Cクラスとの激闘から数日。俺達は、Cクラス戦で消耗した点数を各自で補充する日々を送った。と言っても、ほとんどの生徒は一教科しか消耗してないから、思っているほど時間を浪費しなかったな。
そして、俺や霧島が予想していたあの日が、ついにやって来た。
零次「なるほど、一騎打ちねぇ……………。」
そう、Fクラスの宣戦布告だ。ただ、近衛から聞いていた宣戦布告の方法とはいろいろ違うところがある。勝負の形式を限定してきたことが一つ。そしてもう一つは……………。
優子「何が狙いなの?」
雄二「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ。」
代表が直接Aクラスにやってきたこと。これまでFクラスの、というより形式的な宣戦布告は、使者を一人出して、宣戦布告する旨を相手クラスの代表に伝えるものだった。そして、その使者がボコボコにされるまでがワンセットなのだ。
だが、今回は代表が直接宣戦布告に来た。それだけでなく、今までの試召戦争で使者を務めてきた明久を筆頭に、土屋、秀吉、姫路に近衛とFクラスのメイン戦力(一人二人首を傾げるメンバーがいるが……)が勢揃いである。
優子「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることができるのはありがたいけどね、だからってわざわざリスクを冒す必要はないかな。」
雄二「賢明だな。」
そりゃそうだ。いくら姫路や近衛がいるとはいえ、残りは雑兵も同然だ。もっとも、坂本がそう簡単に勝たせてくれるわけがないから、楽勝とは言えないが。
雄二「ところで、Cクラスの連中との試召戦争はどうだった?」
ここは俺が答えるか。
零次「……………2ランク下のクラスだと思って侮ってな………。お陰で、戦争が終わった頃には壊滅状態だった。」
雄二「白々しいな。Aクラスを壊滅状態にしたのは、お前だろ?Aクラス代表双眼零次。」
チッ。やっぱ無理な誤魔化し方だったか……………。しかも、『Aクラス代表』。派手に暴れ回ったからなのか、もうこの話が学年全体に行き渡ってそうだ。
…………Fクラスサイドの数名が驚いた顔をしているが、本題から逸れるから、無視することにしよう。
雄二「ところで、Bクラスとやりあう気はあるか?」
優子「Bクラスって……、昨日来ていたあの……?」
雄二「ああ。アレが代表をやっているクラスだ。」
木下は渋い顔をして、坂本はニヤリと笑みを浮かべている。その理由は簡単だ。Cクラスとの試召戦争があった放課後に、Bクラス代表の根本が俺達の教室にやって来たのだ。…………何故か女子の制服を着て。
結果、Aクラスは一瞬にして悲鳴で埋め尽くされた。中には嘔吐仕掛けたやつもいたな。後から近衛に聞いた話だと、根本の自業自得とはいえ、この惨状が気の毒に思えた。
ちなみに、この阿鼻叫喚の中ほぼノーリアクションだったのは、俺と霧島と影山の三人だった。
雄二「幸い宣戦布告はまだされていないようだが、さてさて。どうなることやら………。」
優子「でも、BクラスはFクラスと戦争したから、三ヶ月間の準備期間を取らない限り試召戦争は出来ないはずだよね?」
零次「いや、それは違うぞ、木下。コイツらは確かにBクラスを討ち取ったが、設備を交換しなかった以上、対外的には『和平交渉にて終結』という結果に終わってるんだ。つまり、Bクラスは負けていないから、普通に宣戦布告できるわけだ。……………それはDクラスも同様だ。」
本来、戦争の泥沼化を防ぐ為にある3ヶ月の宣戦布告禁止期間。だが、実際にこれが適応されるのは、戦争した二つのクラス間で設備のランクが変更された時だ。
まあ、これまでに行なわれた試召戦争の数が少ない上、それらの中に今回のFクラスのように、設備交換の権利を放棄してまで、さらに格上のクラスに連日挑みにいくような前例が無い訳だから、勘違いするのも分かるが。
優子「…………つまり脅迫ってこと?」
雄二「人聞きが悪い。ただのお願いだよ。」
さて、木下はどうする?一応、クラスの代表だし、現在霧島が席を外してるから交渉の場に出ているが、今回の交渉は基本木下に任せている。どうせ、俺が決めると文句を言う輩がいるからな……。
優子「うーん……わかったよ。何を企んでいるのか知らないけど、代表が負けるなんてありえないからね。その提案受けるよ。」
明久「え?本当?」
なるほど、答えは了承か……。まあ、実際木下の言う通り、Fクラスの誰が相手だろうと、俺が負ける等ありえないがな…。
優子「だって、あんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だもん……。」
……なるほど、そういう理由か……。
さて、ここで一度動くか……。交渉に関しては木下に任せているとは言ったが、このまま黙っているつもりもないからな。
零次「…………ただし、こちらからも提案がある。坂本、お前の言う一騎討ちを七回して、最終的に勝利数が多い方が勝ち。このルールで勝負して欲しい。」
優子「ちょ、ちょっと双眼!」
零次「別に問題は無いだろ?そもそもお前だって、一騎討ちを複数回行なわせるつもりじゃなかったのか?」
優子「そ、それはそうだけど…………。」
零次「なら、いいだろ。それで?坂本、この提案は受けてくれるか?」
雄二「なるほど。こっちから姫路が出てくる可能性を警戒しているんだな?」
零次「いやいや、そんなことまで考えてはいないさ。ただ、お前達に敬意を表したいだけだ。」
雄二「敬意、だと?」
若干、不審がっているな……。言葉通り受け取ってくれれば良いのに。
零次「そうだ、敬意だ。これまでお前達Fクラスは、Dクラス、Bクラスと、二度も格上と戦い、そして勝ってきた。周りの奴らから、そして味方からもきっと『勝てる訳無い』と言われただろう。だが、そんな声をお前はひっくり返したんだ、坂本。これは決して姫路一人の力じゃない。お前の采配、策略、作戦…………まあ、そういうものが大いに関係している。俺はそう思っている。」
姫路の学力の高さは入学して日の浅い第一学年の間でも、噂になるレベルだ。そんな奴がFクラスの味方になるのは、それだけでも十分心強い。
だが、もし彼女一人に任せていたとしたら、Dクラスは勿論、最悪Eクラス相手でも負けていただろう。かつて神童と呼ばれた坂本の、まるで何年も前から練っていたであろう計画があったからこそ、今俺達の前に来れているのだ。
零次「だから俺は、Aクラス代表としても、個人としても、坂本、お前を評価しているのさ。それなのに、最後の勝負を一騎討ちの一戦で終わらせるのは、あまりにもつまらなすぎる。味気なさすぎる。ただそれだけの理由さ。…………まあ、何か企んでいるとすれば、お前同様、『俺達』の勝利、だけどな。」
雄二「…………………そうか。それなら、その条件を呑んでも良い。」
数秒の沈黙のあと、坂本はそう返した。……………それにしてもさっきから、明久の反応が随分面白いな。声こそ出ていないものの、表情から、焦りが丸わかりだ。
優子「ホント?嬉しいな♪」
雄二「けど、勝負する内容はこちらで決めさせて貰う。そのくらいのハンデはあってもいいはずだ。」
なるほど、そう来たか。
零次「………………………どうする?木下。」
優子「え!?そこで私に振るの!?」
零次「俺としては、Fクラスの希望は出来る限り聞いてやりたいが、それを猛反発する奴がいるだろ?最も、ベストな方法は、霧島に決めてもらうことだが、今は席を外しているから……………。」
翔子「……受けてもいい。」
……………噂をすれば、という奴だな。
零次「霧島、用事はもう済んだのか?」
翔子「……うん。……それで、雄二の提案を受けてもいい。」
優子「あれ?翔子、いいの?」
翔子「……その代わり条件がある。」
まあ、そうだろうな。そう言うと、霧島は姫路の方をじっと見つめた。…………いや、睨みつけた、という方が正しいか?まるで、彼女には何か大切なものがあって、それを奪われまいとするような、そんな目だ。
翔子「……負けた方は何でも一つ言うことを聞く。」
その言葉を聞くや否や、土屋はカメラを弄り始めた。それを見て、明久は撮影の準備がどうのこうのと、訳の分からないことを言い出したし……………。
……………あとで、霧島に謝罪しないとな。
優子「じゃ、こうしよう?勝負内容は七つの内四つそっちに決めさせてあげる。三つはうちで決めさせて?」
ここで、木下から妥協案が出される。……………ま、これもまた、俺が望むベストな形だがな。
雄二「交渉成立だな。」
明久「ゆ、雄二!何を勝手に!まだ姫路さんが……………モゴガッ。」
秋希「ヨシイクン?ダイヒョウノケッテイハ、ゼッタイヨ?ソレイジョウ、クチヲヒラコウモノナラ、セッチャクザイデ、ハリアワセルヨ?」
明久「むぐ、むぐぐぐ…………………………。」
……………俺がキレる前に、近衛が我慢できなかったか。……………やっぱり後で、霧島に謝罪しないとな。
雄二「…………こ、近衛が、なんで怒ってるかは知らないが、心配すんな。絶対に姫路に迷惑はかけない。」
霧島の考えがなんとなく分かるから言えることだが、正確には、迷惑は『かからない』だろうな。
翔子「……勝負はいつ?」
雄二「そうだな。十時からでいいか?」
零次「いいや。坂本、いくら代表戦とはいえど、連日試召戦争と補充のための試験を繰り返してきたんだ。一週間くらい頭と心を落ち着かせて、余裕を持たせて俺達に挑んだらどうだ?」
雄二「ごもっともな意見だ。けどな、そんなに長く期間あけるんだったら、今交渉しには来ないだろ。」
零次「それもそうだな。なら、三日後はどうだ?」
翔子「……零次。それも十分長い。」
零次「……………そうかい。なら、明日だ。とにかく、今日中は流石に無理だからな。」
霧島や木下は全く理解できないだろうな、俺のこの行為が。俺としては『Aクラスが勝てばいい』のではない。『αクラス全員が勝利する』ことが前提なのだ。そのためには一人、どうしてもクラスアップする必要のある人間がいる。
雄二「…………分かった。明日のこの時間に勝負しよう。」
零次「いいだろう。」
こうして、交渉は終わった。
だが、俺にはもう少しだけやることがあるんだよな……………。