カツン、カツン。
「くそっ、どうなってんやがんだこれ、全くほどけねえ」
カツン、カツン。
「なんだってアタシがこんなとこで・・・あ〜あのクソババア、せめてこのロープくらい外してくれってんだ」
カツン、カツン。
・・・ブチイッ!
ほどくことを諦めて力任せに引っ張っているうちに、ツインターボの足首と柱を結んでいたロープは真っ二つになった。
「お、よっしゃちぎれたぜ」
カツン。
「なにしてるのかな〜???」
声に驚いて振り向くとそこには・・・白衣姿のウマ娘がひとり、恐ろしいほど満面の笑みで立っている。
「あっク・・・先生じゃないすか、あはは、まだ晩メシには早いんじゃ」
「しらばっくれてもムダよ」
こわ〜っ!!!
あまりに鋭い視線と目付き、ドスの効いた声から出る言葉の切れ味にツインターボは震え上がる。
普段はニコニコみんなに優しい保健の先生って感じなのに、このテンポイントって先生、スイッチが入るとこれまで見てきた中でいちばん怖い存在かもしれない。
「どこかの誰かさんが騒がしいから様子を見に来たのよ、逃げようとしたってムダなのにね」
「え、なんでそれを」
「隠しカメラと盗聴器くらい仕掛けてるに決まってんでしょ」
「お、おーぼーだ・・・」
それがさも当然のことであるかのような軽い口振りである。
アンタの倫理観どうなってんだよ、というツインターボにしては至極真っ当なツッコミは、口にするとろくでもない未来を招くことが確定しているだろう。
「そ、そんなことより早く寮に戻してくださいよ、ここからキョーシツ通うの嫌なんすよ!授業中も休み時間もずーーーっと保健委員たちに監視されてるし──」
ギロッ!
「あ?」
「はい!永遠にここから通います!」
身体が勝手に防衛本能を働かせた。明らかにヤバい空気によって、彼女なりの精一杯の反抗を諦めさせられたツインターボは、さながら雨に濡れておびえている犬のようであった。
「あなたなんで収監されたかわかってるのかなぁ〜?」
ほらもう収監って言っちゃってんじゃん。イッちゃってんじゃん。
「せ、先生が安静って言ってたのをシカトして走り回ってたから・・・です・・・」
「正解、やっぱりツインターボさんは賢いわね〜♪」
答えるやいなや、急に声のトーンが明るくなる。
ああそうだ、これがアタシがつい最近まで知ってた先生だ・・・
「私だってあなたをこんなとこに留め置いておく趣味はないんだけど、今解放したら絶対に無茶するでしょう?だからあなたのことを考えて、しばらく監視下に置かせて貰ってるの」
「・・・じゃ、じゃあそのしばらくってのはいつまで?」
「それはあなたの態度次第としか言えないわね、医者の言うことを聞かない罪はそれだけ重いってことよ」
態度次第。
その言葉を聞くやいなや、ツインターボは正座して地面に両手をつき・・・頭を地面に擦り付けた。
所謂、土下座というやつだ。
「先生このとーりです!!!もう体調が治るまではバカみたいに走ったりしませんので!!!存分に反省致しましたので!!!ここから出してくださあああい!!!」
「じゃあそこのロープの切れ端はなにかな〜?」
・・・あ、そうだった。
モロに状況証拠を目撃されていたことを忘れていた。
「あー、こ、これはその・・・」
「それに土下座したくらいで反省した、なんて思うはずないでしょう、大人を舐めないことね・・・ま、それじゃまたあとで夕食持ってくるから、それまでにどうしたらいいのかいろいろ考えときなさい」
「・・・」
「ああ、というかロープは繋ぎなおさないといけないわね、入るからじっとしてて」
「え?」
そう言うとテンポイントは、白衣のポケットから鍵束を取り出してツインターボと自由とを隔てている鉄扉を開けようとした。
今、ツインターボの脚にはロープの切れ端がついているだけで、実質的に自由に動き回ることができる。
こ、これは・・・もしかしなくてもチャンスなのでは?
ガチャリ。
扉の開く音に合わせて、ツインターボはテンポイントの左脚へ飛びかかった。
「うおおおおおお、今後どうなろうか知ったこっちゃねえ、アタシは自分の部屋に戻るんだーっ!!!」
いくら先生が昔はスゴいウマ娘だったといえども、急に脚を取られたらさすがに隙が生まれるだろう。隙さえあれば、アタシの超バツグンスタートダッシュでこのクソババアを振り切ることくらい造作も──
「・・・あれ?」
なんだかテンポイントの脚に触れた感触がおかしい。
いや、おかしいというか人肌の感触がない。パンツ越しではあるが、なんだか硬くて冷たくて──
「気は済んだかしら、不良少女さん?」
「あ・・・その・・・」
「・・・見たいなら見ていいわよ、怒らないから」
なんだかその言葉は、鋭いというよりは冷たく、悲しい雰囲気を纏っている気がした。
おそるおそるパンツの裾を上げてテンポイントの左脚を覗き見る。
「・・・っ」
本来ならば脛や足首があるべきところに、白く硬いプラスチックの塊があった。
誰にでもあるはずの左脚がなかった。
・・・・・・・・・・・・
あと2バ身半・・・あと2バ身・・・あと1バ身!
ステイヤー仕様ともいえるパーマーのギアは、前を行く名前も知らない先輩に食らいつくべく、強引な出力変更を強いられている。
それでも、スピードを今以上に手にするためという目標がやっとわかったのだ。目標が明確だからこそ、無意識に脳内でセーブしていたこれまでとは違って、躊躇いなくフルスロットル状態にまで入れることができている。
そして、遂に射程圏に捉えられるところまで詰め寄ることができた、だろうか。
「ふふ、やっと追いつけそうじゃない?」
うるさい、随分余裕ですね。
「まったく、ちぎられてたら併せにならないじゃない・・・って言おうと思ってたけど、ちゃんと食らいつけるのね」
「おっしゃる通りで・・・並んで抜かさないと・・・練習にならないんでね・・・!」
「そうそう、その意気」
走りながらも軽い笑みを絶やさない先輩が視界に入り、パーマーは苛立った。こっちはこんなにも必死でやってるのに、まるで全く相手にしていないんじゃないか。もちろん自分の力が足りていないのが悪いのではあるが、歯牙にもかけられないのは当然気分のいいものではない。
いいさ、そっちがそうなら。嫌でもわたしをその視界に入れてやる・・・!
もうスピードは今自分が出せる限界だろう。それでもアクセルを踏み続ければ、今の自分をこの瞬間に超えることができたら、前に立てるかもしれない──
「でも残念、ここがゴールね♪」
「・・・あ。」
はっと横を見ると、眼前をゴール板がすり抜けていった。
じわじわ詰めた距離は1バ身・・・いや、半バ身ほど及ばなかった。
──また勝てなかった。いや・・・前に立てなかった。
走り切ったパーマーは、ゴールを過ぎた1コーナーの手前で膝に手をつき、枯れ気味になっている真冬の芝生を見つめていた。
でも。
「あら、負けたのにいい顔してるわね」
「え?」
「なんかいいことでもあったの?四つ葉のクローバーでも見つけた?」
「いや・・・その。」
掌を開いて見つめる。
「・・・負けて得るものって、ほんとにあるんですね」
戯言だと思っていた。勝利至上主義とも言えるメジロで育ったパーマーは、よく大人が言うこの文句が信じられなかったのだ。
でも、今確かに胸の中で、掌の上で感じるものがある。
「ふふ、なに当たり前のこと言ってんの」
「そんなこと、経験したことなかったんで」
「あのね、結果が求められるのは自分の最終目標に届きそうな時だけなのよ。それ以外は全て、全てがそこに向かうための研鑽なの。これ、先輩からのアドバイスね」
「併せの勝ち負けなんて端っから関係ないってことですか」
「そんなの当たり前、今日わたしに勝つことがウマ娘人生の終着点じゃない限りはね」
(終着点・・・か。)
自分を見てくれない、周りに押しつぶされそう、そんなことに嫌気が差して飛び出したわたしの最終目標は、終着点はどこなのだろう。考えたこともなかった。パーマーは結局のところ、その時の感情に身を任せたまま無鉄砲に飛び出しただけだったのだ。
『勝負服を着て、待ってるよ』
脳内でリフレインしたその言葉は、自分が思うそれなのだろうか。
「やっぱりまだそれはわからない?」
「・・・お恥ずかしながら」
「まあ、それを自分の中で明確にしてる子ってそんなに多くないと思うから、まだあんまり気にしなくてもいいんじゃない?今は無理に探さなくても、ガムシャラにやるうちに見つけていけばいいのよ」
「・・・はい。」
「でも全部すっ飛ばして結果ってところだけで見ても、今日の走りは結構良かったんじゃないかしら?これならあのトレーナーくんも褒めてくれるでしょ」
「いや、そこはダメですよ・・・仮に追いついてたとしても、トレーナーの指示は『ハナを奪え』だったんで」
「まあ、そりゃまた結構な無理難題ふっかけられたわね〜」
「・・・私だって逃げウマなんですけど」
「あらそうだったの、奇遇ね、私もなのよ」
・・・なんだろう、やはりこの歯牙にもかけられない感じはどうにも鼻につく。
そっちが逃げウマなことくらい今のレースっぷりを見たら分かるに決まっている。そしてその逃げウマから見たわたしは、スピード勝負の土俵にすら全然立てていない、ただの学生ウマ娘にしか映っていないのだろう。
──ああ、そうだ。そうしよう。
「・・・わたし、目標今決めました」
「えらく急ね、もっとゆっくり考えたらいいのに」
「『終着点』ってのは正直よくわかんないんで、それは後回しにして当座の目標ってことです、別に目標って、いくつあっても問題は無いですよね?」
「そりゃあもちろん」
返事を確認してから、パーマーはビシッ!と指を差した。先輩に向かって。
先輩はきょとんとしている。
「とりあえず、あなたからハナを奪ってみせます・・・それがわたしの一番近い目標です」
まずはこの人より速くなる。高い壁なのは承知の上で、パーマーは思いっきり喧嘩を売った。
「ふーん、思い切ったけどそれは無理ね」
「わたしなんかに負けるわけないってことですか?」
「いや、そういうことじゃないけど・・・そりゃあね、負けるとも思ってないけど、それとは関係なしに無理なのよ」
「・・・?」
「あのねパーマーさん、わたし実はね──」
「あーーーー!!!もう、離れなさいよ!!!」
突然グラウンドに絶叫が響き渡り、ふたりは背中をビクリと震わせる。何かを言いかけた先輩の声もかき消されてしまった。
反射的に声の方へ視線が動く。
「・・・そういや途中からいなかったですね」
「ええ、あれはなにしてるのかしらねぇ」
ゴール板の手前で、嫌がるウマ娘の脚に幸せそうな顔でしがみついているヘリオスがそこにはいた。
・・・・・・・・・・・・
「・・・助けてくださってありがとうございます」
ありがとう、という言葉とは裏腹にそのウマ娘──ダイイチルビーというらしい──は頬を膨らませて憮然としたままだ。いや、気持ちは大いに理解できるが。
「その、うちのチームメイトがものすごく迷惑かけたみたいで・・・すみませんでした」
「パーマーさんは謝らなくていいんです!悪いのはこの方なので!」
ダイイチルビーが指さす先には、ロープ(どこから持ってきたのかは分からない)でぐるぐる巻きにされたヘリオスが転がっている。
「ねぇねぇルビーちゃん、そろそろこれほどいてくれないかなぁ」
「ほどくわけないでしょう!」
「え〜なんでよぉ、仲良くしようよぉ〜」
「貴方の『仲良く』は意味がいろいろ違うじゃない!」
「まあまあとりあえず、ルビーもここはヘリオスさんの若気の至りってことで、1回くらい見逃してあげてもいいんじゃないかしら・・・?」
「1回?」
間をとりなそうとした先輩の言葉を、ダイイチルビーは低い声で反芻した。
「1回どころか100回できかないんですのよ!来る日も来る日も学校でバッタリ出くわしたら追いかけてくるし、シャワールームには先回りされてるし、放課後私の机で勝手に寝てるし!!」
──それはもうストーカーなのでは?
「うふふ、ルビーもいい友達を持ったのね」
「今の話を聞いてお姉さまはどこらへんがこの方が私の友達だと思ったんですか!?」
・・・お姉さま?
「えぇ〜、わたしとルビーちゃんって友達じゃなかったのぉ」
「ち・が・い・ま・す!」
「あのーところで、ルビーさんと先輩ってどういう関係なんですか?」
ヘリオスがストーカー紛いのことをしていたことは一旦置いておこう。
「どういう関係・・・うーん、そのまま『お姉さま』・・・まあ、近い親戚といえばいいのかしら」
「へぇ、ルビーちゃんの親戚ってことは先輩もすごいおうちの人だったんですねぇ!」
「そうなの?」
「え〜、パーマーちゃん『華麗なる一族』って聞いたことない?」
「・・・ごめんなさい」
確かにパーマーにとっては初耳であった。が、ただなんだろう、ヘリオスに『なんでそんなことも知らないの?』みたいな顔をされると非常に屈辱を覚える。
──ぎゅーっ。
「いやぁぁ、なんで耳掴むのぉ、力抜けちゃうよぉ」
「なんとなくよ、なんとなく」
「まあやはり名門メジロ家のパーマーさんにとっては私達なんて眼中にありませんよね?」
「え、いやそんなことは」
あれ、怒らせてしまったか?心なしか急に冷たい視線を向けられているような。
そしてなんだろう、パーマーにとってルビーはなんだか気安く話しかけられないような雰囲気を感じてしまう。
──似てるから、か。
頭の中には、綺麗な長い銀髪の少女が否が応にも浮かんでくる。
「でもせめてヘリオスはハギノ姉さまのことくらい知ってなさいよ」
(・・・ハギノ?)
「ハギノさんって誰のことぉ?」
知らないのはパーマーだけではなかったようだ。
「・・・お姉さま、もしかして全く名乗りもせずこの方たちを捕まえて走ってたんですか?」
パーマーに一瞬向いていた気がする冷たい視線は、それよりももっと棘を持って傍らに座り込んでいた先輩に向きなおった。
「──ですから、常々言っております通り、私は姉さまにはもっと自覚を持っていただきたいのです!」
「いや〜、だって改めて名乗るってなるとなんだか恥ずかしいじゃない?」
「恥ずかしいとはなんですか!!」
声を荒らげるダイイチルビーはどうもかなりご立腹のようで、もう15分くらいは熱いお説教を続けている。
最も、怒られているはずの"ハギノトップレディ"先輩はそんなルビーをへらへらと受け流しているようだが。
「確かに我が家は超一流とはまだ言えないかもしれませんが、私達だって脈々と受け継がれてきた家の名を背負うものとして、誇りを持たねばいけないのではありませんか!」
「いや〜それが面倒くさいのよ、私はもっと気楽にやりたいのにさー」
「そういう考えがいけないのですわ!・・・ってなにしてるんですか貴方!」
「いや〜、ルビーちゃんロープの縛りが甘かったねぇ」
先輩に説教するルビー、相変わらず飄々と受け流しているハギノ先輩、どうやったのかは分からないが縄抜けして再びルビーの脚に頬擦りしているヘリオスを見つめて、パーマーは逡巡する。
(家の誇り、かぁ・・・)
やっぱりそうだ、喧嘩別れした妹に似ていると感じる。
だからこそ、自分の家にあそこまで誇りを持っているルビーをなんだか眩しく思ってしまう。誇り高い妹──マックイーンに、全てを放り出した私が抱いている想いも同じなのだろうか。
なにより、彼女への羨望や嫉妬によく似ている。
そしていつの間にかパーマーは、夕暮れのクラブルームでひとりパイプ椅子に座り込んでいた。
──羨ましい?
いや、違う。だって私は、自分が自分でいられなくなるのが嫌で、認められないのが耐えられなくて家を飛び出したのだから。
マックイーンやルビーのように、健気に大きな十字架を背負ったまま生きていくことを蹴ったのだから。
納得して出した結論に後悔なんてない。
でも。
「・・・なんなのよこの気持ち」
「どうしたのですか!!!おねーさん!!!」
「うううわっ!!!」
差し込む夕陽にだけ乗せたつもりだった言葉が、耳元で響く特大ボリュームによってかき消された。思わずパーマーは椅子から転げ落ちる。
一瞬だけ何が起きたかわからなかったが、案の定、声の主は元気すぎる後輩だ。
「・・・なんだリバーか・・・びっくりした、なんでここに」
「だってここは、あたしのチームのおへやだからです!!!」
「ああ、確かにそりゃそうよね」
「それよりおねーさん、なにかなやみごとでもあるのですか!?」
「・・・」
最初は適当に誤魔化そうと思ったのだけれど。
リなんだか心配そうにこっちをまんまるな目で見つめているリバーを見て、少し気が変わった。
普段なら彼女に相談なんて絶対しないだろう──まず間違いなく解決しないだろうから。
でもちょっと気になったのだ。
ただひたすらに前向きというわけでもない彼女なりの考えが。
「リバーはさ、自分でいらないって決めたものが、また気になって見えてきたらどうする?」
「それはごはんのおはなしですか!?」
「・・・まあうん、それでもいいよ」
「あたしなら、いま持ってるおかずもうらやましいおかずもどっちも食べちゃいます!!!」
「どっちも?」
「はい!!!食堂はただなので!!!がまんするなんてもったいないのです!!!」
分かっている、リバーは勝手に食堂のおかずの話だと考えて返事しただけだってことは。
でも、満面の笑みでどっちも諦めないと言い切ったリバーならきっと──
「・・・そうだよね、やるだけならタダだもんね」
「???・・・はい!!!」
「まあ、なんだか楽になったわ。リバー、ありがとうね」
「よくわかんないですけど、どういたしまして!!!」
リバーはちょっと首を傾げたけれど、すぐにいつもの元気な声で答えた。彼女の頭をぽんぽんと撫でてから、パーマーはクラブルームを出ようとする。
今話を聞きたい人がいるなら、アタックしてみたらいい。そんな当たり前のことに気付かされた。
思い返せばさっき彼女に話しかけにくい気がしたのは、自分の中で「そういう人」への負い目があったからなんだろうな。
「どこかへいくのですか、おねーさん!!!」
「そうね、ちょっと軽くひとっ走りしてくるわ」
「あのですね、トレーナーさんがあとでミーティングするって言ってました!!!」
「わかったわ、30分くらいしたら戻るから」
(どうせすぐ後で会えるのに)やけに名残惜しそうに手をぶんぶん振るリバーをあしらってから、クラブハウス棟から外に出る。
外の時計はそろそろ5時を指そうとしていた。この季節だともう日もどっぷり落ちて、暗闇が迫る直前といったところだ。
ネイチャにも今日は遅くなるって言っておく必要がありそうね。
校内にいるであろう尋ね人を探してからミーティングをすると仮定すれば、パーマーが寮に戻る頃には食堂ももう閉まっているかもしれない。律儀に同部屋の先輩のことを待ってくれているであろう後輩の顔を思い出して、パーマーはスマホを取り出す。
・・・うっかりマナーモードにしていたから気づかなかったのだろうか。そこには鬼のような着信履歴があった。
「・・・ツインターボさんに私の連絡先渡したっけ」
所謂『鬼電』を無視するかどうするか──とりあえず後回しにしよう。今やりたいことを終わらせてからでも遅くはない。
溜息をついてパーマーは無意識にスマホをしまう。
結果としてこの夜は長くなって、なんの連絡も受けていないナイスネイチャは夕飯を食べ逃すことになる。
半年ぶりとは?