヘリオスは準備体操を始めている。

 「おーい、お前も身体ほぐしとけよー、今日は付き合ってもらうんだから」

 「ツインターボさんドクターストップって言ってませんでしたっけ?」

 「ばっか今日は特別だ、ヘリオスにもお前にも、逃げウマとはなんぞやってのを改めて見せてやらんとな」

 「さすが師匠!」

 ヘリオスもにこやかに笑いながら拍手で応える。

 

 ・・・まあとりあえず、今日さえ付き合ってやれば終わるのだろう。

 面倒くさいという次元ではないが、さっさと終わらせるために大人しく従っておくことにした。

 

 「よーし、もういいだろ、こっち来い!!!」

 いつの間にか離れていたツインターボが手招きする。

 「よし、とりあえずいつもみたいにコース3周すっか」

 「あー、コースっていうのはねぇ・・・」

 ヘリオスから説明を受ける。といっても、とりあえずこのだだっ広いグラウンドもどきを、自分たちで立てたポールからポールを渡るようにして3周する、それだけのことだった。

 よくよく見ると、確かにその辺に落ちていたであろう角材の切れ端や棒っきれがところどころに立てられていて、ポールの役目を果たしているようだ。

 幸い路面はならされているようで、必要以上に脚元を気にすることはなさそうだ。

 

 「あのー、ペースはどんなもんで走ればいいんでしょーか」

 「は?何言ってんだ、全力出し切るに決まってんだろうが!」

 「・・・一本しかやらないんですか?」

 「いんやー?まあ、残り体力次第だな」

 なんて適当な返答なのだろうか。これまで管理されたメニューをこなしてきた、こう呼ばれたくはないが『お嬢様』ともいえるパーマーとしては考えられない練習姿勢である。

 

 しかしまあ、今日のところは合わせてやらないといけない。

 改めて空き地を見渡す。一周はざっと500mくらいだろうか。3周となると、マイルに近いペースで走ればいいか。といっても、マイルは個人的に距離が足りないので、意識してスピードを出していかないといけない。

 そうだ、どうせならわたしからハナを切ってやろうではないか。一応わたしだって逃げが得意戦法なんだ、スタートには自信がある。

 そしてなにより、わたしがハナを奪ってさえしまえば、仮にこのランニングで敗れたとしても、逃げウマがどうたらなどと言ってわたしに絡んでくることはなくなるかもしれない。

 つまり、今日は解放されたとしても今後無駄に絡まれる可能性をできるだけ排除しておきたいのだ。

 

 「よしっ、さっさとやっちゃいましょう」

 「おお〜、やる気じゃねえか、んじゃそろそろスタートすんぞ」

 「わたしはいつでもいけますよぉ〜」

 「んじゃアタシがよーいドン!つったらスタートな」

 ツインターボがスタート姿勢になったのに倣う。とにかくまずはうまくダッシュをつけることだ。

 

 「よーい・・・」

 

 スタート集中。

 

 「ドンッ!!!」

 

 同時に飛び出した。

 よし、スタートは悪くない、あとはいつもより早めにスピードに乗せて彼女たちから先頭を──

 

 「・・・あれ?」

 横を見やったパーマーの視界から2人が消えている。いや、消えるはずはないのだが、いったい──

 

 ──まさか。

 あわてて前を見る。

 そこには確かにツインターボとダイタクヘリオスの姿があった。

 

 スタートから100m弱、既に20m近くの差がついていた。




基本的に元ネタ様の生年準拠で年齢の上下を設定しています。なのでアニメメンバーは・・・出せるかなあ・・・

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