昼休みが終わり、5時限目の化学が始まると同時に、FクラスとDクラスの試召戦争が始まった。この時間は、自習じゃなくて普通に授業が進んだ。まあ、わざわざ言う必要もないと思うが。
そして、現在6時限目。そろそろ向こうの戦争も正念場を迎えたころだろうか。そう考えながら、先生が置いていったプリントに答えを書き込んでいた。
ピンポンパンポーン
…………うん?こんな時に放送か?
『連絡致します。船越先生、船越先生。』
この声は明らかに先生の声じゃないな。ということは、FクラスかDクラスの誰かか?船越先生に一体何の用だろうか。
『吉井明久君が体育館裏で待っています。』
………………待て。明久はFクラス生徒だ。それに奴の学力とFクラス代表の性格を考えると、おそらく戦線で戦っているはずだ。Dクラス代表が体育館付近を本陣に構えていない限り、あの付近にいるなんてことはあり得ないし、そもそもそのDクラスは本陣を教室に構えている。戦争開始直後、数名のDクラス生徒が出てきたからな。その可能性が最も高い。
ここから考えられることは、この情報が嘘のものであるということ。だが、何のためにそんなことを?そしてどうやって、船越先生をその場所へ誘導するんだ?
『生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです。』
OK、大体把握した。確かにあの先生なら、この話を聞けば間違いなく体育館裏に来るだろう。船越先生は年齢は流石に知らないが、婚期を逃して、単位を盾に生徒に交際を迫るようになった先生だ。実際俺も被害に遭ったからな………………。だが俺は、その災厄を退けた。どうやったかって?簡単だ。試召戦争をした。船越先生が勝ったら、俺は船越先生と付き合う。俺が勝ったら、船越先生は金輪際、今回のような真似はしないことを誓う。こういう条件付きだ。
話の流れから察している奴もいると思うが、結果は俺の勝ちだ。あの時はわざと点数を下げていたから、先生もかなり油断していたはずだし、俺は俺で、中学の時の喧嘩のスキルを存分に試召戦争で発揮していたからな。ま、理由はどうだっていい。とにかく、船越先生はそれ以来、ああいう行動はとっていないから、おそらくは大した問題にはならんだろう。………………きっと。
利光「代表、今の放送………………。」
零次「落ち着け、久保。………………おそらくは、Fクラスが流した偽情報だ。」
利光「え?そうなのかい?」
この言葉と同時に廊下から微かに『須川ぁぁあああああっっ!』という声が聞こえた気がした。多分気のせいだ。……………………いや、聞こえてた。これで、俺の導いた事実が確証に変わった。
零次「ああ。船越先生に対してあの手の情報を与えたら、99.9%の確率で食いつく。」
実際俺も被害に遭ったし、と小さく呟いておく。
零次「それで、船越先生を戦場から離そうとしたんだろう。明久も、なんだかんだで有名だし、囮にするには、十分だってことだ。………………もっとも、実行したのがDクラスという可能性も考えられるが、どのみち、偽情報なのは確実だ。」
というか、Fクラスの代表はアイツだからな………………。俺の確証に近い予想は間違っていないだろう。
翔子「……………………零次。」
突然、霧島が話しかけてきた。
零次「なんだ?」
翔子「……今、時間ある?……相談したいことがある。」
コイツも影山と似た雰囲気を醸し出してるな………。まあ、彼女は声は通る方だし、影山より言葉と言葉の間の沈黙が少ないから、話のテンポも取りやすいが。
零次「………………後ろ行くか。」
霧島「………………。(コクッ)」
………………一体、何の相談だ?
・・・
零次「………………それで、相談ってなんだ?」
翔子「……Aクラスの一部の生徒がFクラスに試召戦争をしようとしている。」
場所を移して、ソファに座り、霧島の口から出たのは、俺からしてみれば少し訝しむ言葉だった。
まず一つ目の理由として、この文月学園入学する理由のおよそ4分の3は、『学費が安いから』。これが占めていることだ。『試験召喚システム、および試験召喚戦争に興味がある』という理由で入学した生徒は、ものすごく少ない。情報収集に関しては一切の妥協もない近衛が、慎重かつ大胆に集めたデータだ。俺は、その信憑性は高いと思っている。
第二の理由は、この試召戦争、Aクラスが宣戦布告するメリットが皆無であること。前にも言ったが、試召戦争は、クラス単位で行なわれる設備入れ替え戦≪シャッフルマッチ≫だ。だから元々最高の設備環境の下で学習しているAクラスにとって、戦争する理由はないに等しいのだ。その上、仮にAクラスが敗北すれば、設備が交換される。否、正確には『教室ごと』交換されるのだ。
つまり、何が言いたいかというと、勉強することを目的に学校に来ている奴らが、何故そんなハイリスクノーリターンの戦争をしようとしているのか。それが謎なのである。
零次「一部の生徒?誰だそいつは?」
そして、それより気になるのは霧島が言った『一部の生徒』という言葉。それが一体誰なのかだ。
霧島「……豊嶋。」
零次「あいつか…………………。」
今日のHRで久保に突っかかってきた奴だ。
翔子「……昼休みに偶然聞いた。『Fクラスのクズ共に自分の立場を分からせる』みたいなことを言ってた。」
その言葉そっくり返してやりたいものだ。
翔子「……優子はそれに賛同していたけど、私はあまり気が進まなかった。……だから相談に来た。」
零次「なるほど。だいたい事情は分かった。」
それにしても、木下が賛成するとはな……。自分の弟がFクラスにいるというのに。そんなに弟が嫌いなのか?
零次「………実はな、久保も似たようなことを言っていてだな。」
翔子「……………………そうなの?」
利光「本当だよ、霧島さん。」
まさかの本人登場か。
零次「どうした、久保。プリントは終わったのか?」
利光「ああ、ついさっきね。………話は戻すけど、さっきの話は本当だよ。もっとも、僕はDクラスに挑むつもりだったけど。」
翔子「……Dクラスに?どうして?」
零次「宣戦布告に行ったFクラスの使者に、集団暴行を行なったことが理由だ。」
久保が感情に任せて喋る前に、俺が代わりに話した。あの時の久保は、結構感情的になってたからな。できれば落ち着いた雰囲気で話し合いをしたい。
利光「けど代表は、その意見を却下したんだ。だから………………。」
零次「ああ。久保の思っている通りだ。豊嶋達の意見も当然却下だ。俺達は試召戦争をしない。」
利光「やっぱりそうか。ところで、昼休みの時は聞きそびれたけど、どうしてだい?」
翔子「……私にも、理由を聞かせて。」
零次「ああ。まず一つ、勘違いしないでもらいたいのは、久保の意見も、豊嶋の意見も、間違っていると思ってない。それだけは覚えておいてくれ。」
実際そうだ。Dクラスが暴行を行なったのであれば、それに対して怒るのは筋の通っている話だし、Fクラスが戦争をして、少なからずAクラスに迷惑が掛かっているのも事実だ。
零次「だけど、それを理由に試召戦争するのは、試召戦争の目的から外れている気がする。だから、試召戦争はしない、と言ったんだ。」
利光「………目的?」
零次「分からないか?試験召喚システムは、生徒の学力向上のためにあるシステムだ。それなのに『いじめの制裁』だとか、『Fクラスに立場を分からせる』とか………。そんな理由で戦争していたら、時間がいくらあっても足りねぇよ。」
まあ、実際は戦争で敗北したクラスは、戦争の泥沼化を防ぐために、3ヶ月間の宣戦布告禁止期間が設けられるから、そんなことにはならないが。
零次「それに、戦争が終わった後にDクラスかFクラスに宣戦布告してみろ。相手から、『戦争直後で弱ったクラスを貶める、最低なクラス』なんて印象を持たれることは、容易に想像できる。更に、宣戦布告した相手が負けたクラスだったら、『負けた相手を、さらに痛めつける鬼畜なクラス』。そんな印象も追加されるんじゃあないか?」
翔子「……それは…………。」
利光「確かに困るね………………。」
零次「加えて、仮に俺達が負けて、この設備が第二学年の間はしばらく、あるいは二度と使えなくなる可能性がある。そして、勝ったからと言って、俺達が何か報酬をもらえるわけでもない。………………ここで質問だ。そんな、『損』をする可能性があるのに、そのリスクに見合った『得』を得られない賭けをしたいと思うか?久保、霧島。」
俺の質問に対して、両者共に首を横に振る。当然だろう。賭け自体をしたくない、と思っている可能性もあるかもしれないが。
先程、戦争に負けた時は、クラスの入れ替えが行なわれると言ったが、それは『上位のクラスが負けた時』の話だ。では、『下位のクラスが負けた時』はどうなるかと言うと、『設備のランクが1つ下がる』のだ。つまり、仮にAクラスとFクラスが戦って、Aクラスが負ければ設備(&教室)が交換され、Fクラスが負ければ、Fクラスの設備のランクが1つ下がる。こういうことだ。
もっとも、Fクラスより下のランクの設備があるのか?そんな疑問が浮かび、西村先生辺りに聞いてみたところ、生徒手帳の『2年次以降の設備についての規約』の欄に書いていないだけで、実はいくつか下のランクが存在するらしい。
零次「ま、そういうことだ。大体、Fクラスには姫路瑞希や近衛秋希がいる。返り討ちに遭う可能性だって十分にあるんだ。できればFクラスとの争いは避けたい。」
別に俺は、その二人が相手でも負けるつもりは毛頭ないが。いざとなれば、こちらには『切り札』があるわけだし。
利光「そういえば自己紹介の時にいなかったけど………………。姫路さんもFクラスだったんだ。」
翔子「……私も。姫路は振り分け試験の時に倒れたって聞いたから、なんとなくそうだとは思った。……でも、秋希はBクラスだと思ってた。名前を書き忘れたとか、そういうミスで。」
零次「………………ま、そうでなくても俺はFクラスを警戒すべきだと思うけどな。」
そのつぶやきに、久保が反応した。
利光「え?どうしてだい?」
零次「簡単だ。クラス分けは、あくまで振り分け試験の点数の成績順だ。どれだけ一つの教科に特化してたって、他の教科を疎かにしていては話にならない。ムッツリーニ………………いや、土屋康太がいい例だ。」
正直な話、土屋のことを『ムッツリーニ』とあだ名で呼ぶのは、好きではない。せっかく親から付けられた名前があるのに、それを蔑ろにしている気分になるのだ。まあ、名前の一部を取って呼ぶようなものなら、話は違ったかもしれないが………………。
零次「まあ、あいつは極端な例だが、Fクラスをバカの集まりだと思っていると、痛い目を見るってことだ。」
翔子「……分かった。それじゃあ、豊嶋達に……。」
零次「待て、それはやめとけ。」
霧島が豊嶋達を説得しようと腰を上げたが、俺はそれに待ったをかける。
翔子「……どうして?このままだと豊嶋達が宣戦布告してしまう。……それを止めないと……。」
零次「そうだろうな。遅かれ早かれ行動するだろう。」
翔子「……だったら!」
零次「だが、ここで動いたって意味ねぇんだよ。どうせ、説得しに行ったところで、『俺に脅されて言わされてる』、それで全部片づけるんだ。そしてその勢いのまま、Fクラスに宣戦布告………………。十分にあり得る。」
利光「確かに、そうだね。」
実際にHRで突っかかられた久保が同意すると、説得力が上がるな。
零次「だから、しばらく様子見だ。俺達は、このクラスに挑んできたクラスを全力で相手して、この設備を守り通せばいい。わざわざこちらから出る必要もないんだ。得るものはないに等しく、失うものが多いのだからな。」
翔子「……分かった。」
霧島の返答と同時に6時限目終了のチャイムが鳴った。その後、7時限目も特に問題なく自習が行なわれ、進級初日の学園生活が終わりを迎えようとしていた。
~後書きRADIO~
零次「第5回。」
秋希「後書きRADIOの!」
零次「始まりだな。」
秋希「なんか久しぶりだね。」
天:そりゃそうだろうな。なんせ、作者の世界では1ヶ月くらい経とうしているからな。
秋希「あ、今回のゲストはまた、天鋸江さんか。」
天:ああ、そうだな。
零次「それじゃあ、今回の解説………、いや、前回の話をしようか。」
秋希「前回って………………、ああ、アレ?タグを変えたとか言ってたっけ?」
零次「そうだ。他の作品のネタだったり、キャラクターの能力を召喚獣の腕輪能力で使用したり、色々する予定なので、変えることにしたそうだ。」
天:おいおい、それはオイラが言う台詞じゃないのか?
零次「後は、天鋸江の性格に使用したりとか、な。」
秋希「ところで何とクロスオーバーするの?」
零次「それは………………、天鋸江、どうぞ。」
天:OK。一応確定しているのは………………。
1.ポ〇ットモンスター
2.〇ndertale
3.東方pr〇ject
このくらいだ。
秋希「3番目隠す気ゼロでしょ………………。」
天:『〇』なだけに?
秋希「やかましいわ!」
零次「まあ、他にも候補はあるが………………。あまりクロスオーバーさせる作品が多いと、今度はキャラが渋滞するからな。」
秋希「というか、3番目の候補はただキャラクター登場させるだけでもいいけど、残り二つはどうクロスオーバーさせる気なの?」
零次「………………作者から聞いた話だと……いや、まだ話す時期ではない。あとで教える。」
秋希(あ、これ絶対ロクなこと考えてないな。)
零次「……さて、そろそろいいか。」
秋希「もうそんな時間?それじゃ、」
「「次回もよろしくお願いします!」」