バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問8-A 警告と提案

ピンポンパンポーン

 

『Dクラス代表、平賀源二君が戦死しました。よって、Fクラスの勝利です。繰り返します………………。』

 

 現在時刻は16:50。7時限目が終わって、Aクラスからほとんどの生徒がいなくなった頃、この大番狂わせの達成が知らされた。

 

利光「これは、偽情報とかじゃないよね?」

 

零次「そうだな。」

 

 放送の声は、その高さからして女性で間違いないだろう。Fクラスの男女比は知らないが、去年の時点では、総合成績ワースト50は、45対5で男子が圧倒的に多かったから(そのうちの一人が俺だが)、その比率で考えると、Fクラスの偽情報の可能性はそんなに高くないだろう。Fクラスが勝ったとはいえ、大体3時間もかかったんだ。多くの生徒が戦死した(召喚獣の点数が0になった)はずだ。

 逆にDクラスだったら、自分の代表が戦死したなんて放送は、まず流さないだろう。…………敵を油断させるつもりなら、あり得ない話ではないかもしれんが。

 

零次「それじゃ、もうちょっとしたら行動に移すぞ。影山、霧島、久保、佐藤。心の準備はいいか?」

 

 7時限目も結局自習だったので、αクラス、および霧島には『今日のうちにやっておきたいこと』を話しておいた。ちなみに工藤は部活があるからということで、先に帰っていった。良くも悪くも自由な奴だ。

 

利光「当然。」

 

翔子「……………………。(コクッ)」

 

美穂「は、はい!大丈夫です!」

 

幽也「………………うん………………大…………丈夫………………だよ。」

 

 それから、各々本を読んだり、駄弁ったり、勉強したり…。そうしている間に時計は17:00を示していた。

 

 

 

 ………………………………さあ、行動開始だ。

 

 

・・・

 

 

ガラララ………………

 

 教室の扉を開けると、ちょうど目の前にDクラスとFクラスの生徒がいた。奴らの戦後対談が終わった後を狙って来たが、ここまでドンピシャだとは思ってなかった。

 

零次「………………戦後対談は終わりか?」

 

 念のために聞いておく。もしかしたら、話の途中に割り込んだ可能性もあるからな。

 

雄二「いや、今ちょうど終わったところだが………………。」

 

 その質問に坂本が答えた。おそらく、コイツがFクラスの代表だろう。そうでなくても、重要なポストを任せられてそうだ。実際、勉強はできないけど、頭が悪い訳ではないからな。散々バカやっているせいで、そうは見られないが。

 

零次「そうか。ならちょうどいい。ちょっと話がある。」

 

「一体なんだよ。」

 

「早く帰ってゲームしてぇから、さっさとしてくれよ。」

 

「大体、なんでお前みたいなクズがAクラスの教室から出てきてんだよ。」

 

零次「落ち着け久保。俺の計画が台無しになる。不満を爆発させるのは今ではない。」

 

利光「うぐっ…………。そ、それもそうだね。ゴメン。」

 

 FクラスもDクラスもざわつくなか(殆どが俺への罵倒だが)、俺は、HRの時みたいに怒り出しそうになっていた久保を手で制した。久保って見た感じだと冷静な性格に見えるが、案外、そうでもないんだな。HRの時といい、昼休みの時といい………。やっぱり、見た目なんて当てにはならねぇな。『アイツ』と同じで。

 

翔子「……………………雄二。」

 

雄二「う、しょ、翔子………………。」

 

 ん?なんだ?坂本の様子がおかしい………………。って、そうか。坂本と霧島は幼馴染だったな、確か。去年ちょっとした事件?というか相談?みたいなもので霧島と関わることがあって、その時に聞いたんだっけな………………。結構、興奮して話していた記憶がある。

 

翔子「……雄二、これは私からの警告。……Aクラスとは、試召戦争をしないで。……あなた達には…………勝ち目がないから。」

 

雄二「な、なんだって?」

 

零次「坂本。お前はちゃんと分かっているだろう?試召戦争は、相手クラスの代表を倒さなければ勝てない、ということを。」

 

 これが『今日のうちにやっておきたいこと』その1。Fクラスに、Aクラスに対する戦意を削ぐこと。まあ、代表の闘志は消せないと思っているが、他の奴らの意思は削れるだろう。

 

零次「真正面から戦って勝てる相手ではないことは、お前だって理解しているだろう。去年の学年末試験の上位10人の強さは圧倒的だ。特に代表の学力は理屈とか、常識とか、そんなもんで説明できるものじゃない。それが第一の理由だ。」

 

 まず、代表の強さを示す。あまり具体的に言うと、ボロが出る可能性があったから、言葉は少なめにしたが、Fクラス相手なら、長々と説明するよりは、この方がいいだろう。とにかく、『代表が霧島翔子』だと、なるべく長い時間思わせたいのだ。少なくとも、今日一日だけでもそうしておきたい。

 

美穂「それに、Fクラスの設備でも、負けたら、設備のランクが下がるのですよ?確か……………『畳と卓袱台』が、『ござとみかん箱』になるとか。」

 

 次に、坂本の計画が失敗した時のリスクを示す。こちらは、なるべく具体的に。ここから代表の正体が割れるとは考えにくいからな。

 

美穂「もちろん、リスクを負わずに対価を得ることはできないことは、私にも分かります。でも、そのせいで体の弱い姫路さんがFクラスからいなくなってしまう………。私が坂本君の立場なら、それだけは避けたいと考えるのですが………。」

 

雄二「あー、確かに、近衛が協力してくれない以上、姫路を失うのはデカいな…………。」

 

美穂「これが、代表が言っていた第二の理由です。それで私達からの提案なんですけど………。」

 

利光「僕達Aクラスと、不可侵条約、というか協定を結ばないかい?」

 

雄二「きょ、協定だと!?」

 

 坂本が随分と驚いた様子を見せた。まあ、学力最高クラスであるAクラスが、学力最低クラスのFクラスと手を組むだなんて、普通は考えられないからな。これが『今日のうちにやっておきたいこと』その2だ。

 

零次「安心しろ。何か裏があると思っているなら、それはハッキリ否定させてもらう。」

 

雄二「まさか、それを信じろと?」

 

零次「そうだ。ま、疑う気持ちは、よーく分かるよ。けど、こっちにも、そうするだけの事情があるんだ。」

 

雄二「事情?」

 

零次「ああ。実はな、Aクラスは、今二つの派閥に分かれてるんだ。代表を支持する派閥と、反抗する派閥にな。………………それだけか、なんて顔はするなよ?クラス一丸となって行動できないってのは、なにかと致命的な問題なんだ。」

 

 特に試召戦争の時なんかは、そうだ。代表の命令を聞いてくれない、あるいは無視する。最悪、敵に寝返る、協力する、謀反を起こす。そんなことが起きれば………………まあ、俺は別に何ともないが、普通は試召戦争なんてできる状態じゃなくなる。クラス崩壊は免れないだろう。

 

零次「そういうわけで、反抗派閥が暴走する前に何か手を打っておきたい、そのための協定だ。勿論、それなりに見返りは考えている。例えば、AクラスがFクラスに宣戦布告した場合は、強制的にAクラスの敗北扱いにする、とかな。」

 

 俺の言葉に、どこからともなく、ざわめきが聞こえ出す。久保達もきっと驚いているだろう。この件に関しては全く話していない、というか、たった今思い付きで話したことだからな。

 

零次「勿論、不満があるなら可能な限り要求は受け付けるつもりだ。どうだ、乗ってくれるか?坂本。」

 

雄二「………………………………。」

 

 坂本は………………即答しない。何やら考え込んでいるみたいだが、こっちも時間は限られているんだ。さっさと終わらせようか…………。

 

零次「考え込む必要などないだろう?お前達Fクラスが最高の設備が手に入るチャンスがある。Aクラスの代表派閥はそれをきっかけに、反抗派閥を黙らせることができる。お互い良いことしかないじゃないか。それに………。」

 

「………確かに霧島さん相手に勝てるわけないよな……………。」

 

「だったら、この協定に乗るのは全然いいんじゃないか?」

 

「だよな。霧島さんに勝てなきゃ、意味ないんだし………。」

 

「確かに………。アレ以上に設備が酷くなるのはなぁ…………。」

 

零次「クラスメイトは、協定について肯定的な雰囲気だが?代表として、聞き入れるべきじゃあないか?」

 

雄二「…………なあ、双眼。その内容って、本当に代表が言ったことなのか?」

 

 ………この質問は、一体どういう意味だ?まあ、素直に答えるとするか。

 

零次「………そうだが?逆に聞くが、お前は協定云々が、俺独断での行動だと思っているのか?そう思われないように、わざわざ代表が同行してくれているのに。」

 

雄二「………それもそうか。」

 

 全く………………一体、何を考えているのやら。

 

雄二「………………よし、分かった。双眼、お前のその提案………………。」

 

 ………………断らせてもらう。坂本はそう言い放った。

 

「「「………………は、はあああああああああああああ!?」」」

 

零次「ほう…………………。」

 

 Fクラスの連中が驚きの声を上げた。俺もこの答えは予想していなかったな。

 

「ふざけんな、坂本ぉ!」

 

「せっかく、Aクラスのシステムデスクが手に入れられるというのに!」

 

雄二「それは、Aクラスの反抗派閥とやらが、代表の意思に関係なく宣戦布告した時の話だ。この協定の狙いは、FクラスにAクラスと戦わせないようにするためのものだ。そうだろ、双眼。」

 

 チッ、早速見抜かれたか。そう、坂本の言う通り、今回の行動の一番の狙いは『Fクラスの行動の制限』、それに限る。去年から明久、坂本、土屋、秀吉の四人は色々な事で目立っていたし、そういう時は大抵四人で行動していたからな。学力の差がクラスが別になる程度ではない、この四人なら、ほぼ確実に一緒のクラスになり、何か大きな行動を起こすだろうと考えていた。

 

零次「ハァ………。バレたんなら仕方ねぇか。そうだ。この協定の本当の目的は、坂本の言った通りだ。もっと言えば、Fクラスの行動を制限することも考えたんだがな………………。」

 

雄二「ほお?随分と考えたものだな。」

 

零次「だが、ま、少なくともお前にAクラスに挑むという、無謀に近い志があることが分かったことだけでも良しとするか。」

 

 こうして、俺達は撤収、もとい帰宅することにした。果たして、この坂本の行動が吉となるか、凶となるか………………。ま、それは明日になれば分かることだ。

 




~後書きRADIO~

秋希「さあ。今回も後書きRADIOの時間だよ~!」

零次「今回で確か、6回目か?あ、ちなみに今回ゲストはいない。」

秋希「第1回の時以来だね?」

零次「第2回の時も実質ゲストなしのようなもんだが………………。まあいい。」

秋希「それにしても、また、1ヶ月近く掛かっての投稿だよね?」

零次「一応…………作者も今回は、難産の話だったそうだ。坂本のセリフをどうするかとか、色々悩ませたようだ。展開としては………………。」

1.DクラスとFクラスの試召戦争が終了

2.αクラス&霧島翔子が戦後対談に乱入

3.双眼零次が罵声を浴びる

4.そんな中、Fクラスに協定を持ち掛ける

5.坂本雄二がこれを断る

零次「…………という骨組みだけが作られていて、肉付けは気分次第の行き当たりばったりで行われたんだ。ま、これまでの話も似たような感じだが………………。」

秋希「…………この小説の闇に軽く触れたね。」

零次「そもそもの話だ。………………作者の文章力じゃあ、どうやったって、あの個性豊かな原作キャラクターの魅力を最大限引き出せる訳ないんだ。俺達オリジナルキャラクターですら、まだ不安定な部分があるくらいだからな。」

秋希「そ、そうなんだ………………。それより、スルーしかけたけど、骨組みの3番って、どうしても必要なの?」

零次「当然、必要に決まっているだろう。よく考えてみろ。『死神』の肩書のせいで、去年入学した時から、俺はどんな目に遭わされた?Aクラスの奴らから、どんな評価を受けた?学校での俺の立ち位置なんざ、下手したら明久より下だ。…………ここまで言えば、お前なら理解できるだろ。」

秋希「あ~…………。そうだね。必要かどうか考えると、やっぱり無くてもいい展開だと思うけど、この展開があった方が自然な流れになっているのは確かだと思う。」

零次「そうだろうな。…………さて、話を本編に移すが、近衛、お前は一体どこにいたんだ?あの時、お前の姿が見えなかったんだが………………。」

秋希「フフフ…………。それは次回分かりますよっと。…………また1ヶ月くらい後になりそうだけど。」

零次「絶対、とは言えんが大丈夫だ。次回の話は、…………作者が何度もシミュレーションしている。問題があるとすれば、それを文字にするのにどれだけ時間が掛かるか、それだけだ。……作者自身、最新作を投稿してから、1ヶ月以内に次回作を上げることをルールとしているらしいし。」

秋希「…………不安はあるけど、とりあえず。」

「「次回もよろしくお願いします!」」

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