バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問9(3) それぞれの願い

秋希「……………これが、今私が語れる零次の力よ。ま、これだけでも十分、Aクラスに挑むのが無謀だって分かるでしょ。」

 

 私が語った零次の実力。それは、話を聞いた二人は開いた口が塞がらなくなっていた。

 

秋希「ま、別に私は、君達が試召戦争を続けることに反対なわけではないし、決めるのは代表である坂本君だから、その決定には従う。ただ、Fクラスの現状を考えると、Aクラスを倒すのは難しいと思うのよ。」

 

秀吉「確かに、今の話を聞いた後じゃと……。」

 

雄二「ああ………………。だが、だからって、俺の意思は変わらねぇ。Aクラスを倒す。」

 

 坂本君からは並々ならぬ決意が見て取れる。

 

秋希「なるほど。ところで、坂本君に聞きたいんだけど、どうやってAクラスを倒すつもりなの?」

 

 腐っても元神童だ。きっと、素晴らしい作戦を考えているはず………………。

 

雄二「ああ…………。それが、だ。実は、翔子との一騎打ちで決着をつけようと思ってたんだ。」

 

秋希「霧島さんと?」

 

秀吉「それで勝てるのかのう?」

 

 秀吉君が不安がるのも、無理はない。はっきり言って、Fクラスの代表がAクラスの中でもトップクラスの実力を持つ生徒と真っ向勝負で勝てるとは思わない。

 

雄二「ま、普通に戦ったら無理だからな。だから、条件を限定する。」

 

秋希「条件?勝負科目をこっちが指定するってこと?」

 

雄二「そうだ。科目は日本史で、レベルは小学生程度。百点満点の上限付きで、召喚獣は使わず、純粋な点数勝負で勝敗を決する。」

 

秋希「………………それで倒せるの?」

 

 はっきり言って、そんなの注意力とか集中力とかの勝負だ。まともに戦うよりかは幾分かマシだけど、それでも100%勝てるとは思えない。

 

雄二「ああ、その点は問題ない。ちゃんとした根拠もある。」

 

秀吉「ん?それは何じゃ?」

 

秋希「私も気になるね。零次には『絶対』教えないから、聞かせてもらえるかな?」

 

 まあ、そう言ったけど、大体分かる。坂本君と霧島さんは、同じ小学校と中学校を卒業している。それだけなら別に重要な要素でもないけど、去年の調査で、中学はともかく、小学生の頃は二人は仲が良かったことが分かっている。そして、その時に起こった出来事も………………。

 

雄二「ああ。実はアイツは、ある問題を必ず間違えるんだ。」

 

秀吉「ある問題?それは何じゃ?」

 

雄二「その問題は………………『大化の改新』。」

 

秋希「大化の改新?小学生レベルの問題ってことを考えると、何年に起きたかとか?」

 

雄二「そうだ。その年号を問う問題が出れば、俺達の勝ちだ。大化の改新が起きたのは645年。こんなの明久でも間違えないだろうが………………。翔子は必ずこれを間違う。これで俺たちは勝利し、この教室ともオサラバって寸法だ。」

 

 確かに私の調査でも、霧島さんは坂本君に勉強を教えてもらったことがあったという記録がある。多分その時に、坂本君が間違った答えを教えてしまったのだろう。

 

雄二「ただな………………、零次のことを考えると、この作戦はもう使えないだろうな。」

 

秋希「まあ、そうなるだろうね。」

 

 この作戦は、坂本君が霧島さんと戦える舞台がちゃんと整っていなければ成立しない。零次が代表なら、一騎打ちのメンバーは確実に零次だ。

 私が覚えてる限りでは、アイツが負けた姿は、というより追いつめられた姿は一度しか見ていなかった気がする。それに、点数に関しても、中学の頃はもちろんだけど、小学生の頃でも、テストはほとんど100点だった。まあ、この学校じゃ、そんなもの大した根拠にはならないけれど、まず、Fクラスじゃ、敵いっこない。

 

秋希「じゃあ、今の話を聞いて、もう一度言わせてもらうけど…………。私は今のFクラスには、今以上の協力はしないし、ぶっちゃけ、君のことを『元神童』だと過大評価してた。『悪鬼羅刹』と呼ばれて3年くらい経つようだけど、随分と堕ちたものね。」

 

雄二「なんだと!?」

 

秀吉「近衛よ、それは流石に言いすぎでは………。」

 

 気づけば、時計は8:10を示していた。坂本君に文句をぶつけるには、まあ、十分な時間だ。

 

秋希「紛れもない事実でしょう?大体、そんな条件で勝負できると思うの?」

 

雄二「それなら問題ないぞ。試召戦争のルールじゃ、戦争ではテストの点数を用いていればいいんだ。だからこの方法でも何の問題もなく勝負できる。それに、その交渉を進める方法も考えてあるし、今のところ、それも順調に進んでる。」

 

 確かに、試召戦争のルールでは、『勝負には必ず召喚獣を用いなければならない。』という文章が無ければ、『テストで義務教育レベルの問題を出してはいけない。』なんてことも明文化されてない。そもそもこのルール自体がちょくちょく改定されていたり、まだ試験召喚システムがこの学校に採用されて4年しか経っていなかったりで、まだまだ試召戦争に関して手探りな部分が多いのだ。まあ、何でもかんでも文章にして、ガチガチに縛るよりかはマシだけど。

 

秋希「…………そう。でも、坂本君、あなたはそれでいいの?」

 

雄二「それでいいって………………一体何が言いたい?」

 

秋希「あなたの試召戦争における目標は、『学力が全てじゃないことを証明したい』じゃ、なかったの?テストの点で勝つなんて、学力があることを証明する一番わかりやすい方法で勝って、その目的が達成できるわけないでしょ。それとも、確実な勝利のために、『結局、学力が全てだ』と言って、諦めるのかしら?」

 

雄二「くっ………それは……。」

 

 少なくとも、今までの坂本君の言動を見てきた限りでは、彼はそんな性格ではなかった。ただ、真っ先にそんな作戦を伝えたところを見ると、きっとそれ以外ではAクラス勝つのは不可能だと思ったのだろう。

 

秋希「それに、試召戦争のルールには、『戦争の勝敗はクラス代表の敗北をもってのみ決定される』とあるわ。つまり、代表が霧島さんじゃなければ、即敗北なのよ。……………まあ、だからこそ、零次がAクラスに居ることを考えると使えないって思ったのは、いい判断ね。」

 

 まあ、霧島さんが代表だったとしても、勝てるとは思わないけど。注意力、集中力以前に、『大化の改新』が出ない可能性だってあるわけだし(最も、日本史において大事な部分だから、そんなことはないだろうけど)。

 

雄二「…………。」

 

秋希「さてと、話を戻そうか。もともとの議題は、『なんで、私が君達に協力したくないのか』だからね。」

 

秀吉「そういえばそうじゃったの……………。」

 

 一呼吸おいて、私ははっきり告げた。

 

秋希「結論をさっさと言っちゃうと、君達にAクラスの設備を使う資格がない、あの自己紹介の時間でそう判断したからよ。」

 

秀吉「む?どういうことじゃ?ワシらじゃって、Aクラスの設備を使っても…。」

 

秋希「そう。使う『権利』は当然あるわよ。そのための設備格差、そのための試験召喚戦争だから。でも、私が言っているのは、使う『資格』があるかどうか。Aクラスの設備を使うに値する人間かどうかってことよ。」

 

秀吉「ま、全く分からんのじゃが…。」

 

雄二「あ~。要はこういうことか?俺達にAクラスの同等の学力がないから、協力したくない、と。」

 

秋希「………………曲解すれば、そうなるだろうね。でも、そういうことじゃない。君達が普段どれだけ勉強しているかってことよ。」

 

雄二「ああ………なるほどな。」

 

秀吉「それを言われると、ぐうの音も出ないの…………。」

 

秋希「………ま、このことはいずれ、他の皆にも言うつもりだから、今回はここで止めにしとくよ。」

 

 現在時刻は8:17。座布団は全部縫い終わったけど、それをちゃんと整理しなきゃいけないし。次に早いのは、おそらく姫路さんで大体8:25くらいには着くかな。

 

秋希「………………ただ、坂本君、Aクラスを目指すなら、一つだけお願いしてもいいかな。」

 

 そして私は、坂本君に一つお願いをした。彼の野望と私の希望を同時に叶えるために。それに坂本君は、渋々ながらも、なんとか了承してくれた。

 それからはというと、特別なイベントも起こることなく、クラスの皆は補充試験をして(私はしないけど)、一日が過ぎていった。

 

 

・・・

 

 

零次「………………ま、これだけ語れば十分だろ。ご清聴ありがとうございました、てな。」

 

 まだまだ人もまばらなAクラス教室の後ろ側で、俺は木下と、ついでに教室でばったり会った影山と霧島に、俺の過去の話を聞かせた。と言っても、アイツらに話したのは、ほんの氷山の一角、のまた先端の部分。水に隠れている部分は当然だが、水面に出ている部分でさえも、全てを曝け出すには、奴らはまだまだ俺の本質を知らなさすぎる。最も、俺の本質を知る頃には、俺はここにいないだろうが。

 

「「「………………。」」」

 

零次「信じられないって顔だな。」

 

優子「そりゃ、そうでしょ………。」

 

翔子「……人は見かけによらない、って言うけど………、流石にイメージと違い過ぎる。」

 

 まあ、それがアイツだからな。影山が黙ってるのは………………、まあ、どっちでもいいか。

 

零次「だが、これは紛れもない事実なんだよなぁ。と言っても、信じるか否かは任せる。」

 

 実際、どっかの誰かさんに同じ話を聞かせたところで、『近衛の信用を落とすために根も葉もない話をでっちあげている。』で一蹴されるのが目に見えてるわけだからな。

 

零次「………とりあえず、今日のところはお開きにしておこうか。豊嶋あたりが色々ケチつけてくる前にさ。」

 

翔子「……………………零次。」

 

零次「なんだ、霧島。」

 

 さっさと勉強して、これから先いずれ巻き込まれるであろう試召戦争に備えようと思ってると、霧島が俺を呼び止めた。

 

翔子「……豊嶋達と、どうにか仲良くできない?」

 

優子「翔子の言う通りよ。その……私が言える立場じゃないのは分かってるけど、それでも、クラスはやっぱり纏まってる方がいいと思うから。」

 

 ………確かに、木下が言えた立場じゃないな。豊嶋ほどでもないにしろ、コイツも率先して、俺が代表であることに反対した一人だ。

 

零次「残念だが、それは無理な話だな。アイツはこっちの話を聞く気が無いんだから。」 

 

 向こうに話を聞く気があるなら、霧島や高橋先生あたりにに仲介役を頼むとかして、いくらでも場を設ける機会を作れるのだが、アイツはこっちの話なんて一切聞かないからな………。それだけならまだマシだが、こっちの話を全否定してくるものだから、たまったもんじゃない。

 近衛が度々、進学校なのかと、疑問を呈する理由がよく分かった。………最も、俺も去年の時点でそう思ってたわけだが。

 

翔子「……………………そう。」

 

零次「残念ながら、人間、誰とでも仲良くできるなんてのは、夢物語でしかないのさ。お前だってそれは分かっているはずだ。」

 

 コイツも過去に辛い目に遭っていることは近衛から聞いている。それなのに何故そんなことが言える?いや、そうだからこそ、自分と同じ目に遭ってほしくないってことだろうか。

 

翔子「……それは分かってる。でも、それでも私は、出来ることをやりたいから。」

 

零次「それなら、俺に関わってくれない方が、よっぽど良い。どうしてそこまで俺に近づこうとする?」

 

翔子「……ただ、あの時の恩を返したい。……あなたは必要無いと言ったけど、やっぱり、私の気が収まらない。」

 

 しばしの沈黙。そして考える。

 

零次「……ハァ…………分かった。勝手にしてくれ。」

 

翔子「…………それって…。」

 

零次「ただし、そうした結果、お前に何らかの被害が出ても、俺は一切関わらない。その覚悟があるのか?」

 

優子「ちょ、ちょっと、流石にそれは………………。」

 

翔子「……………………それでもいい。」

 

 木下は止めようとしたみたいだが、霧島はそれで納得してくれた。ま、流石に近衛が行動に出たら、同行せざるを得ないが。

 

零次「……………………そうか。………お前の覚悟がよく分かった。だが、俺が任命したとはいえ、お前は俺の敵である存在だ。そのことを忘れるなよ。」

 

 それからは特に語るべきことは何もなかった。だが、それが逆に不安にもなる。豊嶋、お前は一体、何を考えているんだ………………?

 




~後書きRADIO~

天:あ、あー、あー………………よし。

天:どうも、天鋸江です。今回は一つ手短に連絡を。

天:端的に言うと、元々この場所には『後書きRADIO 第7回目』があったんですけど、諸事情で消すことにしました。

天:この回では、感想をもらったことに関して、ちょっとだけ触れてたけれども………。これを記録している現在、感想は0なんです。

天:つまり、もう無くなっている感想について話しているものを、いつまでも残しておくのはどうなのかな、と思った次第です。

天:これから先、感想が届いた時は、なるべく目を通すようにしますが、返信については………………あまり期待しないでください………………。

天:以上、作者からの伝言です。次回もよろしくお願いします。

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