バカと無情の試召戦争   作:Oclock

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小問16(2) 優等生vs観察処分者

秋希「……………どう?勝ってきたよ、代表。」

 

 そう言って、満足そうに笑みを浮かべて、近衛は俺達のところへ戻って来た。

 Aクラスとの試召戦争の一戦目の相手は豊嶋だった。成績こそ優秀だが、根本ほどではないもののいい噂を聞かない生徒だ。正直誰を出してもよかったんだが、そこで近衛がただ一言、勝ってくるから、と言って俺が止めるのも聞かずに勝負に行った。

 本来であれば、こういう勝手な行動は代表として注意とかすべきなんだがな……。相手が相手だし、何よりどう繕っても、勝利して帰ってきた奴に難癖つけるようなポジションになっちまうから、胸のうちに閉まっておくか。

 ただ、Aクラスが先に科目選択権を使ってきたのは嬉しい誤算だな。おかげで作戦にゆとりが出来た。

 ……それよりも一つ気になることがある。

 

雄二「なあ、近衛。あれが…………、指先から弾丸を飛ばすのが、お前の腕輪の能力なのか?」

 

 近衛の召喚獣だ。召喚獣の武器や防具はランダムに決まるものの、点数が高ければ高いほど装備は強力なものになったはずだ。

 アイツの成績は確か、去年の時点で翔子と数点差しかなかったはずだ。それなのに、近衛の召喚獣は、服装はともかく、武器は何も持っていなかった。いや、もしかしたら俺が見落としてただけかもしれないな。あの明久の召喚獣でも木刀を得物に持ってんだ。学年トップの中のトップの召喚獣が武器を持っていない、なんて話はまずないだろう。もしくは、腕輪の効果で本来持っていた武器が消滅したか、だ。

 

秋希「まあ、おおむね正解よ。」

 

 おおむね、か……。ということは、まだ何かあるのか?

 

秋希「それよりも、次の試合は誰に行かせるの?特に決めていないなら、私が指名してもいいかしら?」

 

 Aクラスの方は、既に準備完了のようだ。相手は確か西京……だったか?なら……。

 

雄二「いや、誰がこの勝負に出るかはすでに決まっている。明久!行って来い!」

 

明久「え!?僕!?」

 

 ここは、一旦明久でお茶を濁すか。本当なら秀吉に行ってもらいたかったが、姉の木下優子に変装した件で教師から目をつけられてしまったらしく、今回の戦争に姉弟共に参加できなくなったそうだ。

 

雄二「大丈夫だ。俺はお前を信じている。」

 

 惨敗する方にだけどな。

 

明久「ふぅ……。やれやれ、僕に本気を出せってこと?」

 

雄二「ああ。もう隠さなくてもいいだろう。この場にいる全員に、お前の本気を見せてやれ。」

 

・・・

 

 坂本君に背中を押され、吉井君は戦場へと歩を進める。でも、坂本君はきっと、いや多分……、いや絶対に吉井君のことなど信頼してないだろうなぁ。

 

秋希「……坂本君、君は本当に吉井君が勝てると思ってる?」

 

雄二「んあ?そんなわけないだろ。この勝負に出てくる相手は、Aクラス上位7名だろ?いくら観察処分者の操作技術があろうと、瞬殺だろ。」

 

 ……やっぱりね。そうだとは思ってたよ。

 

雄二「なんだ、お前はそう思ってないのか。」

 

秋希「……当然。私は勝てると思ってるよ。吉井君は………………、自分のためよりも、誰かのために強くなれる。そういう人だからね。」

 

雄二「…………?」

 

 さあ、見せてやろうよ。君の今の実力を。

 

・・・

 

 先鋒戦が予想通りFクラスの勝利で終わり、次鋒戦。こちらの選出は西京葉玖。豊嶋とは一転して、理系の生徒で、代表排斥派の四名の中では最もまともな生徒だ。

 とはいえ、彼女もまた、問題を抱えている。それは、『真面目すぎる』ということ。自分の価値観が正しいと信じて疑わず、他人の意見をほとんど聞き入れない。曲がったことを少しも許せず、ルールから逸れた生徒を見下す。アニメや漫画を見る生徒を『子供っぽい』と切り捨てる。決して悪い奴ではないのだが、その性格が災いし、周りの生徒からは距離を置かれていた。

 

 対して相手は、観察処分者の称号を持つ吉井明久だ。おそらく向こうの目論見としては捨て試合、と言ったところだろう。

 実際、明久の学力は悲惨なものだったからな。坂本も当然それを分かっているわけだから、奴の性格や言動からしても、明久を出オチ要員として使ってくるのも妥当だ。

 

「おい、吉井って実は凄いヤツなのか?」

 

「いや、そんな話聞いたことないが…。」

 

「いつものジョークだろ。」

 

 味方であるはずのFクラスから、応援する声は聞こえないのが何よりの証拠だ。

 ま、今までの『学校での』明久を見てれば、勝てないと思うのも仕方がない。

 

「………私の相手は、観察処分者ですか。まだ姫路さんが控えているようですけど、どうやら万策尽きたようですね。」

 

 この通り、西京も眼中に無いといった感じだ。

 

明久「う~ん……。雄二に限ってそんなことはないと思うけど……。僕を甘く見ないでよ。今までの僕は全然本気なんてだしちゃあいないんだから。」

 

 その言葉と共に袖をまくり、軽く手首を振っているが…。割とギリギリの戦闘だったと、近衛から聞いているのだが?

 

「え?それじゃあ、あなたはまさか……!」

 

明久「そう。君の想像通りだよ。今まで隠してきたけれど、実は僕……………………、左利きなんだ。」

 

「………………だから、何なのですか。」

 

 …………やっぱりバカだった、コイツは。

 

高橋「……コホン。それでは、科目を選択してください。」

 

「そちらが選んで下さい。先ほどは、私達Aクラスが選んだわけですし、わざわざ、こちらが選ぶ理由もありませんから。」

 

明久「……なら、日本史で。」

 

 ククク……だが西京よ、後悔するがいい。もっとも、その選択が俺の期待通りの結果を生むかは、俺にも分からないがな……。

 

・・・

 

 ……今、俺はとても驚いている。まさか、まさかあの明久が…………。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・372点→358点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・133点

 

 ここまで戦えていること、そして何より、あの点数に。

 

「お、おい。なんだよあの点数!」

 

「Dクラス、いやCクラス並みの点数じゃないか?」

 

「まさかカンニングか!?」

 

 とりあえず最後の奴はあとでシメるか。

 

雄二「なあ、近衛……。明久のあの点数はなんだ?アイツの点数はせいぜい50~60点程度だったはずだが……。」

 

秋希「まあ、これ以外はその程度のものよ?振り分け試験で、一番点が高かった教科に絞って勉強させただけだからね。」

 

雄二「なるほど。つまり、日本史だけ点数が高い状態ってことか……。」

 

秋希「そういうこと。吉井君の場合はすぐに結果を出すなら、複数の教科を満遍なく勉強させるより、一つの教科を集中して勉強させた方がいいと思ったからね。」

 

 確かに、あのバカに沢山のことを一気に教えたら、頭がパンクして、かえって点が低くなりそうだ。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・358点→247点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・133点→101点

 

「くっ……どうして………当たらないん……ですか……。」

 

 っと、試合の方に目を向ければ、もう中盤戦か。相手の西京とかいう生徒は明らかに苦しい表情をしている。それもそうだよな……。なんてったって、あの観察処分者相手にここまで苦戦してるんだ。それに加えて、観察処分者に任命されてる奴にしては異様に高い点数を取ってることも合わさり、さらに平常心を保てなくなってる。

 

雄二「なあ、さっき明久に勉強させたって言ってたけど、一体どうやったんだ?というか、明久に勉強させて、何が目的なんだ?」

 

秋希「どうやった、って…………単純なことよ?吉井君が試召戦争をする理由を改めて考えさせただけ。吉井君が活躍すれば、吉井君は胸を張って姫路さんと話せるし、坂本君の目的も……まあ達成できて、一石二鳥でしょ?……勉強してるから目的が破綻してる、っていう意見は聞き入れないから。結局いつかは勉強しなきゃいけない時は来るんだから。」

 

 そう言われると、ぐうの音も出ないな。まあ、元々俺もAクラスに勝った後は、本格的に勉強に取り組むつもりだから、近衛の言うことも一理あるが。

 

秋希「それに、元々召喚獣操作の経験が嫌でも多くなるのが、観察処分者の数少ない利点。だから、吉井君が勉強して結果を出すようになって、私並みの点数を取るようになったら……。どういうことになるかは、坂本君なら、分かるわよね?」

 

雄二「単純にFクラスの戦力が増える……いや、それだけじゃないだろうな。」

 

秋希「当然。他にも色々思うことはあるけど、吉井君の幸福のためにも、観察処分者の肩書きは早めに排除しておきたい。これが吉井君に勉強をさせた目的の一つ。他にもあるけど、後でゆっくり考えてちょうだい?」

 

 そう言って、近衛は俺のもとを離れていった。

 さて、勝負の方はどうなったか……。

 

[フィールド:日本史]

2-A 西京葉玖・・・247点→35点

 

VS

 

2-F 吉井明久・・・101点→57点

 

「…………認めたくありませんが……ここまでの……ハア……ようですね………。(チラッ)」

 

「ま、マジかよ!」

 

「よっしゃ、いっけーーー!吉井ーーー!」

 

明久「うおおおおおお!!」

 

 これはもう、明久の勝ちだな。もう西京に戦う力は残ってないようだし…。 だが、一瞬Aクラスの群衆に目をやったのはなんだ?

 

「……参りました!」

 

明久「…………え?」

 

 ………………降参!?確かに負けが確定した状況だが、一体なぜ!

 

「……高橋先生。」

 

高橋「……分かりました。では、この勝負、Fクラス側の勝利です。」

 

「「「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 ……まあ、どんな結果であれ、大きな白星を手にしたのは間違いない。この大番狂わせのおかげで、確実にAクラスに勝てるようになった。

 ……だが、なんなんだ、この違和感は。俺は何か大事なことを見落としているのか?




後書きRADIO
秋希「さ~て!今回も後書きRADIO、行ってみよ~!」

零次「今回で第12回だな。」

秋希「今回はゲストにM!V!Pの!吉井君と、ついでに坂本君に来てもらったよ~!」

明久「ちょ、ちょっと、その言い方は照れるよ。ここまで来れたのは、近衛さんや零次のおかげじゃないか。」

秋希「いやいや、点数に関してはそうだとしても、勝負をしたのは君なんだから、堂々としていいよ。」

零次「今回ばかりは、近衛に同意だな。お前はもう少し自分に自信を持ってもいいとおもうが?」

雄二「というか、本編では語り手だった俺が『ついで』扱いかよ……。」

秋希「今回の話のメインは、一応吉井君の戦闘だから。というわけで、解説といこうか。」

零次「今回はAクラス戦一番の見せ場、明久の戦闘なんだが、実はボツになったシーンがあるんだ。それは、終盤で西京がAクラスの群衆に目を向けた後のシーンだ。」

雄二「あの場面か……。どうなる予定だったんだ?」

零次「単純に言えば、他のAクラスが乱入してきて明久を倒す、といった具合だな。本作のAクラスは、原作同様まとも(?)な連中が大半だが、プライドが無駄に高い過激派連中がまだ二人残っている訳だからな……。特に横沢や補習室送りになった豊嶋あたりは、自分より下位の生徒を見下してるから、確実に乱入してくるな。」

明久「え、そしたらどうなるの?」

秋希「どうなるも何も、戦前協定で一騎討ちで戦うことで互いに同意しているのに、横槍を入れてるんだから……。」

零次「よくて、Aクラスに何かしらの罰則を設けての続行。最悪この時点で、Aクラスの反則負けの裁定が出るだろうな。」

雄二「じゃ、あそこで降参の意思表示をしたのは、その展開を阻止するためか。」

零次「そういうことだろうな。西京はルールに忠実だから、たとえ自分に不利益だろうと、違反行為しようとする奴を見て見ぬふりは出来ないはずだからな。」

秋希「それじゃ、今回はここでお開きにしようか。」

零次「次回は3戦目だな。」

雄二「次は一体誰なんだ……?成績順で見るなら、佐藤美穂か?」

零次「さあ、どうだろうな……。もしかしたら、坂本が知らなくて、明久が知っている奴かもしれんぞ?」

秋希「と、いうわけで!」

「「「次回もよろしくお願いします!!」」」
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