バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問14-A 戦争前の後始末

 坂本達から宣戦布告を受けた放課後。俺は缶コーヒーを片手に、旧校舎の屋上である人物を待っていた。

 

 その人物は、Fクラスの生徒であり。

 その人物は、Aクラスに血縁者がいて。

 その人物は、その者と顔が瓜二つで。

 その人物は、自分のクラスの保身のために、その者に濡れ衣を着せた。

 ついでに言えば、その人物は帰宅部が多いFクラスでは珍しく、部活動に勤しみ、その点では有名人である。

 

 まあ、ここまで言わずとも、察しが付く奴はいるだろう。

 明日に行なわれるAクラス対Fクラスの試召戦争。そこでその人物……もう面倒だから、『彼』と言わせてもらう………が、その血縁者に酷い目に遭わされることは、容易に想像できる。

 そんな彼とは、一応友達なのでな………。そういう最悪の事態はなるべく避けたいのだ。

 

ガチャッ

 

 ………ようやく来たようだ。

 

?「………話がある、というのはお主か、零次。」

 

零次「………こうして、話すのはいつぶりだ?…………大体一年くらいか。」

 

?「そんな事はどうでも良いじゃろ。ワシもそんなに時間は取れん。早く本題に入ってくれぬか?」

 

零次「それもそうだな。……………言っておくが、俺が満足する回答が得られるまで、逃げられると思うなよ……………………………………木下秀吉。」

 

 現在時刻は16:46。既に部活が始まってる時間だが、秀吉は言うには、部長に連絡を入れてから抜けてきたらしい。そこら辺はしっかりしてるな。

 

零次「………………………さて、秀吉。お前が何故呼ばれたか、心当たりはあるか?」

 

秀吉「うーむ………いや、全くないのじゃ。」

 

 心当たりがあれば、すんなりと本題に入れたのだが、自覚なし、か……………。まあ、正直に答えてくれることはありがたい。

 

零次「そうか………。なら、次の質問だ。お前、Cクラスの小山って奴は知ってるか?」

 

秀吉「……はて、誰じゃ?」

 

 これもダメか……………。まあ、よくよく考えれば、小山ってさほど有名でもないし、そもそも似たような名前も多いし、霧島でも学年全員の名前を覚えているか怪しいんだ。この反応もまともだろうな。

 

零次「そうか知らないか…………。なら、これ以上の質問は無意味だろうから、本題に入ろう。2~3日ほど前の事だが、俺達がCクラスと試召戦争したことは知ってるな?」

 

秀吉「うむ。それは知っておるぞ?」

 

零次「それは何よりで………。話を続ける。その時宣戦布告に来たのが、さっき言ったCクラスの小山って奴だ。Cクラス代表である、彼女が直接Aクラスに殴りこんできたんだが、ちょっと様子がおかしくてな………。」

 

秀吉「一体どんな様子じゃったんじゃ?」

 

零次「かなり頭に血がのぼってた様子だったな………。それこそ、いつ暴力ふるっても、おかしくない程の形相だったな……………。おまけに、それに感化されてか、一部のAクラスの生徒は木下…お前の姉のことを一方的に責め立てるし………。俺はともかく、もし霧島がいなかったら、どうなってたか……………。」

 

 秀吉は黙って話を聞いているようだ。自分の姉の事だというのに、まるで他人事のように聞いて……………はいないな。よくよく観察したら、足が震えている。

 

零次「俺が何を言いたいか、そして、何を望んでいるか、Fクラスの中でも比較的賢いお前なら、もう分かるんじゃないか?」

 

秀吉「……あ、姉上への謝罪、かのう?」

 

零次「概ね間違いではないな。だが、その結論でこの話を終わらせるんだったら、ここにいるのは俺じゃなくて霧島の方が適任だ。なにせ、霧島と木下は親友だからな。」

 

 俺には、木下のためにそこまでしてやる程の義理も仲もない。

 

零次「そもそも、それは俺に言われずとも、やるべき行動のはずだ。なのにお前はそれを口に出し、さらに疑問形で俺に答えた。ということは、だ。こうして俺に言われるまで、お前には罪悪感が無かったってことだ。」

 

 Cクラス戦後、木下には今回の件について、秀吉に何も問い質さないことを頼んだのだ。俺の思う秀吉は、比較的常識人というイメージだ。姉に迷惑をかけたのだから、その事についてちゃんと謝れる奴だと、そう思っていた。

 だが、結果はこれだ。秀吉は自分達の戦争に無関係の俺達を巻き込んだことを、どうとも思って無かったようだ。

 

秀吉「そう言われると………何も言い返せんのじゃ…………。」

 

零次「ま、そのことについても、俺は咎めるつもりは無いけどな。今更こんなことをグチグチ言ったって、この状況が変わる事は無いからな。」

 

 話の根幹である、秀吉が姉になりすましてCクラスに喧嘩を売った事については、既に全部終わったことだ。もう終わった事を何度も引っ張り出していたら、キリがない。

 

零次「俺が求めているのは、秀吉、お前が起こした一連の行動の真意だ。正直、木下が他人のことを大声で豚呼ばわりするなど、想像し難い事なんだが、実際真に受けているバカがいた訳だ。あの台詞、坂本が考えたのか?」

 

秀吉「ああ、それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して……。」

 

プツッ ツー ツー……

 

 ……俺のポケットから、聞き覚えのある電子音が鳴った。全く……少しは堪えることが出来ないのか、あの優等生(笑)は。

 

秀吉「む?お主か?今の携帯の音は。」

 

零次「…………そう言えば、木下と携帯を繋げっぱなしだったのを忘れてたな。」

 

秀吉「姉上と?…………もしかしてじゃが、今までの会話が全部……。」

 

零次「恐らく、聞かれただろうな。」

 

 ま、わざと通話し続けた状態にしていたのだが。去年も度々秀吉から姉の愚痴を聞いてた訳だが、たまに本人や周りの人間に聞かれてはいけなさそうな、プライベートな内容まで口を滑らせることがあった。

 秀吉の欠点を挙げるなら、そういう警戒心の薄さと、木下のイメージが公私混同(ぶっちゃけ、『私』の割合が多目だが)している点だろうな。

 

零次「ま、俺としては聞きたいことが聞けたから、良しとするか。そういう訳で、また明日な。」

 

秀吉「ちょっ、お主……。」

 

零次「悪いが、待てと言われて待ってやる程、俺もお人好しじゃあないんでね。自分の撒いた種は、ちゃんと自分で責任を持って、面倒見るんだな。」

 

 俺は、秀吉のために姉との話を仲介してやる程の義理も仲もない。

 

・・・

 

 階段を下りる音が響いている。同時に何者かが俺に近づいてくる音が聞こえる。………方向的に下の方から、そして今、俺がいる場所は、旧校舎4階と屋上を繋ぐ階段だ。……となると、足音の主は屋上に向かっていることになるが……………。

 

零次「………………………お前か、木下。」

 

 あの時の小山同様、目で見て分かるレベルで怒ってるな。

 

優子「双眼、ちょっとそこを退いてくれるかしら?あの愚弟にちょ~っと話があるから。」

 

 ああ…、やっぱりな。完全に秀吉に制裁を加える気満々だ。だが、さっきも言ったが、俺と秀吉は、目の前にいる姉の進行を止めてやる程の仲ではない。

 

零次「………………………………………ほら、どうぞ。」

 

優子「あら意外。貴女が道を譲るなんて。」

 

零次「血相変えて、ドカドカと足音立てて来てるって事は、急ぎの用事なんだろ?俺の用事はとっくに終わった。」

 

優子「そ、そう。……ありがとね。」

 

 …………おっと、いけない。もう一つ用事があった。

 

零次「ちょっと待った、木下。」

 

優子「何?やっぱり通さないって、言うつもり?」

 

零次「いいや?木下、一つだけ心のどこか片隅でいいから留めて置いて欲しい言葉があるんだ。」

 

優子「何よ?」

 

零次「……………人間は完璧を目指す生き物である。同時に完璧を嫌う生き物である。俺はそう思っている。」

 

優子「………なぞなぞ?」

 

 ま、そう聞こえるよな。

 

零次「いや、お前の生き方を見て、ふと頭に思い浮かんだ言葉だ。意味は自分なりに考えてくれ。」

 

 それだけ言い残して、俺は帰路へ着くことにした。

 このやり取りの数秒後に上の方から断末魔が聞こえたのは言うまでもない。


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