バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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~前書きRADIO~

秋希「どうも~。近衛秋希と………。」

零次「双眼零次だ。」

秋希「今回も変わった小問だね。『(1)』って。」

零次「今回は、ここで言わせてもらうが、本来なら両クラス、Aクラス視点とFクラス視点、纏めて書こうとしてたんだが、あまりにも長くなってしまってな………。かと言って、『9-A』と『9-F』に分けるのも違和感がある、ということで、前後編的な意味合いで、今回の記号が用いられた。」

秋希「へぇ~。」

零次「それじゃ、そろそろ本編に行こうか。」

秋希「そうしましょう!」



小問9(1) それぞれの朝

ガッ ガッ ガラララ………

 

秋希「おはよー…………ま、誰もいないよね。」

 

 昨日よりガタガタになっている教室の扉を開けて、私は教室へと入った。時計は現在7:30を示しており、それは普段の私なら、決して学校にいるはずの時間帯ではないのだが、今日だけは別件だ。

 

秋希「さてと………………。ちゃっちゃと取り掛かりますか。」

 

 そう。Fクラス教室の、座布団の綿詰めだ。昨日市内の100均やら、雑貨屋やらを駆け巡ったり、姉や弟に頼んだりして、とりあえず予定の量はなんとか手に入った。問題があるとすれば、普段登校するときに使っている鞄では入りきらず、弟の冬由(ふゆ)のリュックを借りる羽目になってしまった事くらいだ。いや、普通なら借りることだけはいいんだけどさ、私の家庭環境はちょっと複雑だからね………。

 

ガガッ ガッ ガラララ………

 

雄二「お、近衛、おはよう。」

 

秀吉「む、近衛がおるのは珍しいのう。」

 

 それから数分後、坂本君と木下君がやって来た。木下君が珍しいと言ったのは、私が普段、学校に来る時間が8:00前後だからだ。

 

秋希「おはよう。坂本君、木下君。君達がここに来たってことはもしかして………。」

 

雄二「ああ。設備の交換はせずに、和平交渉で終わらせてきた。」

 

 やっぱり。坂本君のことだから、そうするだろうと考えていた。

 確かに設備のランクが上がることは、Fクラスにとって、良い事だ。けど負けた時に、Dクラスの平凡な設備からEクラスの少しボロい設備に下がるのと、Fクラスの劣悪な設備がさらに悪くなるのとでは、後者の方がまだマシな方だ。

 それに、Dクラスと設備を交換すると、Fクラスの大半のモチベーションである、『設備への不満』が緩和されることになる。結果、これ以上試召戦争をすることに反対する生徒が出てくるかもしれない。それは『打倒Aクラス』を掲げている坂本君にとって、厄介な事態だ。

 まあ、他にも色々坂本君は考えているだろうけど、私にはどうでもいいことだ。

 

秋希「まあ、ちょうど良かったよお二人さん。時間が空いてそうだし、ちょっと手伝ってよ。」

 

秀吉「うむ。別に構わんが……。何をすればよいのじゃ?」

 

雄二「お前の周りに散らかっているものを見るに…………、座布団に綿を詰めてるのか?」

 

秋希「正解。折角だし、お礼も弾むよ?」

 

 

・・・

 

 

 現在時刻は7:45。代表になった俺は、あのAクラスの雰囲気故に、あまり気は進まないものの、こんな早い時間に学校に来ることにした。

 正直な話、Aクラスは決して良いクラスだとは思えなかった。学力はあるが、性格を見れば、下のクラスの奴らと同じだ。人を見た目と噂と自分勝手な価値観、偏見で判断する。更にはその嫌悪感を本人の前でも露わにする奴もいるほど。一年過ごせば、中学の頃と同じく何かしら変化はあるだろうと考えてたが、その考えは甘かったようだ。

 

「待ってたぞ、双眼零次!」

 

 そう言って、新校舎の玄関で待ち構えていたのは………、確か、時任に栗本、それから奥井か。去年の近衛の情報だと、学年の15~20位の間を行ったり来たりしていた奴らだ。

 

零次「………一体朝から、何の用だ?」

 

「俺たちはな、お前が不正をした証拠を掴んだんだよ!」

 

 随分と自信満々な様子で時任が喋りだす。それにしてもなぁ………。

 

零次「お前ら、俺がHRギリギリに来てたら、どうするつもりだったよ………………。」

 

 去年、2~3回に1回は遅刻寸前の時間に学校に来ていたんだが………。

 

「そ、その時は休み時間とかに持ち越しだろうが!」

 

零次「それもそうか。まあ、普通の反応で良かったよ。どっかの誰かさんだったら、俺に脅迫されてたとか、ふざけたこと言ってそうだったからな。」

 

「ああ……。豊嶋のことか……。」

 

「私も………、あの人とは仲良くなれそうにないです……。」

 

 俺の言葉に栗本や奥井が同意と取れる反応を示した。時任も、口には出さないが、苦い表情をしている。

 

零次「………で?俺が不正をした証拠って何なんだよ。」

 

「そ、そうだよ!危うく忘れるところだったじゃねぇーか。」

 

 忘れんなよ、結構大事なことだろ。

 

「あのですね、正浩君の代わりに言うと、さっき、近衛さんがFクラスの教室に入っていくのを見たんです。」

 

「それで僕達は思ったんだ。近衛さんは、もしかしてFクラス所属なんじゃないかって。」

 

零次「なるほどなぁ…………。で?それと俺の不正がどう関係するんだ?」

 

「しらばっくれんなよ!振り分け試験の時に、近衛と答案を入れ替えたんだろ!」

 

「入れ替えたというよりは、お互いに相手の名前を交換して答案用紙に記入した、の方が正しい言い方になるかな。」

 

「そうだ!近衛を脅して、答案用紙の名前を入れ替えたんだろ!どうだ、大人しく白状したらどうだ?」

 

 いわゆる、替え玉受験みたいなことか。まあ、確かに理論としては、成り立っているだろう。昨日、俺が教室に入って来た時の反応からするに、俺は平気で暴力をふるい、人を脅すような人間と思われているみたいだからな。

 けれど………………。

 

零次「………断る。」

 

「ハァ!?」

 

 実際、俺はそんなことをしていない。というか、不正そのものをしたこともない。

 

零次「なんで、やってもいないことを、認めねばならないんだ。そもそも、近衛と俺の試験会場となった教室は別々だ。名前を入れ替えて書いてたら、すぐバレる。久保も言っていただろう。俺の周りは監視が強化されていたって。」

 

 正直、余りにも監視が強くて、集中力が途切れかけた時が何回かあったからな…………。思い返すと、よくAクラス代表になれたと思う。

 

「そ、そんなの、本当かどうか分からないじゃないですか!」

 

零次「だったら、今からでも先生に聞いてくればいいだろう?HRまでまだ十分時間があるんだ。俺を批判する時間があるのだから、それくらいの余裕はあるはずだろう?」

 

 今、俺と時任達がいる場所と、先生方がいる職員室との距離は目と鼻の先くらいだ。しかも、この時間帯なら、先生もそれなりにいる。ちょっと話を聞くくらいなら、数分程度で終わるだろう。

 

零次「………………話は終わりか?それなら俺は、教室に行くぞ。時任、栗本、奥井、お前達も遅れずに来いよ。」

 

「………………いや、まだだ!双眼零次!お前に試召戦争を挑む!」

 

「ちょっと、正浩君!?」

 

「正浩、それは、やめといたいいぞ!?」

 

 …………なるほど。無理矢理にでもAクラス教室に来させないつもりか…。

 

零次「………別に断るつもりもないが………………。先生がいないと、試召戦争できないぞ?」

 

「………………あ。」

 

 ………もしかしてアレか?時任って、学力はあるけど、肝心なところで抜けているタイプの人間か?栗本と奥井は頭を抱えているし………。

 

零次「………じゃ、また教室で………………。」

 

信楽「おー!おはよう、双眼!………って、なんだなんだ、その顔は?」

 

 ………このタイミングで来るなよ、って顔だ。

 

「…………!ナイスタイミングだ。信楽先生、Aクラス時任正浩が双眼零次に試召戦争を挑みます!」

 

信楽「………あ~………、そういうことか。仕方ねぇ。承認するぞ。」

 

「試獣召喚≪サモン≫!」

 

 その言葉と共に、時任の足元に幾何学的な魔方陣が描かれる。これが、先生の立ち会いの下で試験召喚システムが起動されたことを示している。

 その魔方陣から出てきたのは、中世の騎士をイメージさせるような鎧を纏い、剣と盾を装備しており、顔立ちは目の前にいる時任とそっくりである。そう、これが、『召喚獣』である。

 

「行くぞ!雷太!舞!」

 

「ちょっと待てよ!僕たちを巻き込むなよ!」

 

「やるなら、正浩君一人で…。」

 

 ほう。時任を囮に、二人は逃げるつもりか?

 

零次「気が変わった。Aクラス代表双眼零次。時任正浩、栗本雷太、奥井舞の三名に試召戦争を申し込む。試獣召喚≪サモン≫。」

 

「「!!!」」

 

零次「まさか、ここまでしておいて、逃げられると思ったのか?俺はそこまで優しくねぇんだよ。」

 

「「…………試獣召喚≪サモン≫。」」

 

 そして、俺と二人の召喚獣も出揃った。栗本の召喚獣はトレンチコートに棍棒のようなものを装備しており、奥井の召喚獣は、魔法使いを連想させるような黒い衣装と帽子に、それとは不釣り合いなノコギリのようなものを得物にしていた。それに対して、俺の召喚獣はというと………。

 

「…………ブッ、ハハハハ!双眼!なんだよ、その装備!」

 

「双眼君、その装備で本当にあっているのかい?」

 

零次「ああ。正真正銘、俺自身の召喚獣だが?」

 

 文月学園指定の学生服に黒色の木刀を持っているだけ。どこぞの観察処分者とほとんど同じ装備だ。

 

零次「だが、大事なのは装備より点数じゃあないのか?」

 

 その言葉と同時に俺と時任たちの点数が表示される。

 

[フィールド:化学]

2-A 双眼零次・・・487点

 

2-A 時任正浩・・・248点

 

2-A 栗本雷太・・・270点

 

2-A 奥井舞 ・・・227点

 

 

 

「………………え?」

 

「な、なんですか………その点数。」

 

「嘘だろ………。なんでこんな高いんだよ…………。」

 

 栗本、奥井、時任。それぞれが俺の点数を見て、皆驚いている。ま、去年の俺からは全く考えられない成績だからな。

 

「い、いや待て落ち着け!アイツは不正してるんだ!そんな奴に負けるか!」

 

零次「ほう。先生の前でそんな言葉を吐けるとは、ある意味凄い奴だな、時任。本当は本気で相手するのも面倒臭いが、『お前は先生の前で特定の生徒を侮辱した』。それだけの理由で絶望を与える。栗本、奥井。恨むなら、時任を恨むことだな。」

 

 さあ、勝負開始だ。

 


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