バカと無情の試召戦争   作:Oclock

17 / 63
~前書きRADIO~

零次「よう。俺だ、双眼零次だ。今回で小問9が終わるかと思ったら、また次話まで持ち越しだそうだ。おまけに………作者が最近、忙しくなってしまって、なかなか続きが書けないでいるらしい。それでも、この小説を見てくれるとありがたい。それじゃ、本編をどうぞ。」


小問9(2) 表と裏

雄二「………なあ、近衛、ちょっといいか?」

 

秋希「うん?どうしたの、坂本君。」

 

 三人で黙々と座布団に綿を詰める作業を続けて、十数分後。時計が普段私が学校に来る時間を示す頃になって、坂本君が口を開いた。

 

雄二「実は昨日、双眼に遭ったんだが……、その時アイツ、Aクラス教室から出てきたんだ。」

 

秋希「…………たまたまじゃない?Aクラスの誰かに用事があったとか。」

 

秀吉「いや、一言一句覚えとるわけではないが、AクラスとFクラスとで、協定を結ぶ、とか言っておったな。」

 

雄二「まあ、打倒Aクラスの目標があるから、アイツの言う協定は断ったんだが、俺が言いたいのはその事じゃねぇ。」

 

 あ、そうなの?昨日会ったことの報告とかじゃないんだ。

 

雄二「なあ近衛……、お前は知っていたんじゃねぇのか?アイツが………、双眼がAクラスに居ることを。」

 

秀吉「む?それは本当なのか、近衛よ。」

 

秋希「……………まあね。でも、なんでそう思ったの?」

 

 綿を詰め終えた座布団を適当に放り投げて、私はそう答えた。残りの数は既に10個より少なくなっていた。

 

雄二「いや、確証はないんだが、お前が俺に協力しないと言ったことや、お前が双眼と仲が良いことを考えたら、その方がしっくりくる、そう思っただけだ。」

 

秀吉「…………ふむ、どういうことなのじゃ?雄二よ。」

 

雄二「単純に、双眼がAクラスに入った以上、この教室にアイツを入れたくないってことだろう。他の連中からしてみれば、双眼はFクラス確実の成績だったんだ。けど、双眼はAクラスに入った。………どうやってかは分かんねぇけど。とにかく近衛が、双眼がAクラスに居ることを知っていたとすれば、折角双眼が手に入れたAクラスの席を俺達に奪われる、ということは阻止したい。だから、俺たちFクラスに協力しない。なんとなく辻褄は合うだろう。」

 

 …………流石神童と言われていただけある。確証がないだ何て言ってるけど、私が零次がAクラスに居ることを知っていたというには、十分だ。ただね………………。

 

秋希「…………坂本君、君の推理はいい線まで言っているけど、違うところが3つある。」

 

雄二「何?」

 

秋希「まず一つ。私と零次は別に仲良くない。具体的に言うなら、君と吉井君くらいの仲だね。」

 

秀吉「そんな風には見えんのじゃが………。」

 

秋希「それは坂本君達だって同じでしょ。」

 

 私達は互いに相手のことをよく知っている。普段皆に見せている『表』の顔はもちろん、特定の人しか知らない『裏』の顔も知っている。それ故に、互いが互いに、相手のことを警戒していて、その結果、お互い相手が不穏な行動をしないようにと、相手を監視し、すぐに暴走を止められるように行動を共にしている。その反面、『とある目的』で利害が一致していることもあって、二人の間での最低限のコミュニケーションは欠かさない。これが、私と零次の関係である。

 

秋希「だから、別に零次が豪華なAクラスに居ようが、貧相なFクラスに居ようが、そんなのは関係ないの。これが違うところその2。」

 

雄二「………待てよ?なら、Fクラスに協力しない理由はなんだ?」

 

秋希「おや?私は、『Fクラス生徒としてなら協力する』って、言ったと思うけど?」

 

雄二「…………この成績で協力というか?」

 

 そう言って、坂本君はカバンから、1枚のプリントを取り出した。そこには、Fクラス生徒全員の点数が表にまとめられていた。そして、今の私の点数はというと…。

 

現代国語 65点

古典   72点

数学   58点

物理   56点

化学   60点

日本史  77点

世界史  78点

現代社会 61点

英語   69点

英語W  67点

保健体育 55点

 

総合成績 658点

 

 ………………うん。

 

秋希「私の言った通り、十分な協力だね。」

 

雄二「何言ってんだ?こんなのまるでFクラス並………………って、そういうことかよ。」

 

 坂本君は分かってくれたみたいだね。私が言いたかったことは、『Fクラス生徒と同じくらいの成績としてなら、協力してあげる』ということだ。ただ、正直言って、昨日の態度を見た限りだと、Fクラスに協力したくないというのが本音だけど。

 

秋希「まあ………、今日は、昨日の戦争で消費した、点数の補給するためのテストだけで一日が終わるだろうし、他のみんなの頑張り次第でDクラスレベルまで上げてもいいと思ってるけど。」

 

雄二「随分上から目線だな。」

 

秋希「そりゃあ、実際私の方が上だから。」

 

 クラスの地位では代表である坂本君の方が上だけど、本来成績では、私の方が圧倒的に上だ。それに、零次の『目的』に協力するためにも、今、代表の指示に従って動くつもりもない。

 

秋希「………とにかく、私が協力したくないのは、零次がAクラスに居ることとは、全く………、いや、ほとんど関係ないから。それとは別の理由があるのよ。」

 

雄二「別の理由だと?」

 

秀吉「一体、何なのじゃ?」

 

 二人とも、残った座布団を全て縫い終わり、そう聞いてきた。

 

秋希「……………それを話す前に、昨日吉井君に話した現実を話すね。………………零次がAクラスにいる以上、私たちに勝機は一切ない。その決定的な理由を。」

 

 

・・・

 

 

西村「戦死者は補習だぁっ!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!あんなん反則だろ!」

 

「やっぱり、そうなりますよね………。ハァ……。」

 

「正浩、後で覚えていなよ。」

 

 現在時刻は7:50………………いや、正確には、7:49か。俺は、先程、試召戦争を仕掛けてきた時任と、その取り巻きの奥井、栗本を倒し、彼らが西村先生に連行される姿を見ていた。

 ん?勝負の過程が気になるのか?生憎、人に見せられるような戦いじゃあ無かったのでね。

 

信楽「あー………、双眼、なんか悪かったな。」

 

零次「いいえ、別に問題ないですよ。」

 

 偶然でも故意でも、いずれ奴らとは戦うことになるのだ。寧ろ、俺の真の実力を見せることで疑念ができるはずだ。『零次は本当は頭がいいんじゃないか?』『代表の座を零次に任せても大丈夫では?』って具合にな。最も、豊嶋という反乱分子がいる以上、そんなことにはならないのは分かってはいるし、俺自身、欲しかったのは、『霧島に勝った』という事実だけで、代表なんて向いていないと思っているが。

 

信楽「にしても、あの様子だと、Aクラスに居場所なんざ無いんじゃねえか?」

 

零次「別にそんなことは無いですよ。少ないですが、仲間はいますから。」

 

信楽「そうかい………………。そんじゃ、今日も一日勉強頑張れよ。」

 

 言われずとも、そのつもりですよ、と。………………さてと。

 

零次「………………………で、そんな物陰でコソコソと何をしている。木下。」

 

優子「……別に、ただ通りかかっただけよ。」

 

零次「それにしては、随分と怯えてないか?もしかして、俺達の勝負を見てたか?」

 

優子「…………。(コクッ)」

 

 少しの沈黙の後、木下は頷いた。予想は当たっていたようだ。

 

零次「そうか……。だったら、アイツらに協力してやっても良かったんじゃないか?不意討ちでやられた程度で俺は文句は言わねぇぞ。」

 

 実際、目の前にいる木下は学年7位に位置する実力者だ。隙をつけば、俺に致命傷を与えられるだけの点数を持つ召喚獣がいるのだから、加勢しない理由など無いだろう。

 

優子「あんな点数を見て、挑もうだなんて、無謀なことはしないわよ。それに、これから授業だって始まるのに、一時限目から補習室で缶詰め状態なんて嫌よ。」

 

零次「……なるほどな。」

 

 召喚獣が戦死して点数が無くなったら、その生徒は補習室で補習を受講する義務を負う。試召戦争のルールにしっかりと明記されている事項だが、これに限らず試召戦争のルールは、クラス対クラスでは当然だが、個人対個人でも適用される。だから、俺と戦って負けた時任達は、しばらく補習室から出られない訳で、HRはほぼ確実だが、最悪一時限目は授業に出られないことになる。まあ、アイツらは優秀な方だし、試召戦争中でもないから、さっさと補習室から出てくるだろう。

 

零次「ま、戦う意思がないのなら、俺は教室に行かせて貰うぞ。」

 

優子「え、あ、ちょっと待ちなさいよ。」

 

零次「………………なんだ?お前も俺が不正した証拠を見つけた、とか言い出すのか?」

 

優子「そんなんじゃないわよ!ただ単純に、近衛さんとどういう関係なのか聞きたいだけよ。」

 

 近衛との関係?木下は一体何を企んでいる?近衛からいろいろデータは貰っているが、全くもって見当がつかない。

 

零次「………とりあえず、教室に向かいながら話す。それでもいいなら、答えるが。」

 

 正直、さっきみたいな目に遭う前に、さっさと教室に行きたい。HRの少し前までは、先生は教室に来ないし、授業が始まれば、そっちを優先するからな。とりあえず、昼休みまでの安全は確保できる。

 

優子「………………別にいいわよ。」

 

零次「………わかった。結論から言うと、俺と近衛は、文月学園にいる、たった二人だけの同級生………同じ学校の出だ。」

 

優子「………………え?」

 

 まさか、聞き逃したのか?仕方ない。

 

零次「だから、俺と近衛は………。」

 

優子「ちゃんと聞こえたわよ!ただ………、確か双眼、あなた、処暑中学よね?卒業したのって。」

 

零次「そうだ。近衛も同じ学校を卒業している。」

 

優子「………………冗談でしょ?あの品行方正で真面目な近衛さんが、処暑中って。」

 

 ………………やはりコイツもか。どいつもこいつも、そうやって近衛を持ち上げる。だが別に、アイツの魅力とかそういうのが分からない訳でも、同じ中学出身なのに、扱いが天と地ほど差があることを恨んでいるわけでもない。

 ただ、アイツに限らず、人の表面ばかりを見て、まるで、それで全てを知ったかのように評価を下す。それが気に食わないだけだ。

 

零次「………そう思うのも無理はない。それにアイツは………こういうこと言うと………怒られるが、大企業の娘でもあるからな。誰だって、ちやほやしたがるし、何か起きたところで、誰も近衛のことは疑わない。」

 

 俺は一息つくと、こう言った。

 

零次「けど、お前らは何も知らないだろ?木下、今更だと思うが言っておく。近衛とはなるべく関わるな。アイツに関わるとロクなことが無い。」

 

 同じ学園にいる以上、絶対に関わらない、ということは無理だが、接触を少なくすることは可能だろう。

 

優子「…………いきなりどうしたのよ?」

 

零次「残念ながら、近衛はお前達が思っているような、いい人間じゃない。むしろ逆だ。俺が会った中では、最低最悪………………は、言い過ぎにしても、そのくらいの悪しき人間だ。」

 

優子「…………どういうことよ。」

 

零次「ま、別に話してもいいんだが………………。昨日の今日で何があった?お前、俺が代表なのが不満なんじゃなかったか?」

 

 さっきから、ずっとあった違和感。木下は、なんというか真面目で、どこか高圧的な雰囲気のある奴だからな。俺みたいな不真面目な印象のある奴は、憎まれる対象にあれど、親身に話を聞いてくるような感じではなかったはずだ。

 

優子「不満はあるわよ。『死神』なんて言われる物騒な生徒より、去年もクラスをまとめていた翔子が代表やってくれた方がいいわよ。」

 

零次「俺の点数については?」

 

優子「いろいろ疑問はあるけど、点数をつけたのは先生方でしょ?だったら、それに文句を言うのはナンセンスよ。」

 

 なるほど。あの時、俺は『俺が代表であることに不満があるか?』と聞いた。だから、『不満がある』生徒が手を挙げた。けれど、木下の話を聞く限りでは、『俺が不正をした』と思っている奴は、案外少ないのかもな………。

 

零次「分かった。HRまで、まだ時間は沢山ある。教室でお茶でも飲みながら、話せるだけ話してやる。」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。